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2014年9月 1日 (月)

ガバナンス改革に求められる監督機能の攻めと守り

Ftggrtd8月30日(土曜日)、第7回の日本内部統制研究学会年次大会が法政大学で開催されました。今年の統一論題は「コーポレートガバナンス変革の時代における内部統制の課題」というタイムリーなテーマです。本テーマは、会員構成が学者、実務家、実業界ほぼ3分の1ずつという、まさに当学会にふさわしいものであったようで、写真のように会場も満席となり、たいへんに盛り上がりました。私がモデレータを務めたパネルディスカッションは、ガバナンス変革の話題として、「取締役会の機能」と「株主との対話」を中心に取り上げ、監督、監査それぞれの立場から内部統制の課題について検討する、というものでした。

私個人の感想としては、経営共創基盤の冨山和彦氏の基調講演およびパネルディスカッションでのお話がとても参考になりました。冨山さんの書かれた本などを読むと、社外取締役には経営者OBがふさわしい、ということが書かれており、弁護士や会計士などの専門家は(監査役としてはふさわしいものではあるが)取締役としては、あまり有用性がないのではないか、と考えておられるものと理解していました。しかし、複数の社外取締役の選任が推進されるなかで、社外取締役の多様性ということは、冨山氏自身、否定されていないようでした。

印象的だったのは、冨山さんが、企業活動の生理現象、病理現象という言葉を講演で活用されていたことです。社外取締役が経営評価機能を果たすために、きちんと経営指標等の数字、財務三表の数字の理解は不可欠です。しかし、社外取締役が企業活動の業績をきちんと評価する(評価できる)ためには、経営環境と企業の経営方針にズレがなく、企業内に病理現象を抱えていないことが前提となります。企業が自らの経営によって解決すべき社会的課題が何か、という点を認識するためには、様々な背景を持った社外取締役が経営に参画する必要があり、また病理的現象を抱えているかどうか、という不正リスクを評価することも、社外取締役には求められるものと理解しました。

社外取締役には攻めの機能(経営者の任免権行使によって「儲ける力」を向上させる)と、守りの機能(経営者の業績を評価するための基盤の整備)のいずれもが発揮されてこそ、モニタリングモデルとしての取締役会が充実する、というなのでしょうね。たしかに考えてみると、KPIを活用して業績を評価する土壌が安定していなければ、経営者評価ということも困難になるわけで、いくらガバナンス変革といっても、変革することで企業が変わる土壌がなければ意味がない、ということかと。非常に地道な作業ではありますが、ガバナンス改革によって組織が変わるだけの内部統制がまず構築されていなければならない、という考え方もあるのかな・・・と、思ったりしていました。ただ、攻めにしても守りにしても、会社にとって社外取締役が役に立つまでには「少なくとも3年はかかる」(冨山氏)ようなので、社外取締役といっても、6年くらいの任期は務めたほうが良いのかもしれません。

ただ、日本の取締役会の現状(業務執行取締役が中心であり、社長が監査役に至るまで、絶対的な人事権を押さえている状況)を、どのようにモニタリングモデルの取締役会に変えていけるのか、そのあたりの具体的な道筋は、まだまだ遠いもののように感じます。パネルディスカッションでは、「監査等委員会設置会社への移行に期待する」との声も出ていましたが、私個人の意見としては、モニタリングモデルの取締役会への移行が先ではないかな・・・と思ったりしています。最後になりますが、論客の皆様から多くの質問を受けておりましたが、司会進行の不手際で3問程度しかご紹介(ご回答)できなかったことをお詫び申し上げます<m(__)m>

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コメント

非会員ながら、2010年の第3回以来久し振りに日本内部統制研究学会大会に参加しました。確かに大盛況で、個々の報告には非常に興味深いものがありました。
しかし、次の2点で強い違和感を覚えました。
第一、監査役の影が薄過ぎる。自由論題を含め監査役の登場はないし、報告での監査役に関する言及も殆どない。あったのは、某パネリストの「監査役制度を存続させる意味は全くない」との繰り返しの断定的発言でした。
この点は、本学会よりも監査役協会を始めとした監査役側の消極姿勢に問題がありそうです。
第二、内部統制の制度論への問いかけの姿勢がない。
社外取締役や監査等委員会設置問題を中心にしたガバナンス面での制度論は大いに語られましたが、肝心の内部統制の制度論がない。J-SOX初年度であった2008年の第1回大会の熱気がウソのようです。制度は定着したので後は各社の運用の問題とでも言わんばかりですが、J-SOXの形骸化は放置して良いのでしょうか。また会社法改正で内部統制規定が強化されて、取締役と監査役双方の責任はますます重くなります。今迄のように労力はJ-SOXだけに掛けて会社法は形だけでスルーというわけにはいかなくなります。
深度ある議論がなされるべき学会で、会社法と金商法の内部統制制度の整理統合という重要な課題が一切語られないのは誠に残念でした。

投稿: いたさん | 2014年9月 6日 (土) 02時48分

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