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2014年9月17日 (水)

イオンの「監査役育成アカデミー」は企業価値を向上させるか?

9月13日の日経電子版に、コーポレート・ガバナンスに関連する少々驚きのニュースが掲載されていました。流通大手のイオンさんが、監査役候補者を社内で育成する機関「イオン監査役アカデミー」を設置する、とのことです。アカデミーを修了した幹部人材の方々は、海外を含め260社以上ある子会社の監査役に順次配置されるそうです。アカデミー受講者は、財務・経理、人事、顧客サービスなど各部署から部次長クラスの社員を毎年10人以上選抜し、外部から講師を招き、週末を利用して1年間で100時間強の授業を受けてもらうとのこと。修了後はグループ会社の常勤監査役に就任させる、と報じられています。

企業グループ全体のレピュテーションを毀損するような企業不祥事は、グループ内の子会社で発生するケースが多く、たとえば4年前に不適切な会計処理が子会社で発生した近鉄さんが、大幅に子会社の常勤監査役さんを増やすということもありましたが(朝日新聞ニュースはこちらです)、年間100時間を超える研修によって常勤監査役さんを子会社に設置する、という試みは、これまであまり聞いたことがありません。

もちろん日経の記事にあるように、「グループとして監査役の機能を強化し、子会社が自律的に法令順守や不祥事防止に取り組むよう促す」ということが主たる目的だと思いますが、やはり会社法改正の影響が、ここにも出ているように思います。企業集団内部統制が法文化され、親会社による子会社管理が強化される傾向が出てくるのでは・・・、といった流れから、即戦力となる常勤監査役さんを、幹部候補から抜粋・育成し、いわゆる「キャリアパス」の一環に位置づけようとされているのではないかと推測します。そしてもうひとつ、会社法改正によって親会社・兄弟会社の「支配人その他の使用人」は子会社(兄弟会社)の社外監査役に就任することができなくなります(会社法2条15号ハ 参照)。これまで親会社の幹部社員の方々が、グループ子会社の非常勤監査役に就任していたケースも多いわけですが、改正によって兼任に制限が生じますので、こちらの対策も必要になります。

リスク管理の視点からすると、こういった監査役育成プログラムは不正リスクを低減するものとして、グループとしての企業価値向上に貢献するものと予想されます。ただ、当ブログでも何度かご紹介した「ずる-嘘のごまかしの行動経済学」(ダン・アリエリー著)の中に登場する「カギの効用」で説明したように、いくらガバナンスの仕組みを整えたとしても、本気で不正をやろうとする者の不正行為を未然に防止することは至難の業です。むしろ、社員の98%を占める「ふだんは誠実だが、誘惑があると不誠実に走ってしまう『まじめな社員』」が、不誠実に走ってしまわないように「性弱説」に立った監査活動こそ、ここで期待されるものと言えるのではないでしょうか。

「安全」は外から見えませんが「安心」は外から判断することができます。リスク管理の巧拙は、本来は組織の品質管理に依拠するものですが、企業不祥事が発生しているのか、していないのか、その組織の現在価値を外から判断することはできません。したがって、リスク管理の巧拙は、「将来、その組織において不正が発生した場合、これを早めに止めることができるのか」といった将来価値をもって判断せざるをえません。多くの子会社に常勤監査役さんが増えれば、またグループ全体として「監査役連絡協議会」のようなものが出来て、子会社不正を親会社が早期に発見できる機能も高まるでしょう。このような監査役育成アカデミーは、まさに「将来価値」に関わるものであり、企業の自浄能力が求められている昨今、企業価値の向上に資するものになると考えています。

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コメント

これは画期的な試みですね。注目は①配置するのが「常勤」監査役であること、②リスクの高い海外子会社も含むこと、③研修により候補者を選抜・育成する点です。個々の点では既に実践している事例はあるかも知れませんが、企業集団統治のための総合システムとして打ち出したのは初めてでしょう。
個人的には、親会社の監査役及び内部監査部門との協働の進め方、子会社監査役の人事システム(任期保障、異動ローテーション)の運用法及び監査役が子会社の内部監査的業務をどこまで分担するかに興味があります。
いずれにしろ、監査役協会の積極的サポートを期待しています。

投稿: いたさん | 2014年9月19日 (金) 14時29分

いたさん、ありがとうございます。さっそく法律雑誌の編集長さんからオファーが来ましたので、特集企画として論稿を執筆させていただくことになりました。いたさんからいただいたアイデア(前にいただいたものですが)も含めて、企業集団内部統制の在り方について模索してみたいと思います。

投稿: toshi | 2014年9月19日 (金) 20時32分

日本風力開発:課徴金4億円命令 取り消し求めて提訴へ
http://mainichi.jp/select/news/20140920k0000e040271000c.html

同じく行政と司法の判断が食い違う事態とはいえ、ビックカメラの場合には株主代表訴訟において原告の請求が却下されたのに対して、今回は行政処分が直接の対象となっていますから、注目すべき裁判ですね。

投稿: 迷える会計士 | 2014年9月20日 (土) 22時31分

迷える会計士さん、ありがとうございます。これたまた恰好のブログネタですね(笑)。おっしゃるとおり注目すべき裁判です。完全に司法の世界で会計処理の適法性が争われる事件です。

投稿: toshi | 2014年9月21日 (日) 01時28分

ビックカメラの事案でも、裁判所は金融庁の判断を否定したものと言えるのではないでしょうか。
http://www.lotus21.co.jp/ta/1403pfsf/537_40.pdf

投稿: 迷える会計士 | 2014年9月23日 (火) 13時17分

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