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2014年10月30日 (木)

第三者委員会に「三度目の正直」はあるのか?-JBR事例

四半期決算開示真っ最中で、適時開示を巡回するのもたいへんですが、このたびは「迷える会計士さん」から教えていただいたネタです(どうもありがとうございます<m(__)m>)。当ブログでも過去に二度コメントさせていただいたJBR(ジャパン・ベスト・レスキュー)さんですが、またまた内部告発があり、今度は代表取締役の不正に関する疑義が発生、会計監査人とも相談のうえ、第三者委員会設置を決めたそうです(同社HPのリリースはこちらです)。今度は大阪の法律事務所が利害関係のない第三者として登場されています。

本件は、あまりマスコミでも取り上げられていませんが、内部統制報告制度の在り方について考えさせられる事件です(たとえば拙ブログの過去のエントリーなどをご参照ください)。今年に入って、2回も第三者委員会が設置されましたが、またまた内部告発で経営者関与の不正疑惑が持ち上がったとのこと。経営権争いや経営者と監査役会との対立によって2度の第三者委員会が設置された例はありますが、企業不祥事発生をきっかけに第三者委員会が3回も設置されたのは初めてではないでしょうか?(フタバ産業さんの例では、たしか1回目は社内調査委員会だったように記憶しています)。

今回の内部告発と、以前の内部告発が同一の方からのものかどうかはわかりません。しかし、ここまで続くとなりますと、やはり「以前の第三者委員会が『他にも不正はないか』といった視点から調査をしたのだろうか?」との疑念が湧きます。もちろん、会社側から調査対象として依頼を受けた事項のみ調査をしていたから、ということだとは思うのですが、しかし不正の原因を究明したり、有効な再発防止策を検討するにあたっては、同種事案が他部署でも発生していないかどうか、最近はフォレンジック等を活用して調査をするケースが多いと思います。一昨日の椿本興業さんの例でも述べましたが、不正調査の時点で、もっと他にも不正がなかったかどうか、詳細に調査をしていれば、不正の兆候を見つけることができたのではなかろうか、とも考えられます。第三者委員会の設置費用というのも、結構バカにならないと思うので、度重なる第三者委員会の設置は、会社自身の信用問題だけでなく、企業資産の損失にもつながるかもしれません。

ハーバードビジネススクールの経営学の著名教授であるクリステンセン氏の「クリステンセン経営論」の中で、同氏は「限界費用の罠にはまるな」と警鐘を鳴らしています。自身の経験に基づく記述ですが、ルールを守るということに例外を設けて「今回だけは・・」という気持ちでルールを犯してしまうと、その「今回だけは」を許した自分が、容易に例外を許すようになり、今後の人生をダメにしてしまうとして、例外を許さないことの大切さを説いておられます(359頁以下)。私が過去に内部告発の支援をした方々も、同じような考え方でした。たとえ自分が告発をしたとしても、お金になるわけでもない、しかし、ここで会社の不正を糺しておかなければ、「あのとき、会社の不正を許してしまった」という気持ちのまま生きる自分が、これからの自分の人生で汚点になってしまう、といった気持です。内部告発は、こういった社員や元社員の人生観の中で誘発される、ということもあります。

今回のJBRさんの事例が、そういった内部告発者の心情によるものかどうかはわかりません。ただ、ここまで不正追及の告発が続くということは、やはり根の深い事情があるのではないか、と推測してしまうところです。

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2014年10月29日 (水)

椿本興業不正会計事件にみる資産流出リスク対応のむずかしさ

Uiapk778_2関西の老舗名門商社である椿本興業さん(東証1部)の元社員(中日本本部の営業担当幹部)が架空循環取引によって700万円を会社から詐取したとして、取引関係者含め3名が詐欺罪で逮捕された、と報じられています(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。架空循環取引は、昨年3月に同社の内部監査で発覚し、その総額は約80億円に上るとのこと。そのうち数億円が元社員に還流したとされています。元社員は、社内調査に対して「接待費を工面するためだったが、歯止めが利かなくなり、自分の遊興費や愛人の生活費などに使うようになった」と説明しているそうです。

本件は、昨年5月に第三者委員会報告書が公表されて以来、注目していましたが、第三者委員会のすべての委員の方を存じている関係もあり、あまりブログでは触れませんでした(^^;。しかし、ACFE(公認不正検査士協会)でご一緒させていただいている米澤勝税理士の新刊(左写真)では、案の定、本件をきっちりとフォローされており、税理士、公認不正検査士の視点から本事件について解説が加えられています。本書は近時の会計不正事件を取り上げ、不正行為者の「動機」面に焦点を当てた考察を試みたものであり、不正の未然防止、早期発見対策を検討するための有益な一冊です。

企業はなぜ会計不正に手を染めたのか~会計不正調査報告書を読む~(米澤勝著 清文社 2,000円税別)

元社員が主導した架空取引は15年にわたり、不正取引件数合計1000件、その総額は約80億・・・。この数字を皆様はどう思われますでしょうか?「愛人の生活費に充てたって?とんでもない奴だ!」とご立腹される方も多いでしょうし、懲戒解雇、逮捕という手続きも当然かと思います。ただ私の場合、どうしても「こういった資産流出を行う可能性のある人は、どこの会社にもいる」と考えるわけでして、むしろ「なんで15年間も架空循環取引が放置されていたのか」という点にこそ関心を抱いてしまいます。第三者委員会も、監査役監査、会計監査にかなりの疑問を呈しているように読めます。

こういった事件が発覚すると、営業担当社員が取引のすべてを仕切っていたことから、職務分掌、ダブルチェック、ローテーションといった内部統制が機能していなかった、仮に内部統制が機能していれば不正は未然に防止できたのではないか、と指摘されます(本件の第三者委員会報告書でも同様のことが記載されています)。たしかに教科書的にはそのとおりであり、不正の未然防止のためには内部統制システムを厳格に運用することが求められます。

しかしそれで果たして経営者は納得するでしょうか?営業担当社員と顧客の関係をみてみると、商売の現場では「取引全体のコーディネートをいかに巧みに行うか」という点が営業担当社員の腕のミセドコロではないでしょうか。協力会社や仕入れ先に顔が利く営業担当社員がいるからこそ、仕入先担当者が無理をきいてくれたり、委託業者が迅速に対応してくれます。また、そういったところに顧客は「付加価値」を感じるわけで、だからこそ無理な値引き要求をひっこめてくれます。そういったことで顧客、会社、仕入先の「三方よし」が産まれ、会社間の信頼も高まるのではないでしょうか。ちなみに、上記米澤先生の新刊書でも、「できる営業マンの条件とは?」と題するショートストーリーが紹介されており、まさに社内で輝く営業マンは不正と隣り合わせであることを物語の中で教訓として示しておられます。

加えて、仮に教科書通りに権限分掌といったことをきちんとやるとなると、経営者に求められるスピード経営にかなりの支障が来されるのではないでしょうか。逮捕された元社員も、第三者委員会報告書によれば社内で高い評価を得ていたようで、だからこそローテーションもなく、長年営業の第一線で活動していたものと思われます。したがいまして、私からすれば、生き馬の目を抜くような競争を繰り広げている世界において、不正が起きるのは当然であり、むしろ不正をどうやって見抜くのか、という点にこそ会社は注力すべきではないか、と思ってしまいます。

L13687結局のところ、不正の未然防止よりも不正の早期発見を目指した内部統制システムのほうが企業のリスク管理としては実効性が高いのではないか・・・という視点から書いたのが拙著「不正リスク管理・有事対応~経営戦略に活かすリスクマネジメント」でして、もちろんご異論はあろうかとは思いますが、平時から不正リスクを真剣に検討するためには、不正リスクの大きさよりも、不正の発生可能性(発生確率)をどのように考えるべきか、といった発想を用いて、できるだけ思考停止に陥らないことが大切かと。

上記の米澤先生の本でも指摘されていますが、この事件は未だ終了したものではなく、架空循環取引に協力していた会社(当該会社の社長さんらも、今回逮捕されていますが)から、椿本興業さんは10億円の損害賠償請求訴訟を起こされており(ただし椿本さん側からも反訴が提起されています)、会計上も特別損益の引当が計上されている状況です。もし、不正を早期に発見することができたのであれば、流出した資産額もわずかで済み、また架空循環取引に関与した会社から裁判を起こされるという事態にも至らなかったわけです(なぜそう考えられるのかは、第三者委員会報告書を読めばおわかりになります)。

私的には、この椿本興業さんの事件では、もちろん元営業担当社員の不正事件ではあるものの、「会計不正」を引き起こしたのは同社の構造的欠陥にあると考えます。一人ひとりの行動は処罰の対象にはならないものの、どれか一つだけでも機能していれば元営業担当社員の不正は早期に食い止められたはずです(たとえば内部監査、監査役監査、会計監査、内部通報制度等)。仮に「それでは食い止められない」と回答されるのであれば、ではなぜ食い止められなかったのか、その合理的な理由の有無に焦点を当てなければ、また同様の不正が発生するおそれがあります。本件も、実は別件の不正事件が発生したにもかかわらず、その際に同種の事件は社内で発生していないかどうか、改めて調査をしていれば発見できた・・・といった記載も第三者委員会報告書に見受けられます。この構造的欠陥というものは、もはや経営者以外には指摘できないわけで、そういったところに拙著でも警鐘を鳴らしています。

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2014年10月28日 (火)

多議決権種類株式の活用に関する2つのアプローチ

今朝(10月27日)の日経新聞に「ベンチャー上場 もろ刃の種類株」と題する記事が掲載されていました。グーグルやフェイスブックの経営陣が活用している多議決権種類株式について、日本企業ではほとんど活用されていませんが、サイバーダイン社の上場で活用された例なども出てきて、今後は広く活用が検討されるべきではないか、というもの。ただし事業が傾いたときに、経営者を交代させにくいことから、コーポレートガバナンス改革の波に反する可能性もある(したがって両刃の剣である)、とされています。

いっぽう、タイミング良く、旬刊商事法務の最新号(2046号)の座談会記事「企業統治制度改革のゆくえ(下)」でも、今後の企業統治改革の課題として、この多議決権種類株式の活用が話題に上っています。現経営者の人的資本を尊重するための活用という視点もありますが、興味深いのは、モノ言う株主が経営者と対峙する際に、その地位を強化する目的で多議決権種類株式を保有してはどうか、経営者が短期的利益追及から解放されるよう、短期保有株主の議決権行使を制限してはどうか、ということが重点的な検討課題とされています。まさに長期保有株主と短期保有株主のバランスを図るための、そしてガバナンス改革のための多議決権種類株式の活用、ということであり、アプローチがベンチャー企業向けの活用方法とは異なるようです。

ベンチャー企業での活用・・・ということはよく語られていましたが、上記座談会での話題のようなアプローチでの話はあまり考えていませんでしたので新鮮でした。たしかにオックスフォード大学のメイヤー教授のこちらのインタビュー記事にあるように、dual class sharesが世界的に活用されている、ということなので、日本でも多議決権種類株式の活用が検討されることは、とくに違和感がないのかもしれません。

もちろん、日本の会社法はかなり厳格に株主平等原則、一株式一議決権の原則を維持していますので、簡単に導入できるようなものではありません。新規上場時でなければ議決権の異なる種類株式を発行できないような東証のルールも存在します。しかし、会社法は関係者の民事上の権利調整ルールであることが第一なので、関係者の利益調整が可能であるならば、これから法的なルール作りを行うことは困難ではないと考えます。市場との対話を重視し、種類株式の活用に関心を持つ上場会社の経営者が増えてくれば、企業統治との関係でも長期保有株主の優遇措置の適法性といったテーマが検討されるようになるかもしれませんね。

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2014年10月27日 (月)

スチュワードシップ・コード施行下におけるISS議決権助言方針の改定

今年も例年通り、2015年のISS議決権行使助言方針(ポリシー)が11月に公表される予定ですが、これに先立ち、 「ISS議決権行使助言方針改定に関する日本語のオープンコメント募集」が行われています(28日に意見募集が締め切られます)。ISSの2015年の改定案では、すでにマスコミ等で報じられているとおり、日本の取締役選任のポリシーを中心に下記の3点の変更が予定されています。

1. 資本生産性 (ROE)基準の導入

2. 取締役会構成基準の厳格化(複数の独立社外取締役選任の推奨)

3. 監査等委員会設置会社への対応

9月3日現在、スチュワードシップコードの受け入れを表明した機関投資家は160社を超えました。そこで、受託者責任を尽くすことを開示しなければならない機関投資家が増えることから、今年のISS議決権行使助言方針の改定は、上場会社にとって極めて重要なものになります(日本の機関投資家といえども、同コード第5原則との関係で無視できないところかと)。おそらく、多くのコメントが寄せられているのではないでしょうか。ISSから反対意見を述べられる場合に備えて、自社における反論を用意する企業も増えることが予想されます。

ところで、多くの上場会社からROE5パーセント(5年間)基準、複数独立社外取締役選任について、強い関心が向けられることは当然かと思われます(ROE基準よりも配当率のほうが重要と考える方もおられるでしょうし、持続的な企業価値向上のために別のKPIを重視している企業もあると思います)。しかし、私は1と2に関するISSの方針改定には基本的には賛成なのですが、3の監査等委員会設置会社への対応に関するISSの意見には、やや違和感を持っています。

ちなみに、ISSが監査等委員会設置会社への移行(定款変更議案)に原則賛成する理由は以下のとおりだそうです。

監査委員会のみを設置し、指名委員会や報酬委員会を設置しない委員会型の企業統治機構は新興国を中心に普及しています。監査役設置会社と異なり、監査委員会のみを設置するスタイルは、日本特有の制度ではないのです。よって、監査等委員会設置会社の取締役会を、例えば" board with an audit committee"のように実態面に着目して翻訳し、説明すれば、海外で普及した制度と類似の制度であることが明確となり、海外の投資家の混乱を避けることが期待できます。

しかし、上記理由には納得できません。それは以下の理由からです。

ISSは「監査委員会のみを設置し、指名委員会や報酬委員会を設置しない委員会型の企業統治機構は普及している」とされていますが、それらの諸国の内部監査体制と日本の内部監査体制を比較してみたらいかがでしょうか。内部監査の独立性が確保されており、独立社外取締役が指揮監督できる内部統制システムが前提とされていればともかく、おそらく日本ではそのような体制はほとんど見受けられません。委員会設置会社(指名委員会等設置会社)でさえ、約8割が常勤の監査委員たる取締役を置いているのが現状です。このような日本の現状を前提として監査等委員会設置会社に移行することは、かえって諸外国の機関投資家に誤解を与えることになるものと考えます。

また、そもそも監査等委員会設置会社における監査等委員である社外取締役には、会社法上、指名委員会や報酬委員会に準じる役割を担っており、機関投資家から説明を求められれば、人事や報酬に関する意見を陳述する義務があるはずです。つまり(会社法では)監査等委員会には社長の指名・報酬に関する機関決定を行う権限はありませんが、機関投資家への説明責任という意味においては指名委員会や報酬委員会の委員と同様に説明義務を尽くす必要があると考えられます。したがって、この点においても機関投資家に混乱を招くおそれがあります。

したがって、仮に監査等委員会設置会社への移行に関する定款変更議案が上程されたとしても、これに賛同すべきは委員会設置会社→監査等委員会設置会社の場合か、内部統制システムに基づく監査体制が十分に確保される程度の極めて規模の大きな上場会社に限定されるべきではないかと考えます。

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2014年10月24日 (金)

マタハラ訴訟最高裁判決が企業法務に及ぼす影響(私の意見)

既にマスコミでも大きく報じられているとおり、マタニティハラスメント(マタハラ)に関する最高裁判決が23日、第一小法廷で出されまして、原審について破棄差戻しとなりました。すでに最高裁のHPには判決全文が掲載されています。

行政官時代に男女雇用機会均等法を作った方(正確には重要な法改正に携わった方)が裁判長ということで、これ以上ない「事件のめぐり合わせ」だったわけでして、男女雇用機会均等法における不利益処分禁止条項の強行法規性を確認したうえで、「降格に関する同意の有無」を形式ではなく、実質的に判断すればこのような判断内容になる・・・というのが素直なところではないかと思います。裁判官は全員一致の判断ということですが、すでに事件配転前の調査官レベルでも同様の判断ではないかと推測いたします。

ただ、私が企業法務の視点から注目するのは櫻井裁判長の補足意見です。今回は男女雇用機会均等法上の降格処分の違法性に関する争点が判断の対象でしたが、育児・介護休業法10条の解釈問題にまで踏み込んだ意見を示しています。私も本件判決が出る前から、少子化、高齢化社会における労務管理の在り方にどのような影響が出るのか、という点に関心がありました。企業は、男女雇用機会均等法9条と同様の趣旨で、育児・介護休業法の規定するところを順守すべき、と補足意見を述べた意義は大きいと思います。

おそらくこの櫻井裁判長の補足意見については、最高裁、とりわけ調査官からは相当に異論があったのではないかと想像します(あくまでも推測ですが、司法が紛争の解決に必要な範囲を超えて法的解釈の指針を示すのはいかがなものか、といった意見は当然に出てくると思います)。それでもこれを書ききった、という意味は、これからの労務管理体制の整備という企業実務に与える影響は大きいものがあると思います(やはり法曹以外の出身者が最高裁の判事に就任している意味は大きいなぁと感じます)。男女の雇用問題だけでなく、男女関係なく、育児や介護と仕事とのバランスを企業が支援していく体制作りが強く求められることになりそうです。

ただ、公益通報者保護法の問題点と同様、あまり企業に厳しい体制作りを求めると、逆に中小の事業者への浸透度が低下するおそれもあります。判決文にも出てきますが、法律だけでなく、法律の趣旨を実現するためのガイドラインの役割、そして企業自身が策定する自主ルールの役割が、今後さらに重要になってくるのではないでしょうか。

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2014年10月23日 (木)

もろもろへのお礼とお知らせ

いつも拙ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

日曜日の病気完治・退院以来、多くのメールを頂戴いたしまして誠にありがとうございます。突発性難聴の経過も特に問題はなく、主治医の先生からも太鼓判を押していただきました。

Img_0286さあ、これから本の宣伝を!といった矢先の緊急入院だったもので、ブログで広報することもなかったのですが、少しだけお知らせがございます。

左は大阪高裁内ブックセンターの入口棚です。さすが地元!私の新作と旧作のフェアを開催していただいております。(間の「検証 防空法」は私のものではございませんが・・・)。店長さん、どうもありがとうございます。<m(__)m>

国際カルテル、不正リスク、会社法改正、いずれの本もおかげさまで売上好調でして、「国際カルテル」は共著者である井上先生(ベーカー&マッケンジー)が日経新聞等でコメントされたりしている関係のほうが大きな要因ではないかと思います。

あと、「不正リスク管理」のほうは、法務ブロガーとして著名なdtkさんのブログで書評が掲載されておりますので、甘辛含めてご参考にされてはいかがでしょうか。そうか・・・あの「ビジネス法務の著者」というポジションをもっと前面に出したほうがよかったですかね?そのあたりに違和感を抱かれる・・・・とは思いもよりませんでした。社外取締役の議論については、本書の主題との関連性のみにとどめ、アベノミクスとの関係での私見はなるべく控えました。今後の執筆の参考にさせていただきます。<m(__)m>

Img_0287_2ちなみに左の写真は週刊東洋経済の今週号(10月25日号)です。「国際カルテルが会社を滅ぼす」が紹介されました。一部、写真に修正を加えております。東洋経済の書評は、まったくコネが利かないので、正直、たいへんうれしいです。今頃になって掲載されていることに気が付きました。

どの本も、甘辛含めて、いろんなところで書評が掲載されたらいいなぁと。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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少数株主を蚊帳の外に置いた議論はマズイのではないか?

日本再興戦略改訂2014を受けたコーポレートガバナンス改革が進んでいます。金融庁有識者会議ではコーポレートガバナンスコードの策定のための審議が進み、また経産省では伊藤レポートを受けた「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」が立ち上げられ、すでに研究会がスタートしています。

「私も退院したら一度資料などに目を通してみよう」と考えていましたので、さっそく最近の委員会や研究会の議事録、資料などを拝見いたしました。しかしビックリ!といいますが、たいへん驚いたのは「株主との対話促進」の一環として株主総会プロセスの在り方や企業情報開示の検討がなされていることです。これは本当にビックリしました。私の理解では、株主総会プロセスの在り方や開示・監査の問題は、株主との対話の前提であり、(機関投資家の方々の活躍が期待される)対話促進をどうすべきか、という点とは別の議論だと認識していたからです。

実際にも、昨年出版された「株主と対話する企業」(三菱UFJ信託銀行証券代行部 日本シェアホールダーサービス編著 商事法務 2013年)を読みますと、実質株主の議決権行使に関する論点は掲示されているものの、そのほとんどはIR・SRに関する話が中心であり、ましてや基準日問題、招集通知、総会開催日など株主総会プロセスの在り方、開示制度などに関する記述はほとんどありません。

株主総会プロセスの在り方、開示・監査に関わる検討ということであれば、これは会社法や金商法に深く関わる論点なので、機関投資家と会社との関係だけでなく、むしろ一般株主、個人株主といった少数株主保護の要請についても検討課題になるはずです。しかし、上記の金融庁や経産省の委員会等での議論は、はたして少数株主の利益を代弁する立場のメンバーや委員の方は入っておられるのでしょうか?もし入っておられないとすれば、これは(少数株主保護の視点をあえて意識しておかねば)かなりマズイのではないかと思います。なぜなら、これからの企業の紛争リスク、レピュテーションリスクを左右するのは少数株主の活発な活動に依拠するものと思われるからです。

Grayzoon00910月中旬に発売されました拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」でも少し書いていますが、平成17年改正会社法によって大規模会社も積極的に会社法を活用するようになりました。その結果、大会社の紛争事案も増え、ガバナンスの在り方に影響を与える参考判例も増えています。価格決定申立事件等の商事非訟事件、株主代表訴訟等の商事訴訟事件とも、個別案件を処理するだけのルール定立にすぎないかもしれませんが、原告勝訴・敗訴にかかわらず、実務に影響を与え、このたびの平成26年改正会社法にも影響を及ぼしています。

私は「機関投資家を中心とした株主との対話+取締役会改革」という図式のガバナンス改革であれば、それほど少数株主保護の必要性は高まらないと思っていたのですが、「株主との対話」の中に株主総会改革や開示・監査という、対話の前提となるルールに関する改革まで含まれるとすれば、これは、一つ間違えると少数株主の利益がないがしろにされてしまう可能性が高まるため、司法紛争に巻き込まれる会社が増えるのではないかと推測します。

SNS等、ネットコミュニケーションの発展により、個人株主が情報を共有する体制は整いつつあります(たとえば山口三尊氏のブログでは、すでにシャルレ株主代表訴訟判決の要旨が詳細に紹介されています)。先日のシャルレ株主代表訴訟事件、住友電工株主代表訴訟事件等でおわかりのとおり、少数株主による文書提出命令申立により、企業役員の社内メールの内容等を原告株主が容易に知るところとなり(もちろんフォレンジックの進展によって削除メールも復元されることになり)、お金の問題よりも、ガバナンスの問題に焦点を当てて「負けてもいいから、ナットクのいく判決、決定を」といったスタイルで訴訟を争う少数株主、また支援する方々が増えています。このような社会環境において、少数株主への配慮をせずにガバナンスルールを定立することは、企業にとってリスクはかなり大きいのではないでしょうか。

本日(10月22日)の日経経営者ブログにて、丹羽宇一郎氏が「沈黙のらせん」について述べておられます。「沈黙のらせんとは、少数意見が多数意見に押されて意見を言いにくくなり、そのためさらに少数意見が軽視されていくという、世論形成の悪循環のこと。結果として、多数派の意見が実際よりも多くの人に支持されているように見えてしまう」とのことで、少数意見に光が当たることの大切さが示されています。株式会社の株主にも言えることであり、少数株主の利益保護にも配慮したガバナンス改革によって、たとえ少数株主から提訴されても裁判所で「門前払い」されるようなルールを考えるべきか、少数株主への配慮は後回しにして、その代わり、取締役の善管注意義務違反が争われる事件を何年も抱えることも厭わないと腹をくくるべきなのか、そのあたりの判断は避けて通れないのではないかと思います。

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2014年10月22日 (水)

虚業-小池隆一氏が語る「企業の闇と政治の呪縛」

20141008g664「こんな本、読んだら体に悪くないの?」とあきれられながらも、入院中に嫁さんに買ってきてもらい、夢中で読了した一冊です。弊職、最新の旬刊商事法務(10月1日、15日合併号)に「企業における反社会的勢力の疑惑解明に向けた内部統制の整備-近時の判例等を踏まえて-」と題する論稿を掲載いただきましたが、本書は(論稿でも触れている)企業の反社リスク管理を考える上でも参考になる話が満載です。

虚業 小池隆一が語る企業の闇と政治の呪縛(七尾和晃著 七つ森書館 1,700円税別)

拙ブログをお読みの方の中にはご記憶の方もいらっしゃると思いますが、小池隆一氏は1997年の商法違反(不正利益供与)事件で服役した「伝説の総会屋」であり、同事件では、第一勧銀、野村証券等、企業側で逮捕された者は32人にも及びました。本書は、小池氏と8年間にわたり交友してきた著者七尾和晃氏が、総会屋時代、そして総会屋から合法的なコンサルタントに転身した時代の小池氏の暗躍に焦点をあて、小池氏自身の言葉で「必要悪の数々」を語ってもらったところを綴ったものです。企業から必要とされて(バブル崩壊の後始末のために)総会屋として暗躍した前半部分もおもしろいのですが、合法的コンサルタントとして、これまで(表に出ずに)暗躍してきた後半部分の小池氏の活動のほうが私的には非常に興味深いと感じました。ここ数年の経済事件との関連で、企業名や政治家名も実名でたくさん出てきます。

上記論稿でも述べましたが、反社会的勢力との接触リスクについては、多くの本で「リスクの重大性」については周知されているところです。しかし「リスクの発生可能性(発生確率)」について語られた本はあまりありません。どうして企業は反社会的勢力とつながってしまうのか、そもそも反社会的勢力とつながってしまったことはどうすればわかるのか、という点です。我々は、どうしても頭の中で「反社会的勢力」とはこういったもの・・・という虚像を作ってしまいがちですが、本書を読み、その実像はもっと企業にとって「ありがたいもの」「役員、社員にとって個人的に身近なもの」そして語弊はありますが「親しみやすいもの」であることがわかります。

ここからは私の感想ですが、コンプライアンス経営が叫ばれる時代になればなるほど、反社会的勢力は「コンサルタント」の名を借りて暗躍するチャンスが増えるように思います。そういった実例が本書に登場します。また、小池氏は社会から「反社会的勢力」とレッテルを貼られてしまうわけですが、本書にはこの小池氏をうまく利用するフィクサーが前半、後半に一人ずつ登場します。このフィクサーの登場がまさにリアルであり、どこの企業も反社会的勢力と接触をもってしまう可能性があることを再認識させてくれます。さらに、東京オリンピック、ODA(政府開発援助)、地方分権が、今後の反社会的勢力を増幅させるきっかけ、そして御社と反社会的勢力とがつながる発生可能性を高めるきっかけになるのではないかと。

日本には国内外の政治家に圧力をかけるロビイスト、資金豊富なNPO団体が存在しないため、企業がグローバル競争に勝ち抜くためには、どうしても反社会的勢力の力を借りなければならない場面が出てくるのではないか。もちろん合法的なコンサルタントという仮面をかぶった反社会的勢力のことです。そこで足元をすくわれないために、企業は平時から何をすべきなのか・・・、役職員の個人的倫理観と社会のコンプライアンスの風潮が抵触する場面等を想定して、たとえ反社会的勢力とのつながりが生じてしまったとしても、最悪の状況だけは切り抜けられる企業の知恵を学ぶことが大切ではないでしょうか。(帯では佐高信氏も絶賛されていますが)不正リスク管理に関心の高い方々には自信をもってお勧めする一冊です。

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2014年10月21日 (火)

取締役の公正価格配慮義務(MBO)-シャルレ株主代表訴訟判決

入院中、気になっていた事件のひとつがシャルレ株主代表訴訟判決でした。世間の関心はイマひとつ(イマふたつ?)ですが、経営陣のMBO手続き違背が、取締役の善管注意義務違反となることを認めたシャルレ株主代表訴訟判決が10月16日に神戸地裁で出されています。MBOの手続き違背の疑いが、少数株主の株式価格の適正性判断に影響を及ぼす事例はレックスHD事件等で前例がありますが、ズバリ取締役の法的責任に影響あり、とした判決はあまり前例がありません。神戸大学の近藤光男教授も「この判決は画期的」と評されており(毎日新聞ニュース)、今後は著名な先生方による判例評釈なども書かれるところかと。

判決によると、平成20年9月、シャルレ社では創業家が一般投資家らから全株式を買い取るMBOを行い、非上場化して経営再建を図ると発表されましたが、その際、元代表取締役社長は買い取り価格を決める担当者に数値操作などで価格を低く設定するよう指示し、別の元取締役も指示を知りながら見過ごした、と認定しています。このような取締役らの介入は内部告発で明るみに出てMBOは結局頓挫しましたが、同社が混乱収拾のために行った社内調査や株価の再算定などの費用を損害とされています。

まだ病み上がりなので(笑)、私的に関心のあるところを備忘録的に列記しますと、

①社外取締役3名の善管注意義務違反は認められていないこと。公正な価格形成の阻害について積極的な役割を演じたこと自体を善管注意義務違反と捉えているものと思いますので、社外取締役らの善管注意義務違反は否定されたのかもしれませんが、原告株主はこの点についてはナットクできないとされており、控訴審の中で改めて争点となるようです。社外取締役らがMBO価格につき「賛同の意見表明」を行っている点をどうみるべきでしょうか。

②信用毀損を「損害」とは認定していないこと。取締役らの不適切行為によって企業のレピュテーションが毀損されたことについては、これを損害として認定されていません。この点も原告株主が控訴審でさらに主張することになるのではないでしょうか。なお、第三者委員会の設置費用を損害として認定している点は以前のブログでも触れています。

③内部告発の存在。そもそも取締役らの不適切な行為(株主の利益配慮を無視した行為)について、関係者から大阪証券取引所(当時)に対して内部告発があり、これが発端となって不適切行為が判明した経緯があります。社内力学の歪みがあったからこそ、本件が発覚したということになります。

④文書提出命令が出されたこと。ニュース記事によると、損害賠償責任が認められた取締役らについては、MBOの価格形成に影響を及ぼす行動として、大量のメールを発信していたことが根拠とされています。たしかこれらのメールは、原告株主が文書提出命令を申立て、平成24年5月の時点で、これが認容されたことによって発見されたものと思います。したがって、原告一部勝訴(取締役に善管注意義務違反を認める判断)の結論に至ったことについては、文書提出命令が認められた点も重要ではないかと思います。

本件は、MBOが成立しなかったという特殊事例に関する判決であり、取締役の行動規範を一般化するうえで、どれだけ参考になるかはわかりませんが、興味深い論点が多数含まれていることは事実です。控訴審の行方も気になりますが、ともかく上記はニュース記事に基づく印象にすぎませんので、できるだけ早く神戸地裁の判決全文を読んでみたいですね。

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2014年10月19日 (日)

完全復活宣言!(ご心配をおかけしました

拙ブログをご覧いただきありがとうございます。10日ぶりの書き込みとなります。

すでにお知らせしておりましたとおり、弊職、10月8日より入院しておりましたが、体調は完全に回復し、おかげさまで(予定よりも早く)退院することができました。本当にご心配をおかけしました。

弊職、10月初めに突発性難聴を患いました。朝、目が覚めた瞬間、左耳の聴力を全く失っておりました。「キーン」といった耳鳴りが響き、自分の声さえ拾えない状況になりました。ご承知の方もいらっしゃるかもしれませんが、国の難病に指定されている内耳系神経障害による感音性難聴と(検査の末)診断されました。

突発性難聴の治療法は確立されていませんが、ともかく医師の勧めにより、入院のうえステロイド治療を開始。発症から48時間以内に措置を開始しても、完治は3分の1の確率と説明を受けましたので、治療には全力を尽くすつもりでしたが、「まぁ、聴力を失っても仕事は今まで通りできるだろう」と、自分なりに最悪の結果は受け入れるつもりでした。

初日からステロイド特有の副作用に悩まされましたが、幸運にも治療開始2日後から聴力が改善しはじめ、約1週間の治療で以前と全く変わらない聴力に回復いたしました。入院加療のために多くの皆様にご迷惑をおかけしましたが、現在は「完治させていただいた」ことに感謝の気持ちでいっぱいです。同じようにステロイド治療を受けても聴力が戻らない方が多い中、幸運にも恵まれたというのが実感です。医師からは「突発性難聴は再発しない」と説明を受けていますので、とりあえずホッとしています。

40代から60代の男女を問わず、突発性難聴は増えているそうです(原因は不明ですが、ストレスが原因というのが通説です)。発症後、おそくとも10日以内には措置を開始しなければ戻る確率が極めて低くなってしまいます(私の場合は発症後72時間でした)。「これが突発性難聴ではないか?」と危機感を早期に持てるかどうか、仮に持てたとしても、きつい治療を受け入れるだけの入院措置を早めに覚悟できるかどうか、そのあたりが私の場合にはポイントでした。数百人規模の講演やシンポが4つも5つも控えていたために、「入院なんてとてもとても(笑)」といった私の対応を一喝してくれた「かかりつけの医師」の存在が、私にとってはなによりも重要でした。

ともかく、完全復活を遂げることができました。すぐに「本格的な仕事復帰」とはいきませんが、復帰のための準備活動を少しずつ始めていきたいと思っております。お見舞いのメールをたくさんいただきまして、本当にありがとうございます(公開停止機能により、ブログにはコメントを反映させておりません)。メール、コメントのひとつひとつへお返事できませんでしたので、本ブログをもってご報告させていただきました。ブログのほうも、(入院中も、アップしたい話題がたくさんありましたので)ぼちぼちと再開させていただきます。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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2014年10月 6日 (月)

景表法改正(課徴金制度導入)をコンプライアンスから考える

現在会期中の臨時国会に景表法改正法案が提出される予定、と報じられています(たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。商品やサービスの「不当表示」が認められる場合、事業者から、過去にさかのぼって売上の3%を課徴金処分としてはく奪する、というのが今回の改正の目玉です。不当表示を自主申告した場合の課徴金減額制度や自主返金制度(自主返金した場合には課徴金の金額を減額する制度)など、企業コンプライアンスの視点からも重要な制度が含まれているので、法案が成立した場合、企業側としても、その運用には多大な関心が向けられるものと思います。

ただ、その運用にあたり「コンプライアンス」の発想の違いから、企業に大きな影を落とすことが懸念されます。たとえば2週間ほど前、大阪の萬野畜産(事業者)が一般国産和牛を「飛騨牛」と偽装した事件が発生しました。関西の大手百貨店や通販会社は、この萬野畜産の商品をギフト商品として販売していたことから、購入者に謝罪の上、自主返金を行いました。もちろん、百貨店等が表示に関する決定権限を持っているわけではないので、自社が悪いことをしたわけではありません。したがって自主返金分は萬野畜産に求償しようとしたところ、萬野畜産は自己破産宣告の申し立てを行い、事実上、損失を小売業者や通販業者が負担せざるをえなくなりました。

おそらく、景表法が改正され、事業者に高額の課徴金が課されることになると、この萬野畜産と同様の事態が起きるのではないでしょうか。大手の小売業者、通販業者は、コンプライアンスを「社会からの要請に適切に対応すること」と考えていますので、事業者が行政当局から有利誤認、優良誤認といった「不当表示」を認定された場合には、消費者に対して何らかの対応をせざるをえないことになると思います(なお、小売業者が不当表示を行ったと解釈されるケースもありますので、詳しくは消費者庁のQ&A等でご確認ください)。牛肉偽装は詐欺罪に匹敵するような重大な商品偽装であるがゆえに対応したが、景表法違反の場合には何ら対応する必要はない・・・と割り切れればよいですが、おそらくそういった判断には至らない場合も多いと思われます。

一方、事業者にとって「課徴金処分」というのは、口頭での指導や排除措置命令とは異なり、事業継続上の死活問題にもなりかねません。だとすれば、コンプライアンスはあくまでも「法令遵守」として認識せざるをえないのであり、「売上の3%をはく奪されるくらいなら、不当表示ではないと最後まで争う」といったことも当然に考えられるところです。事業者の中には、いったん倒産手続きを活用して、課徴金や自主返金分の求償債務を免れて、再度別個の法人を設立して再開すればよい・・・と考えるところも当然に出てくるはずです。

課徴金制度に自主返金制度が新設される以上、「企業が景表法に違反すると消費者にお金が戻ってくる」といった感覚が、これから社会に根付く可能性があります。そうなりますと、小売業者、通販業者も、そのような社会一般の認識を無視できず、自社のレピュテーションリスクを考えざるをえないことになります。そこで、この「コンプライアンス」に関する認識の違いについて、小売業者、通販業者側はどう考えるのか、消費者への最終販売者として、全額返金は当たり前と考えるのでしょうか、それとも自分たちが不当表示をしたわけではないので、事業者の様子をみながら対応するのでしょうか、とくに個人情報保護法の関係から、販売業者にとって、販売履歴は保存期間終了後は消去せざるをえない場合もあり、明確な証拠なしにジャブジャブと返金をしていますと、株主に合理的な説明がつかない状況になってしまうおそれもあります。

「コンプライアンスとは、社会からの要請に適切にこたえることである」といった最近の認識を全面に出しますと、こういった事後規制的手法による行政対応が採用された場合に、企業が窮地に陥るケースもあるということを、あらかじめ理解しておいたほうがよろしいのではないかと。景表法における課徴金処分の運用は、誠実な企業だけでなく、不誠実な企業にも適用される「事後規制的手法」であることに注意が必要かと思います。

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2014年10月 3日 (金)

会社法改正のグレーゾーン出版記念講演のお知らせ

_iowq675本日(10月3日)、拙著「不正リスク管理・有事対応~経営戦略に活かすリスクマネジメント」(有斐閣)が全国書店にて発売となります。ちなみに、大阪地裁1階に新たにオープンしましたブックセンターさんでは、(たいへんありがたいことに)書店入口付近で、私のフェアを開催いただいておりまして、すでに「不正リスク管理・・・」がご覧のように販売されておりました。たいへんささやかですが、地元の裁判所の書店さんでご祝儀フェアをしていただき、とても感動いたしました。

さて、10月15日頃発売予定の拙著「会社法改正のグレーゾーン」(レクシスネクシス)のほうですが、こちらはレクシスネクシスさんのご厚意で、たいへん参加費用がお安い出版記念講演を開催させていただくことになりました。場所は大阪本町、日時は10月21日午後2時から4時までとなります。詳しくは、レクシスネクシスさんのこちらのHPをご覧ください

なんといいましても、書籍代が2,500円ほどであるにもかかわらず、参加費用が3,000円で、しかも書籍が1冊もれなくついてくる・・・ということなので、本当の出版記念講演ですし、レクシスさんも、私も完全な赤字(^^;!!だからといって、手抜きは一切ございませんので(笑)、どうかお時間のございます方は、どうか多数ご参加くださいませ。定員は先着50名ということなので、まだ大丈夫だと思います。

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2014年10月 2日 (木)

不正の発見は業務処理統制から-企業不正の実態調査

Foaq223_5いつもお世話になっているKPMG-FASさんより、「日本企業の不正に関する実態調査 2014版」をいただきました。KPMGさんは、これまでにも2006年から、過去3回の不正実態調査を行ってこられましたが、4回目である今回は2011年1月から2013年12月まで、計3年間の不正事件に関する開示情報148事案を分析したもので、非常に有用性の高い調査結果を発表されています。なお開示情報からの分析、ということなので、やはり分析される事案は、会計不正事件か資産流用事件が中心になっています。

様々な視点からの分析が行われていますが、やはり私の最大の関心は、「不正の発覚経路」です。その結果はといいますと、意外にも内部通報、内部告発による情報提供よりも、業務処理統制による発覚が一番多いという結果が出ています。ただし経営者不正に限っていえば内部通報や内部告発による発覚がやはり圧倒的に多く、従業員不正については逆に業務処理統制による発覚が多い・・・という結果が出ています。やはり経営者が関与する会計不正事案などは、内部統制を無効化させてしまうということで、経営者不正を内部統制で防止できるかといえば限界がある、ということでしょうか。

ちなみに業務処理統制による発覚の経緯としては、①売上債権の滞留調査によるものが最も多く、次いで②仕入れ・原価計算分析や親会社のモニタリング、③人事異動や主体的関与者の体調不良などによる長期休暇といった担当者の交代が多いそうです。不正発見のための内部統制システムの体制作りといえば、職務分掌、ダブルチェック、ローテーション制度と言われていますので、こういった結果をみますと、やはり基本原則をどこまで徹底できるか、ということが早期発見のための要諦ではないかと思われます。

もうひとつ意外なのが、不正発覚と株価の動向です。会計不正事件だけの特徴かもしれませんが、不正会計や資産横領事件が発覚した上場会社の株価は、発覚後、ほぼ85%ほどの価格に低落し、その後60日以降もその株価が従前どおりには回復していない、ということです。なるほど、会計不正事件については株価の低迷が長期間に及ぶ・・・ということがこの分析調査でよく理解できました。会計不正事件の発覚は、株価の急落をもたらすものとして、明確に意識したほうが良いと思われます。

外部者関与の不正事例の特徴、第三者委員会設置の比率など、個々の調査報告書などを読んで不正事件の傾向を勉強することはありますが、こうやって150件ほどの事例を詳細に分析する・・・ということは、なかなか個人では困難です。不正の早期発見のための施策を検討するためにも、このような実態調査の結果を活用することも必要ではないかと思います。

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2014年10月 1日 (水)

海外不正リスク対応とコンプライアンスプログラムの活用

ここ数日でも、豊田合成さん、川崎汽船さん等、国際カルテル事件で高額の司法取引が行われた旨、報じられています。また9月中旬には、三菱、日立関連会社の合計7名が国際カルテルにて起訴されたことが報じられました(たとえばこちらの朝日新聞ニュース等)。注目すべきは、三菱電機さんの幹部社員らについて、部下に関係書類の廃棄を命じていたとして、司法妨害の共謀罪で起訴されていることです。DOJの公式文書では、「日本企業のこのような証拠廃棄事件については、今後も厳しい対応で臨む」と警告までなされています。日本企業の抱える国際カルテル事件への対応については、ぜひとも私が共同執筆しております新刊書(左のサイドバーで表示しています)をご一読いただければご理解いただけるのではないかと。

さて、月曜日(9月29日)の日経法務インサイドでは、昨年まで米国司法省次官補であったラニー・ブルーアー氏のインタビュー記事(海外の贈賄防止「米指針遵守を」)が掲載されていました。すでに当ブログでもご紹介しましたように、10月10日のACFE(公認不正検査士協会)JAPANの年次カンファレンスにラニー・ブルーアー氏をお招きし、講演をいただくことになっておりまして、おかげさまで500名の定員が満員御礼となりました(こちらにリリースがございます)。どうもありがとうございます。

日経の記事では国際カルテルについても意見を述べておられましたが、ブルーアー氏は(反トラスト局ではなく)米国司法省刑事局の責任者でしたので、カンファレンスでは主にFCPA(連邦腐敗行為防止法)違反の摘発に関して講演されるものと思います。いずれにしても、4年で40件ほどの大型案件の摘発を指揮してきた元司法官から「米国の正義」を知るためにはたいへん貴重な機会であり、今から私も楽しみにしています。

そのブルーアー氏が、日経のインタビューでは「FCPA執行ガイドライン」について語っておられます。ガイドラインに沿って法令遵守体制を整備すれば、社員個人は厳罰とされても、企業は責任を問われないことがある、とのこと。こういったガイドラインを米国企業は熟知しており、日本はあまり理解していないことが、「どうも日本企業にだけFCPA摘発は厳しいのではないか」と噂される要因ではないかと推測します。

「談合」や「賄賂」といった概念が、日本と海外では異なることに留意せよ・・・というのはよく言われるところですが、最近、某グローバル企業の日本法人の不正事件対策を担当して感じたのは、「コンプライアンス・プログラム」という概念にも日米の違いがある、ということでした。海外案件に精通しておられる弁護士の方でしたら「あたりまえ」かもしれませんが、コンプライアンス・プログラムというのは、米国企業ではトップから新入社員まで、「履行済み」であることが大切なのですね(だからこそ、刑の減免の対象になるということです)。日本だと、プログラムといっても、整備することに専念し、将来何かあったときの指針・・・という程度の感覚で作成しているところが多いと思います。しかし、それでは不正が発生した場合に、企業自身が重大なペナルティを課され、民事賠償責任を負わされることになってしまうことになりかねません。

プログラムを実践し、コンプライアンスルールが企業の隅々にまで浸透している状況、また、その状況を第三者が納得できるように工夫された証拠の存在、これらが実現できてこそ、「たとえ社内で不正が発生したとしても、(社員の厳罰はやむをえないとしても)企業として重大なリスクを回避できる」という体制が整備されることになります。とくに海外不正対応のケースでは、米国、EU、アジア諸国等、それぞれの地域によって摘発リスクが異なりますので、自社に適合したコンプライアンス・プログラムを策定する必要があります。日本の法律における内部統制システムの構築・・・といった感覚の指針とは、やや異なるものである、ということも理解しておく必要がありそうです。

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