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2014年10月27日 (月)

スチュワードシップ・コード施行下におけるISS議決権助言方針の改定

今年も例年通り、2015年のISS議決権行使助言方針(ポリシー)が11月に公表される予定ですが、これに先立ち、 「ISS議決権行使助言方針改定に関する日本語のオープンコメント募集」が行われています(28日に意見募集が締め切られます)。ISSの2015年の改定案では、すでにマスコミ等で報じられているとおり、日本の取締役選任のポリシーを中心に下記の3点の変更が予定されています。

1. 資本生産性 (ROE)基準の導入

2. 取締役会構成基準の厳格化(複数の独立社外取締役選任の推奨)

3. 監査等委員会設置会社への対応

9月3日現在、スチュワードシップコードの受け入れを表明した機関投資家は160社を超えました。そこで、受託者責任を尽くすことを開示しなければならない機関投資家が増えることから、今年のISS議決権行使助言方針の改定は、上場会社にとって極めて重要なものになります(日本の機関投資家といえども、同コード第5原則との関係で無視できないところかと)。おそらく、多くのコメントが寄せられているのではないでしょうか。ISSから反対意見を述べられる場合に備えて、自社における反論を用意する企業も増えることが予想されます。

ところで、多くの上場会社からROE5パーセント(5年間)基準、複数独立社外取締役選任について、強い関心が向けられることは当然かと思われます(ROE基準よりも配当率のほうが重要と考える方もおられるでしょうし、持続的な企業価値向上のために別のKPIを重視している企業もあると思います)。しかし、私は1と2に関するISSの方針改定には基本的には賛成なのですが、3の監査等委員会設置会社への対応に関するISSの意見には、やや違和感を持っています。

ちなみに、ISSが監査等委員会設置会社への移行(定款変更議案)に原則賛成する理由は以下のとおりだそうです。

監査委員会のみを設置し、指名委員会や報酬委員会を設置しない委員会型の企業統治機構は新興国を中心に普及しています。監査役設置会社と異なり、監査委員会のみを設置するスタイルは、日本特有の制度ではないのです。よって、監査等委員会設置会社の取締役会を、例えば" board with an audit committee"のように実態面に着目して翻訳し、説明すれば、海外で普及した制度と類似の制度であることが明確となり、海外の投資家の混乱を避けることが期待できます。

しかし、上記理由には納得できません。それは以下の理由からです。

ISSは「監査委員会のみを設置し、指名委員会や報酬委員会を設置しない委員会型の企業統治機構は普及している」とされていますが、それらの諸国の内部監査体制と日本の内部監査体制を比較してみたらいかがでしょうか。内部監査の独立性が確保されており、独立社外取締役が指揮監督できる内部統制システムが前提とされていればともかく、おそらく日本ではそのような体制はほとんど見受けられません。委員会設置会社(指名委員会等設置会社)でさえ、約8割が常勤の監査委員たる取締役を置いているのが現状です。このような日本の現状を前提として監査等委員会設置会社に移行することは、かえって諸外国の機関投資家に誤解を与えることになるものと考えます。

また、そもそも監査等委員会設置会社における監査等委員である社外取締役には、会社法上、指名委員会や報酬委員会に準じる役割を担っており、機関投資家から説明を求められれば、人事や報酬に関する意見を陳述する義務があるはずです。つまり(会社法では)監査等委員会には社長の指名・報酬に関する機関決定を行う権限はありませんが、機関投資家への説明責任という意味においては指名委員会や報酬委員会の委員と同様に説明義務を尽くす必要があると考えられます。したがって、この点においても機関投資家に混乱を招くおそれがあります。

したがって、仮に監査等委員会設置会社への移行に関する定款変更議案が上程されたとしても、これに賛同すべきは委員会設置会社→監査等委員会設置会社の場合か、内部統制システムに基づく監査体制が十分に確保される程度の極めて規模の大きな上場会社に限定されるべきではないかと考えます。

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