マタハラ訴訟最高裁判決が企業法務に及ぼす影響(私の意見)
既にマスコミでも大きく報じられているとおり、マタニティハラスメント(マタハラ)に関する最高裁判決が23日、第一小法廷で出されまして、原審について破棄差戻しとなりました。すでに最高裁のHPには判決全文が掲載されています。
行政官時代に男女雇用機会均等法を作った方(正確には重要な法改正に携わった方)が裁判長ということで、これ以上ない「事件のめぐり合わせ」だったわけでして、男女雇用機会均等法における不利益処分禁止条項の強行法規性を確認したうえで、「降格に関する同意の有無」を形式ではなく、実質的に判断すればこのような判断内容になる・・・というのが素直なところではないかと思います。裁判官は全員一致の判断ということですが、すでに事件配転前の調査官レベルでも同様の判断ではないかと推測いたします。
ただ、私が企業法務の視点から注目するのは櫻井裁判長の補足意見です。今回は男女雇用機会均等法上の降格処分の違法性に関する争点が判断の対象でしたが、育児・介護休業法10条の解釈問題にまで踏み込んだ意見を示しています。私も本件判決が出る前から、少子化、高齢化社会における労務管理の在り方にどのような影響が出るのか、という点に関心がありました。企業は、男女雇用機会均等法9条と同様の趣旨で、育児・介護休業法の規定するところを順守すべき、と補足意見を述べた意義は大きいと思います。
おそらくこの櫻井裁判長の補足意見については、最高裁、とりわけ調査官からは相当に異論があったのではないかと想像します(あくまでも推測ですが、司法が紛争の解決に必要な範囲を超えて法的解釈の指針を示すのはいかがなものか、といった意見は当然に出てくると思います)。それでもこれを書ききった、という意味は、これからの労務管理体制の整備という企業実務に与える影響は大きいものがあると思います(やはり法曹以外の出身者が最高裁の判事に就任している意味は大きいなぁと感じます)。男女の雇用問題だけでなく、男女関係なく、育児や介護と仕事とのバランスを企業が支援していく体制作りが強く求められることになりそうです。
ただ、公益通報者保護法の問題点と同様、あまり企業に厳しい体制作りを求めると、逆に中小の事業者への浸透度が低下するおそれもあります。判決文にも出てきますが、法律だけでなく、法律の趣旨を実現するためのガイドラインの役割、そして企業自身が策定する自主ルールの役割が、今後さらに重要になってくるのではないでしょうか。
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