取締役の公正価格配慮義務(MBO)-シャルレ株主代表訴訟判決
入院中、気になっていた事件のひとつがシャルレ株主代表訴訟判決でした。世間の関心はイマひとつ(イマふたつ?)ですが、経営陣のMBO手続き違背が、取締役の善管注意義務違反となることを認めたシャルレ株主代表訴訟判決が10月16日に神戸地裁で出されています。MBOの手続き違背の疑いが、少数株主の株式価格の適正性判断に影響を及ぼす事例はレックスHD事件等で前例がありますが、ズバリ取締役の法的責任に影響あり、とした判決はあまり前例がありません。神戸大学の近藤光男教授も「この判決は画期的」と評されており(毎日新聞ニュース)、今後は著名な先生方による判例評釈なども書かれるところかと。
判決によると、平成20年9月、シャルレ社では創業家が一般投資家らから全株式を買い取るMBOを行い、非上場化して経営再建を図ると発表されましたが、その際、元代表取締役社長は買い取り価格を決める担当者に数値操作などで価格を低く設定するよう指示し、別の元取締役も指示を知りながら見過ごした、と認定しています。このような取締役らの介入は内部告発で明るみに出てMBOは結局頓挫しましたが、同社が混乱収拾のために行った社内調査や株価の再算定などの費用を損害とされています。
まだ病み上がりなので(笑)、私的に関心のあるところを備忘録的に列記しますと、
①社外取締役3名の善管注意義務違反は認められていないこと。公正な価格形成の阻害について積極的な役割を演じたこと自体を善管注意義務違反と捉えているものと思いますので、社外取締役らの善管注意義務違反は否定されたのかもしれませんが、原告株主はこの点についてはナットクできないとされており、控訴審の中で改めて争点となるようです。社外取締役らがMBO価格につき「賛同の意見表明」を行っている点をどうみるべきでしょうか。
②信用毀損を「損害」とは認定していないこと。取締役らの不適切行為によって企業のレピュテーションが毀損されたことについては、これを損害として認定されていません。この点も原告株主が控訴審でさらに主張することになるのではないでしょうか。なお、第三者委員会の設置費用を損害として認定している点は以前のブログでも触れています。
③内部告発の存在。そもそも取締役らの不適切な行為(株主の利益配慮を無視した行為)について、関係者から大阪証券取引所(当時)に対して内部告発があり、これが発端となって不適切行為が判明した経緯があります。社内力学の歪みがあったからこそ、本件が発覚したということになります。
④文書提出命令が出されたこと。ニュース記事によると、損害賠償責任が認められた取締役らについては、MBOの価格形成に影響を及ぼす行動として、大量のメールを発信していたことが根拠とされています。たしかこれらのメールは、原告株主が文書提出命令を申立て、平成24年5月の時点で、これが認容されたことによって発見されたものと思います。したがって、原告一部勝訴(取締役に善管注意義務違反を認める判断)の結論に至ったことについては、文書提出命令が認められた点も重要ではないかと思います。
本件は、MBOが成立しなかったという特殊事例に関する判決であり、取締役の行動規範を一般化するうえで、どれだけ参考になるかはわかりませんが、興味深い論点が多数含まれていることは事実です。控訴審の行方も気になりますが、ともかく上記はニュース記事に基づく印象にすぎませんので、できるだけ早く神戸地裁の判決全文を読んでみたいですね。
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