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2014年11月28日 (金)

ROE(自己資本利益率)からリーガルリスクを学ぶ

110645664211月25日の日経新聞電子版ニュースで、株主還元率を100%にする、と宣言したアマダ社の株価がいまひとつ向上しない、という記事が掲載されていました。宣言直後こそ株価が50%ほど向上したものの、その後は元に戻り、現在はPBRが1.04倍ということで、いくら株主還元率を向上させたとしても、本業によって儲けるためのストーリーを描けなければ株価向上にはつながらない、と記されています。

アベノミクス(安倍政権における経済戦略)のもとにおけるコーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コード、そしてモニタリング・モデルによる取締役会の在り方を理解するうえに不可欠なのがROE(自己資本利益率)というキーワードであることは間違いないと思います。企業価値の測定において、ROEが絶対的な基準かどうかはわかりませんが、少なくとも国内・国外を問わず、株主が注目している数値であり、また成長戦略の道筋を示す伊藤レポートの中でも「最低8%以上」と具体的に数値目標が盛り込まれている以上は、株主との対話においては無視できないものと言えるでしょう。

さて、「20年ぶりにやってきたROEの時代」と言われていますが、株主との対話、取締役会における経営執行部の業績評価において、ROEをどう理解すればよいのか、その基本を理解するために本書はとても役に立ちました。いや、私自身「理解した」というのは言いすぎかもしれませんので、今後も読み返すことでしょうし、すくなくとも「ROEに関心を持てる」ようになりました。

勝てるROE投資術(広木隆著 日本経済新聞出版社 1,400円)

本日現在、アマゾンの株式投資部門の「ランキング1位」なので、ご紹介するまでもないのですが、著者の広木氏はマネックス証券のチーフ・ストラテジストの方です。タイトルを一読しますと、「ROEを学べば株式投資でガッポリ儲けられる・・・」といった趣旨で出版されているように思われます(たぶん)。ただ、私の個人的意見ですが、これほど題名と中身が違う本もめずらしいのではないかと感じました。それは「高いROEの会社の株を買ってはいけない」といった説明や、あたりまえのことですが、絶対に儲かるための企業価値指標などありえない、といった説明からもわかります。ともかく自分の手で計算して、企業業績と市場評価の変化を常に追いかけていることが大切とされていて、決して本書を読めばすぐに儲かる・・・とは書いていません。「ROEの死角」についても二章を設けて丁寧に解説されています。要はROEを学んだからといって、ガッポリ儲かる・・・というのは甘いということでしょうね(当たり前といえば当たり前ですが・・・)。

ただ、本書は様々な運用機関でファンドマネージャーとして活躍されてこられた広木氏が、機関投資家の立場からROEを読者に真剣に理解してもらうために熱く語っておられるところが参考になり、十分元を取れる内容です。頭では勉強していても「では実際にROEは『目的ある対話』の中で、どのように共通言語として活用されるのか」というところが、本書によってかなり明快になってきます。資本コストとの関係についても解説されていますので、長期保有を目的とした機関投資家との対話というものもぼんやりとイメージが湧いてきます。

「本当はもっと正確に書きたいのだろうな」と拝察しますが、専門家たるファンドマネージャーとして、あえて一般の方に向けて「通訳」の役割に徹しているところがすばらしい。いまのROEの注目度からすれば「多くの経営者であれば、このように動くであろう」といった行動指標になるはずですから、資本政策にせよ、M&Aを含めた投資判断にせよ、経営者の行う判断の経済的合理性を理解するにあたって、ROEを理解することが今後役に立つだろうな、と思います。

経営者の不正や善管注意義務違反を問われかねない経営判断など、どれもいきなり社外取締役にはわかるはずもなく、ただ、「これは経済的合理性があるといえるかどうか」という視点から予兆を発見しなければなりません。これはオリンパス社の損失飛ばし・飛ばし解消スキーム事件から得た教訓です。また、実体的正義よりも手続的正義が重視される会社訴訟においても、経営者がリーガルリスクを回避するためには経済的合理性ある手続きを踏んだことを示す必要があります。ということで、バリュエーションの理解に乏しい私のような社外役員でも、リーガルリスクを低減させるための知恵を学ぶにはとても役に立つ一冊でした。

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2014年11月27日 (木)

コーポレートガバナンス改革と結び付く今後の内部通報制度

11月25日、会社法の改正に伴う会社法施行規則、会社計算規則の改正案(パブコメ案)が公表され、(今後修正の予定がありますが)ほぼ全容が明らかになりました。また、金融庁、東証が事務局となっているコーポレートガバナンス・コード有識者会議により策定される「ガバナンスコードのたたき台」の骨子も明らかになりました(金融庁HPで閲覧できます)。それぞれ議論すべき問題点はたくさんありますが、いずれにおいても、企業不祥事の早期発見等を目的とした内部通報制度の充実について条文(条項)に明記されることになり、企業、とりわけ「特定監査役会設置会社」※クラスの会社においては、今後の対応が喫緊の課題になりそうです。

※・・・会社法上の公開会社かつ大会社である監査役会設置会社のうち、金商法上の有価証券報告書提出会社であるもの(改正会社法施行規則案74条の2、第2項参照)

たとえば取締役会設置会社の場合、業務の適正を確保するための体制整備のために、会社法施行規則案100条3項4号では、従業員が監査役に報告をする体制、子会社従業員が親会社監査役に報告をするための体制整備が求められており、同5号では、従業員が、このような報告を行ったことによって不利益な取り扱いを受けないことを確保するための体制整備が求められています。4号では、従業員から報告を受けた別の従業員の報告ルートの確保も求められているので、まさに内部通報制度の充実が会社法上も求められています。これは企業グループとしても同様です(企業集団内部統制の一環として、親会社が子会社従業員より通報を受けるシステムの構築等)。

ここで特記すべきは、監査役の職務執行の実効性確保のために報告体制の整備が求められている点です。これまでも内部通報制度は各社において整備されてきたと思いますが、従業員の不正は、通報制度によって早期発見することができても、経営陣の不正は握りつぶされてしまって実効性に限界があると言われています。私も常々「ヘルプラインはガバナンスと併せて議論しなければ実効性は向上しない」と申し上げてきましたが、ここでようやく監査役への報告体制の整備・・・という形で整備が求められるレベルになりました。

一方、ガバナンス・コード有識者会議におけるたたき台では「第2章 株主以外のステークホルダーとの円滑適切な協働」において、「基本原則2-5 内部通報」として、以下のように条文化されています(たたき台なので、もちろん修正される可能性はあります)。

上場会社は、その従業員等が不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示等に関する情報や真摯な疑念を伝えことができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用できるよう内部通報できる適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現にする責務を負うともに、その運用状況を監督すべきである。(基本原則)
上場会社は、 内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また情報提供者の秘匿と不利益取扱禁止に関する規律を整備すべきである。(補充原則)

もうかれこれ10年近くブログを続けていますと、狭い範囲ではありますがそこそこブログの知名度も上がるため、新聞で大きく報じられた不祥事をマスコミに情報提供した社員の方々から、いろいろとご相談を受けることがあります。新聞では「内部告発があった」とは書かれていませんが、「発端はやっぱり内部告発だったのか。自社に内部通報はできなかったんだなぁ」と悔しい思いをすることもあります。もし内部通報制度が機能していれば、すくなくとも「二次不祥事」は防止することができたのではないか、と思います。企業の持続的成長のためには理念と実業のバランスが求められます。不祥事は起こしても、企業理念にだけは傷をつけぬよう、このような原則が盛り込まれたはずです。

Grayzoon009おかげさまで、11月16日の日経新聞「書評」にて取り上げていただきました「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」ですが、本書の中でも一章を設けて「内部通報制度が経営者を救う」ことを示しています。とりわけ、従来と異なり、内部通報制度を取り巻く経営環境が大きいく変わっていることを4点、指摘させていただいています。一次不祥事を早期に発見し、二次不祥事を未然に防止する・・・、内部通報制度の適切な運用は、今後の企業価値向上にとって不可欠だと思います。不幸にしてリコールは発生させてしまっても、決してリコール隠しは起こさないことがブランドイメージを維持するためには必要です。

内部通報制度は、従来の「不正リスク管理」の一手法から、リスクをとりながらも前に進むための「攻めのガバナンス」の一手法へと変わりつつある、というのが実感です。また非財務情報の見える化、企業価値向上との因果関係の説明義務といったことが求められる時代となれば、ますます運用状況のチェックが求められることになろうかと。

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2014年11月25日 (火)

タカタ社のエアバックリコールと内部告発奨励法の活用

自動車部品大手のタカタ社がリコール問題で厳しい状況に置かれています。11月20日の朝日新聞ニュースによると、アメリカの上院議員2名が、自動車部品の欠陥に関する内部告発について高額の報奨金を付与するための法案を提出した、とのこと。当局が把握していなかった事実について内部告発を行った者に対して、企業に課された罰金の最大30%にあたる報奨金を付与する、というものだそうです。

「当局が把握していなかった事実」とは、自動車の欠陥はもちろん、法律違反や報告義務違反などの債務不履行の事実も含む、ということなので、これは重大事故を発生させた「製品の不具合」のような一次不祥事だけでなく、そのような事故の調査を怠った、調査結果を報告しなかった、不都合な証拠を廃棄した、といったような二次不祥事もあぶりだそう・・・という意図があります。「手続的正義」に厳しいアメリカらしい法案ともいえるかもしれません。

11月6日のニューヨークタイムズの記事によると、このたびのタカタ社のエアバックリコール事件について、同社の匿名社員2名からの内部告発があり、2004年の時点でエアバック事故の調査結果が出ていたが、不都合な調査結果を同社が報告せず、調査部品も黙って廃棄した、と報じられていました(なお、先日の公聴会ではタカタ社の幹部の方は否定していました)。アメリカではGM(ゼネラル・モータース)の点火スイッチの欠陥問題も発生しましたが、おそらく、このタカタ社のような事例において、当局側に有利な証言が得られるよう、報奨金を付与して告発を奨励しようとしたものと思われます。

以前、拙ブログでも「内部告発奨励制度」について取り上げたことがありまして(たとえばこちらのエントリー)、2011年に前橋市が内部通報奨励制度を採用しようとしましたが、「通報者に税金から報奨を出すというのは違和感がある」との市民の声が強かったため、結局採用されぬままに立ち消えになった、ということがありました。またフランスのように、個人のプライバシーが厳格に尊重され、内部告発の奨励には否定的な国も存在します。そこで、こういった内部告発奨励制度は日本の社会では受け容れられるのか・・・といった疑問も湧きますが、しかしこれ以上の国民への被害拡大を防止するためには、徹底的な原因究明が必要、という場面では、こういった内部告発奨励制度が必要な場面もあるかもしれません。「高額の報奨金がもらえるのならば、実名を出し、当局側の証人になってもかまわない。それが多くの国民の安全を守ることにも寄与するのだから・・・」といったインセンティブが働く余地はありそうです。

一般的に考えても、「製品の不具合」について、これを公表することにより「補償可能な程度の事業リスク」と把握できれば、コンプライアンス経営の時代、企業は躊躇なく製品の不具合を公表するでしょう。しかし、自社の事業リスクがどれほどになるのか把握できないほどのリスクとなると、いくら「コンプライアンス経営は重要」と唱えている人でも、「間違っていたら社会に重大な影響を及ぼすから、もう少し詳しく調査してみよう」などと理由をつけて、公表を遅らせたり、不都合な真実は隠したうえで報告したりするのではないでしょうか。ましてや品質保証部門や製造部門の責任者となると、たとえ製品の不具合の原因が自分の責任ではないとしても、他人の不正について「見て見ぬふり」をすることが組織としての在り方として正しいと考えるところではないかと(もちろん、これは平時の認識からではなく、有事に至った心境を前提として、ということです)。

これを「組織の構造的欠陥」というのであれば、そのような欠陥を事後的に責めることよりも、むしろ「おかしい」と感じる人が声を出すためのインセンティブを付与することのほうが、国民の生命、身体、人格、そして財産の安全を未然に防止するためには効果的ではないでしょうか。独禁法の世界だけでなく、景表法の世界でもリニエンシー(自主申告制度)が採用されるようになった日本でも、不正をあぶり出すために報奨制度を活用するという思想も決して間違いとはいえないと思われます。

ただ、内部告発奨励制度は、このように国民に迫った喫緊の危険を回避するためには効果的かもしれませんが、内部通報制度の趣旨とは抵触する場面もありうることには注意が必要です。なんといっても第三者への情報提供を国が奨励する、ということになりますので、企業への情報提供を第一に求める内部通報が軽視されるおそれがありますし、企業秘密等の第三者提供の違法性を阻却する理由にもなりえます。現在の公益通報者保護法の制度にも変更が必要となります。事故情報の共有に関する消費者安全法の運用、消費者教育に関する制度の検討などを通じて、自己責任を負える国民、負えない社会的弱者それぞれの危険を、誰がどのように回避する責任があるのか、議論を重ねる中で「内部告発奨励法」の仕組みを考えるべきだと思います。

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2014年11月21日 (金)

改正景品表示法のグレーゾーン-不正競争防止法との境界線

昨日(19日)、課徴金制度を盛り込んだ景品表示法改正法案が(衆議院解散直前に)なんとか成立しました。この法案の施行はこれから1年半以内、ということだそうで、今後も様々な話題を提供してくれるものと思います。

さて、あまり世間的に話題になっていないようですが、外食事業の木曽路さんの食材偽装事件について、10月末に(松阪牛の地元である)三重県の弁護士の方が不正競争防止法違反として、法人としての木曽路さん、そして事件のあった店舗の料理長2名について大阪府警に刑事告発をされたしたことが報じられていました。木曽路さんといえば、10月15日に消費者庁より景表法違反として行政処分を受けたばかりです。おそらくこの刑事告発をされた弁護士の方は、「食材偽装により、松坂牛のブランドが大きく毀損されたのだから景表法違反など甘い!不正競争防止法違反で厳罰を与えるべきだ!」といった気持から告発をされたものと推察いたします。

刑事告発によって木曽路さんの第三者委員会の活動はどうなってしまうのだろう?・・・といった興味もありますが、実はこの告発は、景表法改正法案との関係で大きな問題提起を含んでいると考えます。たしかにメニュー偽装事件とはいえ、産地偽装に該当するものだから刑事罰が適当ではないのか?不正競争防止法2条1項13号に基づく「誤認惹起行為」に該当するものであり、同法21条2項、同22条1項によって刑事罰に値するのではないか?本件は「誤表示」ではなく悪質な行為であるから刑事罰が適当、といった考えもありうると思います。

これまでは、この景表法違反行為と不正競争防止法違反の境界線は極めて曖昧であり、明確な判断基準はないものとされてきました。なんといっても経産省が管轄としている不正競争防止法における「誤認惹起行為」には、行政処分が規定されていません(差止めや損害賠償等による民事救済と法人処罰を含む刑事罰のみ)。したがって、刑事罰適用のためには罪刑法定主義が前提となりますので、その構成要件の解釈はかなり厳格です。まず刑法の視点からは、おそらく料理の偽装というのは「商品、役務の偽装」には含まれないのではないか、といった保守的な解釈指針の運用により、摘発の枠外にあったと思います。また、刑事訴訟法の視点からは、刑事立証の容易性という配慮から、不正競争防止法上の「誤認惹起行為」を認定するためには、業者→業者といった取引を「不正競争行為」として、被害業者からの明確な証言を立件の証拠方法としています。

ところで、景表法に課徴金制度が導入されるとなりますと、消費者庁は措置命令前の調査、そして課徴金処分前のヒアリング等に基づき、偽装事件に関する事実認定のための立証活動をかなり積むことになるのではないでしょうか。とりわけ課徴金処分に企業側の主観的要件が必要とされたことから、悪質性を立証するスキルが高まることが予想されます。また、一方の企業としても、課徴金処分について、行政処分であるがゆえに、(粉飾事件と同様)争わずに早めに事件を終結させることが増えるのではないでしょうか。そうなりますと、景表法と不正競争防止法のクロスする部分において、課徴金処分の前例が積み上げられることによって不正競争防止法の要件解釈が緩くなってくることが考えられます。また、昨年の「東大阪ライスネットワーク事件」において、大阪府警、大阪地検は、不正競争防止法違反として、業者→消費者の取引を「不正競争行為」と捉えて、米穀販売会社の経営者を逮捕、起訴することにも踏み切っています。こうなりますと、ますます景表法と不正競争防止法の選択適用、さらには重畳適用の余地は広まってくることが予想されます。

消費者庁としては、経産省や検察庁、各都道府県の行政機関との連携により、消費者に対する商品表示上の偽装について課徴金処分とするのか、それとも(不正競争防止法により)刑事罰を適用すべきか、そのあたりの選択の幅が広がり、まさに(課徴金処分と刑事告発の選択において)粉飾事件やインサイダー事件をさばく証券取引等監視委員会と同様の権限を持つ可能性もあるのではないかと(もちろん、そうなるためには人材の育成も不可欠となりますが)。いずれにしましても、景表法に課徴金制度が認められる・・・ということは、景表法の枠内だけで考えていても企業のリスク管理としては不十分です。他の法令との関連性にも配慮しなければならないと考えています。まず第1弾は不正競争防止法との関係でしたが、また近いうちに第2弾について考えてみたいと思います。

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2014年11月19日 (水)

経営者関与による不適切会計処理未遂は公表する必要があるか?

ごく一部のマニアックな方々の間ではすでに話題となっております東証マザーズ上場「みんなのウェディング」社の不適切会計処理問題ですが、実態を伴わない売上が(ブライダル部門の売上として)計上されていたことについて、同社社長の関与が社内調査委員会の調査で判明した、とリリースされています(リリースはこちらです)。社員の親族の披露宴が行われていないにもかかわらず、行われたようにして、その売上計上分については社長の私財から入金されていた、というもの。社長及び担当取締役らとしては、業績未達を少しでもよく見せようとの思いから及んだ行為だそうです。

会社側は、「投資家向けの財務報告では訂正済みなので、これは粉飾決算や会計不正事件ではない」と反論されていますが(反論のリリースはこちら)、売上が伸びているように財務報告を行うつもりだった、という意味においては不適切な会計処理が社内で行われたことは事実でしょうし、その責任をとって代表取締役社長さんは、今年12月25日に辞任されるそうです。ちなみに「12月25日」といえば、1年前の12月25日、不適切な会計処理事件で第三者委員会が設置された小売業のマツヤさんの件で、監査法人さんに内部告発文書が届いた日です。このマツヤさんの事件も、過大な売上計上分を経営者らが自腹で補てんしていたことが印象的でした。私財を投入してでも業績を良く見せたい・・・という経営者の気持ちを察すると、これらの事件はなんとも切ない気持になります。

この「みんなのウェディング」社のケースでは、監査法人さんが「不正の疑惑」を発見し、同社の監査役会に調査依頼、その後監査役3名と社外取締役1名(いずれも非業務執行役員)で構成される社内調査委員会が設立され、この委員会が代表取締役社長による「穴埋め」の事実を確定したようです。他の業務執行取締役や幹部社員等も関与していたそうなので、不適切会計処理を早期に発見するためには、やはり非業務執行役員の存在は大きい、と感じます。

さて、ここからは私の個人的な意見であるため、関係者の方々にご迷惑がかからないように配慮したいと思いますが、どうもこの事例については素朴な疑問が湧いてきます。会社側が反論しておられるように、財務報告には訂正済みの数字が記載されているのですから、決算訂正の必要もなく、したがって監査法人から適正意見がもらえなかった、というわけでもありません。だとすると、実際にも提携先の結婚式場からの広告料等は増えていて、同社の業績は好調のようですから、(やや不謹慎ながら)社内における不適切な会計処理の事実については公表せずに、そのまま何もなかったかのように振舞う・・・という選択肢はなかったのでしょうか?(いえ、決して「公表しなければよかったのに」といった意見を持っているわけではなく、可能性のひとつとして考えなかったのだろうか、といった感想でございます)

これは本当に私の単なる推測ですので、真実は全く異なるかもしれませんが、監査法人が実態を伴わない売上計上の疑惑を発見した、とありますが、(上記マツヤさんの事例のように)監査法人に内部告発が届いた、という可能性は考えられないでしょうか。社員が関与していた事例でもあり、また内部告発が存在した場合には、そのまま公表しないでいると第三者(たとえば行政当局や大株主)から指摘される事態に発展してしまいます。

つぎに非業務執行役員の方々が、「いくら才覚のある経営者であったとしても、このコンプライアンス経営の時代に、これは公表しないわけにはいかない」と進言して、最終的には社長辞任を求めた、という可能性も考えられます。こういった場合は、同社のガバナンスが効いて、今後の大きな会計不正リスクを早期に低減させた、ということになりそうです。いわば会計監査人と監査役との連携が奏功し、かつ非業務執行役員によるモニタリング機能が効いた典型例かと思います。まさに「ダスキン株主代表訴訟の教訓」が活かされた例といえそうです。

最後に、取締役全員の総意により、「社外役員から指摘されるまでもなく、この事例は不公表などありえない」との気持ちから公表したとなれば、これは同社の企業風土としては立派なものだと思います。まさに、経営母体であったDeNAの南場智子氏の経営精神を受け継いだものといっても良いのではないでしょうか(ただ、不適切会計処理に関与していた取締役さんがおられたので、どうも可能性としては低いように思えますが・・・・・)。

KPMG-FASさんが今月7日に公表しておられる「日本企業の不正に関する実態調査2014」によりますと、経営者が関与する会計不正事件の発覚要因については、内部統制よりも圧倒的に内部告発等の通報によるものが多いとされています。もちろん、不正リスク対応基準が施行され、監査法人さんの職業的懐疑心の保持、発揮がモノを言ったケースかもしれませんが、(本件をあえて公表した、という事実を考えますと)本件に内部告発はなかったのかどうか、そのあたりについて事実を知りたいところです。

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2014年11月17日 (月)

改正景品表示法ガイドラインの公表と企業の内部統制への取り組み

先週火曜日(11月11日)、消費者庁主催シンポにて、弊職が基調講演をさせていただきましたが、その際、消費者庁の方からも少しだけ説明がなされていたとおり、金曜日(11月14日)に不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の規定に基づく「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針の成案が公表されました。

事業者が商品・サービスの不適切な表示等により、国民の生命、身体、財産に危害を加えることがないよう、未然防止のための内部統制システムを構築しなければならないことが景表法7条2項によって規定されていますが、いよいよ12月1日から本規定が施行されることになるため、内部統制システムの構築のためのガイドラインが公表されたことになります。この7条2項ガイドラインの説明会が本日の東京を皮切りに、全国で開催されますが(私も12月10日の大阪会場を申し込んでいます)、すでに東京は全4回満席、大阪、愛知も11月分は満席ということで、その関心の高さがうかがえます。

昨年9月2日のエントリー「内部統制への関心が再び高まる時代が到来」でも述べましたが、企業行動への規制の緩和、スリム行政(小さな政府化)が進む中で、効率的な行政規制を推進するためには企業の内部統制システム構築へのインセンティブを設定していくことが当然に必要となりますので、このような手法は、消費者庁だけでなく、今後は各行政機関でも多用されることになるかと思います。

さらに、本日、参議院の消費者問題特別委員会において、課徴金制度を盛り込んだ景表法改正法案が審議されますので、衆議院解散前に同法案が参議院の本会議でも可決される可能性があります。そうなりますと、上記ガイドラインでも一部触れているように、法令違反の未然防止(事前規制対応)のための内部統制システムだけでなく、不適切表示の早期発見や危機対応(たとえば自主申告や自主返金)といった事後規制対応の内部統制システムの構築も喫緊の課題となります。事業者の方々にとっては、ますます改正景表法7条対策が求められることになりそうですね。

いずれにしましても、この改正景表法7条による表示等の適正を確保するための内部統制を効率的・効果的に構築するためには、いくつかの重要なポイントがありますので(たとえば景表法だけでなく、今後改正が見込まれる別の法律との関係にも留意する等)、また追って当ブログでも個人的な意見を交えながら(ビジネス法務の視点から)解説をしていきたいと思っています。景表法は消費者法であると同時に、ビジネス法でもある、ということを肝に銘じておいがほうがよろしいかと。

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2014年11月12日 (水)

社外取締役・社外監査役研修の必要性を痛感させる判決-シャルレ株主代表訴訟事件

(11月12日午前、若干修正いたしました。)

最近の社外取締役ネタといえば、企業価値の向上(企業の持続的成長)に資するか、「株主との対話」においてどういった意義があるか、といった「役割論」に関する議論が中心ですが、かりに元経営者や現経営者の方が、他社の社外取締役に就任するのであれば、「真剣に社外役員法務研修を受けておいたほうがいいのではないか?」と思ってしまうような判決が出ています。これから社外監査役に就任される方はセイクレスト事件判決、そして社外取締役に就任される方は、このシャルレ事件判決をよく読んでから就任したほうがよろしいのではないかと。また、最近話題の社外役員特約のある役員賠償責任保険についても検討しておくべきと思います。

すでに拙ブログでもご紹介しているシャルレ株主代表訴訟判決(神戸地裁)の判決全文が11日に朝日「法と経済のジャーナル」有償版でリリースされており、ようやく全文を読むことができました。著名ブログや判決雑誌等で、この事件の判決要旨は紹介されていましたが、(私が要旨を読むときに見落としていたのかもしれませんが)、判決全文を読んで驚きました。シャルレの事件当時の社外取締役3名の行動に、会社法上の善管注意義務違反(情報開示義務違反)が認められていたのですね。一般投資家に誤解を招くような情報開示について、これを容認していたことが、社外取締役らの情報開示義務違反とされています。

新聞報道でも「社外取締役3名の責任は認められなかった」とありましたので、私はてっきり善管注意義務違反の主張自体が否定されていたものと思っていました。しかし判決を読むと、原告株主が主張していた(社外取締役らの)善管注意義務違反が認められ、その代り、損害との間の相当因果関係は認められないとして責任が否定されていたようです。このパターンは、有名な大和銀行株主代表訴訟事件判決で、ニューヨーク支店に往査に出かけた監査役さんの善管注意義務違反が認められつつも、損害との間に因果関係が認められない(したがって法的責任は否定)とされたのと同じですね。

シャルレの神戸地裁の判決について、原告・被告双方から控訴がなされたこと、また原告株主には「株主の権利弁護団」の弁護士の方々が支援をしていることからみても、今後もガチンコ勝負の様相であり、社外取締役の法的責任に関する争点について、控訴審、最高裁の新たな判断が出てくる可能性があります。アーバンコーポレーション株主損害賠償請求事件判決のように、役員の金商法上の責任が認められる・・・ということでしたらまだしも、金商法上の開示責任が及ばない開示情報(ここでは賛同意見表明)に会社法上の善管注意義務違反が認められる、ということについては、社外取締役や社外監査役の実務に影響を及ぼしかねない判決です。著名な学者さんや法律実務家の方による判例評釈で、この判決がどのように受け止められるのか、解説が待たれるところです。MBO固有の事情の下での情報開示義務、と限定してよいのかどうか、レックスHD事件で明らかにされた取締役の情報開示義務とどう異なるのか、もっと広く、社外取締役の情報開示義務について妥当するのか、という点についての解説を期待します。私もまだざっと一読したにすぎませんので、もう少し、事案の特殊性などを含めて検討してみたいと思っています。

ともかく、文書提出命令に関するリスクを含め、このような判決が出る時代となれば、現役の社外役員の皆様、これから社外役員に就任される皆様に向けて、大手法律事務所の先生などが中心になって「社外役員研修」をされるほうがよろしいのではないでしょうか。あっでも、この判決文に登場される多くの著名法律事務所(笑)の先生方は、当事者なので無理かもしれませんが(^^;

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2014年11月11日 (火)

会計基準の解釈に経営判断原則類似の法理は適用されるか?

Img_0047青山学院大学大学院会計プロフェッション研究センターが企画編集されている「Aoyama Accounting Review」の第4号(10月15日発売)を入手いたしました。今回の特集は「法と会計:会計判断は法制度を超えられるか?」といった刺激的な内容です。この週末、ほぼすべての論稿を読みました。

まずはBook Reviewのコーナーで拙著「法の世界からみた会計監査」について、過分な書評を頂戴した青山学院大学の吉村教授に感謝申し上げます。「改訂版が出ることを期待する」とのことですが、この本はかなり気合を入れないと書けませんので(笑)、また気力がみなぎった時期に検討させていただきます。

さて本論の特集内容ですが特集見出しをテーマとする八田進二教授と松尾直彦弁護士(西村あさひ)との対談、「裁判所は会計基準をどうみているのか」と題する弥永真生教授の論稿、「会計監査人の監査の方法と結果の相当性と監査役」と題する中村直人弁護士の論稿、「会計基準の法規範上の位置と基準開発」と題する西川郁生教授の論稿、「会計基準等の法規範性と会計実務家のリーガルマインド」と題する尾崎安央教授の論稿等、たいへん興味深いものばかりです。もし企業会計法にご興味がおありでしたら、ぜひとも入手され、ご一読をお勧めいたします。

ところで各論稿を拝読させていただき、三洋電機損害賠償請求事件判決(大阪地裁判決)への評価が高い、ということに気付きました。同判決は、以前、私が日本公認会計士協会近畿会・大阪弁護士会共催のシンポを企画したときも会計士サイドから「裁判所が会計処理の妥当性について過度に踏み込んでいない」として高い評価が得られていました。この三洋電機判決をもとに、①会計基準の選択、会計処理の方法等、会計基準の解釈には高い専門性、技術性が認められ、また②見積りや将来予測といった、経営者でなければ判断が容易ではない事情についても検討を要することから、経営者の判断の合理性を検討するにあたっては、経営判断原則類似の状況が認められる、という見解が主流のようです。これは会計専門職、法律家いずれにおいても意見がほぼ一致しているものと読めました。

L13687ただ、私は拙著「不正リスク管理・有事対応~経営戦略に活かすリスクマネジメント」(有斐閣 2014年10月)の275頁以下(経営者の法的責任と「経営判断原則」~会計処理の決定)にて述べているとおり、経営者の会計基準の解釈に司法判断が及ぶかどうか、という点において、経営判断原則類似の法理が適用されるかどうかは少し別個の検討が必要ではないかと考えています。

詳しくは述べませんが(上記の「不正リスク・・・」も、経営者向けの本なので、それほど詳細に解説しているわけではありませんが)、①経営者の会計基準の選択、会計処理方針の決定は、一般の経営判断原則適用場面と異なり、構造的に利益相反状況にあること(自分に都合のよい会計基準の解釈を行う余地は十分にある)、②会計基準の解釈の妥当性は会計監査人という第三者によって審査され、意見表明がなされていること(合理性については経営者だけでなく、監査法人からも説明することができること)、③上場会社の場合には、内部統制報告制度が施行されており、財務報告の信頼性が担保されていることは経営者が保証していること、つまり、過年度決算を訂正して、内部統制も有効ではなかったと経営者が自認するのであれば(これまで間違いなく訂正されるのが実務慣行です)、経営者の会計基準の解釈の合理性も認められない(少なくとも合理性があると推定されるわけではない)と考えられること、といった理由からです。

こういった理由から、たとえば保守主義、継続性原則、単一性原則といった会計の一般原則に反する疑いのある会計基準の選択、会計処理方針が用いられているような場合には、経営者による合理的な説明が求められるのではないかと。もちろん、その司法判断のために会計士、会計学者の方々の意見書が活用されることも考えられます。いずれにしましても、「会計はむずかしい専門性の高い領域だから」「経営者による見積りや将来予測を伴う会計処理についてはビジネスの世界の判断だから」といった理由だけで、経営者による会計基準解釈の裁量の幅を広く認める・・・という考え方には、私個人としては若干違和感を覚えるところです。

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2014年11月10日 (月)

経産省「営業秘密管理指針」は裁判所をどこまで拘束するか

経産省「営業秘密の保護・活用に関する小委員会」が検討を進めている営業秘密管理指針が改定されるようです。全面改定案が経産省の小委員会資料として公表されており、マスコミでも公表案の中身について報じられています(たとえば北海道新聞ニュースはこちらです)。

10月31日の日経新聞の記事もそうですが、今回の管理指針の改定によって、企業の営業秘密として保護される範囲が広くなり、たとえば書類に「マル秘」と書いていたり、金庫の中に書類を保管していれば「秘密管理要件」を満たすことになる、とのこと。どこのマスコミの記事を読んでも、この営業秘密管理指針を改定すれば営業秘密としての保護範囲が広まる(要件が緩やかになる)ように思えます。

しかし、営業秘密保護の根拠法令は不正競争防止法であり、これを解釈する権限があるのは裁判所であって行政当局ではありません。書類に「マル秘」と書いていたとしても、それを根拠に損害賠償や侵害差止が裁判所でも容認されるかどうかはわかりません。このあたりはマスコミの記事は若干誤解を招くのではないでしょうか(あくまでも行政としての指針であることは、管理指針案の冒頭でも注意的に書かれています)。

たしかに経済産業省・企業価値委員会が過去に買収防衛策ガイドライン、MBOガイドライン等の会社法解釈指針を公表し、裁判でもこれが斟酌された実績はあります。また、過去の営業秘密管理指針が斟酌された例もあるようです。しかし、訴訟で訴えられる側が防御のために指針を持ち出す場合と、訴えるほうが攻撃(要件該当性の積極的立証)のために指針を持ち出すのとでは、裁判所への影響度が全く異なるものと思います。これまで裁判所が指針を斟酌したのは、いずれも被告側が要件該当性を否定するための根拠のひとつとして引用したもののようです。

個別具体的な紛争の解決のために法令を解釈する司法判断としては、個別事案の解決に必要な範囲でのみ法解釈を行えば足りると思われますので、たとえば「秘密管理要件」の判断にあたっても、具体的な紛争の実態から「アクセス制限」と「認識可能性」の判断基準を使い分け、これを調整弁として活用してきたものと思います。裁判所はめったなことでないと、紛争解決のための抽象的な判断基準を定立しないと思いますので、この営業秘密管理指針が、法規範性を持つことはないものと考えています。

営業秘密の保護要件については、裁判所でも、これまで緩和されたり、厳格になったりと、その傾向には変遷がみられますので、この営業秘密管理指針についても、最近の裁判例を吟味したうえで、現時点における裁判判例の到達点を確認する、という意味に捉えておくべきではないでしょうか。日本の「稼ぐ力」を伸ばすためのイノベーション改革のためには、むしろ早期に(解釈に頼るのではなく)法改正によって対処すべきだと思います。そのほうが最近の諸外国の営業秘密政策とも足並みがそろうのではないかと。

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2014年11月 7日 (金)

コーポレート・ガバナンス改革と日本監査役協会会長の交代

規模の大小を問わず、最近の上場会社では、新しい機関設計の形態である「監査等委員会設置会社」への移行を真剣に検討されているところも増えているそうですね。議決権行使助言会社の賛同表明なども後押しとなり、社外取締役選任推奨のプレッシャーの中で(監査等委員会設置会社への移行に関する)定款変更に動く会社も出てくることが予想されます。ただ、「第1号」ということになると勇気が必要ですよね。とくに監査等委員たる取締役の方々は、監査等委員としての取締役の職務を誰から教わるのでしょうか?自社の管理担当役員や法務部員から教わっても大丈夫でしょうかね?それって監査の独立性からみておかしくないですかね?うーーん、ナゾです。

そのような時代の流れの中、私も市場関係者の方からお聞きして初めて知ったのですが、40周年を迎える日本監査役協会の会長さんが、11月5日に交代されたそうです(監査役協会さんのHPでもリリースされています)。新日鉄住金の太田会長が退任され、日本証券取引所の広瀬会長(同社取締役監査委員)が就任されたことが公表されています。太田会長は3年半会長を務められたそうで、本当にお疲れ様でした。法制審議会会社法制部会の委員、金融庁のコーポレートガバナンス有識者会議のメンバーも務められ、このガバナンス改革の中心で活躍されたことが印象に残ります。「いつも出勤したら、まずあなたのブログを読むんだよ~」とおっしゃっておられたましたが、ホントにお話しやすい会長さんでした。

私も監査役協会とおつきあいをさせていただくようになって8年ほどしか経っておりませんので、歴代の会長さんをよく存じ上げている、というわけではありませんが、証券市場に関連する会社から会長さんが選出される、というのは初めてではないでしょうか。私の個人的な感覚では、監査役は会社法上の機関ですが、近時のガバナンス改革の流れとも合致しているように思います。

会社の仕組みだけでなく、仕組みが機能するための「株主との対話」が求められる時代、とくに監査役制度が外からはわかりにくい、と言われています。そこで監査役が企業価値向上にどのように影響を及ぼすのか、社外取締役や会計監査人が監査役とどう連携をとっているのか、企業自身にとって説明をしなければならない場面が増えてくるはずです。とくに国内・国外機関投資家を問わず、直近業績に関連する話題だけでなく、長期保有を前提とした企業価値向上に関わる話題についても対話の対象となってくるはずですから、監査役の「期待価値」も評価されるものと思います。

拙ブログでも何度も述べているように、監査役が株主代表訴訟や第三者損害賠償請求訴訟の被告に巻き込まれるリスクも確実に増えています。したがって、監査役が訴訟で敗訴しないための行為規範、訴訟に巻き込まれないための行為規範を勉強する必要性も高まっています。そのような時期に、市場関係者の中から会長さんが選出された、ということで、これからの日本監査役協会の活動や意見の発信に期待をしています。私もまた社外監査役に就任する日がくるかも(?)しれませんので、新たな気持ちで勉強させていたきたいと思っております(「そんなことより、このまえ体調を悪くしてキャンセルになった講演はどうするんだ?」とのお声も聞こえてきそうですが・・・・・)。

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2014年11月 6日 (木)

不祥事が企業ブランドに及ぼす「負のストーリー」

ノーベル物理学賞を受賞され、また文化勲章を受章された中村教授の関係改善の申出に対して、中村教授が勤務されていた日亜化学さん(中村さんと裁判で争っていた会社)は「深謝の言葉だけで十分」として、これを事実上受け入れませんでした。この日亜化学さんの対応については賛否両論あるようですが、事実関係を正確には知らない私はここで「どっちが正しい」といったことを申し上げるつもりはありません。ただ、日亜化学という会社が日本企業である以上、「中村さんはどうして関係改善を記者会見の場で提案したのだろう。なぜ根回しをしなかったのだろうか」と素朴な疑問が湧きます。「根回し」をしていれば、もう少しうまくいく可能性はあったのではないだろうか、と。

根回しもなく、グループ会社含め8300人もの社員を擁する企業のトップが「おお、そうでしたか。私も関係を改善したいと思っていました。過去は水に流して握手しましょう」と言えるでしょうか。そんなことをすれば、中村教授との関係は改善できたとしても、社長に後ろからいろんな弾が飛んでくるでしょうし、なによりも「共同研究がしたい」という中村教授の提案を、果たして社員が望んでいるかどうかもわかりません。日亜化学の経営トップの懐の深さというものは経営者個人の問題ですが、ここでは日亜化学という組織マネジメントの在り方が問われる場面であり、昨日の日亜化学さんのコメントが、いま組織としてなんとかギリギリ可能なコメントだったのではないでしょうか(あくまでも私個人の考えですが)。

さて、ここからが本題ですが、本日(11月5日)の日経朝刊に「アジアブランド調査」の結果が集計されており、アジア各国で日本メーカーの商品について「買いたいブランド」としての地位が相対的に低下している、と報じられていました。とくに自動車についてはアジア諸国ではやはりドイツ車(ベンツ、アウディ、BMW)のブランドイメージが突出しており、トヨタのレクサスすら「買いたい車」の第11位だそうです(でも実際には予想営業利益2兆円、ということですから売れてることは間違いないと思いますが・・・)。

Goritekinanoni私がご紹介するまでもなく、ただいま売れに売れているルディー和子氏の「合理的なのに愚かな戦略」(日本実業出版社 2014年)の中で、レクサスが高級ブランドになれない理由が、ルディ-さんの持論をもって書かれていて、たいへん納得させられます(私、ルディ-さんのことはセブン&アイホールディングスの社外監査役に就任されるまでは存じ上げませんでしたが、マーケティングの世界では著名な方だったのですね)。

とりわけ「消費者の購買選択、意識的選択は無意識のうちに準備される」というのはそのとおりだと思います。消費者は論理的に購買商品を選択しているのではなく、意識的選択は無意識のうちに準備されていると思います。このあたりは東京大学大学院准教授の池谷裕二氏の著著「ココロの盲点」(朝日出版社 2013年)120頁以下で、認知バイアスの代表例としても挙げられていて、常々脳心理学はおもしろいなぁと感じます。ルディ-さんも、レクサスにブランド価値が付与されるためには、この無意識的選択に訴えるような「ストーリー」がなければドイツ車にはかなわないのではないか、と(これはルディーさんの意見ですが)述べられています(同書138頁以下)。たしかに「なんば花月」で吉本の漫才を見に行っても、人気のタレントが登場すると、まだ漫才が始まる前から観客はみんな笑う準備をしていますよね。新人のタレントさんはえらいハンディを負ってるな・・・と感じます。

ところで、ルディ-さんの同書では、いくら人間の脳にある「報酬系」が活性化され、買いたいものを選択する意識が出てきたとしても、これを打ち消すような感情が湧いてくると選択からはずされてしまうことも記されています。商品や企業に対する悪いイメージが残っているとこの購買意欲に関わるということですが、これは企業不祥事等が代表的な例ではないかと思います。不祥事が繰り返し報じられるなかで、人間は不祥事発生企業に対する悪い感情が増幅されていき、無意識のうちに選択からはずされてしまうということもあり得るのではないでしょうか。まさに報酬系を減退させてしまうような「負のストーリー」です。

L13687拙著「不正リスク管理・有事対応~経営戦略に活かすリスクマネジメント」の107頁以下(レピュテーションリスク)でも詳しく書かせていただきましたが、誰でもわかりやすいような企業不祥事を発生させてしまうと、消費者の頭の中に当該企業の悪いイメージが刷り込まれてしまい、レピュテーションを毀損してしまいます。企業不祥事の中でストーリー性に富んでいるのは明らかに一次不祥事(たとえば社員の不正)よりも二次不祥事(たとえば組織ぐるみで社員の不正を長年放置したり隠したり、発覚して虚偽報告をすること)です。二次不祥事には、消費者や国民の利益をないがしろにしている、という企業の意思表示がはっきりと出ているところにストーリー性を感じます。だからこそ二次不祥事は経営者自らそのリスクを把握して絶対に回避しなければなりません。

不祥事を発生させても顧客がそのまま顧客でいてくださる・・・というのは、平時のブランド戦略からですが、不祥事を発生させても自浄能力を発揮する・・・というのは、負のストーリーを顧客に抱かせないという意味において経営者が心がけるべきクライシスマネジメントの一環だと思います。

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2014年11月 4日 (火)

刑事訴訟法の改正は企業法務にどのような影響を及ぼすか?

来年の法改正の予定といえば、債権法改正に関する話題が法律雑誌等で特集記事となっていますが、刑事訴訟法改正についてはあまり話題になっていないように思います。基本法の改正が同一の国会で二本通ることは、過去にあまり例がないようで、もうすこし遅くなるのかもしれませんが、紆余曲折を重ねて9月18日に法制審議会「新時代の刑事司法制度要綱・特別部会答申」がリリースされており、この刑訴法改正に関する企業法務への影響はかなり大きいものと思われます(朝日「法と経済のジャーナル」で西村あさひ法律事務所の弁護士の方も「企業実務への影響は大きい」と述べておられますね)。

独禁法違反、金商法違反事件にも司法取引(捜査・公判協力型協議・合意制度)の適用がある、ということですし、今後は適用対象となる経済犯罪(財政経済関係犯罪)が法令によって規定されるので、不正リスク管理という面においては気になるところです。組織ぐるみの談合や贈収賄、脱税、有価証券報告書虚偽記載といった事例では、部下の方々が「上司の不正を供述すれば免責」となるわけですから、とりあえず経営トップの方の訴追リスクは高まることになるでしょうね。他企業の関係者の不正を供述することも免責の対象となりますので、同業他社の不正といえども油断は禁物ですね。

ただ、法人処罰が免責されるかどうか、という点は(今のところ)明らかにされていないので、内部統制という面ではもう少し検討の余地がありそうです。あと、重大な医療事故や航空機事故等、業務上過失致死傷事件の真相解明に、刑事免責制度がとのように適用されるのか…という点にも関心がありますが、これもあまり論じられていないようです。重大事故の真相解明のために、事故調査委員会が調査を行うわけですが、黙秘権の壁に阻まれて、なかなか真相が究明できないわけでして、こういった刑事免責制度をもって供述拒否権を取り除き、再発防止のための施策に役立てる、ということはとても大切なことだと思いますが、いかがなものでしょうか。

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