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2014年11月25日 (火)

タカタ社のエアバックリコールと内部告発奨励法の活用

自動車部品大手のタカタ社がリコール問題で厳しい状況に置かれています。11月20日の朝日新聞ニュースによると、アメリカの上院議員2名が、自動車部品の欠陥に関する内部告発について高額の報奨金を付与するための法案を提出した、とのこと。当局が把握していなかった事実について内部告発を行った者に対して、企業に課された罰金の最大30%にあたる報奨金を付与する、というものだそうです。

「当局が把握していなかった事実」とは、自動車の欠陥はもちろん、法律違反や報告義務違反などの債務不履行の事実も含む、ということなので、これは重大事故を発生させた「製品の不具合」のような一次不祥事だけでなく、そのような事故の調査を怠った、調査結果を報告しなかった、不都合な証拠を廃棄した、といったような二次不祥事もあぶりだそう・・・という意図があります。「手続的正義」に厳しいアメリカらしい法案ともいえるかもしれません。

11月6日のニューヨークタイムズの記事によると、このたびのタカタ社のエアバックリコール事件について、同社の匿名社員2名からの内部告発があり、2004年の時点でエアバック事故の調査結果が出ていたが、不都合な調査結果を同社が報告せず、調査部品も黙って廃棄した、と報じられていました(なお、先日の公聴会ではタカタ社の幹部の方は否定していました)。アメリカではGM(ゼネラル・モータース)の点火スイッチの欠陥問題も発生しましたが、おそらく、このタカタ社のような事例において、当局側に有利な証言が得られるよう、報奨金を付与して告発を奨励しようとしたものと思われます。

以前、拙ブログでも「内部告発奨励制度」について取り上げたことがありまして(たとえばこちらのエントリー)、2011年に前橋市が内部通報奨励制度を採用しようとしましたが、「通報者に税金から報奨を出すというのは違和感がある」との市民の声が強かったため、結局採用されぬままに立ち消えになった、ということがありました。またフランスのように、個人のプライバシーが厳格に尊重され、内部告発の奨励には否定的な国も存在します。そこで、こういった内部告発奨励制度は日本の社会では受け容れられるのか・・・といった疑問も湧きますが、しかしこれ以上の国民への被害拡大を防止するためには、徹底的な原因究明が必要、という場面では、こういった内部告発奨励制度が必要な場面もあるかもしれません。「高額の報奨金がもらえるのならば、実名を出し、当局側の証人になってもかまわない。それが多くの国民の安全を守ることにも寄与するのだから・・・」といったインセンティブが働く余地はありそうです。

一般的に考えても、「製品の不具合」について、これを公表することにより「補償可能な程度の事業リスク」と把握できれば、コンプライアンス経営の時代、企業は躊躇なく製品の不具合を公表するでしょう。しかし、自社の事業リスクがどれほどになるのか把握できないほどのリスクとなると、いくら「コンプライアンス経営は重要」と唱えている人でも、「間違っていたら社会に重大な影響を及ぼすから、もう少し詳しく調査してみよう」などと理由をつけて、公表を遅らせたり、不都合な真実は隠したうえで報告したりするのではないでしょうか。ましてや品質保証部門や製造部門の責任者となると、たとえ製品の不具合の原因が自分の責任ではないとしても、他人の不正について「見て見ぬふり」をすることが組織としての在り方として正しいと考えるところではないかと(もちろん、これは平時の認識からではなく、有事に至った心境を前提として、ということです)。

これを「組織の構造的欠陥」というのであれば、そのような欠陥を事後的に責めることよりも、むしろ「おかしい」と感じる人が声を出すためのインセンティブを付与することのほうが、国民の生命、身体、人格、そして財産の安全を未然に防止するためには効果的ではないでしょうか。独禁法の世界だけでなく、景表法の世界でもリニエンシー(自主申告制度)が採用されるようになった日本でも、不正をあぶり出すために報奨制度を活用するという思想も決して間違いとはいえないと思われます。

ただ、内部告発奨励制度は、このように国民に迫った喫緊の危険を回避するためには効果的かもしれませんが、内部通報制度の趣旨とは抵触する場面もありうることには注意が必要です。なんといっても第三者への情報提供を国が奨励する、ということになりますので、企業への情報提供を第一に求める内部通報が軽視されるおそれがありますし、企業秘密等の第三者提供の違法性を阻却する理由にもなりえます。現在の公益通報者保護法の制度にも変更が必要となります。事故情報の共有に関する消費者安全法の運用、消費者教育に関する制度の検討などを通じて、自己責任を負える国民、負えない社会的弱者それぞれの危険を、誰がどのように回避する責任があるのか、議論を重ねる中で「内部告発奨励法」の仕組みを考えるべきだと思います。

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