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2014年11月12日 (水)

社外取締役・社外監査役研修の必要性を痛感させる判決-シャルレ株主代表訴訟事件

(11月12日午前、若干修正いたしました。)

最近の社外取締役ネタといえば、企業価値の向上(企業の持続的成長)に資するか、「株主との対話」においてどういった意義があるか、といった「役割論」に関する議論が中心ですが、かりに元経営者や現経営者の方が、他社の社外取締役に就任するのであれば、「真剣に社外役員法務研修を受けておいたほうがいいのではないか?」と思ってしまうような判決が出ています。これから社外監査役に就任される方はセイクレスト事件判決、そして社外取締役に就任される方は、このシャルレ事件判決をよく読んでから就任したほうがよろしいのではないかと。また、最近話題の社外役員特約のある役員賠償責任保険についても検討しておくべきと思います。

すでに拙ブログでもご紹介しているシャルレ株主代表訴訟判決(神戸地裁)の判決全文が11日に朝日「法と経済のジャーナル」有償版でリリースされており、ようやく全文を読むことができました。著名ブログや判決雑誌等で、この事件の判決要旨は紹介されていましたが、(私が要旨を読むときに見落としていたのかもしれませんが)、判決全文を読んで驚きました。シャルレの事件当時の社外取締役3名の行動に、会社法上の善管注意義務違反(情報開示義務違反)が認められていたのですね。一般投資家に誤解を招くような情報開示について、これを容認していたことが、社外取締役らの情報開示義務違反とされています。

新聞報道でも「社外取締役3名の責任は認められなかった」とありましたので、私はてっきり善管注意義務違反の主張自体が否定されていたものと思っていました。しかし判決を読むと、原告株主が主張していた(社外取締役らの)善管注意義務違反が認められ、その代り、損害との間の相当因果関係は認められないとして責任が否定されていたようです。このパターンは、有名な大和銀行株主代表訴訟事件判決で、ニューヨーク支店に往査に出かけた監査役さんの善管注意義務違反が認められつつも、損害との間に因果関係が認められない(したがって法的責任は否定)とされたのと同じですね。

シャルレの神戸地裁の判決について、原告・被告双方から控訴がなされたこと、また原告株主には「株主の権利弁護団」の弁護士の方々が支援をしていることからみても、今後もガチンコ勝負の様相であり、社外取締役の法的責任に関する争点について、控訴審、最高裁の新たな判断が出てくる可能性があります。アーバンコーポレーション株主損害賠償請求事件判決のように、役員の金商法上の責任が認められる・・・ということでしたらまだしも、金商法上の開示責任が及ばない開示情報(ここでは賛同意見表明)に会社法上の善管注意義務違反が認められる、ということについては、社外取締役や社外監査役の実務に影響を及ぼしかねない判決です。著名な学者さんや法律実務家の方による判例評釈で、この判決がどのように受け止められるのか、解説が待たれるところです。MBO固有の事情の下での情報開示義務、と限定してよいのかどうか、レックスHD事件で明らかにされた取締役の情報開示義務とどう異なるのか、もっと広く、社外取締役の情報開示義務について妥当するのか、という点についての解説を期待します。私もまだざっと一読したにすぎませんので、もう少し、事案の特殊性などを含めて検討してみたいと思っています。

ともかく、文書提出命令に関するリスクを含め、このような判決が出る時代となれば、現役の社外役員の皆様、これから社外役員に就任される皆様に向けて、大手法律事務所の先生などが中心になって「社外役員研修」をされるほうがよろしいのではないでしょうか。あっでも、この判決文に登場される多くの著名法律事務所(笑)の先生方は、当事者なので無理かもしれませんが(^^;

11月 12, 2014 商事系 |

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コメント

山口先生、一向にペースダウンされる気配がなく、むしろリバウンドしているようにすら感じますが、くれぐれもご自愛ください。さて、シャルレの社外取締役の善管注意義務違反に関して、確認させていただきたいのですが、新聞報道によると、社外取締役は取締役会が決めた買取価格が不当に高いことを看過したというより、積極的に買取価格が公正に算定されたとコメントしたように報じられていました。もし、それが事実ですと、単なる不当開示を回避したり、訂正を促さなかった不作為責任ではなく、積極的に経営者の不当開示に加担したことになり、義務違反に関する判決の論拠が大分変わってきます。一般的に判例を見る限り、セイクレストのようにそれなりの回避、防止努力をしていても義務違反を問われる極端な判決は別にして、社外役員、非常勤役員、非業務執行取締役、非担当取締役は一般に、問題とされる業務執行に直接関われないので、不作為による義務違反を問われるケースは少ないと理解していますが、いかがでしょうか。業務執行取締役のほうが、相互監視責任に基づき、まず責任を問われてもいいように感じます。また、善管注意義務違反を認定しつつ、損害賠償責任は認めないという本件判決や大和銀行事件判決の考え方が今一つ腑に落ちないのですが、どのような社会的意義があるのか、ご教示いただけますでしょうか。

投稿: 森本 親治 | 2014年11月27日 (木) 16時08分

森本先生、ご意見、ご質問ありがとうございます。
たしかに本件はMBO事案であり、社外取締役の意見が求められている場面なので、おっしゃるとおり「不作為」がイメージしづらいかもしれません。しかし、社外取締役にも他の取締役の職務執行への監視義務があり、また善管注意義務ではなく過失の問題としてみても、金商法上の24条開示責任は不作為が想定されます。なので不作為による義務違反を問われるケースはかなり多いと思います。
また、善管注意義務違反については、その根拠となる事実は相当慎重に検討されますが、因果関係の相当性については、何を損害とみるか、ということなどとの関係で、裁判官によって判断は流動的になりやすいと思います。ともなく責任は認められなくても、善管注意義務違反、不法行為といった認定がされることは、今後の同種事件における判断枠組みにもなりますので(もちろん抽象的ではなく具体的な事実を精査したうえでの最終判断ではありますが)、やはり社会的意義は大きいものと考えています。

投稿: toshi | 2014年11月29日 (土) 20時44分

山口先生、ご教示いただきまして、どうも有難うございます。
善管注意義務の概念は広くて曖昧なように感じますが、社内横領の発見、適時開示の実現、利益相反の防止、談合・贈収賄の国際規制の遵守というような、社外役員が監督すべき業務執行行為の内容に応じて、求められる注意義務や作為のレベルが異なるので、個々の司法判断を積み重ねていくことが社会的にも重要ということですね。確かに責任を問う以上、一般的な議論であってはいけないです。

投稿: 森本 親治 | 2014年12月 1日 (月) 11時44分

いつも、楽しくブログを拝見させていただいております。
少し前に、某一部上場会社の社外取締役(弁護士です。)にとある内容の告発をしましたが、下記の内容の返信がありました、
社名は伏せましたが、原文そのままコピーです。
これまでにも、様々な方法で会社の上層部に告発しておりますが、腐った会社です。
何かアドバイスいただけましたら、幸いです。


お問い合わせいただきました内容について、株式会社○○○に確認したところ、貴殿とはご主張が異なることが判明しました。
一方当事者の取締役という立場上、両者の仲裁のような対応をすることはできかねますので、ご了承ください。

投稿: haruharu | 2014年12月22日 (月) 07時04分

haruharuさんのご質問の件ですが、メールやコメントにおける法律的な質問への回答は弁護過誤のおそれがあります。具体的な事実もわからぬまま、法律意見を述べることのおそろしさはこれまで25年の弁護士経験でいやというほど痛感しておりますので(笑)、ご了承ください。
なお、一般論としては「告発」というのはけっして告発者に対して対応義務が生じるものではなく、あくまでも不正発見の端緒にすぎません。したがいまして、社外取締役が弁護士であろうとなかろうと、受領した取締役には告発にどう対応すべきかは自由です。ただし、haruharuさんがマスコミや行政当局に告発を重ね、それによって会社の不正が発覚した場合には、その社外取締役さんが「放置していた」と評価され、会社の信用が失われ、さらには善管注意義務違反に問われる可能性がある、ということです。haruharuさんとして納得がいかないとすれば、監督官庁や監査法人に告発をする、といった対応をとられたほうがよろしいかと思います。

投稿: toshi | 2014年12月27日 (土) 21時28分

山口先生、コメントに対してのご返答ありがとうございます。
告発は、当該会社の関係者複数に告発メールを送付しておりましたところ、
昨日、相手側より「仮処分申請の申し立て」なる書面が届きました。
告発により、第三者委員会等の設置で事実関係の解明に動くかなと、わずかな望みに賭けましたが、やはり腐った組織で調査もせず事実無根と一蹴しております。
先生のブログを読み始めて6年程になるかと思いますが、世の中はコンプライアンスに厳しくなっていると思っておりましたが、未だにこんな会社もあるんです。
以前にブログ内で出身が大牟田という事に触れられており、勝手に同郷の親近感を感じておりました。
今後も楽しく、拝見させていただきます。
良いお年をお迎えください。

投稿: haruharu | 2014年12月29日 (月) 11時38分

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