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2014年11月10日 (月)

経産省「営業秘密管理指針」は裁判所をどこまで拘束するか

経産省「営業秘密の保護・活用に関する小委員会」が検討を進めている営業秘密管理指針が改定されるようです。全面改定案が経産省の小委員会資料として公表されており、マスコミでも公表案の中身について報じられています(たとえば北海道新聞ニュースはこちらです)。

10月31日の日経新聞の記事もそうですが、今回の管理指針の改定によって、企業の営業秘密として保護される範囲が広くなり、たとえば書類に「マル秘」と書いていたり、金庫の中に書類を保管していれば「秘密管理要件」を満たすことになる、とのこと。どこのマスコミの記事を読んでも、この営業秘密管理指針を改定すれば営業秘密としての保護範囲が広まる(要件が緩やかになる)ように思えます。

しかし、営業秘密保護の根拠法令は不正競争防止法であり、これを解釈する権限があるのは裁判所であって行政当局ではありません。書類に「マル秘」と書いていたとしても、それを根拠に損害賠償や侵害差止が裁判所でも容認されるかどうかはわかりません。このあたりはマスコミの記事は若干誤解を招くのではないでしょうか(あくまでも行政としての指針であることは、管理指針案の冒頭でも注意的に書かれています)。

たしかに経済産業省・企業価値委員会が過去に買収防衛策ガイドライン、MBOガイドライン等の会社法解釈指針を公表し、裁判でもこれが斟酌された実績はあります。また、過去の営業秘密管理指針が斟酌された例もあるようです。しかし、訴訟で訴えられる側が防御のために指針を持ち出す場合と、訴えるほうが攻撃(要件該当性の積極的立証)のために指針を持ち出すのとでは、裁判所への影響度が全く異なるものと思います。これまで裁判所が指針を斟酌したのは、いずれも被告側が要件該当性を否定するための根拠のひとつとして引用したもののようです。

個別具体的な紛争の解決のために法令を解釈する司法判断としては、個別事案の解決に必要な範囲でのみ法解釈を行えば足りると思われますので、たとえば「秘密管理要件」の判断にあたっても、具体的な紛争の実態から「アクセス制限」と「認識可能性」の判断基準を使い分け、これを調整弁として活用してきたものと思います。裁判所はめったなことでないと、紛争解決のための抽象的な判断基準を定立しないと思いますので、この営業秘密管理指針が、法規範性を持つことはないものと考えています。

営業秘密の保護要件については、裁判所でも、これまで緩和されたり、厳格になったりと、その傾向には変遷がみられますので、この営業秘密管理指針についても、最近の裁判例を吟味したうえで、現時点における裁判判例の到達点を確認する、という意味に捉えておくべきではないでしょうか。日本の「稼ぐ力」を伸ばすためのイノベーション改革のためには、むしろ早期に(解釈に頼るのではなく)法改正によって対処すべきだと思います。そのほうが最近の諸外国の営業秘密政策とも足並みがそろうのではないかと。

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