ROE(自己資本利益率)からリーガルリスクを学ぶ
11月25日の日経新聞電子版ニュースで、株主還元率を100%にする、と宣言したアマダ社の株価がいまひとつ向上しない、という記事が掲載されていました。宣言直後こそ株価が50%ほど向上したものの、その後は元に戻り、現在はPBRが1.04倍ということで、いくら株主還元率を向上させたとしても、本業によって儲けるためのストーリーを描けなければ株価向上にはつながらない、と記されています。
アベノミクス(安倍政権における経済戦略)のもとにおけるコーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コード、そしてモニタリング・モデルによる取締役会の在り方を理解するうえに不可欠なのがROE(自己資本利益率)というキーワードであることは間違いないと思います。企業価値の測定において、ROEが絶対的な基準かどうかはわかりませんが、少なくとも国内・国外を問わず、株主が注目している数値であり、また成長戦略の道筋を示す伊藤レポートの中でも「最低8%以上」と具体的に数値目標が盛り込まれている以上は、株主との対話においては無視できないものと言えるでしょう。
さて、「20年ぶりにやってきたROEの時代」と言われていますが、株主との対話、取締役会における経営執行部の業績評価において、ROEをどう理解すればよいのか、その基本を理解するために本書はとても役に立ちました。いや、私自身「理解した」というのは言いすぎかもしれませんので、今後も読み返すことでしょうし、すくなくとも「ROEに関心を持てる」ようになりました。
勝てるROE投資術(広木隆著 日本経済新聞出版社 1,400円)
本日現在、アマゾンの株式投資部門の「ランキング1位」なので、ご紹介するまでもないのですが、著者の広木氏はマネックス証券のチーフ・ストラテジストの方です。タイトルを一読しますと、「ROEを学べば株式投資でガッポリ儲けられる・・・」といった趣旨で出版されているように思われます(たぶん)。ただ、私の個人的意見ですが、これほど題名と中身が違う本もめずらしいのではないかと感じました。それは「高いROEの会社の株を買ってはいけない」といった説明や、あたりまえのことですが、絶対に儲かるための企業価値指標などありえない、といった説明からもわかります。ともかく自分の手で計算して、企業業績と市場評価の変化を常に追いかけていることが大切とされていて、決して本書を読めばすぐに儲かる・・・とは書いていません。「ROEの死角」についても二章を設けて丁寧に解説されています。要はROEを学んだからといって、ガッポリ儲かる・・・というのは甘いということでしょうね(当たり前といえば当たり前ですが・・・)。
ただ、本書は様々な運用機関でファンドマネージャーとして活躍されてこられた広木氏が、機関投資家の立場からROEを読者に真剣に理解してもらうために熱く語っておられるところが参考になり、十分元を取れる内容です。頭では勉強していても「では実際にROEは『目的ある対話』の中で、どのように共通言語として活用されるのか」というところが、本書によってかなり明快になってきます。資本コストとの関係についても解説されていますので、長期保有を目的とした機関投資家との対話というものもぼんやりとイメージが湧いてきます。
「本当はもっと正確に書きたいのだろうな」と拝察しますが、専門家たるファンドマネージャーとして、あえて一般の方に向けて「通訳」の役割に徹しているところがすばらしい。いまのROEの注目度からすれば「多くの経営者であれば、このように動くであろう」といった行動指標になるはずですから、資本政策にせよ、M&Aを含めた投資判断にせよ、経営者の行う判断の経済的合理性を理解するにあたって、ROEを理解することが今後役に立つだろうな、と思います。
経営者の不正や善管注意義務違反を問われかねない経営判断など、どれもいきなり社外取締役にはわかるはずもなく、ただ、「これは経済的合理性があるといえるかどうか」という視点から予兆を発見しなければなりません。これはオリンパス社の損失飛ばし・飛ばし解消スキーム事件から得た教訓です。また、実体的正義よりも手続的正義が重視される会社訴訟においても、経営者がリーガルリスクを回避するためには経済的合理性ある手続きを踏んだことを示す必要があります。ということで、バリュエーションの理解に乏しい私のような社外役員でも、リーガルリスクを低減させるための知恵を学ぶにはとても役に立つ一冊でした。
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コメント
ROEブームですが、別の見立てもありますね。
誰かが流行らせようとしている“ROE教”を「こっそり」嗤え
http://diamond.jp/articles/-/57860
記事の中に、『「資本家の時代」はすでに終わっている。』という文章がありますが、個人的にはまったく同意見です。企業価値を創造する当たり、資本の貢献は低下しているのではないでしょうか。
企業価値の定義は色々ありますが、時価総額とすると、調達資本は様々な資産に投資され、現在の会計基準では公正価値で評価(全部ではありませんが)されますから、その結果としての財務諸表上の純資産と時価総額との間には差異があるとすれば、それは資本以外の要素が創造した企業価値を意味します。正確に調べたわけではありませんが、その差異が年々増加しているとすれば、資本以外の要素の企業価値の創造に対する貢献が増加していると言えるでしょう。
投稿: 迷える会計士 | 2014年11月28日 (金) 22時42分