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2014年12月 4日 (木)

海外不正リスク対応に「第三者委員会」は通用するか?

タカタ社のエアバック欠陥問題が「全米リコール対応」を余儀なくされるかどうか、たいへん大きな局面を迎えることになりました。おそらく諸事情あってタカタの創業家CEOの方は姿を見せないのだと推察しておりますが、そういった対応がかなり大きな波紋を呼んでいるようです(たとえばこちらのロイターのニュースなど)。各紙が報じるところでは、タカタ社は現行の製造過程とインフレーター(エアバッグを膨張させるガスの発生装置)の安全性につき調査を行い、その結果を報告するために第三者委員会を設置することを明らかにしたそうです。

この第三者委員会は「現時点では当社製エアバックは安心・安全」ということを証明するための調査が目的です。ただ、たとえ「現時点での安全」を証明するためであったとしても、過去の事故原因まで究明しなければ「なぜ安全なのか」は証明できないと思います。つまり、ある程度は事故が発生した過去の経緯についても調査の対象とせざるをえません。

国内で企業不祥事が発生した場合、ステークホルダーの利益保護のために第三者委員会が設置されるのはごく普通の光景になりましたが、このように海外で重大事故や企業不祥事が発生した際、第三者委員会というのはどこまで通用するものなのでしょうか?先日、ノバルティスファーマの日本法人の第三者委員会報告書について紹介しましたが、日本の第三者委員会が海外の親会社についても調査したいと頑張ったときに、当該親会社は日本の第三者委員会についてどこまで理解を示してくれるのでしょうか?このあたりが以前からどうもよくわからないところです。

2年前、東京大学で開催された法曹倫理に関する国際シンポでこの「日本の第三者委員会制度」について発表させていただく機会がありましたが※、その際、(一方当事者の利益擁護のために忠実に職務を尽くすべき)弁護士が、公正中立な第三者的な立場で公益のために活動できる、ということがなかなか海外の学者の方には理解しがたいということでした。たしかにカナダには類似の制度がありますが、委員は現役の裁判官が就任する、ということで、「弁護士が不祥事企業から報酬をもらいつつ『独立・公正』な職務などありえるのだろうか」との意見をもらいました。

※・・・ご承知のとおり、私は英語が堪能ではありませんので、立命館大学の先生に通訳をしていただきました(^^;

ということで、理念の面からも海外の企業から理解しづらい点があるかもしれませんが、さらに海外での不祥事となると、弁護士秘匿特権やワーク・プロダクトに関する障碍があります。もし調査する委員が本当に独立・公正な立場であれば、その委員に対して企業が語ったこと、語るために準備を行ったことについては証拠開示の要求に応じる義務が発生するのではないでしょうか。

仮に、社内弁護士が企業と調査委員との間に介在している場合でも、当該社内弁護士は秘密特権の主体として取り扱われるのでしょうか(たしか米国と欧州では異なる取扱だったかと)。さらに、調査対象となる社員と所属する企業との利益が常に一致するとは限らず、その場合に誰が証拠開示の同意権を有することになるのでしょうか。このあたりがクリアにならないと、タカタ社に後日襲いかかる(であろう)米国の集団訴訟や民事制裁金訴訟、自動車メーカーからの損害賠償請求訴訟等において、調査委員会が保有する資料はすべて開示の対象になってしまわないでしょうか(私は国際訴訟の経験がないだけに正確なところはご専門家の意見をいただきたいところですが・・・)。

国内の不適切会計処理疑惑が発生し、金融庁から調査が開始されたとなると、自主的に訂正すべきかどうか、その見極めのために第三者委員会の設置がとても有益です。しかし、同じようなタイミングでアメリカの行政当局から「ミスを認めるかどうか」と問われたときに、第三者委員会を設置するという手法がどこまで有益なのか、ひょっとして、調査委員がタカタ社から報酬を得ている以上、それは到底「第三者委員会」とは認められないものなのか、もう少しニュースの行方を見守りたいと思います。

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コメント

目から鱗の問題提起ですね。事業の海外展開が普通になっているのに、諸々の対応は日本前提のように感じていました。競争法や贈収賄などの不正に関する域外適用がさらに拡大・定着していくなら、国内対応よりも海外対応の方が重大リスクになるのは、一連のDOJなどの姿勢から明らかだと思います。第三者委員会に代わる中立的な調査受け皿を編み出していただけることを期待しています。
またお邪魔してよろしいでしょうか。

投稿: tetu改 | 2014年12月 5日 (金) 00時09分

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