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2014年12月 5日 (金)

監査等委員会設置会社のガバナンス(監査等委員会の位置づけ)

東証と金融庁が事務局とされるコーポレートガバナンス有識者会議がガバナンス・コードのたたき台を公表して以来、俄然、監査等委員会設置会社への移行を検討していらっしゃる上場会社が増えているようです。

東証1部上場会社において、すでに75%ほどが社外取締役を一人以上選任しているそうですが、「独立社外取締役」となりますとその数は半減します。ましてや「独立社外を2人以上選任すべき」ということになりますと、なかなか人材を探すのも苦労するところ。私も某上場会社から監査等委員会設置会社への移行に関するご相談を受けておりますが、会社側は現在いらっしゃる社外監査役さんお二人に「横滑り」で社外取締役さんになっていただくことを検討されています。

ただ、最近出版された会社法立案担当者の方々の解説本や旬刊商事法務の座談会記事などを読みますと、監査等委員である取締役の方々って、取締役人事や報酬といった監督機能への期待が極めて高いと思いませんか?いや「期待」で済むならいいですけど、善管注意義務の内容として、かなり厳しい説明責任が含まれるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。そもそもアドバイザリーボード型が主流の監査役設置会社の取締役会ではなく、社長の業績評価を中心としたモニタリングボード型の取締役会に移行する覚悟がないと、これって機能しないように思えてきました。

ところで前から少し疑問に思っていたのが「監査等委員会設置会社の取締役会と監査等委員会設置会社との関係」です。これまで出版された多くの「改正会社法解説本」では、監査等委員会は取締役会の内部機関(下部機関)であり、取締役会から独立したものではない、といった評価がなされています(私の「会社法改正のグレーゾーン」でも同じような説明をしています)。しかし、実際は以下のようなものではないかと。

Kansato001


左は指名委員会等設置会社の指名委員会等と取締役会との関係を示すものです。監査等委員会設置会社でも、同様の関係にあると説明されることが多いのですが、実は右図のように表現するのが適切ではないかと。最近出版された立案担当者の方々の解説も

このような監査等委員である取締役の位置付けに鑑みると、監査等委員会は、指名委員会等設置会社の指名委員会等とは異なり、取締役会の内部機関として位置づけることはできず、むしろ、取締役会から一定程度独立したものとして位置づけられ、監査役に類似した位置づけとなります」(「一問一答平成26年改正会社法」法務省大臣官房参事官坂本三郎編著 商事法務 48頁参照)。

と述べておられます。根拠としては、以下のような図式で表現できるのではないでしょうか。

Kansato002


たしかに監査等委員である取締役も、取締役会の構成員ですから、指名委員会等設置会社と同様な位置づけとも言えそうなのですが、やはり根拠条文等からしますと監査役類似の関係に立つとみてよいと思います(すいません「報告義務」のところは「取締役会だけでなく株主総会にも報告義務を負う」というのが正しいです。根拠条文も399条の5、同条の6ですね ちなみに報告義務を負うのは「監査等委員会」ではなく「監査等委員」です)。

取締役会と監査等委員会との位置づけを議論する実益としては、たとえば任意の指名委員会や報酬委員会を設置した場合、監査等委員の人事、報酬に関する意見陳述権との関係をどう整理するか、といったことに関わってくるように思います。また監査等委員ではない社外取締役にも利益相反審査機能が期待されるわけですが、監査等委員会(または選定監査等委員)の利益相反評価機能とどういった関係に立つのか、といった整理も必要になってくるのではないでしょうか。こういったことを考えてみると、監査役会設置会社の社外監査役さんが監査等委員会設置会社の監査等委員である社外取締役さんに就任されるとなると、やっぱり相当な覚悟が必要になるのではないかな、と思わずにはいられません。

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コメント

日亜化学と中村教授のコメントの際は匿名でUpして頂き有難うございました。お手数をお掛けしました。
監査等委員会設置会社の監査等委員導入ですが、1988年から続いている日米構造問題協議、に端を発する社外取締役導入を要求する米国の圧力の影響によるものと考えます。正しく独立役員の数合わせが目的であり、当然不足するであろう社外取締役へ米国人弁護士等を採用することが目的である、とは言い過ぎでしょうか。そのうち日本にも社外取締役市場が出来るのでしょう。喧々諤々の議論をしない日本の取締役会に社外取締役は元々必要ではなく、業務執行取締役の監督、監査は常勤社外監査役が十分機能するのですが、残念乍ら常勤で社外の監査役は監査役協会のアンケート調査でも20%弱ですので協会が音頭を取って適格者を増やす策を講じて頂き度いと思う次第です。アドバイザリング機能を導入目的とする社外取締役であるならば、顧問、コンサルタントの呼称で十分であり、法律で制定する必要はありません。モニタリング機能を社外取締役に期待するのであれば指名委員会等設置会社になればよいのですが、最低2人の社外取締役に自分の報酬を決められたくないのが多数の社長の本音であるところを誰も変革しようとしないことが数合わせ遊びの根底ではないかと思います。私の基本的な考え方を述べさせて頂きました。
山口様が入院中に読まれたと云う小池隆一氏の本を読みました。実名が登場し、時間を忘れ久し振りにワクワクする内容でした。以上

投稿: 小口昌夫 | 2014年12月 5日 (金) 10時39分

監査等委員会設置会社は、指名委員会等設置会社と監査役会設置会社の中間型なので、どちらの方から見るかによって、長所と短所、中途半端に感じる点が異なると理解しておりました。ただ、今回の山口先生の書かれた取締役会と監査等委員会が並列に並んでいる図を拝見して、このような見方もあるのかと非常に驚きました。少なくとも、今回の会社法改正で第三のガバナンス形態として認められたのは、98%の上場会社が採用する監査役会設置会社では、取締役会と監督機関である監査役会が並列して存在する日本固有の形態なため、外国人株主の理解が得られないからと解釈しておりました。ISSが監査等委員会設置会社を基本的に歓迎と評価したのも、その趣旨ではないでしょうか。監査等委員が取締役であり、議決権を有することに違いはないですし、監査等委員が取締役会の干渉を受けずに株主総会で選任されるのは、取締役会が社内出身者主体で業務執行の兼任者が多く、監督機関として成熟していないという多くの日本企業の現状を踏まえたからだと理解しております。監査等委員会を取締役会の外の機関と位置づけますと、常勤者が要求されておらず、内部統制システムを通じて監督を行う建前になっているので、既往の監査役会より、さらに監督機能が脆弱になる懸念があります。そのため、山口先生のおっしゃるように、監査等委員に就任される方々の責任が憂慮されることになろうかと思います。

投稿: 森本親治 | 2014年12月 7日 (日) 12時56分

おひさしぶりでございます。ご快癒された後はますますブログの更新も積極的なご様子で、どうか無理をされませんよう、ご自愛ください。
実は私も先生と同様に感じていたところがありまして、法律時報10月号会社法特集の江頭先生の論文でも、先生のご意見に近いものが書かれております。法理論はよくわかりませんが、監査等委員会設置会社の社外取締役さんは、ひょっとするととても厳しい責任を背負っているのではないかと感じるところです。弊社でも御多分に漏れず監査等委員会設置会社への移行については検討中ですが、まちがいなく「様子見」になろうかと。世間の趨勢をみて、というのがほとんどの会社の動向ではないでしょうか。

投稿: torawoman | 2014年12月 8日 (月) 00時50分

模式図化や、モデルへの引き直しは非常に有効です。
そこで、取締役会と委員の関係のみならず、もう少し広く模式図にしてみませんか?
それも、
・非取締役会設置会社
・委員会設置会社
・監査役設置会社
・監査等委員会設置会社
を並べてみるのです。

↓ をご覧ください。
http://kaishahou.blog.shinobi.jp/Entry/29/

監査等委員会設置会社は描いていませんが、どちらかというと監査役設置会社に近いものになるはずです。
しかし、ガバナンスがすぐれているという説明はできないでしょうね。

(「監査役には議決権がないから監督力が弱い」などという妄言も模式図化するとおかしさが明らかになると思います)

投稿: S.N. | 2014年12月 8日 (月) 23時01分

もう一点。
そもそも「監督」を定義しないまま監督強化を論じることを続けてきた結果が現在のモニタリングモデルの暴走につながっていると思います。

以前も、「監督は牽制ではない」とする論文をご披露しましたが、論理を強化しました。
http://kaishahou.blog.shinobi.jp/Entry/28/

先生のブログの読者の皆様にも、ぜひ以下の条件を満たすよう「監督」を定義していただきたいと思います。

条件1:
  業務執行のみならず、非業務執行取締役の職務執行をも監督の対象とすること
条件2:
  取締役会の意思決定機能と両立すること
条件3:
  監査との相違を明確にできること
条件4:
  全取締役が業務執行取締役でも当然に存在するものであること

投稿: S.N. | 2014年12月 8日 (月) 23時10分

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