ダイバーシティは「男の約束」を反故にできるだろうか?
本日のエントリーは、あまり真剣に考え込まずにサラっと読み流していただく程度で結構かと思います(笑)。ドイツでは上位100社の大手企業の役員について、その3割を女性で占めなければならない、といった法案が閣議決定されたそうです(日経ニュース)。そういえばコーポレートガバナンス・コード原案にも「ダイバーシティ」に関する原則条項が含まれていますね。
さて、判例時報2232号(11月1日号)に、東京の超有名ホテルの建物賃貸借に関する裁判例(東京地裁平成25年10月9日判決)が掲載されています。原告、被告とも皆様ご存じのたいへん有名な不動産会社でして、原告が事業運営に関わっているホテルも超一流の著名なホテルですが、あえてここでは名前を挙げないことにします。
ホテル事業の運営を委託している原告(建物の借主)が、(ホテル事業の業績悪化を理由に)これまでの月額6120万円ほどの賃料から同5500万円程度への減額を被告(建物の貸主)に求めていましたが、東京地裁の判決では、様々な事情を総合考慮したうえで減額を認めています。被告側は逆に、ホテルの業績は上がらなくなったことが確定したことによって契約時の約束どおり(不確定期限の到来)過去に支払いを猶予していた分を支払えと反訴を起こしていたのですが、こちらは契約締結当時の状況からみて、そのような合意は認められず、請求に理由はないとして却下されています。
ところで、これほど高額な賃料を契約内容とする賃貸借契約であり、しかも原告・被告とも大手の不動産会社であるにもかかわらず、このホテルの賃貸借契約には(驚くべきことに)契約書が作成されていませんでした。もちろんしっかりした法務部がどちらの会社にも存在することは間違いないと思いますが、この判決文には何度も「男の約束」というフレーズが登場します。そうです、これだけのラグジュアリーホテルの運営に関する賃貸借契約が、原告会社の専務、被告会社の社長との間における「男の約束」を前提に成立していたのです。
賃貸借契約書が存在しなかったので、裁判所はもろもろの間接事実から契約の成否、契約の内容を合理的に解釈して判決までこぎつけた、というものです。しかし、現実には上記のとおり、契約内容をめぐって双方一歩も譲らない裁判沙汰になってしまっているわけで(現在も控訴審係属中)、明確な合意書が存在しないことからリーガルリスクが顕在化してしまった一例かと思われます(そもそも莫大なお金が流れる契約について「契約書が存在しない」というのは会計上も問題はなかったのかどうか、疑問もありますが)。
おそらく「男の約束」が結ばれたからこそ、大きなビジネスが進捗したのかもしれません。しかし、いくら社長案件、専務案件でも、このように大規模な裁判沙汰になってしまうというのはなんとも。。。もう少し小さな日常案件であれば、どちらの会社も法務部のきちんとしたチェックが入ると思いますが、なかなか一般社員が触れることのできない聖域(ブラックボックス)がどこの企業にもありますよね。こういった聖域こそ、ダイバーシティの精神にのっとり、「男の約束」で済ませるべきか、案件が進まないかもしれないけど取締役会での十分な審議を求めるべきか、検討しなければならないかと思います。さてダイバーシティは男の約束という「世界」にどう風穴を開けることができるのでしょうか。
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コメント
ご無沙汰しております。
本エントリにつきまして、第3段落の事案の概要整理の部分で、
原告・被告とも建物の借主になっているのが気になりましたので、
差し出がましいと思いつつご指摘申し上げます。
最近はご体調もよろしいようで何よりですが、寒い日が続きますので、
ご無理をなさいませんよう、引き続きお元気にてご活躍ください。
投稿: 無銘 | 2014年12月19日 (金) 09時37分
無銘さん、ご指摘ありがとうございました。修正いたしました。
投稿: toshi | 2014年12月19日 (金) 10時42分