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2014年12月 3日 (水)

内部通報制度の運用-パワハラの背後に企業不祥事あり

佐世保市で発生した同級生殺害事件について、事件前に加害者少女を診察した精神科医から佐世保市に届いた通報を、市が放置していた疑惑があるようです。「少女は危険な行為に及ぶかもしれない」との通報が市に届いたにもかかわらず、幹部職員が「丸投げ通報はほおっておけ」と職員に命じたため、調査はされなかったとのこと。当該幹部職員のパワハラは問題化していたようで、30日の産経新聞ニュースでは、県の有識者委員会が、「パワハラの影響があった可能性が高いというのがおおむね一致した見解」と述べているそうです(産経新聞ニュースはこちら)。

この佐世保市の事件について述べるものではありませんが、この事件のようにパワハラは背後に不正を隠しているケースがあります。中央経済社の雑誌「ビジネス法務」2012年1月号に「自社の内部通報制度改善のポイント」と題する拙稿を掲載いただきましたが、その中で私は

パワハラ通報には十分に気をつけねばならない、なぜならその背後に役職員、組織の不正が隠れていることが多いからである。つまり不正を指摘したことで村八分や個人攻撃など、当該社員にパワハラが行われる可能性があるため、時間軸をもって背後の経緯を知る努力をしなければならない

と述べました。今回の事件は「内部通報」ではなく外部通報ですが、パワハラが市側の「通報の放置」という不正疑惑を明るみに出したことになります(そもそも有識者委員会という独立公正な委員会が立ちあがったからこそ、職員から「パワハラが原因」という通報が出たようなので、やはり第三者委員会の存在意義は大きいと感じます)。パワハラかどうかの判定は、通報窓口担当者にとっても難しい作業ですが、認定作業とは別に、なぜパワハラと感じるような事件が発生したのか、その経過についても十分にヒアリングを行うことが必要です。

以前、こちらのエントリーでもパワハラ通報の取扱いのむずかしさについて論じましたが、近時とくに「匿名性の保障」という面において重大な課題だと痛感します。パワハラの背後にある不正事件を探ろうとすると、調査が本格化するにしたがって通報者の匿名性(窓口は実名を知っています)が確保できないおそれが生じます。「文句があるなら直接言えと言っていたではないか」と更にパワハラがエスカレートする可能性もあります。

私の外部窓口としての経験からいえば、パワハラを受けている社員の方々は、「タレこみ」ということよりも「誰かに相談したい」という気持ちのほうが強いわけで、まずパワハラ通報というものの「性質」を全社員に浸透させる必要があると思います。「文句を上司に直接告げること」で済む問題ではなく、自身のパワハラ被害を自分なりに消化(昇華?)するためのプロセスが必要なのであり、そのためには寄り添って真摯に相談に乗れる人が求められるのだと思います。また、これも私の経験からですが、被害者本人による通報がほぼ100%であるセクハラ通報と異なり、パワハラ通報は本人通報が50%、第三者(通常は同じ職場の同僚)によるものが50%です。したがって加害者とされる人が「タレこみやがって!」と考えるのは早計です。

本来、内部通報制度が企業に求められている趣旨とは少し離れてしまいますが、被害者にとってだけでなく、企業にとっても、加害者と言われる人にとっても有益な解決策を探るために、「人はなぜパワハラ通報をするのか」といった理由を全社員で考えることが、パワハラ通報の匿名性確保のために不可欠です。

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