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2014年12月22日 (月)

他社の食品事故対応から学ぶ「経営に活かす不正リスクマネジメント」

12月20日土曜日の日経新聞夕刊(関西版)社会面に、椿本興業さんの幹部社員による不祥事事例が特集記事として報じられ、私のコメントも掲載していただきました。「不祥事はどこの組織でも起きる。起きることを前提とした対策を検討しなければならない」といった趣旨のコメントです。同様のコメントは、12月12日の当ブログエントリー「まるか食品事例に学ぶ食品事故の危機対応の在り方」でも述べておりますが、上記エントリーにおきまして、私は以下のように書きました。

もうひとつ、まるか食品さんがなぜ全操業を停止し、全商品を回収しなければならなかったのか、という点について考えるべき課題があります。食品事故が発生した場合を想定したリスク管理の在り方です。未然防止のための安全対策に加えて、発生時の被害を最小限度に食い止める対策を講じることで、たとえ製造過程で虫が混入していたとしても、その混入ルートを突き止められるために、「この食品ルートの○○月から○○月の分だけ回収します」といった説明が可能となります。この説明を消費者や当局が納得できれば全操業を停止する、といったことは回避できます。安心思想による危機管理が求められる時代になればなるほど、「決して起こしてはいけない」といった発想でのリスク管理だけでなく「起きたときにどうすべきか」といった発想でのリスク管理が会社を救うことを忘れてはならないと考えます。

このような危機対応の重要性を示す具体例が、先週12月18日の日経朝刊記事「食の安心・安全-企業のいま(下)」で取り上げられています。大手スーパーのイオンさんが、食の安心・安全を確保するために、直営農場を全国に整備し、生産から販売まで全工程の責任を明確にしている、との話です。この取り組みが功を奏したのは、2001年のBSE問題が発生したときだったそうで、オーストラリアのタスマニアで育てた独自の牛肉ブランドは、その飼料までも把握していたので、感染の可能性が低いことを表明でき、その結果、販売量は3倍になったことが報じられています。イオンさんの例は決して不祥事ではありませんが、有事対応に関する平時のリスク管理が経営に活かされた好例ではないかと思います。

上記日経記事では「自社農場の展開で約370人の雇用を生み出したが人件費の負担は軽くはない。それでも手を広げるのは、生産工程まで自ら管理すれば安全面に問題が起きた際にいち早く対策を打てるからだ」と説明されています。これはまさに「食品事故は必ず起きる。起きた時にどうすべきか」といった発想でリスク管理に取り組むことの大切さを示すものだと思います。

消費者に「食の安心・安全」を提供する食品メーカー、小売業、外食産業等において、今回のまるか食品さんのように「どの工程に問題があったかは不明だが、安全性に問題あることを否定できない」といった事態になれば、企業経営にとって致命的な損失が発生します。「不祥事が起きる」ことを前提に、食材のトレーサビリティや、生産工程の厳格な管理がなされることで、(100パーセントの安全を保証できるわけではありませんが)ともかく生産の全工程を停止させたり、設備を一新しなければならない、といった事態に至る可能性はかなり低いと考えます。

ただし「消費者の立場でリスク管理を考える」ということに、企業経営の側からひとつ懸念される点があります。それは品質管理部門の方々の「納得」の問題です。品質管理部門の方々は、日夜安全な商品を消費者に提供するためにプライドをもって尽力しています。しかし「安全よりも安心」を重視したリスク管理の発想は、「当社製品に欠陥が認められたわけではないけれども、その可能性があるから対応せよ」とするものです。欠陥が認められたわけでもないのに、品質に問題があるかのような経営トップの物言いは、品質管理部門の志気に影響を及ぼすことはないでしょうか。拙著「不正リスク管理・有事対応」でも述べましたが、企業はたとえ不祥事を発生させたとしても、毎日の商売は粛々と続けなければならないのです。日々の業務をこなす品質管理部門において、(責任が明確にされたわけでもないのに)急きょ対応が求められる有事対応業務にどれほど真剣に向き合うことができるか、というのはひとつの課題かと思います(この点は、私自身が会社側で対応した性能偽装事件を題材に-守秘義務に反しない範囲で-別途ご紹介したいと思います)。

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