市場の番人・公益の番人論2015-その4 公益通報者
消費者庁が行っている公益通報者保護制度に関する意見聴取(ヒアリング)も全10回のうち8回目を終えました。いよいよ終盤です(3月末まで)。消費者庁の法制度アドバイザーとして、毎回板東長官はじめ消費者庁の皆様と一緒に有識者の方々へヒアリングをさせていただいています。著名な事件の内部告発者の方々からも、また企業や消費者団体、行政担当者、大学教授の方々からも有益なご意見を伺い、私自身も今後の立法政策、法理論の見地から考えをまとめる機会をいただいています。
さて、1月23日の各マスコミの報じるところでは、賃貸大手アパマンショップ系列会社の元契約社員の方が、同社に内部告発者探しの目的で郵便物を持ち去られたとして損害賠償を求めていた裁判で、福岡簡裁は「(郵便物の持ち去りは)内部告発に関する情報を得るためで、明らかに不法行為」と指摘し、同社に14万円の支払いを命じたそうです。同社が入居希望者に対して「事故物件」であることを事前説明をせずに物件を賃貸した、ということを、同契約社員が国交省に告発した、というものです。告発後、この元契約社員の方は契約期間満了で退職することになるのですが、会社側は「退職に伴い、社宅明渡しの意思表示はあったのだから住居への立ち入りは正当。郵便物も一時保管にすぎず判決には納得できない」とのこと(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。なお、会社側が同契約社員に対して「郵便物の一時預り」であることを明示していたかどうかは報じられていません。
同契約社員が国交省へ内部告発をしたのが昨年4月、元契約社員が入居していたアパマン管理の社宅から、同社が同契約社員宛郵便物を持ち出したのが昨年5月、ということで、内部告発者探しであった可能性は否めません。もしくは内部で通じている社員の有無を同社が調べたかった可能性もあります(判決文で事実を確認していませんので、あくまでも可能性、ということです)。宅建業法は、公益通報者保護法において(法令違反が)通報の対象とされている445本の法律のひとつなので、国交省への通報が「外部通報」に該当する可能性があります。そうなると、会社側にとっては「決して不利益処分ではない」と主張していても、(告発への報復という意味での)不利益処分の対象者探し・・・と推定されることにもつながります(会社側が反証しなければなりません)。したがって、(外部通報の要件を満たせば)内部告発者は同法によって保護されることになり、この告発者に対する事実上の不利益処分は企業側の違法行為になることがあります。
私は企業のリスク管理を支援する立場なので、こういったケースをみると、アパマンショップさんの内部通報制度がしっかりしていれば、もっと早く自浄能力を発揮できたのではないか、まずなによりも内部通報制度の充実を優先させるべきである、と考えるのですが、「それは企業側からの理屈であり、いくら内部通報制度を充実させても、事実上の不利益処分のおそれは変わらない。よって内部通報と外部通報を同じ要件で法改正をして外部通報をした者を今以上に保護すべきである」との意見も有力に唱えられています。もちろん、そういった方向の法制度になれば、どんなに営業秘密の保護要件を厳格にしても「企業情報の社外持ち出し」が正当行為とされる範囲は広がるでしょうし、通報対象事実も緩やかな要件で認められますし、なによりも内部告発者に対する会社の不利益処分への罰則も課されることになります(あくまでも法の理屈の問題ですが)。まさに公益通報者には「市場の番人・公益の番人」たる地位が付与されることになります。
今年6月1日から適用予定のコーポレートガバナンス・コードの第3章でも、内部通報制度の充実、内部通報者の保護制度の確立が原則として規定されています。「1500兆円の貯蓄をリスクマネーに振り向けるための企業のコンプライアンス経営」を実現するためには、内部通報制度を充実させるべきなのか、それとも内部告発(外部への通報制度)を公益通報者保護法で奨励させるべきなのか、費用対効果を厳密に検証する最近の行政手法の発想から、制度間競争させる、というのも一考かもしれません。
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