« 業務執行役員と非業務執行役員の区別は重要 | トップページ | 不祥事・重大事故の公表について企業が留意すべき3つの視点 »

2015年1月 8日 (木)

不祥事・重大事故の公表ルールは柔軟に作るべきである

食品への異物混入事件の報道が連日続いています。ついにスーパーで販売する「ひき肉」から金属の刃まで見つかるような事態になってますね(読売新聞ニュースはこちら)。なかでもマクドナルド社(日本マクドナルドホールディングス社)の異物混入事件は連日のように伝えられ、本日、取締役の方が謝罪会見を開きました。各社の対応をみていますと、異物混入の原因が不明であるだけでは公表も回収もせず、第三者機関で混入経路が判明し、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)等で騒がれ始めた場合には公表するといった対応が目立ちます。マクドナルド社の場合は公表ルールに沿って判断している、といったコメントがありました。

不祥事や重大事故が発生した場合、当該事件を世間に公表すべきかどうか迷うところです。企業にとって本当に悩ましい問題ですね。行政当局に報告するケース、刑事手続きが進行しているケース、被害が拡大するおそれのあるケース等、公表の要否を検討するにあたっては、状況を把握し、「社外の目」をもって判断しなければなりません。食品事故の場合、消費者の生命、身体の安全にかかわるものなので、とくに「社外の常識」で判断することは大切だと思います。誠実な企業ほど、自社製品に対する安全への自負がありますから、これが有事には裏目に出てしまうケースが目立ちます。

以下は私の個人的な意見ですが、公表の要否を判断する基準が必要ですが、その基準は原則主義で策定すべきであり、あまり詳細なものはかえって問題を悪化させるのではないかと考えています。毎度申し上げることですが、会社が有事となった場合、どんな誠実な役職員でも会社を守ろうとするバイアスが働きます。かならず、なにか言い訳をして「これは公表するほどでもない」と考えます。「当社が公表することで、取引先にも迷惑をかけてしまう」といった言い訳も聞こえてきます。タカタのリコール問題に対してホンダ社が「調査リコール」に踏みきるべきかどうか逡巡していたところ、社長が社外取締役から「消費者の視線で対応せよ」と一喝されて決心がついた、という話が昨年12月12日の日経新聞に掲載されていました。社内の常識で判断することが、後でいわゆる「不祥事隠し」のレッテルを貼られる要因となります。したがって、公表ルールをあらかじめ策定しておくことは、こういったバイアスを少しでも減らすために有効かと思います。

しかし、一方で公表ルールが詳細なものだと担当者が思考停止に陥ります。品質問題が生じた場合には公表するが、異物混入の場合には公表しない、といったルールについて、常にこのルールに従ってよいものではありません。たとえば単発的に事故が発生した場合であればよいとしても、すでに事故が公表され、世間から対応が注目されている中で、二度、三度と事故が続くようなケースでは、たとえルール上は公表は不要と判断されるものであったとしても、これを公表すべきです。ご承知のとおり、JR福知山線事故の後のJR西日本のATS作動問題、大阪エキスポランドにおける遊技機事故の後の、別の遊技機の故障問題など、平時であれば公表せずにすむ程度の事故であったとしても、世間の目が向いている時期に発生したからこそ、「不公表」の判断が世間から大きな非難を浴びました。

また、SNSで騒がれていたり、内部告発や内部通報によって第三者による公表のおそれがあるケースでは、自社で公表することが「事故隠し」と評価されないためにも望ましいと思います。これも「当社では不祥事は必ず起きる」といった思想から出発しなければむずかしいところですが、不祥事や事故を公表するためのルールを平時のリスク管理として検討し、有事には柔軟な対応が可能になるように策定することが望ましいのではないでしょうか。公表ルールの存在は、インサイダー取引等の法令違反を防止する効果もあるかもしれませんが、有事における自浄能力発揮のための意識高揚・・・といったところに主眼を置くほうがよいと思います。

|

« 業務執行役員と非業務執行役員の区別は重要 | トップページ | 不祥事・重大事故の公表について企業が留意すべき3つの視点 »

コメント

 今朝は、和光堂のコオロギ混入をテレビでやっておりました。私が知っているお弁当製造工場の製造管理の様子を見ていると、普通は虫の混入などありえないと思います。しかし、公認会計士の棚卸の立会いその他外部の人がスーツを着た上に白衣と帽子をかぶった程度で工場に入ることはあり得るわけで、そういう服に虫が一緒にくっついて工場に侵入するかも・・・みたいな可能性を考えれば、どのような食品工場でも10年に1件とかそういう確率では混入事故が起きてもおかしくはないかな?などと思ったりします。

 そういう確率での事故が起きたとして、原因究明も不可能ですし、保険所に届け出て、調査を受けても手間がかかるだけ。そして、ニュースリリースで報告しても風評被害を煽るだけ・・・という判断になって、隠そうという雰囲気になるのでしょう。

 対策としては、日頃からそういう事故は起きるという前提のもとに「こういうトラブルがありました。ただし、会社では日頃からこういう注意(具体的に記述する)をしていて、虫の混入は本来はありえません。そのため、機械の整備その他外部の人が工場の気密性を止める状態などの時に出入りしたときに一緒に工場に入った虫によるといった可能性などしか考えられず、この製品に限定された事故だと思われます。そのため、出荷停止等は致しません。」みたいな定型文を用意しておいて、自動的に近い形で開示できるようにしておくしかないのでしょうかね。

 数社続くと、そして、ネットで流行るとテレビ、新聞が大騒ぎするというのは、工場の品質管理よりメディアの品質管理が気になってきます。

投稿: ひろ | 2015年1月 8日 (木) 09時19分

『食品偽装に関する最近の事件では、2014年7月に報道された上海の食肉加工工場での使用期限偽装事件が記憶に新しい。この事件の影響からか、同工場と取引のあった「マクドナルド」は総合スコアを44.9から33.8へと大きく下げた。下げ幅11.1ポイントは、全160ブランド中、最大である。同じく取引のあった「ファミリーマート」も総合スコアを下げたが、下げ幅は3.1ポイントにとどまった(55.0から51.9)。食に関するブランドは、事件に巻き込まれると一気にブランド力を落とす。』

食の安全・安心企業ブランド調査2014-2015
http://consult.nikkeibp.co.jp/consult/news/2015/0105fs/#hyo03

投稿: 迷える会計士 | 2015年1月 8日 (木) 22時07分

ひろさん、迷える会計士さん、いつも有益なコメント、情報をありがとうございます。今日のエントリーでもひろさんのコメントの一部を参考にさせていただきました。私見は法令遵守の関係ではなく、ブランドイメージの関係からの意見ですが、これも立派な企業法務の話題です。ブランドイメージの視点といえば、これは異物混入という事実からなのか、それとも事故対応という事実からなのか、どっちの影響が大きいのでしょうかね。本件は世間的に非常に関心が高い話題なので企業法務という視点からではありますが、今後も注視していきたいと思います。

投稿: toshi | 2015年1月 9日 (金) 00時53分

原則すべて公表で、回収の所で詳細な基準を設けるのが良いのではないでしょうか?

多くの企業で毎日のように公表する事象が出るはずで、そのうち誰も騒がなくなります。公表=回収となっている現状を、きわめて問題のあるケース(例 違法添加物の混入とか毒物混入)は回収、虫混入は公表のみとすればあまり被害は大きくなりません。

投稿: 一投資家 | 2015年1月11日 (日) 00時58分

かなりご無沙汰しております。
公表すべきかどうかというべき論でいえば、すべてが公表すべとなるでしょう。そして公表しなければ、不公表をとがめたて、社会で企業不祥事を作りあげている、そういうケースも実際にはあるわけです。

もちろん公表=回収ではないですが、実質的に公表すれば、返品対応含めて種々の対応が余儀なくされる。回収するとなれば、範囲を広く取りますから、過剰回収になる。そうすると本来、リスクが高くないものまで回収し、破棄をすることになりますので、社会的損失は計り知れないケースもあります。重篤な健康被害の発生のリスクが少ないものまで過剰対応で回収した場合の社会的損失も金額で公表して、企業だけではなく、社会全体が不祥事は起こりうるもの=異物混入や事故は防ぎえないから、いちいち過剰な回収や公表を煽らないという社会教育も実施していかなければ、この問題は企業危機管理の枠組みのみでは対処できないと思います。

確かに企業側に問題があり、公表・回収すべきなのにしないというケースもありますから、それはそれできちんとその企業姿勢は糾弾されるべきですが、異物混入は、事象であって、すべて企業(メーカー)が悪いわけではないわけです。流通過程、保管過程、あるいは犯罪行為によっても異物混入の事象は生じうるわけでですから、異物混入があった場合は、当事者の申告を受けて、内容物を確認し、ただちに回収しなければ、甚大な被害が多くの消費者に生じると考えられるケースではすみやかに公表して、少なくとも注意喚起すべきですが、そうでなければ、まずは事実確認・調査を先行させることはおかしいわけでもなく、むしろ事実確認で混入経路がわからない段階で、なんでもかんでもメーカーが悪いから公表せよ、回収せよとう風潮ができていること自体が問題だと思います。

種々の対応を通じて、あるいは事象を見る中で、「事実確認・調査」「事態のリスク評価」のない段階で、公表するかしないか、異物混入=メーカーの責任か消費者の過失か等の二者択一の単純発想が、危機管理を誤る、あるいは不公表=企業不祥事を作り上げる要因になっているように思えてなりません。

回収に限らず、たとえば対策本部を立ち上げるか立ち上げないか、BCPを発動するかしないか、などのクライシス対応については、2者択一発想で進んでしまい、回収、対策本部立上、BCP発動など、非常に重たい判断を逡巡・躊躇するという実務上のジレンマを感じますので、事態発生=公表すべきかどうかという、リスク評価も事実確認もしていない段階での対応の在り方にかんする議論であるとすれば、かえって企業側の過剰反応を生み、製造中止等により買いたい商品がかえない、売れるものを破棄するという社会的損失の拡大を助長するように思います。公表すればしたで不祥事になり、しなければしないで不公表が不祥事になるわけですから、打つ手なしで板挟みになっている企業の実務担当者は少なくないではないでしょうか。

あえて物議をかもしそうな内容で申し訳ございません。

投稿: コンプロ | 2015年2月25日 (水) 01時24分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 不祥事・重大事故の公表ルールは柔軟に作るべきである:

« 業務執行役員と非業務執行役員の区別は重要 | トップページ | 不祥事・重大事故の公表について企業が留意すべき3つの視点 »