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2015年1月13日 (火)

JA全中改革-監事監査の重要性を忘れていませんか?

年明けから多くのブログ等で取り上げられているJA全中(全国農業協同組合中央会)の農協監査権限廃止問題ですが、全中の会計監査権限が廃止され、公認会計士監査に移行することだけが専ら話題になっています(たとえば毎日新聞ニュースはこちらです)。一方で業務監査権限も廃止されることになりそうですが、こちらはあまり話題になっていません(農林中金さんが外部監査としての業務監査権限を受け持つ、という報道もされています)。このあたり、やはり監事監査(監査役監査)というものが、世間では話題になりにくいことを如実に物語っていますね。

平成4年の農協法改正により、農協組織のガバナンスは会社法上の株式会社組織とほぼ同じようなものになりましたので、会社法上の監査役に匹敵する常勤監事(常勤監査役)、員外監事(社外監査役)さんが各農協にいらっしゃいます(もちろん規模にもよりますが・・・)。私は過去にいくつかの都道府県JA中央会のお手伝いをしたことがありますが、農協監事監査の指導なども熱心になさっておられて、これが廃止されると各農協の常勤監事さんはお困りになられるのではないかと懸念しております。農協さんの中にはコンプライアンス意識にやや問題がある理事さんがいらっしゃるところもありそうでして、監事さんのレベルが高いのであればよいのですが、そうでないところは外部監査としての中央会監査にも意義があると思います。

農協監事といえば、当ブログでも2009年にご紹介したとおり、監事さんの監査見逃し責任を厳格に認めた大原町農協事件最高裁判決が有名です。農協理事長の暴走を止められなかった監事さんの損害賠償責任を認めた判決(逆転判断)です。会社法上の監査役と同等の監査権限を有するものといえども、「監事とは何をしたらいいの?昨年までの恒例どおりに監査をしておけばいいの?」といった方もいらっしゃるので、最高裁判決は農協監査実務に一石を投じるものとなりました。ということで、各農協の監事の皆様にとっては全中の(指導を伴う)業務監査には(批判はあるものの)現実的には助かっていたのではないでしょうか。

今後、全中の業務監査が廃止されるとなると、監事監査は一体どうなるのでしょうか?会計監査を担当する公認会計士の方々も、監事さんと連携をする必要があると思いますが、はたして連携するだけの能力が監事さん方にあるかどうか・・・・・、農協ガバナンスの将来を真剣に検討しなければ、ただでさえ不祥事が多いところへ、今後ますます関係者の責任が問われるような金融不祥事が増える気がいたします。ぜひとも全中改革においては、会計監査だけでなく、今後の業務監査の行方にも注目していただきたいと思います。

1月 13, 2015 民事系 |

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コメント

いつも楽しく拝見しております。

1月9日NHKニュースより引用
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150109/k10014566741000.html

JA全中=全国農業協同組合中央会は地域の農協に対し、会計処理が適切か確かめる監査や経営の指導を法律に基づいて行っていますが、こうしたことが農協の自由度を狭める要因になっていると批判され、農協改革の焦点になっています。
これについて、西川農林水産大臣は「昭和20年代に非常に経営が行き詰まる農協がたくさん出たので、農協法を改正して全中に強制的な監査権限を与えたが、その後、合併が進み、農協として強制的な監査をやってもらうのは、目的は達成したと考えている」と述べ、JA全中が強制的に行う会計監査は役割を終えたという認識を示しました。
そのうえで、西川大臣は「改革は主体となる人がぶれたら話にならない。内閣で決めたことは変わらないという強い信念でやっている」と述べ、JA全中が反対している強制的な会計監査権限の撤廃など一連の改革を引き続き進めていく考えを強調しました。


農相に監査に対しての大きな誤解があるのではないかと感じます。
まず、監査が適法性の領分を弁えて行われているならば、適法である以上は自由な経営の阻害となるものではなく、逆にそれが阻害となっているのであれば、それは監査権限ではなく監査手法の問題であること。
次に、「経営が行き詰まったから監査が必要だった」というのは、監査を経営の効率や妥当性に関する指導と勘違いしているのではないか、ということ。
そして、弱さや迷いを持っている人間が組織を運営している以上、監査が役割を終えることは無く、むしろ求められるコンプライアンスのレベルが時代を追って強まっていく中で、これから監査に割くリソースを減らす意味について理解されていないのではないか、ということ。

制度改革の際には、必要性と許容性を十分に検討することが肝心であって、「内閣で決めたことは変わらない」などという結論ありきの姿勢はいかがなものかと思います。

投稿: 無銘 | 2015年1月14日 (水) 13時03分

無銘さん、ご意見ありがとうございます。私が存じ上げない情報等も含まれており、たいへん参考になります。
ところで日本農業新聞に八田先生のインタビュー記事が掲載されており、私もまったく同感です。監査をご存じの方であればこそのご意見かと。
http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31737

投稿: toshi | 2015年1月24日 (土) 20時01分

全農中央会の地域農協に対する監査権限の剥奪は、監査の名目で監査を越える経営指導をしてきたという実態に対する反省から出て来たものと理解しております。すなわち監査権限に基づくと称して半ば脅迫的に監査の域を越える経営指導が行われてきた、或いは今後も行われる懸念がある(少なくとも農協側からの印象としては)と言うことから発しているものだと思います。
また、農協の監査は何も特殊性に通じた中央会に任せる必要はなく、むしろ特殊性よりも一般的な基準に沿った会計処理を促す意味でも一般の会計士に任せれば良いと考えます。特殊性の主張こそ農協経営の健全性維持に反するもので、仮に特殊性があるのであれば、明示的に行政が指針を示すなどの措置がとられるべきと考えます。そうすれば一般の会計士で十分監査が可能であるはずです。

投稿: O.S. | 2015年1月24日 (土) 22時58分

監査権限の名目で監査を超える指導が行われ、それが経営の阻害となってきたのであれば、それは監査の方法の改善により解決すべき問題であると考えます。悪用される可能性があることを理由に道具そのものを取り上げてしまうというのは、悪用によるデメリットが通常使用のメリットを遥かに上回る場合の最終手段であり、そういった極論が結論ありきの状態で十分に検証されず、一気に最終段階まで進められることに深刻な危険性を感じます。

また、農協に限らず非営利法人の監事監査は、準拠法がそれぞれ異なることもあって必要的に特殊性を帯びるものです。「株式会社の監査役監査事例はおろか他法人の監事監査事例でさえ、自身の監査の参考として役立てるのは難しい」と感じている現役監事さんもいらっしゃるくらいです。
行政が指針を示すことは有益かと思いますが、示したからといって一般の会計士に任せれば大丈夫とは到底思えません。山口先生ご提示の八田先生コメント中の、業務監査に全中監査が占めてきた役割、業務監査に期待していく今後の方向性を踏まえるのであれば尚更です。

全中が主張する特殊性とは何なのか、農協の監事監査はどうあるべきなのか、一般の会計士に任せた場合のメリット・デメリットはどう予想されるのか、そういった検討を重ねた上で、十分な理由に基づき「やはり全中監査権限は不要である」という結論に至るのであれば、それは尊重されるべきです。
しかし、今回のやり方はドラスティックな改革を前面に押し出したいがゆえの暴挙としか見えません。監査権限を誤用した事例に基づく「権限があれば邪魔されるしなくても会計士でできるから廃止」という監事監査への誤解も、正しい論拠に基づかない決め付けで制度改革が強行されてしまう乱暴なプロセス自体も、深く憂慮しております。

投稿: 無銘 | 2015年1月26日 (月) 12時01分

 従前、政府系法人の監事の経験があり、現在は株式会社の監査役になっているものです。
 無銘さんの「正しい論拠に基づかない決め付けで制度改革が強行されてしまう乱暴なプロセス自体も、深く憂慮」というご意見に、感じるところもあり、私の意見を述べさせていただきたいと思います。
 個別法で設立された法人での理事会と会社法に言う取締役会の違いは、今回の会社法改正でも話題となった「監督」の有無であると思います。
 JA全中での個別法の内容は承知していませんが、取締役会が行う会社の業務執行の監督について、私のいた法人は、理事会の機能として保持していませんでした。法人の業務執行の監督は、法人定款の定めでも、監督官庁が行うもので、理事会は、業務執行のみを行うものでした。
 監督権限のない理事会では、実質、人事も予算も監督官庁の意のままに動かされているだけでありました。私が想像するJA全中は、この監督官庁である農林水産省が行う監督の代行機関ではなかったかと思います。5年ぐらい前に、日本監査役協会で、初めて非営利法人監事の勉強会が呼び掛けられ、これに参加した時の内容は農協への金融庁検査への対応が主な内容でした。
 私は、金融機能を持つ農協が、他の金融機関と同等の監査が行われるべきだという点では、会計監査機能が広く公認会計士により監査されるのは当然であると思いました。農協の子会社の監査役は、株主でもないJA全中の指導を受けるということを聞き、これは、非常に疑問に思いました。
 しかし、一方で、会計監査の基礎となる業務監査については、議論が尽くされていないのは残念な結果であるとも思います。個別農協の理事会が、法人の監督機能を保持できるような仕組みが担保されていないのであれば、今回の処置は、現場の混乱を招く恐れもあるように思います。この点では、無銘さんの危惧ももっともではないかと思う次第です。
 日本監査役協会での勉強会では、個別農協での理事でもない地元有力者の専横にどのように対応するかという話もうかがい、JA全中の指導を活用する必要があるようにも感じました。実態はわかりませんが、個別農協の監事は、今後仕事がえらく大変になると感じた次第です。会社法に準じて考えれば、個別農協理事会の監督機能の強化と監事の役割充実に向けた更なる取り組みが期待されるところであると思います。

投稿: 法律しろうと | 2015年2月12日 (木) 22時08分

無銘さん、法律しろうとさん、なるほど、有益なご意見ありがとうございます。次のエントリーに反映させていただきます。もうすこし理事会の監督機能については勉強させてください。

投稿: toshi | 2015年2月12日 (木) 22時26分

 ご無沙汰しております。中堅上場企業の監査をしておりますtonchanです。
 今回の件について少し私見を述べさせていただきます。実は私自身の最初の職場が系統(これは農協組織全体を指す用語です。単一農協から全中、嚢中を含みます。)でした。
 実際の現場レベルで考えるとある程度全国組織が作り提供した情報システムを利用しているはずですので、IT関係からのアプローチが必須だと思います。そのうえで各農協の特徴(立地条件、4事業のバランス、準組合員、員外利用の比率等)を把握した上での監査が求められるはずです。系統を離れて長いため現在の単協の状況には不案内ですが、外部の幹事が役割を果たすには少しハードルが高いかもしれません。その意味で都道府県による指導には一定の合理性が有るように思います。

 雑文となり申し訳ありません。ぜひ、一度山口先生とお会いしてこの件についてお話ししたいものです。

投稿: tonchan | 2015年2月19日 (木) 12時02分

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