東証はガバナンス・コードにおける説明理由の実質的判断権を有するのか?
2月24日、東京証券取引所は「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について」と題するパブコメ案を公表しました。マスコミでは「独立社外取締役」を2人以上選任することなどを促す新しい上場規則を発表した、と報じられているものです(たとえば詳しく報じるものとしては毎日新聞ニュースなど)。
有価証券上場規程第4章第4節「企業行動規範」のうち「遵守すべき事項」とされるものは、各上場会社が「コード」を実施しない場合の理由の開示、および実施にあたってとくに説明が求められる事項の開示に関するもの、とされています。また、「遵守が望まれる事項」とされるものは、コードの精神、趣旨の尊重ということで、これまでの有価証券上場規程445条の3が改正される模様です。つまりコーポレートガバナンス・コード自体は遵守するかどうかは各上場会社に任されますが(ただし遵守が望ましい)、もし遵守しない場合にはその理由を説明しなければならない、遵守する場合でも特に定められた事項については説明しなければならない、といったコンプライ・オア・エクスプレインの規定ぶりになっています。
留意すべきは、各上場会社があえて「コードを遵守しない」ことを選択した場合ですね。理由の説明は「遵守すべき事項」として上場規則に規定されていますので、もしコードを実施しない理由が説明されていないと東証が認めた場合には、上場規程に基づいて公表や特設注意市場銘柄への指定、改善報告書の提出、上場契約違約金処分などの措置がとられる可能性があります。
しかし、東証1部、2部上場会社に適用されるところのコード(12月の考え方案)原則4-8を例にとりますと、社外取締役を2名選任しない理由を全く記載していないケースであれば明らかですが、記載内容が不十分であったり、虚偽記載と認められる場合、またはコードの趣旨・精神から逸脱した理由であるなど、理由に客観的な合理性がない場合も「遵守すべき事項に反した」として東証は措置発動に踏み切るのでしょうか?そこまで東証さんが審査をすることになれば、これは東証さんにとってたいへんな負担ではないかと。
また、そもそもコードはプリンシプルベースで策定されていますので、会社法とは異なり、状況に応じて迅速に変更されてしかるべきものです。そのような原則規定について、ある一時点における開示内容だけに焦点を当てて東証さんの措置発動に及ぶというのはプリンシプルの趣旨に反するものであり、それこそ措置発動のためには時間軸をもって「コードの趣旨、精神を理解するための東証さんとの対話」が必要になるのではないでしょうか。
さらに、東証さんの発動する措置というのは市場の健全性確保のため、ということであれば「守りのガバナンス」の実効性を確保することとは親和性がありますが、今回のように「攻めのガバナンス」の実効性を確保するために必要なものなのでしょうか?(どうも私はこのあたりに違和感をおぼえます)このあたりはどなたかがコメントとして東証さんに疑問を呈されるものと予想されますので、今後「東証の考え方」が公表されることを期待しております。
東証さんは、昨年10月に(不公正ファイナンス対策として)「エクイティファイナンスのプリンシプル」を公表し、時間軸をもった対話を前提として市場の健全性確保を図るための施策を打ち出しました。不公正ファイナンスに限定するのであれば「あるべきエクイティファイナンスの在り方」を個々の上場会社と対話をしながら検討することもできそうですが、上場会社すべてに適用されるガバナンス・コードの実効性確保のために、各企業と対話を継続することは至難の業ではないでしょうか。そうだとすれば、「コードを実施しない場合の理由」の適正性についても、原則としては株主による評価や判断にゆだねるものとして、まさに市場の健全性を害するおそれの高い開示がなされたような場合に限定して「実効性を確保するための措置」が発動されるのではないかと予想しております(あくまでも私個人の予想です)。
個々の上場会社が尊重すべき「コーポレートガバナンスコード」の本案は、おそらく3月に公表されることになると思いますが、このように上場規則案が公表されてみると、ガバナンス報告書の提出猶予期間が認められたものの、各上場会社にとって結構シビアな準備が必要になるのだなぁと感じます。また、「コード遵守に関する会社の姿勢は株主との対話に委ねられる」とはいうものの、最近の旬刊商事法務の連載論文やプロキシーアクセスに関する こちらの産経新聞の記事などを読みますと、「株主との対話」というものも、そんなに悠長に構えていられるものでもないなぁ、と懸念するところです。
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