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2015年2月27日 (金)

「企業の内部統制システム見直しの視点」セミナー開催のお知らせ(東京・大阪)

海遊館セクハラ社員降格事件最高裁判決(金築裁判長ですね)、日本郵便23条照会損害賠償判決、某上場会社のお家騒動事件など、ブログネタ満載の金曜日ですが、本日はひさしぶりのセミナーのお知らせでございます。

ここのところ、社員様向けの公開セミナーはほとんどやっておりませんでしたが、このたびレクシスネクシスさんの主催セミナーにてお話をさせていただくことになりました。東京および大阪の2回講演でございます(大阪4月16日、東京4月22日。なお詳細は以下のとおりです)。

内部統制システム見直しの視点(セミナー)のお知らせ(レクシスさんのHP)

会社法および会社法施行規則の改正、コーポレートガバナンス・コードの制定など、各社の内部統制システムのあり方に大きな影響を与える動きが相次いで起こっています。こうした状況に対応すべく、グループ会社の管理体制をどう見直すべきでしょうか。また監査の実効性確保のために何ができるでしょうか。さらに、今後、社会の変化にあわせて企業はどのような点を見直していくべきなのでしょうか。内部統制システムの構築・運用に詳しい、山口利昭弁護士に具体的にお話しいただきます。

レクシスネクシスさんといえば、拙著「ビジネス法務からみた会社法改正のグレーゾーン」を出版していただきまして、出版に併せて昨年10月に記念講演会をやりましょう!という段取りになっておりました。しかしながら、ご承知のとおり、私が入院をして1カ月お休みをいたしましたので、記念講演会は延期となり、多方面にご迷惑をおかけした次第です。

その記念講演会をようやく開催できることになりました。なんといいましても、感謝の意を込めまして「無料セミナー」でございます<m(__)m>。無料だからといって決して「手抜き」はいたしません(あたりまえですが・・・)。もちろん企業のリスク管理にご関心のある同業者の方々(組織内弁護士の方々を含め)のご参加も大歓迎でございます。

プログラムは、① 社会の変化に対応した内部統制システムの構築に向けて ② プリンシプル時代における内部統制システムの運用―そのチェックと開示 ③期待される内部監査部門と監査役スタッフの役割 ④グループ経営管理に向けた企業集団内部統制の活用 ⑤ 不正リスクの管理は未然防止から早期発見の手法へ、というあたりの内容です。ただ、せっかくの社員様向けセミナーですから、ちょっとむずかしいと思われている改正会社法および改正会社法施行規則の適用開始時期に関する解説と、コーポレートガバナンス・コードと東証上場規則との関係等の解説も併せて行いたいと思っています。

ちなみに、セミナーの流れをダイジェスト版として、レクシスさんの法律雑誌「ビジネスロージャーナル」の5月号(3月21日発売予定)に論稿として掲載いただくことを予定しております。当日お越しになれない方には、そちらの論稿をご参考いただきたいと思います。大阪、東京とも定員100名様(応募が多ければ抽選だそうで・・・まぁ、それはないと思いますが)ということで、お時間が合います方はぜひご参集くださいませ。<m(__)m>

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2015年2月26日 (木)

東証はガバナンス・コードにおける説明理由の実質的判断権を有するのか?

2月24日、東京証券取引所は「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について」と題するパブコメ案を公表しました。マスコミでは「独立社外取締役」を2人以上選任することなどを促す新しい上場規則を発表した、と報じられているものです(たとえば詳しく報じるものとしては毎日新聞ニュースなど)。

有価証券上場規程第4章第4節「企業行動規範」のうち「遵守すべき事項」とされるものは、各上場会社が「コード」を実施しない場合の理由の開示、および実施にあたってとくに説明が求められる事項の開示に関するもの、とされています。また、「遵守が望まれる事項」とされるものは、コードの精神、趣旨の尊重ということで、これまでの有価証券上場規程445条の3が改正される模様です。つまりコーポレートガバナンス・コード自体は遵守するかどうかは各上場会社に任されますが(ただし遵守が望ましい)、もし遵守しない場合にはその理由を説明しなければならない、遵守する場合でも特に定められた事項については説明しなければならない、といったコンプライ・オア・エクスプレインの規定ぶりになっています。

留意すべきは、各上場会社があえて「コードを遵守しない」ことを選択した場合ですね。理由の説明は「遵守すべき事項」として上場規則に規定されていますので、もしコードを実施しない理由が説明されていないと東証が認めた場合には、上場規程に基づいて公表や特設注意市場銘柄への指定、改善報告書の提出、上場契約違約金処分などの措置がとられる可能性があります。

しかし、東証1部、2部上場会社に適用されるところのコード(12月の考え方案)原則4-8を例にとりますと、社外取締役を2名選任しない理由を全く記載していないケースであれば明らかですが、記載内容が不十分であったり、虚偽記載と認められる場合、またはコードの趣旨・精神から逸脱した理由であるなど、理由に客観的な合理性がない場合も「遵守すべき事項に反した」として東証は措置発動に踏み切るのでしょうか?そこまで東証さんが審査をすることになれば、これは東証さんにとってたいへんな負担ではないかと。

また、そもそもコードはプリンシプルベースで策定されていますので、会社法とは異なり、状況に応じて迅速に変更されてしかるべきものです。そのような原則規定について、ある一時点における開示内容だけに焦点を当てて東証さんの措置発動に及ぶというのはプリンシプルの趣旨に反するものであり、それこそ措置発動のためには時間軸をもって「コードの趣旨、精神を理解するための東証さんとの対話」が必要になるのではないでしょうか。

さらに、東証さんの発動する措置というのは市場の健全性確保のため、ということであれば「守りのガバナンス」の実効性を確保することとは親和性がありますが、今回のように「攻めのガバナンス」の実効性を確保するために必要なものなのでしょうか?(どうも私はこのあたりに違和感をおぼえます)このあたりはどなたかがコメントとして東証さんに疑問を呈されるものと予想されますので、今後「東証の考え方」が公表されることを期待しております。

東証さんは、昨年10月に(不公正ファイナンス対策として)「エクイティファイナンスのプリンシプル」を公表し、時間軸をもった対話を前提として市場の健全性確保を図るための施策を打ち出しました。不公正ファイナンスに限定するのであれば「あるべきエクイティファイナンスの在り方」を個々の上場会社と対話をしながら検討することもできそうですが、上場会社すべてに適用されるガバナンス・コードの実効性確保のために、各企業と対話を継続することは至難の業ではないでしょうか。そうだとすれば、「コードを実施しない場合の理由」の適正性についても、原則としては株主による評価や判断にゆだねるものとして、まさに市場の健全性を害するおそれの高い開示がなされたような場合に限定して「実効性を確保するための措置」が発動されるのではないかと予想しております(あくまでも私個人の予想です)。

個々の上場会社が尊重すべき「コーポレートガバナンスコード」の本案は、おそらく3月に公表されることになると思いますが、このように上場規則案が公表されてみると、ガバナンス報告書の提出猶予期間が認められたものの、各上場会社にとって結構シビアな準備が必要になるのだなぁと感じます。また、「コード遵守に関する会社の姿勢は株主との対話に委ねられる」とはいうものの、最近の旬刊商事法務の連載論文やプロキシーアクセスに関する こちらの産経新聞の記事などを読みますと、「株主との対話」というものも、そんなに悠長に構えていられるものでもないなぁ、と懸念するところです。

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2015年2月24日 (火)

アートネイチャー株主代表訴訟最高裁判決の原審破棄理由

先週金曜日に出ましたアートネイチャー事件株主代表訴訟最高裁判決につきまして(金曜日のエントリーでは社名は伏せておりましたが)匿名さんや迷える会計士さんから有益なコメントをいただきました(ありがとうございます)。迷える会計士さんからは非公開企業の株式評価手法に関するご意見ですが、匿名さんは「そもそも論」として以下のような疑問を呈されています。

今回の最高裁の判決で一番良くわからないのは、破棄された理由が、法令解釈上の問題に全く見えないことです。実質的に事実認定の問題であり、下級審の判断に著しく不合理な部分があるという感じもしません。一応合理的な算定を会社が行なった形跡があれば、実質的に見て価格が不公正であっても、特に有利な価格であると認定してならないとかいう趣旨の法令解釈を判例として残したかったのでしょうか?

私は印象として「お天道様と最高裁は見ている」と書きましたが、正直、理屈としてはあまり詰めて考えておりません(というか、そこまで考える能力がありません・・・笑)。これはあくまでも推論にすぎませんが、民事訴訟においては当事者の鑑定申立(証拠提出)がないにもかかわらず裁判所主導で評価手法を決定して非公開株式の価格を算定する、というのは手続き違反に該当するというものではないかと。職権探知主義が妥当するのは株式の価格決定申立事件のような「非訟事件」のみであり、通常の民事訴訟の証拠採用においては裁判所の職権探知主義的判断は許されないという趣旨かと思いました。最高裁が下級審の株式価格の判断過程に対して厳しい指摘をしている部分の書きぶりから、なんとなくそう考えた次第です。

「特に有利な発行価格」という規範的要件の解釈としては、双方の評価根拠事実、評価障害事実を突き合わせて判断しなければ、裁判所のいうように当事者の「予測可能性」を超える判断をしてしまうことになるので、「一応合理性のある資料に基づくものであれば」といった言い回しになっているのかな・・・と思うのですが、いかがでしょうか。したがって、この「一応合理性のある資料」に基づく算定がなされたとしても、相手方が別途意見書を提出することや、当時の状況を主張することで(たとえば、迷える会計士さんがコメントされているように、ひょっとしたら株式発行当時、関係者らは株価上昇予測が立てられた、関係者からみて実質的に不公正な価格だと疑う余地があった、という主張などによって)反論することは可能ではないかと。結局のところ反論が成功しなかったということは、私が金曜日のエントリーで述べたように、役員側がコンプライアンス経営、透明性ある経営を継続することの重要性に起因するものと考えた次第です。

毎度判例を速報としてご紹介する際に、理屈のところをあまりブログで書かないのは、今後の商法学者の皆様の判例評釈などを精査しないと正確なことは言えないと思っているからでして、今回の推論も、あくまでも私の個人的な意見にすぎません。いろいろな法律雑誌で著名な先生方がどのように分析されるのか、私自身も楽しみにしています。

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2015年2月23日 (月)

常勤監査役の責任限定契約締結は監査の実効性を上げるか?

監査等委員会設置会社への移行を表明した上場会社が順調に増えているようでして、20日現在で(私の知る限り)合計9社に上っています。サントリー食品インターナショナルさんのように、サントリーホールディングスや寿不動産という非上場親会社が存在することから、「うちの会社は決して親会社のほうを向いて事業をしておりません!一般株主のために事業をしていることを、監査等委員会設置会社に移行することで表明いたします!」と明確なストーリーを打ち出すところも今後出てくるのではないでしょうか。

さて、監査等委員会設置会社やコーポレートガバナンス・コードをとりまとめた東証上場規則案などが話題になっていますが、2月20日、JASDAQの共同ピーアールさんが常勤監査役の責任限定契約締結を可能とする定款変更議案を3月総会に上程することを表明しています(共同PR社のリリースはこちらです)。社外監査役さんが責任限定契約を締結できるところは多くの会社と同様だったと思いますが、このたびの会社法改正に合わせて、被業務執行役員については社内の常勤監査役さんでも責任限定契約が締結できるように同社の定款を変更されるそうです(もちろん株主さんの賛同が条件ですが)。

リリースを読むと、「取締役及び監査役が期待される役割を十分に発揮できるよう」責任限定契約を締結したい、とのこと。たとえば会長のような被業務執行取締役さんや、常勤監査役さん等が対象となるようです。常勤監査役さんの責任限定契約を認める定款変更議案はおそらく第1号ではないでしょうか。なお、このたびの改正会社法、改正会社法施行規則では、当該企業が監査役監査をどの程度重視しているか、という点について試金石となりそうな開示項目もありますので、今後の上場会社のリリースには要注意です。

この常勤監査役さんに認められる責任限定契約ですが、多くの監査役の方々が支持されているかどうかは明確ではないと思います。いま、私は日本監査役協会の講演で全国を回っている最中でして、この「責任限定契約」について意見をお聞きすることもあるのですが、この共同ピーアールさんのリリースにあるように「監査役に本来的に認められた権限を行使するためには効果的。監査環境の整備につながる」というご意見もあれば、ぎゃくに「監査役が責任ある立場からモノを言うからこそ社長が意見を真摯に聞き入れてくれる。責任が限定されているということであれば、言いっぱなしと思われてしまう」というご意見もあります。

なるほど、監査役さんの中でも意見が分かれているのだなぁと意外に思いました。ただ社外役員の責任限定契約とは異なり、会長さんや常勤監査役さんの責任限定契約締結を会社側が提案することについては、経営執行部が「監査」や「執行と監督の分離」の重要性について関心を抱いていることの証左でもあります。したがって対外的にストーリーを示す、という意味ではかなりインパクトはあるのではないでしょうか。監査等委員会設置会社への移行・・・という「監督重視」のインパクトはないかもしれませんが、取締役会の責務をどう考えているのか、経営陣のメッセージとしての意味がうかがわれますので、今後同様の定款変更議案がどれくらい出てくるのか、こちらも注目しておきたいと思います(実際に、このような責任限定契約を締結された監査役さんにとって、どの程度、契約の存在が監査業務への姿勢に影響を及ぼすのか、またお聞きしてみたいところです)。

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2015年2月20日 (金)

お天道様と最高裁はみている-ある最高裁判決への雑感

本日(2月19日)、会社法に関連する重要な最高裁判決が二つ出ました。どちらもたいへん興味があるもので、また追っていろいろと検討したいと思うのですが、株主代表訴訟のほうについて本日はざっと判決文を読んだだけでして、雑駁な印象だけ述べておきたいと思います(最高裁のHPでいずれの判決も閲覧できます)。

日本システム技術損害賠償事件の最高裁判決(逆転で会社経営者側が勝訴した判決)でも感じましたが、お天道様と最高裁はよく見ているなぁと。行政、民事、刑事事件と異なり、商事事件というのは(最高裁裁判官にとって)あまり記憶に残らない分野の事件だと思うのですが(あくまでも私見です)、かなり丁寧に事案をみておられる印象です。

平成17年改正会社法が施行され、会社法関連の裁判当事者として大規模な企業が登場するようになりました。大規模な企業が訴訟で最後まで争うとなりますと、判決や決定の社会的影響を無視することはできなくなり、裁判所も判決の影響力に(これまで以上に)配慮しなければなりません。

そうなると、考えられることは、事例の特殊性を前面に出して「こういった事情があるから今回はこっちを勝たせた」といえるようにすること(一般的な法理のようなものは使わない)。そしてもうひとつは下級審で認定された事実を再検証したうえで「まじめに商売をしている人」が泣かない裁判を出すこと(企業法務で著名な法律事務所が登場したり、著名な弁護士が出てきて黒を白に変えてくれる、ということがあってはならない)ということです。

本件についていえば、たしかに論点は「非公開会社株式の割当価格が有利発行にあたるかどうか」ということですが、有利発行に該当する資料に何を使ったか、どのような計算方法を用いたか、平均の時価評価はどの程度であったか、ということよりも、時系列に沿って事実を再検証したうえで、会社が苦しくて、明日はどうなるかわからない状況でも、メインバンクに頭を下げて、従業員になんとか給与を払って、なんとか会社を支えていこうと努力している人たちには、その努力に報いるべく、その努力の経過を評価しようというのが最高裁の姿勢ではないかと。

何か紛争が勃発して、その後、優秀な弁護士が登場してビジネスの経過を無視して証拠をそろえてみても無駄、ということであり、ひごろからコンプライアンス経営を積み重ね、企業の持続的な成長のために経済的合理性のある行動を重ねている企業が勝てる司法制度であってほしいと思います。「予測可能性」という言葉が判決に登場しますが、結果の重大性から過失を認定したり、後日、会社が成功したから非公開株式の評価額を算定する、というのは後出しジャンケンの発想かもしれません(自戒をこめて)。

日本システム技術事件の最高裁逆転判決のときも、内部統制システム構築義務に関心を抱き、地裁や高裁判断を支持していた私にとっては、その結末に頭を殴られるほどの衝撃を受けました。上場会社の社長さんが「財務報告の内部統制」にどれほどの関心を持ち、その時代に上場会社の社長さんがリスク管理として自ら対策をとれる範囲は「この程度」と丁寧な事実認定のうえで社長さんの言い分を通した最高裁判決に、丁寧な事実認定と「日頃の行い」の大切さを再認識しました。もちろんビジネスの世界のことですから、リスクを背負うべき人はリスクを背負わなければならないので、一方がまじめでもう一方がふまじめといった割り切りではなく、あくまでも冷徹なバランス評価の問題です(そういった意味で、福岡魚市場株主代表訴訟の最高裁判決も、私はどっちに転んでもおかしくなかったのでは、と思っています)。

拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法のグレーゾーン」の第一章でも書きましたが、企業が会社法を活用することによって紛争を回避できるためには(つまり事業コストを下げるためには)、まじめな企業が行動予測が立てられる法律でなければならないわけで、会社法の行為規範、開示規範を誠実に守り、説明義務をきちんと尽くしている企業(もしくは関係者)が勝てることを、司法の側面から支援できるものでなければならないと思います。ステークホルダーに対して「公正で透明性ある経営を続けている」と胸を張れる企業に対して「お天道様はみている」といえる司法制度が求められているのではないでしょうか。

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2015年2月19日 (木)

大塚家具支配権争いにみる「社長解任の極意」

大塚家具さんの親子間における支配権争いが一般紙が報じるほどに話題になっています。現在進行形の事件なので、法務に関わる論点を語ることは控えますが、昨年出版した拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法改正のグレーゾーン」の第6章「社長解任の極意」で述べたことが、そのまま現実化した典型例かと思われます。以下、拙著でポイントとして書いた順に述べますと、

まず「資産運用会社」をどちらが牛耳れるか・・・という問題です。本事件でも、保有株式数は10%程度と小さいものの、創業家一族が株主となっている資産保有会社(ききょう企画)の経営権をどちらが握っているか、という点がポイントです。現社長の両親とお兄さんVS現社長とその妹、弟らという構図だそうですが、なかには大塚家具の仕事とは全く無縁なところで過ごしておられる家族もいらっしゃるでしょうから、このあたりは流動的ではないかなと。あまりマスコミが触れていませんが、実はこういった資産運用会社の支配権をどちらが握るかということが極めて重要だったりします。

つぎにファンドの存在です。アメリカのファンドが大塚家具の株式を買い増して、約10%を保有しているとのことですから、このファンドがどちらにつくか・・・ということがポイントです。報道では現社長側を支援しているということですが、それこそ「株主との対話」の時代、ファンドとしては(会社側に)要求を受け入れされる恰好の場面です。そういえば、最近、上場会社における支配権争いが表面化した場合、どこかともなくアクティブファンドが買い増しをしている、といった例が多くなったような気がします。

さらに「社外取締役の活躍」です。拙著では「社外取締役が取締役会議長を務めることの影響」について書きましたが、大塚家具さんの件では、現経営者を創業者がいったん解任したとき、現経営者に近い社外取締役さんが取締役会を取り仕切ったそうです(東洋経済WEBの記事による)。ただ、今回は社外取締役さんは辞任の意向を示しているようなので、このあたりの影響も出てくるのではないでしょうか。

また、拙著ではメインバンクや監督官庁、顧問や相談役不在ということが支配権争いを誘発すると書きましたが、大塚家具さんのケースでも、そもそも創業者が当事者ですから、そういった「村の長老」による円満解決は期待できません。

そして最後に「株主総会の活性化」です。取締役会を舞台に社長解任劇が増えるのは、実は株主総会を舞台とした支配権争いの事例が増えたことによると思います。関連書類の閲覧請求権行使、臨時株主総会許可申立て、委任状争奪戦や株主提案行使、ホワイトナイトによる経営陣支援、とりわけ昨年の10月には第三者割当増資が「主要目的ルール」の法理によって裁判所で差し止められる事件まで出てきました。こういった株主総会でのドンパチの法的効果が取締役会におけるドンパチの帰趨にも影響が出てきていると推測します。

典型例と書きましたが、社長解任事件の支援は結構むずかしいのです。状況がコロコロ変わりますと、その状況に応じた対応策を検討しなければなりません。おそらく大塚家具さんの事件でも危機対応コンサルタントの方々が(弁護士とは別に)支援されているものと思います。いずれにしても、上場会社の支配権争いが表面化することは企業価値の毀損につながってしまうので、ひっそりと企業内で行われ、何事もなかったかのようにクーデターが鎮圧されてしまうか、もしくは取締役会の直前に決着して(経営者が)「一身上の都合により辞任」として開示されるのがベストプラクティスかと。

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2015年2月17日 (火)

募集株式の有利発行決議の際の理由説明と決議の瑕疵

2月12日、ファッション通販の夢展望さん(東証マザーズ)が支配権の移動(0%→73%)を伴う第三者割当を実施することをリリースされています(リリースはこちらです)。同社を子会社化するのは、あのライザップのCMで有名な健康コーポレーションさんだそうです。今後の業務提携のシナジー効果や株価の帰趨はよくわかりませんが、2月10日の終値が600円程度だったのが、割当価格は192円ということで、かなりのディスカウント価格です。当然、現株式の価値を希薄化するものなので募集株式の有利発行に該当し、3月30日に開催される臨時株主総会で特別決議をもって承認されることが条件となります(会社法201条1項、同199条3項)。

募集株式の有利発行といえば、発行金額が「特に有利な発行価格」にあたるかどうか、という論点が有名ですが、有利発行に当たる場合には、株主総会で取締役が「当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由」を説明しなければなりません。そこで、たとえ決議が成立したとしても、この「理由」が客観的にみて合理性がない場合には株主総会の決議の取消事由となるかどうか、という論点があります。平成26年改正会社法372条の2(特定監査役会設置会社が社外取締役を置かない場合の理由の開示)に近い規定といえそうです。

この論点について(旧商法の時代ですが)鈴木・竹内「会社法(第三版)」(有斐閣)397頁以下では、

この必要とする理由の有無は株主総会の判断に任された問題であり、理由の開示は株主がその有利発行についての賛否を決する判断材料を提供するためである。したがって、理由を開示しなかった場合、有利発行に賛成するかどうかを判断するのに必要と思われる程度の開示がなかった場合、または事実と異なる開示がなされその結果決議の賛否に影響を及ぼす可能性がある場合には、決議取消の原因となると解すべきであるが、それ以上に進んで開示された理由が客観的にみて合理性のあるものでなければ決議取消の原因となると解するのは妥当でない

とされています(江頭先生も、割当第三者が議決権を行使しない状況を前提とすれば、ほぼ同様の見解かと)。なお、田中誠二先生は開示された理由が客観的合理性を欠く場合には決議取消原因となるとしており、そのほか、取消原因にはならないが、取締役の責任問題を生じるとする説もあります。

そもそも有利発行をしなければならない状況がある中で、「客観的合理性」の有無にどこまで司法が介入できるのか、という素朴な疑問もありますが(この状況では会社と取締役の間に利益相反構造があるとは言えないと思います)、上記の鈴木・竹内の見解を前提とした場合、「理由の開示はなんでもあり」というわけにもいかないような気がします。20年前と現在とでは、開示内容や開示方法も変わりましたが、それでも争いようによっては、「株主が賛否の判断を行うに足りる説明がなされなかった」とか「説明内容に虚偽記載があった」との理由で決議取消訴訟を提起する、ということも考えられそうです。ただ、有利発行による第三者割当を受け入れなければ債務超過となり上場廃止のおそれあり、といった状況が明らかとなりますと、既存株主側に争うための十分なメリットが必要ですね。

いずれにしても、このような状況において、夢展望さん側の情報開示の真実性や説明の十分性には慎重な配慮が必要ですね。

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2015年2月13日 (金)

ツルハHD子会社不正にみる企業集団内部統制のむずかしさ

一昨日、調剤大手ツルハホールディングス社(東証1部)の連結子会社である「くすりの福太郎」において、17万件に及ぶ薬剤服用歴未記載事件が発覚したことが報じられましたが、記事を読んでいて、なんとなく解せない点がありました。子会社による社内調査で当事件が判明したのが平成25年3月であるにもかかわらず、どうしてその2年後の今年2月になって公表したのだろうか?という点です。おそらく誰でも素朴な疑問が抱くにもかかわらず、どこのマスコミも、この点を報じたものはありませんでした。

そして今朝(2月12日)の朝日新聞ニュース(記事はこちら)と12日付けのツルハHD社のリリースによって疑問はほぼ解消できたように思います。つまり、「福太郎」の元薬剤師の方が3年前から行政当局等に内部告発をしており、その後の内部通報(もしくは厚労省からの調査要請)等を契機に福太郎側では本件について社内調査をしていました。そして、平成25年3月の時点で薬剤服用歴未記載の事実を「福太郎」側は把握していたにもかかわらず、この事実を当局にも親会社であるツルハ社にも報告していなかったようです。(ここからは推測ですが)おそらく事態が何も動かないことから、告発をされた元薬剤師の方は、今度は朝日新聞に告発を行い、記者からツルハへ質問状が届き、親会社が確認したところ今回の公表に至ったものと思われます。

私は本日(12日)、日本監査役協会(関西支部)にて講演をさせていただきましたが、企業集団内部統制の話の中で、子会社不正の発生可能性について述べました。子会社経営の独立性を尊重する場合には人事を滞留させることが、そしてグループ経営の効率性を上げるために親会社のオペレーションを重視する場合には子会社担当者の能力不足によりブラックボックスを作ってしまうことが、それぞれ不正の温床になる(不祥事の発生可能性を高める)と解説させていただきました。本件では「福太郎」の薬剤師の方々が、ツルハから導入されたオペレーションを使いこなせなかったことが薬剤服用歴未記載の主な原因だったそうで(たとえばWSJの記事参照)、まさに「一次不祥事」としての子会社不正の発生する典型例ではないかと思います。

本件は診療報酬の過大請求に該当するというものであり、「福太郎」の不正はかなり問題だと思いますが、親会社が子会社不正を把握することが容易でないことも浮き彫りになりました。薬剤服用歴未記載という点、その状況における報酬請求という点も問題ですが、なによりも元薬剤師の告発があったにもかかわらず、不正を親会社に報告していなかった点であり、これは典型的な「二次不祥事」です。一次不祥事だけであれば「社員による不正」で済むところですが、把握していた不正を報告していなかったとなると、「組織による不正」と評価されることになり、その社会的評価を毀損してしまいます(ちなみに福太郎の社長さんは引責辞任されるようです)。ツルハHDは他業種との提携によって事業展開をされる予定だそうですが、このような不正が発生することで、事業展開に影響が出ることも予想されます。

このたびの会社法改正において、企業集団における内部統制システムの整備・運用が(多重代表訴訟の適用範囲の制限によって)大きな課題とされていますが、とりわけ子会社社員による親会社に対する報告体制の整備・運用への取り組みが開示されることになります(たとえば改正会社法施行規則100条1項5号イ、同条3項4号ロ、同118条2号等)。本件でもし「福太郎」の元薬剤師の方が、親会社へ直接告発するルートが確立していたのであれば、もっと早くツルハHDが福太郎で発生した問題を把握することができた可能性がありますし、さらに言えば、そのような体制が確立していれば早期に福太郎自身が動いていたかもしれません。

ツルハHDの会見によると、福太郎は誠実な事業活動が特色ということで、このような問題を起こすとは思っていなかったとのこと。しかし誠実な企業だからこそ、親会社に子会社不正を報告することには前向きになれないわけでして、企業集団としての体制整備が求められます。それにしても、毎度申し上げることながら、不祥事を把握した経営トップはどうしても不祥事を隠ぺいしたいと考え「バレない」ことに賭けてしまいます。社長だけでなく、経営陣も冷静な判断ができない傾向があるようです。今回の例が典型的ですが、告発者が存在する以上、不正はかならず発覚します。たとえ厚労省の動きがにぶくても、マスコミ等は確証を得た場合には速やかに対応します。バイアスで頭がいっぱいになってしまった経営者に、冷静なリスク管理を語る人がどうしても必要だと痛感します。

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2015年2月12日 (木)

エンゲージメントの重要性は「株主との対話」だけではない

みずほフィナンシャルグループ、りそなホールディングスに続き、三菱UFJフィナンシャルグループも委員会設置会社(改正会社法では「指名委員会等設置会社」)に移行されるようです。また、1月終わりには2社だった「監査等委員会設置会社」への移行予定を表明した会社も、2月10日現在は5社(バイテック、アンリツ、岩塚製菓、コスモ石油、ジャフコ)となり、今後もガバナンス改革を実践する会社が増えそうです。

昨今のガバナンス改革では、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの適用のもと、「株主との責任ある対話」が求められていますが、対話が求められるのはなにも株主との間だけではありません。たとえば先の金融機関のガバナンスは「金融庁との建設的な対話によるガバナンス強化」が「平成26事業年度金融モニタリング基本方針」の中で明記されていますし、また日本証券取引所自主規制法人が昨年12月に公表した「エクイティファイナンスのプリンシプル」のはしがきにも、エクイティファイナンスの品質向上に向けて、プリンシプルを採用することで上場会社と証券取引所との対話が可能となる、と述べられています。

要は、仕組みの善し悪しを評価するガバナンスから、運用の善し悪しを評価するガバナンスへと転換するのであれば、望ましい方向へと企業を動かす方策としてプリンシプル(原則主義)と対話(時間軸)を活用する、ということでしょうか。ルールへの適合は得意でも、プリンシプルへの適合はあまり得意でない日本企業にとって、望ましい方向性を関係者との対話の中で構築していこうといったところかと。したがって「スピード経営の実現と経営の透明性、説明責任のバランスを確保するために、監査等委員会設置会社に移行しました」として、システムを作っても、対話の目的はそのシステムが動くプロセスにあるわけですから、安心はできないということになります。

プリンシプルはルールではないので、適合するかどうかは企業自身が決めることですが、「エンゲージメント」は対話双方の信頼関係を前提としますので、その信頼関係が破壊された場合には、「事実上の制裁」が待っている、ということになりそうです。では、この「信頼関係」の前提となるものは何か、さらに信頼関係が破壊された場合の「事実上の制裁」が一体何を意味するのか、ということを考えてみると、いろいろと面白い現象が浮かんできますが、それはまた別途検討していきたいと思います。

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2015年2月 6日 (金)

グループ間取引の公正性については役員の勉強が必要かも・・・

物流サービス事業を展開するロジネットジャパンさんが、(誰かによって)監査法人に告発されたことを契機として、同監査法人からグループ間取引の適切性に疑義を呈され、第三者委員会を設置したことを公表しました。最近は大手の監査法人さんを中心に通報窓口を設置されていますので、内部告発が監査法人さんに最初に届くケースも多いと思います。過年度開示の訂正が必要な事例について、最近は監査法人さんも躊躇なく企業側に疑義の解消を求めてこられますので、こういった事例は今後も増えるでしょうね。

企業集団の内部統制といえば、野村證券孫会社株主代表訴訟事件や福岡魚市場株主代表訴訟事件等を中心に、親会社による子会社不正の見逃し責任がイメージされることが多いようです。しかし、親会社の忠実義務の履行という面においても配慮が必要です。グループ会社との取引、関連当事者との取引においては、親会社取締役の利益相反取引、一部の関連会社のみ優遇する取引(アームスレングス・ルール違反)、親会社の利益確保の機会を奪ってしまう子会社取引、関連当事者であることを隠匿する粉飾リスク等、いずれも親会社取締役の忠実義務違反(善管注意義務違反)に該当するおそれがあります。子会社不正の問題ではありませんが、親会社自身に損害を発生させないように、親会社の取締役が企業集団としての内部統制を適切に構築することは、こういった親会社取締役の不適切な業務執行を排除するためにも必要です。

昨年12月24日、コンタクトレンズ大手のSEEDさんは関連当事者との不適切な取引について、外部委員会報告書を開示していますが、同委員会は、親会社取締役の法令に対する認識不足が長期にわたる不適切取引の放置につながったと結論つけています(この報告書は、親会社取締役が認識すべきグループ企業管理の法的義務についてきわめて丁寧に解説されており、とても参考になるものと思いますので、ご一読をお勧めいたします)。こういった関連当事者取引に関するリーガルリスクというものも、ふだんあまり意識されていない役員さんも多いかもしれませんので、法的責任と直結するものである以上、研修等で勉強しておいたほうがいいかもしれませんね。

SEED社の事例は、社長さんが最初に不正の端緒に気が付き、社内調査が開始されたという珍しい事件ですが、だからこそ自浄能力が発揮されたものと思われます(社長さんが気づくまでわからなかった、という意味においては内部通報制度が機能していなかった、ともいえそうですが・・・)。

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2015年2月 5日 (木)

ガバナンス改革-有事にこそ監査役の積極的対応に期待します

毎年恒例の日本監査役協会リスクマネジメント講座の全国ツアーが来週から始まります。「近時の事例から学ぶ監査役の有事対応2015」ですが、地元大阪の2日間で始まり(いずれも満席でして、どうもありがとうございます)、2月中旬には名古屋、福岡と回り、3月は東京で3日連続(明治記念館、東京プリンス2日)となります。体調管理に配慮しまして、また元気にお話させていただくつもりです。

さて、この1年はガバナンス改革という社会の変化もあり、また監査役さんにとって興味深い事件や裁判が多かったので話題はてんこ盛りですが、この2日間(2月2日、3日)の適時開示をみましても、複数の監査役さんが同時に辞任される会社が続きました。まさに有事対応の場面です。いずれの会社も経営権争いに絡んだものと思われますが(そのうち1社は年末の臨時株主総会で決着がついたものと思うのですが)、辞任によっていずれも監査役の定員数を満たさない状況となり、1社は臨時株主総会において株主側が3名の監査役追加選任を請求したようで、もう1社は仮監査役の選任申立てを行う予定している、とのことです。

経営陣と意見が合わない、といったことであれば、次の株主総会終結時に辞任することで折り合いをつけることも考えられるところですが、次の監査役さんも決まらないままに、複数の監査役さんが同時に辞任する、というのはよほど深い理由があるのでしょう(辞任理由は「一身上の都合」ということですが)。リリースで示されているように、たとえ一方的に辞任をしたとしても、次の監査役(仮監査役)さんが決まるまでは「権利義務監査役」として必要最小限度の監査業務を継続しなければなりません(継続しなければ善管注意義務違反に問われるおそれがあります)。

監査役に就任した経緯や社内人事、大株主との関係等、社内の事情も知らないまま軽々には申し上げられませんが、有事にこそ監査役さんが中心になって対応しなければならないこともあるように思います。なぜなら平時こそ取締役さん方にとって「経営判断原則」が適用され、法的な責任が問われるような事態が想定されないものの、有事となれば状況は一変し、取締役さんの利益相反、開示(虚偽記載)、インサイダー情報の不適切な取扱い、不公正ファイナンスその他会社法、金商法上のルール違反行為のリスクが急激に高まるからです。監査役さん方にとっては、有事こそ経営監視役として株主の受託責任を履行しなければならないわけでして、そこで降りてしまうというのは株主にとっても、会社にとっても痛いはずです。

このたびの改正会社法施行規則(案)をみても、三様監査(内部監査、会計監査人監査、監査役監査)の扇の要が監査役さんです。詳しくはまた研修の際に申し上げますが、監査役さんの監査環境整備は一般投資家への開示対象となり、また機関投資家との対話の内容になると思います(その根拠はご説明いたします)。有事にこそ、会社や取締役が不幸に陥らないための監査役さんの知見や行動が求めれるはずです。たとえ有事が到来せずとも、有事のリスク管理を見据えた平時の監査環境整備が求められる時代だと考えています。

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2015年2月 3日 (火)

ガバナンス・内部統制で盛り上がるか?-「良き制度間競争」

金曜日のエントリーにはたくさんのご意見、どうもありがとうございました。皆様方のメールやコメントのご意見を頂戴し、IPOを目指すベンチャー企業、執行と監督を明確に分離したい企業などにとって監査等委員会設置会社への移行が企業価値向上に有益である、とのお考えにも納得できる部分があると思いました。まさに監査役会設置会社と監査等委員会設置会社が同じくらいの数になって、良い意味での「制度間競争」が行われることにより、2年後の「社外取締役義務化への見直し」(衆参両議院での付帯決議)にも良い効果が上がるのではないでしょうか。

そういった競争のためには、20~30社などと言わず、1,000社くらいの上場会社が監査等委員会設置会社に移行する、というのも(国益からすれば)望ましいのかもしれませんね。また、単純に「仕組み」だけでガバナンスの善し悪しを判断する時代はもう終わったと思います。取締役会がどのように機能したからこそガバナンスが良い、悪いと評価されるのか、整備された仕組みがどのように運用されることをもって「良いガバナンス」を言うべきか、そこから再定義をすべきだと思います。せっかく「株主との目的ある対話」という「時間軸」がガバナンス論に付与されるわけですから、このような時間軸も併せ考慮した制度間競争が行われるべきかと。

さて、「制度間競争」といえば、これから盛り上がりそうなのが「内部通報制度と内部告発制度、いずれを優先することが企業のコンプライアンス経営、消費者の保護にとって得策か(費用対効果という面において優れているか)」という課題です。すでにご承知の方もいらっしゃるかとは思いますが、「日本版のウィキリークス」が始動するそうですね(正確には「Whistleblowing.jp」ホイッスルブローイング・ジェーピー、だそうです)。駿河台大の八田真行専任講師が、昨年10月に日本記者クラブで講演し、内部告発サイト「ウィキリークス」の日本版を、いよいよ今年2月に開設されるそうです。内部告発者はインターネットを通じてサイトに文書を送り、あらかじめ登録したレシーバー(受信者)が受け取る、匿名化ソフト「Tor(トーア)」を使い、内部告発者の素性は分からない仕組みにする、というものだそうです(こちらのニュースが詳しく報じています)。

すでに15名以上の新聞社、通信社の記者の方々とも(レシーバーとしての)合意をされているようで、いわば内部告発を容易にして不正行為を早期にあぶり出す、というもの。このような内部告発の容易化は、はたして内部通報制度(社内で通報を受ける制度)にどのような影響を及ぼすでしょうか?現在の公益通報者保護法は、内部告発よりも内部通報に対して通報者の保護要件を緩やかに規制する(つまり内部通報をした労働者の保護が厚い)、という手法によって、できるだけ内部通報が奨励されるようなインセンティブを付与しています。一方、この日本版ウィキリークスのほうは、内部告発制度と内部通報制度を「制度間競争」させて、企業側に「これだけ社員や取引先による内部告発が容易になったのだから、もっと内部通報の実効性を上げないと企業は大変な目にあいますよ」といったインセンティブをもって(企業に)内部通報を奨励させることになります。

ただ(水を差すようで恐縮ですが)、過去に当ブログで何度か警鐘を鳴らしておりますとおり、「裏内部告発窓口」というものには注意すべきです。反社会的勢力が裏で企業に圧力をかけるために内部告発を受け付けるというものです。もし内部告発が容易化する時代となれば、実名通報(つまり有力な証拠をもつ告発)がそういった裏窓口に届く可能性も増えてくる、という懸念です。それぞれの長所、短所をできるだけ明確にして制度間競争を図る必要がありそうですね。

最終的にはどちらが国民の生命、身体、財産の安全にとって好ましく、また行政規制にとって効率的か、という視点から判断することになるでしょうが、今後はこういった行政規制や政策法務の在り方がもっと増えてくるのではないでしょうか。この「日本版ウィキリークス」が企業社会にどのような影響を及ぼすものになるのか、今後も注目しておきたいと思います。

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