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2015年2月24日 (火)

アートネイチャー株主代表訴訟最高裁判決の原審破棄理由

先週金曜日に出ましたアートネイチャー事件株主代表訴訟最高裁判決につきまして(金曜日のエントリーでは社名は伏せておりましたが)匿名さんや迷える会計士さんから有益なコメントをいただきました(ありがとうございます)。迷える会計士さんからは非公開企業の株式評価手法に関するご意見ですが、匿名さんは「そもそも論」として以下のような疑問を呈されています。

今回の最高裁の判決で一番良くわからないのは、破棄された理由が、法令解釈上の問題に全く見えないことです。実質的に事実認定の問題であり、下級審の判断に著しく不合理な部分があるという感じもしません。一応合理的な算定を会社が行なった形跡があれば、実質的に見て価格が不公正であっても、特に有利な価格であると認定してならないとかいう趣旨の法令解釈を判例として残したかったのでしょうか?

私は印象として「お天道様と最高裁は見ている」と書きましたが、正直、理屈としてはあまり詰めて考えておりません(というか、そこまで考える能力がありません・・・笑)。これはあくまでも推論にすぎませんが、民事訴訟においては当事者の鑑定申立(証拠提出)がないにもかかわらず裁判所主導で評価手法を決定して非公開株式の価格を算定する、というのは手続き違反に該当するというものではないかと。職権探知主義が妥当するのは株式の価格決定申立事件のような「非訟事件」のみであり、通常の民事訴訟の証拠採用においては裁判所の職権探知主義的判断は許されないという趣旨かと思いました。最高裁が下級審の株式価格の判断過程に対して厳しい指摘をしている部分の書きぶりから、なんとなくそう考えた次第です。

「特に有利な発行価格」という規範的要件の解釈としては、双方の評価根拠事実、評価障害事実を突き合わせて判断しなければ、裁判所のいうように当事者の「予測可能性」を超える判断をしてしまうことになるので、「一応合理性のある資料に基づくものであれば」といった言い回しになっているのかな・・・と思うのですが、いかがでしょうか。したがって、この「一応合理性のある資料」に基づく算定がなされたとしても、相手方が別途意見書を提出することや、当時の状況を主張することで(たとえば、迷える会計士さんがコメントされているように、ひょっとしたら株式発行当時、関係者らは株価上昇予測が立てられた、関係者からみて実質的に不公正な価格だと疑う余地があった、という主張などによって)反論することは可能ではないかと。結局のところ反論が成功しなかったということは、私が金曜日のエントリーで述べたように、役員側がコンプライアンス経営、透明性ある経営を継続することの重要性に起因するものと考えた次第です。

毎度判例を速報としてご紹介する際に、理屈のところをあまりブログで書かないのは、今後の商法学者の皆様の判例評釈などを精査しないと正確なことは言えないと思っているからでして、今回の推論も、あくまでも私の個人的な意見にすぎません。いろいろな法律雑誌で著名な先生方がどのように分析されるのか、私自身も楽しみにしています。

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コメント

なるほど、民事事件と非訟事件は違うんだという趣旨を最高裁が言いたいなら一応、論理は通ってますね。

しかし、株式の価格というのは意見表明みたいなもので、その価格が正当であるとか不当であるとかを証拠によって立証することは著しく困難です。

例えば、「あのラーメン屋は旨い」というのは、意見に過ぎず、裁判官が実際に食べてみて旨いと思っても、旨いという立証にはなっていません。

「あのラーメン屋は中国産野菜を使ってる」と言うのは、証拠をもって真偽を判断できる事柄になります。名誉毀損訴訟では、事実適示と意見表明を分けますが、意見の当不当というのは立証不能で、立証できるのは事実適示に関する事だけです。

価格というのは意見表明みたいなもので、裁判所が合理的裁量によって公正価格を決めてやらないと、この系統の訴訟はそもそも無理筋という事になってしまうでしょう。

しかし、それでいいんでしょうかね?

投稿: 匿名 | 2015年2月24日 (火) 02時42分

追加すると、不動産鑑定は不動産鑑定士がいますが、株式鑑定では株式鑑定士なんてものはいません。株式鑑定の専門家なんて連中は、全員が自称専門家の域を超えるものではありません。

不動産鑑定であれば、素人の裁判官が勝手に値段を決めるのは自由心証主義の逸脱となる気がします。しかし、実定法上の資格が無い株式鑑定なら裁判所が自由心証によって判断しても問題ないんじゃないでしょうか?

資格の無い人間に鑑定させて、それを証拠として採用するのも、裁判官が独自に鑑定するのも、それほど違いがあるようには見えません。資格が無い人間が行なう鑑定なんだから、もともと証拠価値なんてあるはずが無いのです。

投稿: 匿名 | 2015年2月24日 (火) 03時27分

何度もすいません。

この裁判というのは、上場前に有利発行をしたとして、上場後に株式を取得した株主が代表訴訟を提起したんですね。

非上場株の場合、株主間で了解があった場合には、持ち株比率を調整するために格安で増資したりしますからね。もし理由付けをするならば、有利発行ではあるが、有利発行かどうかに関わらず、特別な事情があったために会社に損害が発生していないとして上場後株主側の請求を棄却すべきだったと思います。

このケースでは、上場前の株主の利益を、当時の株主間の合意の下で、増資引受株主に移転させたに過ぎません。問題があるとすれば、国税がきちんと仕事してないということだけでしょう。本来ならば、増資引受株主に対して、ストックオプション課税みたいな構成で、所得税を徴収すべきだったわけです。

最高裁の理由付けは、あまりに言葉足らずであり、特別な事情の有無を有利発行かどうかの理由付けにひっくるめて、あたかも発行価格に対する自由裁量を会社側に与えたかのように判示しており、他の事案でこの判例は確実に悪用されると思います。

投稿: 匿名 | 2015年2月25日 (水) 21時21分

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