ガバナンス・内部統制で盛り上がるか?-「良き制度間競争」
金曜日のエントリーにはたくさんのご意見、どうもありがとうございました。皆様方のメールやコメントのご意見を頂戴し、IPOを目指すベンチャー企業、執行と監督を明確に分離したい企業などにとって監査等委員会設置会社への移行が企業価値向上に有益である、とのお考えにも納得できる部分があると思いました。まさに監査役会設置会社と監査等委員会設置会社が同じくらいの数になって、良い意味での「制度間競争」が行われることにより、2年後の「社外取締役義務化への見直し」(衆参両議院での付帯決議)にも良い効果が上がるのではないでしょうか。
そういった競争のためには、20~30社などと言わず、1,000社くらいの上場会社が監査等委員会設置会社に移行する、というのも(国益からすれば)望ましいのかもしれませんね。また、単純に「仕組み」だけでガバナンスの善し悪しを判断する時代はもう終わったと思います。取締役会がどのように機能したからこそガバナンスが良い、悪いと評価されるのか、整備された仕組みがどのように運用されることをもって「良いガバナンス」を言うべきか、そこから再定義をすべきだと思います。せっかく「株主との目的ある対話」という「時間軸」がガバナンス論に付与されるわけですから、このような時間軸も併せ考慮した制度間競争が行われるべきかと。
さて、「制度間競争」といえば、これから盛り上がりそうなのが「内部通報制度と内部告発制度、いずれを優先することが企業のコンプライアンス経営、消費者の保護にとって得策か(費用対効果という面において優れているか)」という課題です。すでにご承知の方もいらっしゃるかとは思いますが、「日本版のウィキリークス」が始動するそうですね(正確には「Whistleblowing.jp」ホイッスルブローイング・ジェーピー、だそうです)。駿河台大の八田真行専任講師が、昨年10月に日本記者クラブで講演し、内部告発サイト「ウィキリークス」の日本版を、いよいよ今年2月に開設されるそうです。内部告発者はインターネットを通じてサイトに文書を送り、あらかじめ登録したレシーバー(受信者)が受け取る、匿名化ソフト「Tor(トーア)」を使い、内部告発者の素性は分からない仕組みにする、というものだそうです(こちらのニュースが詳しく報じています)。
すでに15名以上の新聞社、通信社の記者の方々とも(レシーバーとしての)合意をされているようで、いわば内部告発を容易にして不正行為を早期にあぶり出す、というもの。このような内部告発の容易化は、はたして内部通報制度(社内で通報を受ける制度)にどのような影響を及ぼすでしょうか?現在の公益通報者保護法は、内部告発よりも内部通報に対して通報者の保護要件を緩やかに規制する(つまり内部通報をした労働者の保護が厚い)、という手法によって、できるだけ内部通報が奨励されるようなインセンティブを付与しています。一方、この日本版ウィキリークスのほうは、内部告発制度と内部通報制度を「制度間競争」させて、企業側に「これだけ社員や取引先による内部告発が容易になったのだから、もっと内部通報の実効性を上げないと企業は大変な目にあいますよ」といったインセンティブをもって(企業に)内部通報を奨励させることになります。
ただ(水を差すようで恐縮ですが)、過去に当ブログで何度か警鐘を鳴らしておりますとおり、「裏内部告発窓口」というものには注意すべきです。反社会的勢力が裏で企業に圧力をかけるために内部告発を受け付けるというものです。もし内部告発が容易化する時代となれば、実名通報(つまり有力な証拠をもつ告発)がそういった裏窓口に届く可能性も増えてくる、という懸念です。それぞれの長所、短所をできるだけ明確にして制度間競争を図る必要がありそうですね。
最終的にはどちらが国民の生命、身体、財産の安全にとって好ましく、また行政規制にとって効率的か、という視点から判断することになるでしょうが、今後はこういった行政規制や政策法務の在り方がもっと増えてくるのではないでしょうか。この「日本版ウィキリークス」が企業社会にどのような影響を及ぼすものになるのか、今後も注目しておきたいと思います。
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