コーポレートガバナンス「コード」の意味を二つの比較から考える
毎年恒例の日本監査役協会における春の講演もいよいよ佳境に入りまして、東京3日連続講演の初日が終了いたしました(本日は明治記念館で、あと二日は東京プリンスです)。本日も500名を超える監査役の皆様にお越しいただきまして、どうもありがとうございました(4年前は震災後の開催ということもあり、明治記念館の閑散とした雰囲気の中で講演をさせていただいたことが想い出されます)。本日は特別にガバナンスコード原案を活用した「社外取締役を置くことが相当でない理由」の一例をご披露させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
さて、今年の春の日本監査役協会全国会議では、有識者会議の重鎮でいらっしゃる神田教授が「コーポレートガバナンス・コード」について解説をされるそうで、おそらくたくさんの監査役の皆様が聴講されると思います(楽しみですね)。私は金融庁HPに毎回アップされます議事録で内容を確認をしていただけにすぎない者ですが、東証規則に反映された後の実務対応にはとても関心を持っています。とくに日本の企業社会に「コード」が根付くのかどうか、過去2回、2007年にはJ-SOXにおいて、そして2010年にはIFRS適用において金融庁から「プリンシプルを理解するための11の誤解」といったリリースが出て世間の混乱を収束させましたが、またそういったことにならないのでしょうか。
先日アップしました「日本型人事ガバナンスと社外取締役の役割」なるエントリーにコメントしていたたいでいる「いたさん」のご意見のように、今回「コード」を理解するためには、「二つの比較」が理解を助けるように思います。一つ目の比較は、いたさんのように、どうして法務省の会社法改正パブコメ回答は懇切丁寧なのに、金融庁パブコメ回答はアバウトなのでしょう。そして二つ目の比較はガバナンス・コードへの日本人の意見と海外からの意見との比較です。(私も含めて)日本人は横並びが好きだなぁ、従うべき明確なルールが好きだなぁと感じます。それぞれの比較の中から、ルールベースとプリンシプルベースの考え方の違いのようなものが垣間見えてくるのではないでしょうか。
私もコードについて詳しく理解をしている者ではありませんが、あのJ-SOX導入時の混乱の渦中でいろいろな経験をさせていただいた一人であることは間違いありません(金融庁のラウンドテーブルにも登壇させていただき、記念のトロフィーをいただきました 笑)。今後いろんなところで「ガバナンス・コードの実務対応」といった研修や講演が開催されると思うのですが、またJ-SOXと同じ混乱に陥ることだけは避けていただきたいと祈念しております。ここが「スチュワードシップによる対話」が成功するか否かの分水嶺だと思います。もし失敗すれば、機関投資家もエンゲージメントによる「羊の対応」ではなくエージェンシー理論による「狼の対応」に戻ってしまうはずです。今回は「国策ガバナンス」ということですから、おそらくそのあたりは国を挙げてプリンシプルによる制度運営を確保するとは思いますが・・・。
| 固定リンク
コメント
初めてコメントいたします。いつも興味深くブログ拝見しています。
コーポレートガバナンスコードですが、どうしても理解できない点があります。
コードの中にはどうすればコンプライしたことになるのかわからない項目がいくつかあります。そういうものは、事務方としてはコンプライしていることの説明を用意することになりますが、そうするとコンプライ オア ではなく、アンド エクスプレインにどうしてもなります。
また、ガバナンスなどあまり興味はなく、世間並のことをしていれば満足で、コンプライしないエクスプレインなど時間のムダと考える会社もあるのではないかと思います。
そういう会社では、コードは単なるルールであり、しかも基準が不明確なできの悪い使いにくいルールにしか見えません。そのため、そういう会社では雛型説明を用いた「コンプライ」を選ぶと思います。
せめて、コンプライすればエクスプレインしなくてよいようなルールにすべきではとも思うのですが、コードとはこういうものなのでしょうか。
ガバナンスがどうあるべきかの議論をする時間があれば、その分を商品企画や営業に注力したい、と思うのは不誠実なのでしょうか。コードで示されたガバナンスに注力すれば利益が上がるとは思えません。
皆様どうお考えなのか、ぜひお伺いしたく存じます。
投稿: 煮貝 | 2015年3月11日 (水) 22時52分
山口先生、いつも考えるヒントを与えていただきまして、どうもありがとうございます。今回のガバナンスコードはJ-SOXと同じような混乱にはつながらないと思います。J-SOXは会計士監査の対象であったことと、内部統制の有効性が連結財務諸表の適正表示という「結果」で毎期試されるものであったため、内部統制の中でも検証可能な統制活動やモニタリング活動を中心に会計数値の生成段階での正確性や網羅性、その数値を使った会計処理の妥当性を担保する内部統制の細かい手続が重視され、文書化とテストが結果的に目的化しました。それに対し、今回、コードの実施状況を開示するコーポレートガバナンス報告書は監査対象ではありません。また、ガバナンスコードそのものが原則主義で、遵守しているか、していないかが明確に第三者が検証できないようなべき論であるからです。基本原則、原則、補充原則のうち、数字が入っているのは、原則4-8の独立社外取締役の「2名」以上と「3分の1」だけです。各企業が原則の趣旨を踏まえて自律的に自社のガバナンス体制を各社の事業内容や規模、経営理念、経営者の考え方、組織文化に応じて自律的に構築するのが建前ですので、当然かと思います。今回、マザーズやジャスダックへの上場企業は基本原則だけに関して、「コードを実施しない理由」を説明することになっていますが、基本原則はとりわけスローガン的内容なので、株主平等や適正開示、株主対話など、いずれも余程悪質な対応で事件を起こすような企業でない限り、実施していないとは言えず、実質的には免除されたのと同じと感じています。本則上場企業に関しても、原則や補充原則であれ、曖昧には違いないので、煮貝様が仰るように実態としては、Comply and explainだと思います。ただ、「実施」状況に関して、ガバナンス報告書のⅡからⅤで「説明」する場合、「実施」のレベルが各社の判断で異なるため、各社の状況に応じた「実施施策」の選択による違いなのか、「実施」しているかどうかの判断基準の違いによる違いなのか、釈然としないという問題が今後、顕在化するように思います。今回「要説明」から「要開示」に改訂された独立役員に関する「多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント等」と同じようなことが今後問題になるでしょう。11日にガバナンス報告書の記載要領改訂版が公表されましたが、コード原案で開示すべきとされた項目すべてに関して、詳細な開示必要項目が規定されたわけではないので、開示すべき属性がさらに細かく規定される方向に制度が成熟していくように考えます。例えば、補充原則4-11③の「取締役会全体の実効性の分析・評価」はどうしているのか、開示すべき5W1Hのような属性を決めるということです。コードの実施は企業が自主的に判断するとは言え、実施状況の説明開示まで各社の判断に委ねると、実態が第三者には分らなくなる懸念があるからです。コードを実施しているか、現状で充分かは、属性を詳細に開示させて、その開示内容から株主やステークホルダーが評価するという形です。東証が実質の判断をせよというのは酷だと思います。
投稿: 森本親治 | 2015年3月13日 (金) 06時26分
今回のCGコード策定を始めとした一連の企業統治改革に関しては、非常に意義があると思うと同時に、強い危惧も抱きます。
CGコードに関して下記の点は重要であり、真摯な受け止めが必要でしょう。
○ソフトロー&プリンシプルベースであることから、各企業には自らの諸条件に応じた主体的な対応が求められる。
○企業と投資家がお互いの抱える課題を認識した上での、対話に基づく協調関係の構築の提起。
○短期利益主義でなく中長期的な企業価値向上及び株主だけでなく幅広いステークホルダーとの適切な協働の打ち出し。
○経営者の責任を厳しく問うと同時に適切なリスクテイクを支える環境整備を不可欠としていること等々。
しかし本来の制度の趣旨と現実の運用実態の乖離と一旦できた制度の改変の困難さはJ-SOXに典型的に見られるものです。J-SOXは形骸化が進み、会社法内部統制制度との整理統合を検討すべき時にもかかわらず、所管官庁と関連業界の既得権が壁となって放置されたままです。
今回のCGコードにも下記のような疑問点や「胡散臭さ」があり、J-SOXの二の舞となる危惧を拭いきれません。
○今回のCGコードが成長戦略の一環と位置付けられ政治主導で急ピッチで進められたこと。性急とも言える会議設定も問答無用的なパブコメの結果公表も政治スケジュール優先の結果ではないか。
○本来腰を据えた議論が必要な企業統治改革が時の政権の「成果作り」の道具とされていないか。議論の多いGPIF改革のための「株高」誘導策が最優先される場合、結局中長期的な企業価値やステークホルダー利益は軽視されることにならないか。
○今回の統治改革で利益を得るのは、社外役員候補たる弁護士、公認会計士、高級官僚、元会社役員たちや役員報酬改革に期待する経営トップ層、株高の恩恵に浴する資産家であり、そうした業界や高額所得層への政治的救済策ではないか。(格差や貧困の拡大、若者の不安定雇用や劣悪な労働環境などの社会状況とのギャップ)
○「ROE」至上主義と経営者の成果主義的評価(取締役会の業績評価機関化&役員報酬改革)が結びつくと、結果としてコンプライアンス軽視の経営の跋扈を齎すのではないか。
○早急な対応が求められることから、コンサルを使って対応しようとしている企業が少なくないのは、主体的対応という本来の趣旨に反して、結局形式的表層的対応にならないか。
これらが「杞憂」に終わることを期待しますが、本来の趣旨が持つ有益なメッセージを真摯に受け止めつつ、冷静で主体的な対応が求められているように思います。
投稿: いたさん | 2015年3月19日 (木) 12時03分
「ルール」と「コード」の違いですが、「ドレス・コード」を思い浮かべるとわかりやすいのかな、CGコードは、上場企業としてのドレス・コードと考えればいいのかな、と思います。
結婚披露宴は、社長就任披露パーティーは、ディスコ(古い)はどうか、などなど。
ペナルティは、「恥をかく」「相手にされない」等々、徒考えるとしっくりくるような気がしますが、いかがでしょうか。
投稿: KAZU | 2015年3月27日 (金) 21時01分