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2015年3月18日 (水)

刑事訴訟法改正で脚光を浴びるか-デジタルフォレンジック

先週土曜日(3月14日)、大阪弁護士会・日本公認会計士協会近畿会共催事業として「第三者委員会とデジタルフォレンジック」と題する合同研修会が開催されました。会計士協会側は丸山満彦氏(デロイトトーマツ・リスクサービス代表取締役)、弁護士会側は私が講師を務めました。昨年、世間を騒がせた刑事事件でフォレンジックの陣頭指揮をとられた丸山先生と私とでは、だいぶレベルの差がありましたが(^^;、会場にはフォレンジックにあまりなじみのない先生方もいらっしゃったようなので、私もそれなりにお役に立てたかもしれません。

ところでデジタルフォレンジックといえば、月曜日の日経法務インサイドでも取り上げられていた刑事訴訟法の改正との関係が注目されるところです。3月13日に刑訴法改正案が国会に提出されましたが、「捜査協力型」の司法取引制度が導入されていまして、容疑者や被告が他人の犯罪について検察官に申告し、これによって他の犯罪捜査につながる場合には不起訴処分や刑の減軽が得られるという制度です(なお、新聞記事にもあるように、自己の犯罪を申告して刑の減免を得る自己負罪型の司法取引制度は導入されていません)。対象となる犯罪行為には、独禁法違反や金商法違反などの経済犯罪行為を含みますので企業としても関心が高まるところです。

そもそも今回の刑訴法改正は、あの郵便法事件(村木さんの件)における検察不正が発端となったものなので、この「捜査協力型」司法取引制度の導入についても、けっして検察権限を強化する、というものではなく、自白偏重の捜査を少しでも客観的証拠による立件体制に戻すため、というものだそうです。できるだけ人権侵害を回避しつつ、(末端の実行者ではなく)重要な経済犯罪における首謀者への捜査を可能とすることに機能することが期待されます。

ところで、いくら他人の犯罪を申告するといっても、検察官がこれを有用な情報だと認めなければ申告したことにはならないわけでして、だからこそフォレンジックによるメールや電子証拠、WEB記録の保存や分析が有用になります。とくに電子文書の内容もさることながら、電子文書の存在価値(原本性、同一性)が重要な証拠になるものと思われますので、企業自身だけでなく、社員にもデジタルフォレンジックの知見が必要になってくるのではないでしょうか。検察官が立件に耐えうる証拠と判断するために、文書の証明力よりも証拠能力に注目することが予想されます。経済犯罪の立件のためには企業に存在する多くの電子文書が求められますが、それらが真正に作成されたものであることが客観的に証明されるのであれば、検察官にとっても有力な資料になると思います。

企業自身が不起訴や刑の減免の対象になるのかどうか、証拠の持ち出しや分析の正当性に関わる公益通報者保護法の改正はどのような方向性を持つのか、といった今後の課題もありますが、捜査に協力する企業や社員の存在が奨励される時代となれば、デジタルフォレンジックのスキルを磨く企業や社員が確実に増えるものと思います。

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