東洋ゴム免震不正事件-空白の3か月に何が起きたのか?
東洋ゴムさんの免震不正事件について、24日に外部調査委員会中間報告要旨が公表されました。25日の読売新聞朝刊(10面)に私のコメントも出ましたが、このコメントは3月の取材の際に述べたものです。報告要旨を読みますと、コメントで述べていたことが当たっていたようでして、部下から経営幹部に対しては「東日本大震災でもなんら問題なかった」「影響は軽微であり限定的」「計算方法を変えれば許容範囲に収まり、補正可能」といった社内報告が上げられていたそうです。
企業不祥事対応を支援する弁護士からすれば、このような報告内容になるのは(有事としては)当然だと思いますし、なにも東洋ゴムさん固有の大問題ではありません。社員のみなさんは、自分や自分の家族が大切です。自分が責任をとらされるような問題が発生したときに、上司に対して「これはたいしたことではありません。私の責任でなんとか対処しますから心配しないでください」と報告したくなります。よく情報共有のための報告体制の重要性が指摘されますが、いくら報告体制を整備しても、上司のほうが受け身のままでは「現場で起きていること」が正確に報告されることはほぼ不可能です。
研修を何度も行い「ステークホルダーの生命や身体の安全を第一に考えよ」と言われても、社員は本当にそのとおり動けるでしょうか。みなさん技術に詳しい方なので、たとえ国の基準を逸脱したからといっても建物の安全性が直ちになくなってしまうわけではないと理解しているわけです。したがって「ばれないのであればこのまま隠ぺいしてもよいのでは」といった楽観的なバイアスにとりつかれてしまうかもしれません。不祥事は起こしてはいけない、といった気持ちが強い組織であればあるほど、報告を聞くほうも、報告をするほうもこのバイアスにとりつかれます。
ただ、そのようなバイアスに関係者がとりつかれていたとしても、社外的に許容されるわけではありません。ここからは企業不祥事のなかで、回避可能であるからこそもっともやってはいけない「二次不祥事」の問題となります。不祥事が、いわゆる「組織ぐるみ」「経営者関与」と社会的に評価されてしまうかどうか、という問題です。報告書要旨では、昨年9月に法律事務所の相談し、その結果として国交省への報告を準備します。しかし、他の計算方法で補正することができるという社内報告により、いったんは報告することを撤回し、出荷を継続します。その後、10月末には結局のところ既に設置済の免震ゴムの測定値補正は困難という結論に至ったようです。
ところで、この「補正は困難」と経営幹部が知った10月末から、再度別の法律事務所に相談して国交省への報告を決めた(腹をくくった)2月までの3か月間、いったい東洋ゴムの上層部では何が起きていたのでしょうか。わかっているのはこの3か月の間に社長交代があったことと、1月30日に確定的にデータの補正が困難との報告が上層部にされたことです。しかし、少なくとも10月末には(上層部において)有事に至っていたことは想像に難くないところなので、なぜ別の法律事務所に相談するまで出荷を停止せず3か月も経過していたのか、そのあたりが報告書要旨を読んでも明らかにはなりません。かりに1月末までデータ補正の可能性があるとの認識を持っていたとしても、国交省への報告を止めておくことの理由にはなっても出荷を継続する理由にはならないように思えます。
免震ゴムには構造的に2種類ありますが、いずれにおいてもゴムの成分配合は非常に微妙なものです。また、建物ごとのオーダーメイドなので、たとえ大手のブリヂストンさんの緊急支援を仰ぐとしても、今後の交換作業には多大な時間を要します。したがいまして、まずは国民の生命の安全確保のための作業が第一の優先事項ではありますが、やはり東洋ゴムさんの組織としての構造的な問題を探るためには、どうしてもこの「空白の3か月」については知りたいところです。東洋ゴムさんが「自浄能力を発揮した」と社会的な評価を受けるためにも、また今後の自律的な修復対応への社会的信頼向上のためにも、このあたりが明らかにされるべきではないかと。
25日の読売新聞が報じるところでは、この外部調査委員会報告については会社側が一部納得できない意向を表明されていますし、また国交省が設置した第三者委員会の調査も今後は始まりますので、まだまだ事実関係が明らかになる部分も多いと思われます。売上3500億のうち、わずか7億円の売上にすぎない部門での不正、しかも子会社の課長クラスの偽装問題が、なぜグローバル企業を揺るがす事態に発展してしまったのか、私は個々の役職員の責任よりも、どこの企業でも発生しかねない構造的欠陥に光をあてながら検証されることを望みます。
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コメント
A氏の異動によりC氏が免震積層ゴムの性能検査業務を引き継ぎ、データの不整合を上司に報告した2013年前半、おそらく東洋ゴム社内は別の事件で揺れていたのでしょう。11月26日に米国での自動車部品の価格カルテルへの関与を認め、米司法省に1.2億ドルの罰金支払いで合意しています。この時の製品は自動車用防振ゴムで、免震ゴムとは大きさがまったく違うものの、ゴムと鉄の組み合わせであり、少なくともタイヤではないようです。そのヤマを越えたと思った2014年初頭に、免震ゴムの性能値で問題があるとの報告を受けた子会社社長は、どう考えたことでしょうか。「見たくないものは見えない」という動機が強く働いたとしても、無理はないでしょう。また価格優位性で採用した設計事務所や建設会社もあったという報道もありましたが、これはつまり低価格を武器に販売しており、事業採算としてはかなり厳しかったのではないかと推測されます。事業部としては、これまでの投資を無駄にしないために無理をしてでも売り伸ばしたい商品だったのでしょう。事業を成長させるという動機だけが、事業部を突き動かしていたのではないかと。そんな経営者と事業部の「動機づけられた見落とし」が、空白の3か月であり、空転の2年間であり、虚像の10年間だったのではないかと、中間報告を読んで思いました。
投稿: JIBANYAN | 2015年4月27日 (月) 12時50分
なるほど、マスコミでは2007年の不祥事のことばかり報じられていましたが、C社員が部長に報告する2013年8月、9月頃、たしかに防振ゴムのカルテル事件が表面化していますね。最終的には120億円という巨額の罰金を支払うことになるわけですが、このあたりの時期に社内でコンプライアンス体制の強化がはかられたのでしょうか。その関係から自らも一部関与していたC社員が自主申告した、ということかもしれません。後半は私も共感するところです。どうもありがとうございます。
投稿: toshi | 2015年4月27日 (月) 14時29分