« 中小上場会社の社外取締役が注目すべき最高裁決定(道東セイコーフレッシュフーズ事件) | トップページ | 生損保業界によるスチュワードシップ・コードへ対応はホンモノ? »

2015年4月 2日 (木)

三菱重工業社の監査等委員会設置会社移行にみる「執行と監督の分離」

適時開示情報をすべてチェックしているわけではありませんが、会社法改正により新たな機関形態として認められる「監査等委員会設置会社」への移行を表明した上場会社は(本日現在)すでに50社を超えているものと思われます。大規模上場会社の中にも監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への意向を表明した会社も出てきましたが、ひときわ目を引くのが3月30日に移行を表明した三菱重工業さんです(監査等委員会設置会社への移行のお知らせ)。

別のリリースによると、同社代表取締役CFOの方が6月総会で退任され、新たに(総会で承認されることを条件に)監査等委員である取締役に就任されるとのこと(なお、現在監査役でいらっしゃる方のおひとりも監査等委員である取締役に就任予定とされています。ちなみにリリースの書きぶりからしますと、取締役会の権限の一部を執行部に委譲する定款変更も予定されているようです)。なんと(!)執行の中枢におられる方が監査等委員である取締役に就任するということでして、少々驚きました。

さて、この話題をあるところでしておりましたところ、私と某団体の代表の方とで意見の相違をみることになりました。この三菱重工業さんの体制について、私は監査等委員会設置会社の理想であり、歓迎すべきと意見しましたところ、その代表の方は「これは問題」とのことで正反対の意見を披露されました。CFOの方がこれまで執行でやってきたことをどうやって監査するのか?独立公正な立場で監査している、ということをどうやって担保するのか?監査役会設置会社とは異なり、広く経営執行部に(取締役会の)権限を委譲するということであればなおさら問題ではないか?監査等委員会設置会社に過半数の社外取締役がいたとしても、それほどの実力者が座っていればモノが言えないのではないか?とのご意見です。

これは監査役(会)設置会社でも問題とされていた「元取締役による監査役への横滑り問題」と同じようなことなのですが、監査等委員会設置会社が執行と監督の分離を徹底したモデルを目指しているところから、さらに問題視されるところがあるのかもしれません。たしかに経営の実権を握っておられた方に、果たしてモニタリングモデルとして設置される監査等委員会設置会社の監査等委員としての職務が適正に行われるのかどうか、外観的独立性を重視する立場からは異議が出される可能性もありそうです。ましてや監査等委員会設置会社の長所とされる「取締役会の権限委譲」を併せて採用するとなれば、なおさら執行と監督の分離の徹底が求められるはずです。

※・・・・「横滑り問題」は主として事業年度の途中で招集された株主総会で、それまで取締役であった者が監査役に就任するケースとされています。「自己監査」という意味においては本件以上に問題となりそうですが、法律的には「この程度のことは許容される」(江頭「株式会社法」第5版514ページ)とされています。

ただ私の場合、「監査等委員がモノを言う環境整備」という点を重視したいのです。監査等委員会は監査だけでなく監督職務、監査等職務という、経営の効率性や妥当性に及ぶ監督まで含みますので、できるだけ迅速かつ詳細に内部の事情(あるいはグループ会社の事情)を入手しなければなりません。また有事においては、経営執行部が監査等委員会の意見を聴き入れるだけの権威を持ち合わせていなければ機能しないのではないかと思います。そう考えると、過半数を占める社外取締役の役割を十分に果たせる監査等委員会を構成するためには、三菱重工業さんのように経営の中枢におられた方が、退任後に監査等委員に就任するというのも、「モノを言う環境整備」のためには有益ではないかと考えるところです。

なお、こういった意見に対しては、某団体の代表の方は「そのような社内事情が必要であれば、それは委員会に呼べばいいではないか。そういった社内の要人を委員会に呼べることが委員会の権威ではないか」とのご意見です。ひょっとすると私のほうが社外取締役就任者の倫理観や使命感への期待が薄いのかもしれませんし、外観的独立性への意識が乏しいのかもしれません。ただ、やはり「モノを言える環境」はなかなか一から整備することはむずかしいのですよね。本当に執行と監督を分離して、監督機能を重視する覚悟があるのならば、それこそ「副社長クラスが常勤監査役に就任すべき」と考えてしまうのです。今後、監査等委員会設置会社に移行する上場会社は、おそらく「権限委譲の定款変更」とセットで臨むところが多くなると思いますが、そこで「執行と監督の分離」をどのような形で表明するのか、今後とも注目されるところかと思います。

|

« 中小上場会社の社外取締役が注目すべき最高裁決定(道東セイコーフレッシュフーズ事件) | トップページ | 生損保業界によるスチュワードシップ・コードへ対応はホンモノ? »

コメント

社内実力者にモノが言えない社外役員が過半数いること自体が監督者としてそもそも問題という気もしますね

監査役や監査委員の横滑りについては役員規模や人件費的に社外役員を呼びづらい状況でもない限りは避けるべきかと思います

投稿: 流星 | 2016年5月17日 (火) 19時16分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 三菱重工業社の監査等委員会設置会社移行にみる「執行と監督の分離」:

« 中小上場会社の社外取締役が注目すべき最高裁決定(道東セイコーフレッシュフーズ事件) | トップページ | 生損保業界によるスチュワードシップ・コードへ対応はホンモノ? »