コーポレートガバナンス・コードの実務対応に関する素朴な疑問
(4月18日 追記・修正)
ひさしぶりの「素朴な疑問」シリーズであります。聞くは一時の恥、聞かぬは・・・と申しますので、あえて今ホットな話題のコーポレートガバナンス・コードの実務対応に関する疑問です。うーーーん、よくわかりません。ホントに素朴な疑問なので、もし前提のところで誤っておりましたらごめんなさいです(訂正させていただきます)。
疑問その1 ガバナンス報告書の提出期限について
東証規則により、ガバナンス・コードの開示事項については(原則として)コーポレートガバナンス報告書に記載することになります。6月定時総会の上場会社の場合、遅くとも今年の年末までにコーポレートガバナンス報告書への記載を済ませばよい、とのことですが、では来年3月定時総会の会社の場合はどうなるのでしょうか?来年の3月から6カ月の猶予期間あるのか、それとも3月総会の後すみやかに提出(つまり4月中に記載)をしなければならないのか?もし3月総会の会社が、総会から6カ月の猶予があるとすると、6月総会の会社が2回目の記載を済ませた後に初めて(適用後の)ガバナンス報告書を提出するということになるので、これはややおかしいのではないでしょうか。ということは来年3月とか5月総会の会社は原則どおり速やかに提出する、ということになるのでしょうかね?「適用初年度のみ猶予期間あり」とみるならば、どんなに遅くとも2016年の5月末までに報告書を提出せよ、ということでしょうか?
追記・ある取引所関係者の方からご連絡いただいたところによると、たとえば平成27年12月に定時株主総会を開催する会社であったとしても、そこから6カ月の猶予期間はあるそうです。
疑問その2 ガバナンス・コードの趣旨・精神の尊重義務について
コードへの対応実務として、コンプライ・オア・エクスプレインの「コンプライ」と「エクスプレイン」は同価値かどうかはひとつの疑問ですが、東証の有価証券上場規程では、445条の3によってガバナンス・コードの趣旨・精神の尊重義務が規定される予定です。この規定をもとに、「いくらエクスプレインでもよいといっても、コンプライすることが大切」との解説が多いようです。しかし、そもそもガバナンス・コードの趣旨・精神というのはプリンシプルベースの規制であることの趣旨を指しているのではないでしょうか。つまり「コンプライ・オア・エクスプレイン」であることが趣旨であり精神だといった理解も成り立つのでは?たとえ「努力義務」であったとしても、ここで東証ルールを持ち出すとルールベースの規制になってしまわないのでしょうか。コードでは対話のための付加価値ある開示が求められているのであれば、何も開示せずにコンプライするよりも、むしろ自社にふさわしいエクスプレインを行うほうがガバナンス・コードの趣旨・精神、つまりコードの趣旨に合致するように思います(つまりコンプライとエクスプレインは同価値とみたほうが自然だと思います)。
疑問その3 コード補充原則1-2②はプリンシプルか?
補充原則1-2②は株主の議決権行使に関する(早期の招集通知発送等)環境整備についてのコードですが、その内容はすでに有価証券上場規程446条および同施行規則437条で具体的にルール化されています(「望まれる事項」という、いわば上場企業の努力義務ですが)。そしてこの上場規則はこのたびの改定で変更される予定はありません。しかしいくら努力義務とはいえ、すでに上場規則でルール化されたものは、もはや従わなければならないものであり、説明責任を果たしつつも従わなくてもよいことを前提とするエクスプレインはありえないのでは?つまりルールであるにもかかわらず、プリンシプルベースのコードが併存するというのは矛盾ではないでしょうか?
修正:ここはそもそも「望まれる事項」としてコードが適用されるのですから、私の疑問の前提がどうも論理的におかしいものでありました。なので、いったん削除させていただきます。
疑問その4 第2章「ステークホルダーとの適切な協働」の実効性は担保できるか?
株主との対話によって実効性が担保されるべきガバナンス・コードについて、その第2章ではステークホルダーの利益配慮に関するコードが示されています。しかし株主がいくら中長期的な企業価値向上に向けた対話を行うといっても、株主以外のステークホルダーの利益配慮に向けた企業行動にどれだけ関心を向けるのでしょうか。第2章のコードは経営方針等の開示によって公表されることになりますが、とくに内容にまで踏み込んで東証の審査がなされるとは思えません。スチュワードシップ・コードにも指針3-3において社会、環境配慮に向けた対話ということは記載されていますが、「利益配慮」ということまでは踏み込んでいないと思われます。ではこの第2章はいったい誰がどのような方法で企業のコード遵守の実効性を担保するのでしょうか。
上場会社として、実際にガバナンス・コードに沿った取締役会改革を行おうとしますと、いろいろと疑問が湧いてきます。やはりプリンシプル・ベースであり、コンプライ・オア・エクスプレインであるといっても、たとえば20年の経験をもつ英国の実務などを詳細に調査してみないと対応がむずかしいと感じますね。私の事実誤認や誤解に基づくところがあるかもしれませんが、同様の素朴な疑問を抱いている方も多いかもしれません。もしお詳しい方がいらっしゃいましたらお教えいただければ幸いです。
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コメント
CGコードは大変良いことが書いてあるのですが、残念ながらガバナンスの改革に繋がるような空気を全く感じません(社内で)。よほど真面目か、機関投資家の保有比率の高い会社は別として、今のCG報告書と同じノリじゃないでしょうか。JSOXや会社法施行のようなインパクトも緊迫感も無いということです。日本の株主が海外機関投資家のようにならない限り、日本の上場会社は変わらないと思います。
投稿: JFK | 2015年4月16日 (木) 21時39分
JFKさん、ご意見ありがとうございます。私はある程度「国策ガバナンス」の効用として効果はあるように予想しています(ただし、おっしゃるとおり機関投資家の色によりますが)。2年後にガバナンスに関する検証が行われる予定ですが、それまでに何らかの効用が確認され、その後は息切れしてしまうのではないか・・・というシナリオが見えてくるように思います。
投稿: toshi | 2015年4月17日 (金) 19時24分
私を含め管理部門の仕事というのは、真面目にガバナンスをやればやるほど面白くなるので、コンプライオアエクスプレインとか言わずに、もっと強力に、今の経営者たちを諭してほしいと思いますね。ルールベースでもよかったのじゃないかなと、ちょっと先を行き過ぎた感じがしております。
投稿: JFK | 2015年4月17日 (金) 21時48分