中小上場会社の社外取締役が注目すべき最高裁決定(道東セイコーフレッシュフーズ事件)
3月27日、最高裁(第1小法廷)は、非上場会社のM&A(合併・買収)の際、市場で株を売買できないことを理由に株価を低く見積もることが認められるかが争われた裁判で、将来の収益などを基に計算する「収益還元法」を使う場合には認められないとする決定を出しました(判決全文はこちらから閲覧できます)。先日のアートネイチャー事件最高裁判決は「訴訟」でしたが、こちらは会社法786条2項に基づく価格決定申立事件なので「非訟」事件です。
裁判所(第一審)が選任した鑑定人(公認会計士)の鑑定意見理由では、収益還元法を採用したうえで、非流動化ディスカウントを用いて株価が算定されていましたが、決定理由では「収益還元法は将来期待される純利益などを基に現在の株価を算定する手法で、(非流動化ディスカウント採用の前提となる)市場での取引価格との比較という要素はこの手法の中に含まれていない」と指摘して、算定手法にない要素を反映させて株価をさらに減価するのは不当、としています。最高裁は、一審、原審の決定を破棄して「株価をより高く計算すべき」とする株主側の主張に沿った形で株価を高く算定しています。
カネボウ事件(株式買取価格決定抗告事件 東京高裁平成22年5月24日)などでも、収益還元法が採用された場合の非流動化ディスカウント、少数株主(マイノリティ)ディスカウントの採用が理屈の上で否定されていたと記憶していますが、日経新聞の記事によりますと最高裁でこの争点への判断がなされたのは初めて、とのこと。裁判所が鑑定人の鑑定意見を採用するかどうかは自由心証主義のもとで職権で判断されますが、鑑定意見を採用するかどうか、という点だけでなく、鑑定意見の部分的な採用ということを認めた点でも初めてではないかと。
このような決定が出ますと、この決定の射程距離が気になります。非公開会社の株式固有の非流動化の問題に限られるのか(流動性リスクを株式の期待収益率に反映させた場合はどうなるのか)、また少数株主ディスカウントにも適用されるのか(個人的には、最高裁決定の論理からみても、またカネボウ事件などの例からみても少数株主ディスカウントにも適用されるように思いますが)。本件は非公開会社の株式に関する鑑定評価ではありますが、少数株主保護の要請が高い上場会社の社外取締役、社外監査役の方々も、インカムアプローチが採用される株価算定に遭遇した場合には、この最高裁決定の射程距離については配慮しておいたほうが良いと思います。
いずれにしましても、価格決定申立が予想される事業再編の場においては、会社法785条1項等の「公正な価格」の解釈に忠実に従った最高裁決定が出されたことを前提に、鑑定人の算定手法の採用及び算定要素の選択の合理性についての検討が社外役員に求められそうです。場合によっては経営幹部と利害が相反する中で(つまり、誰も社外役員としてのリーガルリスクを教えてくれない中で、自分で情報を入手しつつ)判断しなければならない、ということにも注意が必要ではないでしょうか。
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