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2015年4月28日 (火)

ステークホルダーが真剣に悩む景表法コンプライアンスリスク

断熱効果をうたう窓用フィルムの表示に根拠がないとして、消費者庁は2月27日、あるメーカーとその子会社の販売会社に対し、景品表示法違反(優良誤認)で再発防止などを求める措置命令を出しました。これに対してメーカー側は命令を不服として、国を相手に措置命令の取消しと損害賠償を求める訴訟を提起し、併せて措置命令の執行停止申立てを行いました。そして、4月20日付けで、東京地方裁判所より措置命令の執行停止の決定がなされたそうです。つまり、地裁は決定で、命令の正当性については判断しないまま、「申立人の重大な損害を避けるため、緊急の必要がある」として、取消し訴訟の一審判決が出るまで命令の効力を停止したことになります。

従業員30人の企業が消費者庁を相手に裁判で真っ向から対決するというのは「闘うコンプライアンス」の典型であり、これまで商品の価値に喜んでいただいた消費者の方々のためにも、断熱効果があることをきちんと証明していくべき責任があります。コンプライアンス経営のためにあえて行政を相手に闘うことにも正当性があります。また、消費者庁から質問状を受領して以来1年半もの間、消費者庁に全面的に協力しながら実証作業を行ってきたメーカー側の姿勢なども、この執行停止という裁判所の判断に影響を及ぼしているのかもしれません。ちなみに損害賠償請求額である3億円は、(このたびの措置命令によって)取引先からの納品キャンセルによる損失だそうです。

景表法違反を争う裁判が継続する間、その宣伝を継続してもよい、というのは企業にとってはありがたい一方で、悩ましいのが断熱フィルムを仕入れて販売する小売業者ではないでしょうか。上記メーカーの専務さんが記者会見で述べておられるように、消費者庁から措置命令の対象となった商品については納品がキャンセルされたそうですから、すでに仕入れた商品は売り場から撤去される可能性もあります。たとえ断熱フィルムが売れ筋商品だとしても、小売業者としては売りたいけれども売れないということになります。そうなりますと、いくら製造会社が宣伝を継続できたとしても、自社で販売する以外に方法がないため、製造会社は裁判が長期化すればするほど打撃を受けることになります。こういったことがあるため、そもそも製造会社は(泣く泣く)消費者庁の措置命令に従った行動を余儀なくされるというのがこれまでの実情のようです。

では今回のように(判決が下りるまでの間)宣伝を継続してもよいとされた場合、はたして小売業者はこれまでどおりに断熱フィルムを仕入れて販売も継続すべきでしょうか。これはメーカーを取り巻くステークホルダーにとっては極めて悩ましいと思われます。コンプライアンス経営(社会の要請への適切な対応を重視する経営)という視点からみた場合には、消費者庁から措置命令は出されたけれども、裁判所が宣伝をしてもよいとお墨付きを与えたのだから(裁判所の最終判断が出るまで)小売業者としては販売を継続してもよいはずです(いや、むしろ裁判所の執行停止命令の趣旨からすれば、これまで通りに取引を継続すべきともいえます)。

しかし法的視点からみた場合、表示に優良誤認のおそれがある商品について、そのような疑惑があることを知りながらあえて店舗で販売に関与するとなると、これは景表法上の「事業者」として、景表法規制の主体として扱われることはないでしょうか。つまりメーカー側が敗訴した場合、小売業者も表示の適正性について関与した者と法的に評価されるか否か、という問題です。たとえ小売業者が景表法上の「事業者」に該当しないとしても、そのような商品を消費者に販売することの違法性からみて、たとえば売買の無効を消費者側から主張されて返品に応じなければならない、といったことも考えなければなりません。このあたりは極めて難しい問題ですが、後日裁判において措置命令が有効であると判断された場合、小売業者と消費者との民事的な紛争リスクは否定できないように思われます。

機能性表示に関する制度が4月1日から施行されましたが、こちらは届出制ということで、かなり性善説に立った運用が予想されます。仮に消費者に迷惑をかけてしまうような業者が現れたとしても、その機能性表示に問題があるとすれば、消費者庁側が立証責任を負うことになります。そうなりますと、今回のような消費者庁と事業者との訴訟がさらに増え続けるのではないかと。そうなりますと、今後さらに小売業者(販売者)の有事対応が問題となることも予想されます。平時から個々の小売業者もしくは事業者団体において、このように製造会社が裁判で争ったケースにどのように対応するか、検討を要するものと思われます。

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