企業秘密侵害事件にみるコンプライアンス・プログラムの重要性(その2)
4月20日のエントリーで詳細に述べました上新電機元課長によるエディオン営業情報の漏えい事件ですが、法人である上新電機について不起訴(起訴猶予)処分が5月22日に下されたそうです(産経新聞ニュースはこちら)。関係会社に利得、損失が発生した様子がなく、また上新電機の役職員の関与も認められず、さらに同社は再発防止策を構築している、というのが主な理由のようです。
従前のエントリーではコンプライアンス・プログラムの重要性について書きましたが、このたびの報道からしますと情報漏えい事件発生時に、自社の役職員の関与がなかったことを明らかにするためにも、やはりブログラムの運用が有効ではないかと思います(上新電機さんがそのようなプログラムを策定していたかどうかは不明ですが)。毎度申し上げておりますとおり、企業不正リスクをマネジメントするためには、不祥事は起こしてはいけない、という発想ではなく、不祥事は必ず起こる、起きたときにどうするか、という発想が必要です。もし会社が情報漏えい事件に巻き込まれたとしても、犯行に及んだ社員の単独実行であること、会社は何らの利害関係もないことを、どう説得的に説明できるか、内部統制システムの運用によって立証できる態勢を備えておかなければなりません。
なお、地検は「再発防止策もとられているようなので」と不起訴理由を述べているそうですが、再発防止策の実効性確保も重要だと思います。再発防止策が機能するのであれば、基本的に会社犯罪に刑事罰や行政罰が問われることはないと思います。先日、武田薬品工業が旧薬事法違反(虚偽誇大広告)によって業務改善命令を下される予定だと伝えられましたが(たとえばこちらのニュース)、企業の自律的行動による再発防止策が十分に機能しないと思われる場合には、行政や司法による事後規制が待ち構えています。おそらく上新電機のケースでも、再発防止策がしっかりと確認できていなければ、刑事罰適用の可能性はあったのではないでしょうか。
先日ご紹介した「会社法罰則の検証~会社法と刑事法のクロスオーバー」の拙稿でも書いておりますが、これだけ企業の内部統制システム構築の必要性が問われる時代において、企業不正抑止のための刑事罰や行政罰の必要性が(以前と比べれば)乏しいのかもしれませんが、それでも「最後の砦」としての刑事罰の実効性は今もなお求められているものと考えています(もちろん、罪刑法定主義の観点からみれば、両罰規定による規制を超えて、組織の構造的欠陥をダイレクトに指摘できるような刑事罰を規定することは現時点では困難かもしれませんが)。法人自身が刑事罰を適用されることのデメリット(社会的信用毀損)を考えますと、コンプライアンス・プログラムの効用は大きいと思います。
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