コーポレートガバナンス・コードが大王VS北越紀州バトルに及ぼす影響
子会社出向社員による24億円の業務上横領事件、子会社統合破談に関する三菱製紙社への損害賠償請求等、いろいろと騒動が勃発している北越紀州製紙社ですが、本日は、さらにもうひとつの騒動に関するお話です。5月27日の朝日新聞ニュースによりますと、大王製紙社の6月総会において、筆頭株主である北越紀州製紙社(21%保有)が、大王製紙社現社長の再任議案に反対する方針を固めたそうです。反対理由は、6月1日適用開始の企業統治指針に基づく、というもの。「株主との対話に消極的な点が、上場会社の経営者として問題」と判断されたようです。
北越紀州側が、「株主との対話に消極的である」として否決票を投じることは、コード原則1-4(いわゆる政策保有株式)に忠実な行動といえるのかもしれません。北越と大王は、それぞれ株式を持ち合っているので、北越紀州の機関投資家からすれば、原則1-4に従い対話に基づく(政策保有株式に関する)積極的な議決権行使を要求するところです。議決権行使の前提となる対話を大王側から拒否されたとなりますと、北越紀州としては「大王製紙の社長再任議案に否決票を投じる」ということに合理的な説明がつきます。
しかし一方で、大王製紙側にも対話を拒否したことに相応の理由が立ちそうな気がします。東洋経済社が伝えるところでは、北越紀州及び三菱製紙社の販売子会社統合の話が白紙に戻ったことについて、大王製紙側に何らかの関与があったとされ(本当のところはわかりませんが)、M&Aに関連する憶測が飛び交う状況の中で、両社トップのみによるスモールミーティングを開催するとなりますと、コード補充原則5-1②の(ⅴ)により、大王側のインサイダー情報を管理できる状況にないとして対話を拒否することもできそうです(また大王側としては、基本原則1による株主の平等性確保との関係にも配慮したものと言えそうです)。
かりに北越紀州側が大王製紙の社長さんに反対票を投じるとなりますと、今度は大王側においてコード補充原則1-1①が課題となります。同補充原則は、株主総会の議案について反対票が多かった場合には、その反対理由や原因の分析を行い、株主との対話の要否について検討を行うべきである、としています。大王側が、この補充原則をコンプライするのであれば、おそらく20%という数字は「反対票が多かった場合」になりますので、コードに従った行動が求められそうですね。
以上のお話は6月1日時点において、両社ともコードへの対応を公表した場合を前提としていますし、反対票を投じる原因となった真意については両社のこれまでの経緯があってのこととは思いますので、今後の両社の動向を予想したものではありません。ただ毎度申し上げますように、コーポレートガバナンス・コードはプリンシプルベースであり、法的拘束力がないので、コードに反する行動それ自体が法令違反というわけではありません。しかしながら株主総会自体が「建設的な対話の場」とされていますので、そこでの質疑応答には(両社とも)十分な配慮が必要かと思います。
「東証さん!、ほれ、あそこの会社は『コンプライしてます』なんて言ってますが、コンプライもエクスプレインもしてませんよ!明らかな上場規則違反なんで早く制裁発動してください!そうでないとマネする会社も出てきますし、なにより海外から市場の信認が得られなくなりますよ!」なんて、会社間紛争の具としてコードが活用されないことを祈ります(^^;
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