監査部門必読!?-JBR社内調査委員会と「攻めのガバナンス」
トラブル解決を本業とするJBRさん(東証・名証1部)が大きなトラブルになってしまいました。同社の連結子会社における会計不正事件といえば、昨年何度も当ブログで取り上げましたが、4月28日に公表されました同社内部調査委員会報告書を拝読してたいへん驚きました。同内部調査委員会は、過去3度の第三者委員会も認定できなかった「親会社の元取締役管理部長」の不正関与(といいますか不正主導)の事実を認定しています。この元取締役管理部長さんは現在でも自身の関与は否定されているそうですが、社外取締役2名、社外監査役1名で構成される内部調査委員会は、明確にこの元取締役の関与根拠事実を証拠をもって認定しています。ちなみにフォレンジック部隊も(メールの復元等で)活躍されています。
これまで実行者として「会計不正の主導者」とされていたA社員(子会社取締役)が、実は親会社のB元取締役管理部長から具体的な指示を受けて先食い(工事進行基準に基づく不適切な売上先行計上)を行っていたということだそうです。A社員が第三者委員会のヒアリングに嘘をついていたのは、B元取締役管理部長から「真実を話せば当社は上場廃止になってしまう。私も困るし、あなたも困るし、すべての社員が困ってしまう」と説得されたことによるものだそうです。A社員はBから「心配するな、俺が必ずおまえを守る」と言われたそうですが、粉飾を指示された社員をなだめる経営幹部の常とう手段ですね。ちなみに、このA社員は(意を決して)内部監査の手が会計不正工作に及ばないように自ら画策しています。
しかし本件でもっとも驚いた事実は、同社の監査役、内部監査室長がこのB元取締役管理部長の指示を受けて監査役らに届いていた「疑惑ccメール」を自身らの手で消去していたことです。本来、会計不正の主導者である経営幹部の不正を勇気をもって糾弾しなければならない立場にある二人が、このB元取締役から「会社を守るためだ」と言われて自身らに届いていた不正を疑わせるメールの消去に走るというのは・・・・・。このB元取締役管理部長は、自ら社内で「上場屋」と名乗り、会計不正を実行した連結子会社の上場を企図していたということなので、相当に親会社では実力者だったものと推測します。
多くの社員が「会社を守れ」というメッセージのもとで疑惑メールを消去し、証拠隠滅に走ったというのですから、やはり組織力学は恐ろしいなぁと感じます。ちなみに疑惑メールを消去しなかった(消去指示を拒否した)社員がひとり登場します。なんと気骨のある社員だなぁと読みながら感じておりましたが、最後まで読みますと「私は当時、子会社の保険会社に出向しており、金融庁が管轄でした。なので、もしメールを消したことがバれたら厳罰になるのでこわかったのです」とあり、ややガッカリします。
さらに「日弁連第三者委員会ガイドラインに準拠しています」としながら、どうして第三者委員会はここまで突っ込んで事実認定をしなかったのか、と第三者委員会への苦言も呈しています。もちろん第三者委員会設置の時点では金融庁の立入検査が行われていない、関係者が協力して真実を話さない、といった問題はあったものの、今後の第三者委員会の在り方にも一石を投じることになるのではないでしょうか(ちなみに、内部調査委員会がここまで書けるのは、ご自身方が事件の後から社外役員に就任されたから、という面もあることを付言しておきます)。そもそも第三者委員会が半年間で3回も(委員を変えて)設置されるということは異例の事態であり、どうして監査法人が第三者委員会の認定に満足できなかったのだろう・・・と疑問に思っておりましたが、監査法人は同社の監査役さんとの連携がうまくいっていなかったことが想像できます。監査役が監査法人に対して「なぜ第三者委員会を設置せよ、などと偉そうにいうのか、そこまで必要ないではないか」と抗議に出向いたことが記載されています。うーーん、たしかに経営者が関与する不正を糾弾するためには監査役と監査法人の連携は不可欠だと思いますが、これでは機能しないかなぁと。
なお、この報告書を読んで感じたことですが、これはなにもJBRが特別な会社だから、ということではなく、一つ間違えばどこの会社でも起きるのではないか、ということです。会計不正の舞台となった子会社はJBR社が成長戦略の一環としてM&Aで取得した会社です。その会社の社長さんにほれ込んで取得したということのように推測されます(これまでの第三者委員会報告書等を総合しての推測です)。また元取締役管理部長氏は、世間で上場のプロと呼ばれていたようで、この子会社を上場させるという使命に燃えていたようです。JBR社からこの連結子会社に多額の融資が短期間のうちに実行されていますが、これも同業他社に後れを取らないように迅速果断な意思決定が必要だったとか。必要があれば書面決議による実行も行われていたようです。まさに上場会社の成長戦略を推進するための「攻めのガバナンス」の象徴のような場面で発生した会計不正事件です。
世間ではコーポレートガバナンス・コードへの関心が高まっており「攻めのガバナンス」が素晴らしいもののように思われる風潮がありますが、監査部門が機能しない等、ひとつボタンをかけまちがえると恐ろしい粉飾地獄が待ち構えており、まじめな社員が多ければ多いほど「会社を守るためにみんなで粉飾に協力する」という結末を迎えることになってしまいます。JBR社の今後のガバナンスの建て直しに大いに期待したいところですし、他社においても「執行と監督の分離」ということをまじめに考えてみてはいかがでしょうか。
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コメント
GWのお勉強で、第三者委員会報告書を読みました。非常に面白く、又勇気ある事実認定で、面白く読みました。
過去の第三者委員会と異なる認定になっていますが、見事にだまされたのか、思い切った事実認定ができなかったのか、どちらなんでしょうか。第三者委員会の難しいところで消化。
余計なことかもしれませんが、今回の第三者委員会には、今後仕事が行かなくなるのでは(鋭すぎて)と、余計なことも考えてしまいました。
勝手格付委員会には、次のお題にJBRの一連の報告書を取り上げて欲しいなあ。
投稿: Kazu | 2015年5月 7日 (木) 21時54分
ざっと報告書に目を通しただけですが、
・関係者が口裏を合わせ
・外部の(当時)バックアップが取れないメールを利用しただけで
第三者委員会が機能しない事態が起きるのであれば、結構お手軽に不正の隠蔽が可能だなと思ってしまいます。
業務にメールが不可欠≒不正にも不可欠な現状を鑑みると、第三者委員会の受任の条件に、メールに関して少なくとも「相当程度の期間の送受信・削除の記録が残存しており、かつ削除されたものの再現が可能なシステムが構築されている」ことが必要なのではないでしょうか。
後医は名医となってしまいますが、結果として不十分な調査となってしまった場合、その当事者(第三者委員会)自身に要因分析のレビューも要請したいものです
投稿: 博多ぽんこつラーメン | 2015年5月 9日 (土) 02時13分
JBR代表取締役社長が,一連の経緯について,何も発言をしていないようなのが気になります。HP上の「代表挨拶」も従前のままですし。
第三者委員会については,とりあえず,設置をして調査結果を公表しておけばいいという段階から,調査手法や調査結果の妥当性,クオリティが強く問われる段階へと変化しつつあるのを感じます。
そうした意味で,T芝社が,どんなメンバーで第三者委員会を組成するのかは大いに興味があるところです。
投稿: Tenpoint | 2015年5月 9日 (土) 13時14分
Kazuさん、第三者委員会のメンバーをだれが指名するか・・・というのも、最近はいろんなパターンがありそうなので、今後も仕事が来るのではと思います(大きなお世話かもしれませんが・・笑)。博多ぽんこつラーメンさんのご指摘のとおり、メール確認はたいへん重要でして、最近はフォレンジックの発達でかなり効率的な確認作業もできるようになりました。したがって必須の作業になってくるのではと私も思います。
Tenpointさん、このあたりは私もぜひ関係者に聞いてみたいですね。たしか第3次第三者委員会は社長の関与にスコープしたものではなかったかと思います。いずれにしても今回の件についての社長の対応について社員の方々も注目しているのではないでしょうか。
投稿: toshi | 2015年5月 9日 (土) 13時51分