改正会社法施行日に考える「監査等委員会設置会社」
本日(5月1日)は平成26年改正会社法の施行日ですね。企業統治や親子会社規律、事業再編等に大きな影響を及ぼすことが予想されます。会社法は小さな会社にも適用がありますので、今後は全国の中小の会社さんにおいて混乱が生じるかもしれません。6月に適用開始となるコーポレートガバナンス・コードとは異なりますので、まずは全国の経営者の方々が「会社法が少し変わったらしいけど、うちは大丈夫?」といったことだけでも「気づき」があればいいですね。
ところで日経ニュースなどでも報じられているように、企業統治改革の目玉である社外取締役制度導入(有価証券報告書提出会社への事実上の強制)に伴い、監査等委員会設置会社へ移行を表明した会社が100社を超えたそうです。正確にはガバナンス・コードによる影響のほうが大きいとは思いますが、スゴイ勢いで監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ機関設計を変更する上場会社が増えています。先週、先々週と、東京や大阪でセミナーを開催させていただきましたが、経営者、担当者とも真剣に移行を検討している会社が非常に多いことに驚きました。今後も益々移行を表明する企業が増えるものと予想します。
もう何度も当ブログでも述べましたので繰り返しになってしまいますが、監査等委員会設置会社はうまく活用すれば事業戦略上有効であり、まさに「稼ぐ力」を推進する役割を果たすと思いますが、その分副作用もあり、誰も経営者の作為、不作為による企業価値の毀損を止められない会社固有のリスクがあります。また取締役固有のリスクとしては、監査等委員である取締役(社外取締役は2名以上)の「経営評価機能」は、これまでの監査役さんの監査機能とも、また普通の社外取締役さんに求められる(取締役会における意思決定を通じての)監督機能とも異なります。たとえば会社法399条の2、3項3号に定める監査等委員会の取締役の指名、報酬に関する意見決定職務(「監査等委員会」の職務とありますが、総会での意見陳述は権利でも、意見決定は委員会を構成する全取締役の意見形成関与義務ですね)が規定されていることからすると、この監査等委員である取締役さんの職責(善管注意義務)は極めて大きなものと考えられます。
また、監査等委員会という新たな「機関」を支える事務局の体制作りも不可欠ですね。内部監査部門が担当するのか、それ以外の部門なのかは会社によって異なりますが、そもそも社長直轄の部門が多い中、監査等委員会という独立した機関の実効的な活動をどう担保するのか、これは監査等委員である取締役さん以上にたいへんな仕事かもしれません(ちなみに監査等委員である取締役は非業務執行役員なので「業務執行」はできません。したがって、監査等委員である取締役さんは、自分たちが関与する妥当性監査や、社長の報酬や次の社長が誰がよいか等の経営評価機能を全うできる体制とはどのようなものかを考えて、その整備を経営陣に要求しなければ善管注意義務を尽くしたとはいえないものと思われます)。内部統制システムの基本方針を新たに改正する必要がありますが、監査等委員会設置会社に移行した会社がどのように内部統制システムを改正するのか、今後注目されるところです。
ところでリスクモンスター社(東証JDQ)は昨年6月の定時株主総会において取締役・監査役の報酬額改定に関する議案を上程されました。上程理由は「今年の会社法改正後に監査等委員会設置会社に移行することを検討しており、社外の人たちに就任を打診するにあたっては、それなりの報酬を支払う必要があるから」というものです。同社は会社法務に精通しておられる著名な方々が社外取締役、社外監査役に就任しておられますし、「外から候補者を見つけてくる」と説明しておられますので本気でガバナンスを充実させて戦略に活かすことを検討されているものと推測します。しかしながら、本日現在、リスクモンスター社は監査等委員会設置会社への移行を表明しておられません。ここからは私の推測にすぎませんが、企業のリスク審査を本業とされる同社が監査等委員会設置会社の社外取締役のリスクを真摯に検討され、その報酬額も検討した場合、なかなか社外からふさわしい方を招へいすることはむずかしい、ということかと想像します。
つまり、それほど監査等委員である社外取締役の職責は重く、またリーガルリスクも高いいうことかと思います。私が監査等委員会設置会社の社外取締役に就任するのであれば、これだけの高い条件を社長さんに同意していただけることが条件です(そんな条件ならもう結構ですと言われるでしょう)・・・と昨年出版した「会社法改正のグレーゾーン」の中で書きましたが、その気持ちは今も変わりませんし、昨日購入した江頭憲治郎先生の「株式会社法(第6版)」を拝読しても、その気持ちは揺らいでおりません。一方で、経営者ご自身が(メリット・デメリットを理解したうえで)監査等委員会設置会社に移行することを中長期の事業成長に結び付ける明確なストーリーを描ける企業にとっては、これほど武器になるガバナンスもないのでは・・・と感じます。(改正会社法の附帯決議とされている)2年後のガバナンス検証に向けて、法務省にとっても、この移行表明企業の増加は「良い傾向」と確信されているのではないでしょうか。
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コメント
監査等委員会設置会社への移行により、どの程度ガバナンスが強化されるかは、移行予定会社の現行のガバナンス体制とも関係しますから一応整理してみました。(川井先生のリストを参考にさせてもらいました)
①社外取締役0・社外監査役2名 47社
②社外取締役0・社外監査役3名 19社
③社外取締役0・社外監査役4名 1社
④社外取締役1名・社外監査役2名 13社
⑤社外取締役1名・社外監査役3名 11社
⑥社外取締役2名・社外監査役2名 3社
⑦社外取締役2名・社外監査役3名 2社
⑧社外取締役3名・社外監査役2名 3社
⑨社外取締役3名・社外監査役3名 2社
投稿: 迷える会計士 | 2015年5月 4日 (月) 22時02分
なるほど、移行会社の3分の2が「社外取締役0」というわけですね。実質的にみてガバナンスに前向きなのは全体の1割程度、とみて良いのではないでしょうか。迷える会計士さん、どうもありがとうございます。
投稿: toshi | 2015年5月 4日 (月) 22時14分
いつも勉強させていただいております。今後、某弊行が仮に監査等委員会設置会社に移行した場合、内部監査人の立ち位置がどのように変わるのか、自分の仕事に直接影響があることゆえ、興味と(大きな?)不安があるところです。
ところで『社外取締役ガイドライン』は今回はじめて読んでみたのですが、第3.2(2)に記載のある「社外取締役は,内部統制部門が経営陣に行った内部監査結果報告について,…」という箇所と、第3.8(2)①にある「監査に必要な情報について,監査等委員会のスタッフ,内部統制部門,内部監査部門,会計・経理部門等を統括する取締役から定期的な報告を求める。」の箇所の整合性が取れていないように思います。内部監査部門は、内部統制の基本的要素のうちモニタリング(独立的評価)を担う立場として、広義の内部統制部門に含まれるという理解は可能かと思いますが、であれば後者で使い分けをしている理由がないように思います。
投稿: 地域限定内部監査人 | 2015年5月 6日 (水) 22時38分
地域限定内部監査人さん、ご指摘ありがとうございます。おっしゃるとおり内部統制部門と内部監査部門の用語の使い分けがあいまいですね。最終的な執筆者間における交通整理は十分にやったつもりでしたが、誤解を招く表現が残ってしまったようです。解説本の中でそのあたりは指摘しておきたいと思います。いわゆる広義の内部統制部門の中に内部監査部門も含めて第3、2、(2)は表現している、との読み方で結構かと思います。
投稿: toshi | 2015年5月 7日 (木) 09時54分
ご教示ありがとうございます。
内部統制部門と内部監査部門の用語の使い分け(定義)については、揺れている部分があるように思います。
ご承知と思いますが、日本監査役協会が『監査役監査基準』および『内部統制システムに係る監査の実施基準』の改定案について、5月20日までの期間、パブコメを募集しています。 http://www.kansa.or.jp/news/information/post-326.html
改定前からそうなのですが、これらの中では内部統制部門、内部監査部門が明確に使い分けられています(例えば『監査役監査基準』の旧第34条)。『社外取締役ガイドライン』における記載ぶりと比較してみると、一利用者としては、いずれかに統一できないものかと思ったりもします。
投稿: 地域限定内部監査人 | 2015年5月 7日 (木) 20時01分