内部通報制度見直しの参考となる大津市の新条例
5月1日の読売新聞ニュースで知りましたが、大津市が外部委員による委員会を活用した内部通報・内部告発受理制度を新たに設置したそうです。4年ぶりに改訂された「大津市職員等の公正な職務の執行の確保に関する条例」に基づく制度ですが、①職員からの内部通報、市民からの内部告発を外部委員会が受け付ける、②同委員会は、必要がある場合には独自で調査をする、③市民の責務を規定して、不誠実告発を排除する、④内部通報によって職員が不利益取扱いを受けた場合には、同委員会に申出ができる、⑤通報者だけでなく、通報や調査に協力をした者の不利益取扱いの申出も受ける、といった特徴があります。ちなみに外部委員には3名の弁護士が就任されているようです。
5月1日施行の改正会社法施行規則では、内部統制システムの整備に関する決議事項として「監査役に報告したことによって不利益な取り扱いを受けないための体制整備」が規定されています。また、6月1日適用開始予定のコーポレートガバナンス・コードの第2章原則2-5においても、内部通報制度を整備すべきとされています(さらに補充原則2-5①では、社外役員が関与した独立窓口の設置、通報者の不利益取扱いの禁止などが規定されています)。これらのガバナンス改革の流れの中で、今年は上場会社を中心にヘルプラインの見直しが図られるのではないかと思いますが、上記の大津市の新しい試みは上場会社にも参考になるのではないでしょうか。
とりわけ「不利益取り扱いの禁止」条項の実効性を、どのようにヘルプラインで担保するかは課題です。不利益取り扱いにペナルティを課すというところも多いと思いますが、上記大津市の規定では、まず外部委員会に「不利益取扱いがあった」と申立てができるものとなっており、この外部委員会が(法律専門家として)調査を開始するというところが斬新かと。さらに、私も消費者庁のアドバイザーとして、この1年、多くの内部通報者・内部告発者からヒアリングをさせていただきましたが、「内部通報協力者」の存在もいくつかの事例で見受けられました。私自身も通報協力者の秘密が守られ、また協力者自身の不利益取扱いが禁止されなければ、内部通報の実効性は確保されないと考えていますので、調査協力者の保護を規定した大津市の制度はかなり画期的なものではないかと思います。
ヘルプラインの運用でむずかしいのは「不誠実通報への対応」という点ですが、大津市の制度では、調査の必要性の有無を外部委員会の判断にゆだねていますので、通報が増えてきた場合には外部委員の方がけっこうたいへんかもしれません。公益目的通報に関する規定の前に、「不当要求行為」を定義して、市民による不当な要望から職員を守ることとの関連でうまく処理できるのかもしれませんが、運用次第では窓口担当者自身がコンプライアンス違反として糾弾されることがありますので(私の経験では)気苦労が多いところです。
いずれにしましても、この条例の目的は職員の保護ということよりも、職員のコンプライアンス確保(による市政の健全化)を第一に掲げていますので、内部通報と内部告発をいずれも受け付けるというものです。公益通報者保護法との関係では整理しなければならない点も多いかもしれませんが、コンプライアンス経営を実現する、ステークホルダーとしての従業員の地位を確保するということを真摯に考える企業にとっては、参考になるところが多いと思います。私は独立した外部窓口を担当することよりも、最近は「ヘルプライン制度の内製化」のためのコンサルティングのほうが仕事としては増えてきましたが、各企業における理想(あるべきヘルプライン)と現実のギャップを知るためにも、まずはこのような外部委員会制度を活用することをお勧めいたします。
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