東証規則に組み込まれたガバナンス・コードに関する素朴な疑問
本日(5月13日)、日本取引所のHPに有価証券上場規程の改正案(6月1日版)が公表されました。ご承知のとおり、有識者会議で策定されたコーポレートガバナンス・コード原案が、原案のままの形で同規程445条の3に組み込まれ、いよいよ正式なコードとなりました。上場会社はすべて同規程445条の3に基づき、CGコードの精神・趣旨の尊重義務を負うことになります(ただし、制裁の対象となる「原則」の範囲については東証1部、2部会社とJDQやマザーズ上場会社との間では異なります)。
CGコード自体の実効性を担保するのは「株主との対話」によるところが大きいことは間違いないと思います。また、開示せよと規則が命じている項目を開示していないとか、コンプライしないにもかかわらず理由を何も開示していないとか、コンプライしているかのような虚偽の理由を開示した、ということであれば、これは東証ルールに違反しているので、東証の制裁措置が発動されることにより実効性が担保されることになります。
では、コードの解釈が原因で、そもそもコードを実施していないのにもかかわらず、会社側はコードを実施していると考えている場合にはどうなるのでしょうか?東証さんは「御社はコードを実施していないにもかかわらず、何も理由を開示していないではないか?東証ルール違反ではないか?」と質問したところ、会社側は「いやいや、うちは規程445条の3に従いコードの精神・趣旨を尊重してコードを解釈している。うちの解釈によれば、コードを実施しているのであるから理由を開示する必要はない」と反論するような場合です。開示規制なら別ですが、行為規制に関するコードについては、会社が本当にコードを実施しているのかどうかはわかりません。とりあえず解釈がグレーであれば、会社としてはコンプライしている「ふり」をして、なにか問題が生じたら「見解の相違である」として言い逃れをする・・・という戦法です。
たとえば原則2-4には女性の活躍促進というコードがありますが、これは開示が要求されているものではありません。しかし「当社は女性の活躍促進はしません」としてエクスプレインする会社もあまりないものと予想します。とりあえずコンプライするのですが、その活躍促進策というのが「これが活躍促進策?」と疑問を抱くようなものであったとしても、会社が「これはコードの趣旨からみて立派な促進策だ」と断固主張するようなケース。また、取締役会の審議の活性化に関する補充原則4-12①は取締役会で配布される資料は会日に十分先立って配布されるようにすることが定められていますが、「うちの会社では2日前でも十分」と考えれば、このコードにはコンプライしていると考えて何も開示しない、ということもありそうです。確信犯的な会社は東証ルールに基づいてペナルティが発動されることは当然としても、このように誠実そうに解釈を誤る・・・という対応へのコードの実効性担保はなかなかむずかしいのではないでしょうか。
スチュワードシップ研究会さんが、パブリック・コメント(10番)として「せっかくガバナンス・コードを作ったのだから、すべての項目についてコンプライしている会社についても、どのようにコンプライしているのか開示させるべきではないか」との意見を述べておられますが、本来はそうすべきではないかと私も思います。もちろん、上場会社の中には、自社HP等ですべてのコンプライの内容まで開示するところも出てくると思いますし、株主との対話において重要項目と考えるものだけでも東証ルールとは別に開示するところも出てくるはずです。しかしガバナンス・コードは基本的に「経営判断には踏み込まない」という原則で作られているようなので、そこは株主との個別の対話の中で明らかにされればよい、ということになるのでしょうね。先の「コードの解釈の相違」というものも、理屈では東証ルールに反するものではあっても、実質的には株主との対話によって実効性が確保される、ということになると思われます。
このように考えてみると、CGコードは上場会社のガバナンスの実効性を担保するだけでなく、スチュワードシップ・コードを遵守するアセットオーナーやアセットマネージャーの方々が、対話を通じて中長期の企業価値向上のために責任を分担してもらうためにも存在する、というところでしょうか。アセットオーナーが中長期的に株式を保有することまで求めるものではありませんが、ガバナンス改革が上場会社の中長期的な企業価値に結び付くものとして、これを促進させるための責任までは求める、というところかと。
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