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2015年6月30日 (火)

取締役会評価制度と「コーポレート・ガバナンスの基本方針」との関連性

今朝(6月29日)の日経法務面ではコーポレートガバナンスに関連する話題がふたつほど取り上げられており、社外取締役が増員される取締役会において「執行と監督の分離」が推進されている現状が紹介されていました。最近のガバナンス改革の中で、よく「執行と監督の分離」という言葉が使われ始めましたが、では「執行と監督」とはどのような意味でしょうか?また「分離」とはどういった状態を表現しているのでしょうか?なんだか「バブル崩壊」や「リーマンショック」のように、自分に都合のよいようにイメージ化してしまって、議論を思考停止の状況に陥らせてしまう風潮が心配されます。「執行と監督の分離」と聞こえはいいかもしれませんが、何も起こらない平時においては、社外取締役はとくに何もしなくても「監督している」といえそうな気もいたします。つまり「監督」の内容次第では社外役員の不作為を正当化してしまう(ごまかしてしまう?)のではないでしょうか。

日本の会社法が取締役に職務として求めているのは、他の取締役の職務執行の監督と重要な意思決定への参加です。したがって「監督」といっても監視義務を尽くすことだけではなく、社長の業績を評価することや重要事項についての意思決定に参加することも含めて「監督」という意味だと思われます。しかしそうすると「分離」という意味がおかしくなりそうですね。私はこのあたりがガバナンス・コードがプリンシプル・ベースの指針である、としたことの妙だと思います。

上記日経新聞で取り上げられていた「取締役会評価制度」についてもガバナンス・コードに示されており、取締役らは取締役会の実効性を評価・分析すべしとされています。アメリカでは取引所ルールで制度化されていることもあり、9割以上の上場会社で取締役会評価制度がすでに実施されています。ラム・チャワン氏の好著「取締役会の仕事」(日本語版は日経BP社)でも紹介されているように、いま取締役(会)と経営陣との関係は急速に変化しており、以前は「監視義務を尽くす」ことが取締役会の仕事とされていたのですが、現在は意思決定のパートナーや会社をリードする役割を担うべき存在とされています。つまり取締役会には株主の代理人として経営陣を監視するだけでなく、経営陣と取締役が協力しながら決定する分野、取締役会が率先して判断しなければならない分野、逆に経営陣に任せるべきであり関与してはいけない分野があり、その構成員である取締役は、これを意識して仕事をしなければならないとされています。日本の会社法の条文とも整合性のある考え方かと思います。

そう考えますと、取締役会評価制度というものを採用する場合、まず自社がどのような取締役会の在り方を標榜するのか、これを掲げる必要があると考えます。これはおそらく「コーポレートガバナンスの基本的な考え方」として(ガバナンス報告書や自社HP等で)開示されるのではないでしょうか。ビジネスモデルは各社違うわけであり、単純なビジネスモデルの会社もあればグローバル展開や他業種を抱える等複雑化したビジネスモデルの会社もあります。儲けが出るまで時間を要する会社、業務執行を兼ねる社内取締役が大半を占める会社、またBtoBとBtoCの会社でも違うと思います。

そういった自社のビジネスモデルに合わせて、経営陣と取締役会との関係をどう構築することが理想なのか、どのような領域は取締役会がリードして、どのような領域は協力するのか、それを「基本的な考え方」で示して、その理想と現実とのギャップを測定することが「取締役会評価」ではないかと考えています。だからこそプリンシプル・ベースであり、自己評価でも足りるのではないでしょうか。(※1)また、このようなことを明確に決めておかないと社内取締役は今まで通り「監督」には無関心となり、また社外取締役は不作為を正当化して株主の負託に応えられない懸念が生じます。つまり「わが社における『監督』という意味は、個々の取締役がこのような役割を担い、このような分野は経営執行部に権限を委譲して、その業績の評価のみを行うことである」と株主に示す必要があり、その結果として取締役会の評価が意味を持つようになるはずです。このたびのガバナンス改革が、本当に「執行と監督の分離」を目指しているのであれば、また多くのガバナンス・コードに日本の上場会社がコンプライするのであれば、社内取締役も意識を変えなければなりませんし、またそのような「業務執行社内取締役」の意識改革を促すことも社外取締役の重要な使命だと考えています。

※1・・・取締役会評価について「第三者機関を活用した評価」がなされる例が英国を中心に行われています(ちなみに英国では2002年にコードが実施されています)。しかし誤解されているようですが、この「第三者機関を活用した取締役会評価」というのは、会社の自己評価をサポートする、もしくは自己評価の開示の正確性を担保するという意味で第三者が関与する制度であり、第三者機関が独自のモノサシを持っていて、「御社の取締役会は○○点です。ここが良い点でここが悪い点です」などと第三者が独自に評価する機関ではないそうです。これは私が理事を務めているコーポレートガバナンス・ネットワークの5月の研修において、英国の第三者評価機関のリーディングカンパニーの方をお招きしたのですが、その講演において明確に述べておられました。したがって上記のとおり、自社による取締役会評価の手法をきちんと確立することが大切だと思います。

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2015年6月29日 (月)

決議に必要な定足数に満たない定時株主総会の取扱い

ギリシャ政権とEUとの対立が深刻になり、デフォルトの可能性も高まってきましたので、このままだと日本の市場にも大きな影響が出るかもしれませんね。円高・株安の懸念が現実味を帯びてきました。

さて、今年も株主総会シーズンが終了して、ホッとされている方も多いと思います(いや、ひょっとするとガバナンス・コードの策定で忙しい方もおられるかもしれませんね)。しかし定時株主総会にアクシデントがあった会社の担当者の方はつらい日々を過ごしておられるのかもしれません。そういえば総会直前にCFOが退任される製薬会社さんもありましたが、これもアクシデントですね。

6月26日の午後6時の某社リリース「第45 期定時株主総会における定足数を必要とする議案の結果について」を読みますと、定時株主総会を予定通り開催したものの、出席株主数が議案の決議に必要な定足数を満たしていないとしてすべての議案が成立しなかったそうです。定款変更議案や役員の選任・解任に関する議案は、定款で定足数要件を排除していたとしても会社法上では一定の定足数要件が強制されます。リリースでは「あと少し足りなかった」ようですが、事前準備において見通しが甘かったのかもしれません。

同社は後日、定時株主総会の「継続会」によって議案の成立を目指すそうです。そもそも定足数を満たしていない定時株主総会が開催されたにもかかわらず、どうして総会の延期・続行に関する決議が出来たのか、審議の時点で定足数不足だった場合に議案の決議に瑕疵はないのか、といった点がやや問題になりそうです。

修正動議や総会の延期・続行に関する決議については、同社の定款で定足数要件が排除されているので、出席株主の多数決によって決議することは可能と思われます。また、本来、総会決議に定足数を要する場合には、定足数に達する株主の出席がないかぎりは議事に入るべきではないと思いますが、決議の時点で定足数に達する株主が出席しており、かつその株主が異議なく決議に参加するかぎりは、議案の審議の際に定足数を欠いていたことは決議取消の事由とはならないとする説があります(大隅・今井「会社法概説(第2版)」178頁)。

したがって、同社は継続会の冒頭で、出席株主に異議がないことを確認したうえで、すでに発送済の招集通知に掲載している総会議案への賛否を問うことになりそうです。同社の場合には、未だ議案の審議まで至らずに継続会を決定したそうですが、議事は進んでいるので(報告事項の報告は済ませているとのこと)出席株主への確認は必要ではないでしょうか(本来ならば定時株主総会を終了させて臨時株主総会を開催すべきなのでしょうね)。

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2015年6月26日 (金)

社外取締役も株主総会で回答しなければならない時代到来か?

本日(6月25日)、これまで当職が2期(2年)取締役を務めてきた大東建託株式会社の定時株主総会において、取締役12名の選任に関する議案が承認可決され、私も再選していただきました。総会では10名の個人株主様からの質問がありましたが、いずれもレベルの高いものばかりであり、よく勉強されているなぁと感じました。なかでも二人目の株主の方は「○○社外取締役さんにお聴きしたい、○○さんからみて、当社の取締役会をどのように評価しているか、具体的な事例をあげて回答していただきたい」との質問でした。ちなみに私ではありませんが、○○さんは、議長からの指名を受けてこの質問に詳細に(約4分ほど)回答しました。

執行と監督の分離がガバナンス・コードで謳われ、また攻めのガバナンスにおける社外取締役の役割がクローズアップされる時代において、社外取締役に対する質問について議長である経営執行部が代わりに回答する、というのもなんだかおかしな話ではないかな・・・と思っておりました。大東建託の総会準備においても、もし特定の社外取締役を指名したうえで質問があった場合には指名を受けた社外取締役が直接回答しましょう・・・といった打ち合わせを社長(議長)としていました。「株主との対話」が求められる中で、社外取締役が取締役会をどのように評価しているのか、当該取締役会を通じて、社外取締役はどのように企業価値向上に貢献しようと考えているのか、株主の皆様が社外取締役から直接聞きたいと考えることも自然だと考えたからです。

本日の東芝さんの株主総会では、外務省ご出身の社外取締役の方が(不適切会計処理問題について)直接株主に陳謝されました(毎日新聞ニュースはこちら)。また、住友化学さんの個人株主の方からお聞きしましたが、6月23日の同社定時株主総会では、日本再興戦略に影響を与えた「伊藤レポート」で有名な伊藤邦雄先生でさえも、二つほどの株主からの厳しい質問に対して自ら回答されたそうです。会社側が単純に社外取締役を選任すればよい、というわけではなく、選任された社外取締役がどのような形で企業価値向上に貢献するのかが問われるのが今回のガバナンス改革です。ガバナンス改革は定時株主総会の在り方にも確実に影響を及ぼしているのであり、社外取締役は自ら質問に回答しなければならない時代へと変容しつつあるように思います。

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2015年6月24日 (水)

東洋ゴム工業社事件-「隠ぺいの意図はなかった」は真実か?

本日(6月23日)、東洋ゴム工業さんは臨時取締役会を開催し、その後の記者会見にて社内取締役5名全員の退任が発表されました(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。昨日公表された免震ゴム性能偽装事件に関する外部調査委員会報告書の認定事実を受けての決定かと思います。それにしても2011年以来、業績は絶好調、株価も急上昇でここまできた東洋ゴム工業さんにとって、売上比率わずか0.2パーセントにすぎない免震ゴム事業における性能偽装問題の躓きは非常に厳しいものとなり、この最高業績の中で退任せざるをえない経営陣の方々にとっては、さぞや悔しい気持ちではないかと推察いたします。

ただ、本日の記者会見で「経営陣に(偽装について)隠ぺいの意図はなかった。計算数値がどこまで信用性を有するのか把握するのに時間を要した」と社長さんが説明をされていた点については、(外部の素人的発想からしても)やや疑問を抱くところです。なぜなら本件偽装問題について、社外取締役や監査役の方々が、最後まで蚊帳の外に置かれていたからです。昨日公表された調査報告書によりますと、同社の社外取締役、監査役が本事件を知ったのは今年2月初旬ということで、すでに経営陣が国交省への報告や世間への公表を決意した後です。もし安全基準の測定数値がどこまで信用性を有するのか判断がつきかねていたことが真実であり、さらにいったん製品の出荷停止の準備まで整えていて、これを解消したことが真実であるならば、本事件への対応については同社の取締役会で協議されていたはずです。しかし実際は監査役や社外取締役が在席しないところで協議が続いていたということですから、これは経営陣に隠ぺいの意図があったと考えるのが素直なところではないでしょうか。

もちろん「隠ぺいの意図があった」と断定するつもりではなく、「隠ぺいの意図がなかった」ということであれば、なぜ監査役や社外取締役に相談をしなかったのか、在席の場で議論をしなかったのか、という点に関する合理的な説明が必要だと思います。あの違法添加物入りの豚まんを販売してしまったダスキン事件では、ダスキンさんの取締役会で「不祥事を公表すべきか、公表すべきでないか」が議論されました。その際、当時のダスキン社の社外取締役の一人は「いまこそダスキンの信用を守るためにも不祥事を公表すべきである」との長文の手紙を当時のダスキン社長に提出しています(結果として公表はされませんでしたが・・・)。今回の東洋ゴム工業社の社長さんも、第三者の目を入れてしまうと、試験データ改ざんの事実を公表せざるをえない状況に追い込まれる・・・という判断があったのではないかと考えるのが素直のようにも思われます。

このたびの会社法改正では、企業集団内部統制や監査役への報告体制の整備がテーマとなっていますが、昨日の報告書では子会社監査役から親会社監査役へ「性能偽装疑惑」の事実が適時報告されなかったことが記載されています。親会社取締役からも、また子会社監査役からも「蚊帳の外」の置かれてしまうということになりますと、いくら「モノ言う監査役」が存在したとしても有事に機能不全となってしまいます。同報告書の「再発防止策」には監査役制度に対する提言はありませんが、やはり平時からの監査環境整備が不可欠だと改めて認識するところです。監査役への報告体制を構築するための平時からの監査環境整備の手法については腹案がありますが、それはまた別の機会に述べたいと思います。

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2015年6月23日 (火)

東洋ゴム免震偽装事件-偽装に気付いた社員はなぜ内部通報できなかったのか?

本日(6月22日)、東洋ゴム工業さんは免震ゴム性能偽装事件に関する外部調査委員会報告書の全文を公表しました。300頁を超える大部であり、私は前半の「問題行為」についてはもっとも代表的な「G0.39」に関する問題行為の説明部分だけしか読んでおりませんが、240頁以降の「問題行為の発覚状況並びにTR及びCIの対応状況」「原因、背景」「再発防止策」等は精読いたしました。4月27日のエントリー「空白の3カ月に何が起きたのか」で投げかけた私の疑問は、やはり重大なポイントだったようでして、東洋ゴム工業社のトップの不正関与の有無を評価すべき根拠事実は、昨年10月23日から今年1月末までの事実関係から判断されることになります。

ただし、(法律専門職という立場上)東洋ゴム工業さんの役員の方々の不正関与を詳細に論じることは控えさせていただきまして、本日は私にとって関心の高い内部告発・内部通報に関連する事実関係のみ取り上げたいと思います。東芝さんの不適切会計問題が内部告発によって明るみになったことがご承知のとおりですが、私はこの東洋ゴム工業さんの免震偽装事件についても内部告発や内部通報の有無について関心を抱いておりました。ちなみに、このたびの不正事件に先行する2007年の断熱パネルの偽装事件でも、やはり内部告発がきっかけとなって発覚したことがあったそうです。

本日公表された外部調査委員会報告書によりますと、免震性能計算を引き継いだ社員が、前任者の改ざん疑惑に気付いたわけですが、この疑惑については内部通報も内部告発もされなかったそうです。つまり疑惑に気付いた社員は「前任者の計算がどうもおかしい」といった相談を上司に持ちかけ、その上司が調べたところ、やはり偽装疑惑が高まることになるわけですが、(内部通報が窓口に届く、ということはなかったために)最初に社員が気づいてから親会社のトップに疑惑が知らされるまでに1年を要したことになります。また、きちんとした社内調査部隊が構成されなかったことも問題とされています。

東洋ゴム工業さんには内部通報制度があり、それなりに通報の件数も多かったようですが、ではなぜこの疑惑に気付いた社員が通報制度を活用しなかったかというと「乙B(偽装の実行者)が行っていた補正に技術的根拠がないことが明確とはいえなかったため」だそうです(同報告書276頁注参照)。この理由は内部通報制度の活用において非常に重要なポイントであり、ヘルプライン規程等に通報対象事実として「不正事実」とある場合には、通報者はとても悩むわけです。自身が通報したい事実は、果たして「不正事実」に該当するのだろうか、もし該当しない場合は私自身が処分されるのではないだろうか、と逡巡し、最終的には通報をあきらめることがあります。もしヘルプライン規程の文言を「不正、もしくは不正のおそれ」として、できるだけ通報対象事実を広くとらえ、さらに社員研修等で「不正のおそれ」の概念を周知させていれば、上記のような社員の理由で通報を断念するケースは少なくなるものと思われます。本事件でも、仮に疑惑に気付いた社員が内部通報制度を積極的に活用できていたとすれば、親会社のトップが偽装疑惑をもっと速やかに知ることができたのではないでしょうか。

そしてもうひとつ、上記報告書には内部通報制度の活用を阻害するような重要な事実が記載されています。昨年10月23日、つまり東洋ゴム工業さんのトップが出荷済の免震ゴムを回収すべきか悩んでいたときに、「回収もせず、公表もしない場合のデメリット」が取締役間で議論されています。そのデメリットの第一として「公表しないままでいると、内部通報されてしまうデメリット」が挙げられています。同社の取締役らは、これを懸念して内部通報を行うおそれのある関係者リストを作成し、「事前説明」を行うことが提案されました(同報告書260頁参照)。この「事前説明」とはどのようなものか、外部調査委員会は不明としていますが、おそらく通報するおそれのある者を呼んで、もし通報した場合には社員等の身分がどうなるのか、あらかじめ説明をしておく、という意味ではないかと推測されます(これは私自身の推測です)。つまり内部通報・内部告発のリスクを同社は認識したうえで、このリスクをつぶしておこうと考えていたようです。

報告書のこの記述には少々驚きました。取締役が内部通報(内部告発)しそうな社員のリストを作成すること自体、尋常ではありませんが、その対象者に事前説明を行うというのも前代未聞です。会社の経営陣というのは、追い詰められてしまうとこのような対策まで真剣に考えてしまうのだろうか・・・と驚愕いたします。このような事実を知ると「やはり公益通報への不利益処分に対しては、なんらかのペナルティが必要ではないか」との思いを抱かざるをえません。

本事件が経営者関与、組織ぐるみの不正といえるかどうかは、昨年10月23日前後の同社役員の行動の評価次第であり、あまり明確にはされていません。また、監査役監査や内部監査等がなぜ機能しなかったのか、そのあたりも「情報が届かなかったから」で済ませてよいのかどうかは不明であり、このあたりは読む方にとって意見が分かれるかもしれません。ただ、公益通報者保護制度の改正を考えるうえで(なぜ内部通報制度は機能しないのか等)、本事件の事実経過が参考になることは間違いないものと感じました。

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2015年6月22日 (月)

注目される東洋ゴム工業社の社外調査委員会報告書(本日公表)

(訂正とおわび:当初「第三者委員会報告書」と表記しておりましたが、政府主導の委員会が正式な第三者委員会であり、東洋ゴム工業社が調査を依頼しているのは社外調査委員会なので題名及びエントリー内容を一部訂正いたしました。誤解を招く表現であったことをおわび申し上げます)

(6月22日午前 追記しました。)

東洋ゴム工業社の人事に関する6月19日の日経新聞記事には驚きました。このたびの免震ゴム性能偽装事件の責任をとって東洋ゴム工業さんの代表権を有する取締役3名が同時に辞任される方針と報じられています(おそらく19日の同社リリースから推測しますと、23日の記者会見で明らかになるのでしょうね)。しかも今回の不祥事にもかかわらず、当初は代表者は続投とされていましたが、一部の社外取締役、社外監査役の強い意向があり、全代表取締役が辞任の決断に至った、とのこと。いずれにしましても、本日(6月22日)の午後1時半、同社では一連の事件経過等に関する社外調査委員会報告書第三者委員会報告書が公表されるそうなので、その内容が注目されます。私も夜にはなんとか読める時間がとれそうなので、ぜひ拝読したいと思います。ちなみに私の関心事については4月27日付けのこちらのエントリーで述べたところと変わりがございません。

先週お伝えしたオリンパスさんの中国贈賄疑惑事件や大塚家具さんの代表取締役交代劇もそうですが、社外取締役や監査役(社外監査役を含む)の意見が経営執行部に強い影響を及ぼす事例というのは、これまであまり伝えられることはなかったのですが、最近はニュース等で報じられることが多くなってきたように感じます。攻めのガバナンスといわれて、最近では東証一部上場会社の9割以上で社外取締役が選任されることになったそうですが、攻めであろうと、守りであろうと、選任された以上、会社が有事となれば社外役員が前面に出る覚悟が必要とされます。

いま、上場会社ではガバナンス報告書の改訂が行われている最中であり、私も数社の報告書改訂のお手伝いをしていますが、各社とも「取締役会評価問題」に腐心しています。取締役会は経営執行部とどのように協力し、またこれをどのように監視するのか、さらに株主にどのように責任を負うのか、という点について、これまで以上に意識せざるをえない状況にあります。たとえば企業不祥事を起こした局面においては、(コードにコンプライした以上は)株主への説明責任という点では、情報の非対称性を解消するためにも社外役員に大きな責任が生じます。また、短期的な業績回復のためであれば現経営陣の続行ということを肯定できても、今後の5年、10年を見据えた企業の在り方を検討することを重視するのであれば、企業存立の正当性(倫理的な側面)からの大きな経営判断が取締役会に求められます。

タカタ社、LIXIL社、シャープ社等において代表者選任議案、社外役員選任議案に対してISS、グラスルイス等の議決権行使助言会社が反対を推奨していることが6月19日の日経ニュースで報じられています。いずれもROE基準の問題だけでなく、有事において取締役会が機能しないことが懸念されることに起因しています。平時においては経営執行部と取締役会がいかに協力してスピード経営を推進していくか、というところに関心が向きますが、業績の悪化、大型M&A、社内抗争、企業不祥事等、会社の有事の場面ともなると、取締役の利益相反が顕在化する状況において会社はどのように株主と向き合うのか、その取締役会としての評価について、今後は上場会社自らが意識せざるをえないものとなります。

追記:本日の日経朝刊に本日公表予定の報告書が300頁を超えるものであることが掲載されています。「要旨」が併せて公表されるのであれば、とりあえず要旨だけでも読みたいですね。

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2015年6月19日 (金)

FCPA疑惑は直ちに報告すべきである(オリンパス贈賄疑惑事件)

6月17日の朝日新聞(法と経済のジャーナル有償版)において、オリンパス社の中国における贈賄疑惑調査の件が報じられています。これまで同社は(中国国内の件について)公表していませんが、現地法人に対する監査役監査で疑惑が発見され、監査役の指示で社外弁護士による調査が開始されているとのこと。調査開始からすでに4カ月が経過しているそうです。現地における税務処理を任せていたエージェントに対する報酬管理に問題があったようですが、エージェントとの間における報酬契約の内容を明確にしておくことはFCPAリスク管理において重要なポイントと言われています(そうでないとエージェントが政府高官に賄賂提供することを容認していた、と受け取られかねません)。

オリンパス社会長さんの発言では、「おそらく米国司法省が動く可能性は乏しい」とのことですが、日本および米国司法省への事実の開示は重要なポイントです。丸紅事件では、米国司法省に事実を申告しなかったことが重罰根拠(罰金額の増額根拠)とされているので、贈賄疑惑が発覚した場合には直ちに社内調査に乗り出すことが取締役の善管注意義務の履行になるものと思われます。とりわけFCPAでは内部告発奨励制度の適用があり、社内外の者が告発することで高額の奨励金をもらえるとなれば、不正は必ず発覚すると認識しておくべきです。そのような意味において、オリンパス社の監査役さんが直ちに外部専門家による社内調査委員会設置を促し、たとえ軽微な事件の可能性があったとしても、同社が速やかに米国司法省へ事実を開示したことは取締役の善管注意義務の履行を促すものとして正しい選択であったと考えます。

Uirfggただ、日本企業はどうも未だFCPAリスクについては認識が甘いようで、現地法人を含めたコンプライアンスプログラムを実践している企業は少なく、また現実にFCPA疑惑が浮上した場合であっても、これを日本や海外当局に報告するための社内調査を徹底する気運があまりないように感じます。

左は今年3月に国広総合法律事務所の方々が書かれた本でして、いわゆるFCPAの「お勉強」の本ではなく、FCPAリスクのマネジメントを示した実践本です。

海外贈収賄防止 コンプライアンスプログラムの作り方(国広総合法律事務所 レクシスネクシス 2015年)

内容は一般企業の経営者や実務担当者向けに書かれたものなので、非常に読みやすいもので、FCPAによる摘発の脅威、FCPAの未然防止から危機対応までの実践のイロハ等が示されています。とりわけファシリテーションペイメントの理解として、便益ガイドライン、経費負担ガイドライン、寄付手続き等を社内ルール化するという発想は、海外事業を展開する企業にとって必要なものかと思います。時代によってリスクは変わりますが、こういった基本的な発想を理解しておく必要があります。

日本企業を取り巻く最近のFCPA事件のリスクだけでも本書で認識しておかれてはいかがでしょうか。「共謀概念」やジョイントベンチャー推進上のリスクなど、あまり日本法においてなじみがない不正リスクについても理解しておくことは、企業および役員自身の身を守ることにもつながるはずです。上記の朝日記事には、会長さん自らパソコンの中身をすべて提供し、オリンパス社はガバナンスや内部統制に至るまで徹底的な調査を行い、米国司法省には「何も隠していない」ということを示すための情報開示を行っていることが報じられています。「司法省の調査が開始されたら対応しよう」では遅すぎますし、罰金の減額が得られなければ明確に役員の法的責任に直結するため、日ごろからのプログラム実施が求められる時代になりつつあると言えます。まさに企業集団内部統制の典型例かと。

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2015年6月16日 (火)

資生堂の招集通知(事業報告)にみる「成長戦略としての役員報酬のメッセージ性」

6月13日の日経新聞で「多様化する株主還元策」に関する記事が掲載されています。企業の株主配当施策の是否については、議決権行使によっても明らかになりにくいので(株主が否決票を投じることが「配当はいらない。そんな金があるなら投資案件に回せ」という意思表示なのか、「その配当は安すぎる、もっと配当率を高めろ」という意思表示なのかわからない)、企業が株主に対して「資本政策の基本的な考え方」を示すことはとても重要です。配当性向を引き上げるのか、一定期間の総還元性向を高めるのか、DOE(株主資本利益率)を採用するのか、といった資本政策は、成長戦略に合わせて変更するところもあるとのこと。いわば企業価値向上のためのストーリーを描くことが上場会社に求められているようです。

ところで資生堂さん(6月総会)の招集通知は毎年たいへん勉強になるので、総会前には同社HPで閲覧していますが、今年も興味深い事項が含まれています。事業報告の中で、新しい役員報酬制度について詳細に説明されています。近時、コーポレートガバナンス・コード原則4-2でも明らかになっていますが、役員報酬のインセンティブプランが注目され、どこの企業でも短期・中長期の業績連動報酬の設計に工夫を凝らしているところです。しかし資生堂さんは、役員報酬について従来と比べて業績変動報酬の割合を低くして、固定報酬(基本報酬)割合を高める制度に変えています。

招集通知53頁以下の「変更のねらいと新役員報酬制度の基本的な考え方」を読みますと、同社は2015年から始まる新たな3カ年計画を発表し、抜本的な変革による事業基盤の再構築に実力を発揮できる役員に報いる報酬制度を設計したそうです。事業基盤の再構築の成果が出るまでには時間を要しますが、これまでのような業績連動性の高い役員報酬体系では、このような再構築に力を発揮する役員の成果に報いることはできないので、この成果に報いることが可能となる体系に変えます、とのこと。

なるほど、一見すると時代に逆行するような報酬体系ではないか・・・と思えるのですが、そうではなく、まさに資生堂さんの中期経営計画の実現に向けて、中長期の企業価値向上のために力を発揮できる役員に報いる報酬体系を構築する、というものであり、そこには「役員が一丸となって新たな成長戦略を打ち出そうとするメッセージ」を感じさせます。もちろんこれが成功するかどうかは同社による今後の努力次第だと思いますが、株主還元策の変更と同様、報酬体系の構築が株主に対する成長ストーリーの呈示になることが理解できます。

資生堂さんは、これまで業績連動報酬を採用するにあたっても、強いメッセージを表明してきた企業だからこそ、今回もわかりやすい説明ができるのかもしれませんが、役員報酬の設計が、企業の成長戦略を合理的に説明するための大きな要素である、という点は参考にしたいところですね。

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2015年6月15日 (月)

会計不祥事を乗り切る企業のための参考書籍と内部統制上の課題

6月12日、東芝さんは「自主チェック結果、特別調査委員会の調査概要及び第三者委員会への委嘱事項との関係についてのお知らせ」をリリースされ、現時点における同社の取り組みの経過を公表されました。一部のマスコミから「東芝は第三者委員会の中間報告を経営陣が要請している」と報じられ、同社はこれを直ちに否定しましたが、おそらくこのリリースのことではなかったかと思料いたします。有事に立ち至っている東芝さんが上場廃止にならないためには、自浄能力を発揮したうえで、正確な事実認定と決算確定、原因分析と再発防止策の立案が必要なので、このようなリリースは当然必要になりますね。

ところで、上場会社において会計不祥事が発覚した場合、当該会社の役員の方々も、また会社を取り巻く株主等ステークホルダーの方々も、会社役員の法的責任はどうなるのだろう、決算訂正と会計処理の違法性の関係はどうなるのだろう、株主総会で何を確定すればよいのだろう、どんなことが出てくると上場廃止になるのだろう、と不安になります。せめて平時の知恵として、以下のような有益な参考書が存在することを認識されておかれてはいかがでしょうか。いずれも企業法務に精通した法律事務所さんが監修されています。

1「企業不祥事対応~これだけは知っておきたい法律実務(第2版)」(経団連出版)

西村あさひ法律事務所・危機管理グループが出された本です。今回の東芝さんの対応を理解するには47頁から66頁あたりが参考になります。本書は会計不正事件だけでなく、いろいろな企業不祥事の初動対応にはとても有益であり、私も実務の参考にしています。

2「過年度決算訂正の法務(第2版)」(中央経済社)

森・濱田松本法律事務所の先生方や弥永教授らがまとめた良書。とくに「会計上の誤謬」に焦点をあてて、会計処理問題と法務の問題をきちんと分けて論点を検討されています。このたびの東芝さんの株主総会において、私が問題提起している計算書類の報告・承認と「定時株主総会」との関連性についても触れられています(私の意見とは異なりますが)。

3「会計不祥事対応の実務~過年度決算訂正事例を踏まえて」(商事法務)

長島・大野・常松法律事務所とあずさ監査法人さんによる有益な参考書です。本書も会計不正事件発覚時の有事対応を中心にまとめられていますが、特筆すべき点として過年度決算訂正が内部統制報告制度に及ぼす影響を詳細に検討されている点が挙げられます。

4「金融商品取引法違反への実務対応~虚偽記載・インサイダー取引を中心として」(商事法務)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所の先生方による良書。虚偽記載の「重要性」判断について詳細に検討されているところに特徴があります。また題名は「金商法」とありますが、過年度決算訂正が会社法開示に及ぼす影響についての法的な検討もなされており、虚偽記載事案における有事対応にも参考になります。

会計不祥事が発覚した場合の危機対応については、会計学と法律学の隙間、会社法と金商法の狭間にあって、これまであまり研究されてこなかった分野に横たわる論点が多いので、上記のいずれの書籍も引用文献が極めて少なく、会社法・金商法上の論点にわたり、執筆者が一生懸命に考え抜いて書かれていることがわかります。会社役員や会社側担当者だけでなく、会社もしくは役員の責任追及を検討する株主側においても非常に参考になるものばかりです。

Naibutoouseiそしてもう一冊、お勧めなのが定番「内部統制の知識(第3版)」(町田祥弘著 日経文庫)です。この3月、会社法改正に合わせて改定されています。東芝の社長さんが5月15日の記者会見で「財務報告の内部統制が機能していなかった」と述べておられ、また6月12日の日経ニュースによれば、東芝さんは財務報告内部統制の訂正報告書を提出する予定であることが報じられています。今後は東芝さんの財務報告内部統制の瑕疵に焦点が当たるのではないかと思いますが、今一度、有事対応のための知恵として、内部統制の基礎について各企業とも理解しておく必要があると思います。

「いやいや、もうJ-SOXは理解しているから・・・」という方にも、ぜひとも第3版で追加された「内部統制の課題」とここ数年の内部統制に関する制度の変遷だけでもお読みいただきたいところです。内部統制を取り巻く環境は大きく変わっています。

とりわけ訂正内部統制報告書の課題です。当ブログでも何度も繰り返し指摘していますが、内部統制に開示すべき重要な不備があり有効ではない、とする評価結果を最初から提出する企業は激減していますが、不祥事を起こして「やっぱり有効ではなかった」と訂正報告書を提出する企業は著しく増加しています。とりあえず経営者が有効と評価した報告書を提出しておいて、なにか問題があったら「有効ではありませんでした」との訂正報告を出せばよい、といった風潮が蔓延しているのではないでしょうか。町田教授も「このような状況は、当初の内部統制の評価作業が適切なものであったのかどうかという疑問を惹起するものであり、モラル・ハザードのおそれもある、内部統制の評価作業を適切に行っている企業がバカをみる結果になりかねない」と懸念を表明しておられます(本書249頁)。

この町田教授の懸念は私も全く同感です。もし東芝さんがこのたび内部統制の訂正報告書を提出するのであれば、これまでどうして「内部統制は有効」と評価していたのか、このたびはなぜ有効ではなかったと評価結果を変えることになったのか、社内に保存されている評価根拠記録とともに合理的な説明をしていただきたいところです(そのために記録の保存義務が明記されています)。また、監査法人さんも、なぜ「内部統制は有効」と評価した経営者意見について「適正である」と意見形成をしたのか、監査調書をもとに合理的な説明が必要だと思います。そうでなければ町田教授の指摘するように、「ただなんとなく内部統制を評価していた」「最初から内部統制は有効ありき、の評価だった」と推測されてもやむをえないのではないでしょうか。

あまりにガチガチのルールを定めることで上場会社の負担を増やすことは適当ではないということで、このたび内部統制報告制度は簡素化されました。つまり事前規制が緩和されたのですから、市場の健全性確保のためには事後規制にウエイトが移ることは当然かと思います。つまり、訂正報告書提出会社の説明責任厳格化も必要でしょうし、量刑ガイドラインの策定も検討されるでしょうし(粉飾企業において、内部統制が構築されていればペナルティを減免する制度)、重要な不備が認められた会社には評価範囲の絞り込みを一定期間認めない、といった施策を講じることも必要かと思います。東証の特別注意市場銘柄の運用上の工夫も必要かと。最近の「開示すべき重要な不備」に関する調査結果、そして内部統制の運用評価が求められるようになった改正会社法の動向を前提とするならば、内部統制報告制度についても金商法上の虚偽記載責任に関する賠償責任規定が存在する以上、このあたりはとても重要な課題になりつつあると考えます。

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2015年6月13日 (土)

消費者庁「公益通報者保護制度検討会」の委員に就任しました。

昨年1年間(本年3月まで)、消費者庁アドバイザーとして公益通報者保護制度の改革の是非を検討する有識者意見聴取に携わりましたが、このたび消費者庁では「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」を開催することになり、当職も改めてこの検討会の委員を拝命することになりました。私は第1ラウンドでお役御免かと思っていましたので、やや驚いております。おそらく(明確な説明は受けておりませんが、委員紹介の肩書きからみますと)日本内部統制研究学会からの選出、と認識しています。ちなみにコーポレートガバナンス・ネットワークからは北城さん、若杉先生と私の3名が委員に就任していることをリリースで初めて知りました。

消費者庁が6月10日にリリースした開催趣旨は以下のとおりです(引用)。

リコール隠しや食品偽装など消費者の信頼を裏切る不祥事の多くが、事業者内部からの通報を契機として明らかになったことから、通報者の保護を図るとともに、事業者等の法令遵守を図ること等を目的として、公益通報者保護法が制定された (平成16 年6月成立、平成18 年4月施行)。事業者内部をはじめ、様々な通報先における適切な通報処理体制の整備・運用が 進むことは、組織の自浄作用の向上やコンプライアンス経営の推進に寄与するなど、その組織自身の利益、企業価値の向上にもつながるとともに、社会全体の利益を図る上でも重要な意義を有している。しかし、制度の認知度は十分とはいえず、通報に適切に対応することの意義が十分理解されているとは必ずしもいえないほか、通報に係る紛争等も発生している状況にある。こうした状況も踏まえ、消費者庁では、公益通報に関する実情・実態を詳細に把握するため、様々な立場の有識者・実務家等から御意見を伺う「公益通報者保護制度に関する意見聴取(ヒアリング)」を平成26 年度に実施してきた。平成27 年度には、意見聴取の結果等を踏まえ、公益通報者保護制度の実効性向上のための方向性について検討する。

座長は宇賀克也教授(東京大学の行政法の先生)でして、他の委員のお名前も公表されていますが、なるほど・・・と(何が「なるほど」なのかはよくわかりませんが・・・笑)。とても議論が白熱しそうな予感がいたします。

東芝さんの会計不正事件をはじめ、企業不祥事が発覚する端緒は内部通報や内部告発が多いことはすでに知られているところかと思います。不祥事が多いからといって厳格な規制を多用すれば日本企業の成長戦略に水を差すことになりますし、かといって手をこまねいていては不祥事が大きくなるまで発覚せず、その結果として国民の被害が甚大なものとなり、市場の信頼を失うことになります。不正対策としての公益通報者保護制度の使い勝手をどのように改善していくか・・・、今後の重要な課題だと認識しています。

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2015年6月11日 (木)

社外取締役・社外監査役に警鐘!セイクレスト事件大阪高裁判決

旬刊商事法務の最新号(2069号)のニュース欄に、この5月21日、セイクレスト事件の控訴審判決(役員責任査定決定に対する異議請求事件 大阪高裁第14民事部)が出たことが報じられており、高裁は、原審(大阪地裁)と同様、セイクレスト社の社外監査役さんの善管注意義務違反による賠償責任を認めたそうです(昨年4月に地裁判決を紹介したエントリーはこちらです)。社長が不当に会社資産を流出させる具体的危険性を社外監査役が感じ取った場合には、①他の取締役に対して社長の暴走を止めるための内部統制システムを構築するよう勧告しなければならないのに、これを勧告しなかったこと、②すぐにでも社長を辞任させるために臨時株主総会を開催するよう他の取締役に指示しなければならないのにこれをしなかったことが善管注意義務違反に該当する、という判断ですね。

ちなみに「重過失あり」として社外監査役の責任を査定したセイクレスト社の破産管財人の(反訴)控訴も棄却され、この社外監査役さんには重過失までは認められない(過失のみ認める)とのこと。つまり賠償責任は認められましたが、(重過失があると適用が除外されてしまう)契約に基づく限定責任の範囲内で損害額が算定されています。

監査役の皆様ならご承知かもしれませんが、このセイクレスト事件地裁判決は、かなり監査役に厳しい判断だったので「たぶん高裁ではひっくり返るだろう」といった楽観的な予想もありました(恥ずかしながら私もですが・・・)。しかし高裁も地裁判断をほぼ踏襲し、社外監査役の善管注意義務違反を認めたものです。ニュースで報じられている本件判決の争点は4つほどあるのですが、これをみると、後だしジャンケン的な判断ではなく、社外監査役の行為時にさかのぼって、当該社外役員が社長の暴走を止めることができたかどうか(予見可能性の有無)を慎重に判断しているようです。セイクレスト社の場合は債務超過による上場廃止の可能性が高まっていたという「有事」にあったわけですが、会社の有事にあたり、社長を監督する立場にある者はどこまでの対応が法的に求められるのか、本判決が示唆するところは大きいように思います。

セイクレスト社の破産管財人の控訴は棄却されるわけですが、高裁は棄却理由として「セイクレスト社の監査役会は社長に対して不適切行為の中止に関する要望を行っていたのであるから重過失あり、とまではいえない」としています。たしか地裁判断でも「社長に明確な報告を求め、監査役自身の辞任もほのめかしていた」ことを理由に重過失まではない、との判断でした。つまり、ここまで監査役がブレーキ役を務めても、本気で社長の暴走を止める行動に出なければ、また他の取締役と協働して社長の暴走を止めるための体制を構築しなければ善管注意義務違反とされてしまうわけです。

ガバナンス・コードの適用等「攻めのガバナンス」ばかりが話題とされる今日、セイクレスト事件控訴審判決は「守りのガバナンス」の実効性を確保するためには何をしなければ社外役員の法的責任が問われるのか、真剣に議論するための格好の材料になるのではないでしょうか。判決を読むと(ひょっとすると)社外取締役や社外監査役に就任することが怖くなるかもしれませんが、判例雑誌等で判決全文が紹介されることを願っています(また、できれば双方から最高裁に上告、上告受理申立をしていただきたいのですが、どうなったんでしょうかね)。

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2015年6月10日 (水)

東芝グループ上場子会社の株主総会は継続会方式

東芝さんが親会社である上場子会社5社の株主総会はどうなるのか?東芝さん同様、定時株主総会+臨時株主総会方式か?と思っていましたが、9日あたりの適時開示をみますと、なんとか6月総会ができそうな会社と6月の定時株主総会に「継続会」をくっつける2段階方式を採用する会社に分かれるようですね。

定時株主総会の「継続会」方式採用ということになりますと、計算関係書類の報告(承認)を定時株主総会でやる、というものであり、東芝社のように臨時株主総会で行う、というものとは異なります。このあたりは、指名委員会等設置会社である東芝さんと、監査役会設置会社である上場子会社さん(しかも決議が確実に可決される)とではベストプラクティスが違うということなのかもしれません。

ただいずれにしても、計算関係書類を一般株主に提供しない株主総会は会社法上の「定時株主総会」とは言えないように思いますが、東芝さんのケースはいかがなものでしょうか(会社法438条、439条参照)。それとも東芝さんとしては時期的に一般の定時株主総会の時期に行うので「定時株主総会」を開催するものと解釈することに問題はない、ということでしょうか?その場合、定時株主総会に計算関係書類を提出できない、招集通知に添付できない、という問題は、株主への説明義務を尽くすことによって補う、ということでしょうか。

逆に、もし今回の総会を臨時株主総会ではなく「定時株主総会」にしないと、暫定的な現取締役らの再任決議(1年未満の任期については総会決議で可能)が困難になります。また、取締役の皆様が通常の定時株主総会開催の頃に任期が満了してしまう(とみなされる)おそれもあり、会社法上の過料の制裁(取締役の選任義務違反)を受けてしまいかねませんので、やっぱり定時株主総会(+臨時株主総会)とせざるをえないのかもしれません。株主提案権も行使されていることからしても、このあたりは指名委員会等設置会社としての苦渋の選択・・・というところかもしれませんね。

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2015年6月 8日 (月)

下関市障害者施設暴行事件にみる公益通報制度改正の必要性

週末のニュース等でさかんに映像が流れておりましたので、すでにご承知の方も多いと思いますが、下関市の知的障害者施設において、通所している障害者の頭を殴ったり、障害者に向けてモノを投げたり暴言を吐く・・・といった男性職員の行動が隠しカメラの映像で明らかとなり、施設側はこの男性職員を懲戒解雇としたうえで弁護士を中心とする第三者委員会を設置する方針を決めたそうです(たとえば産経新聞ニュースはこちらです)。これは私の推測ですが、カメラの映像をみるかぎり、本事件の根本原因は男性職員の個人的な不祥事だけではなく、組織としての構造的な欠陥にあるように感じました。

ちなみにこの施設の事件について、昨年の5月に下関市に匿名の内部告発があったそうですが、その際の市の調査では不適切な行動は認められなかったとのこと。勇気ある職員の隠しカメラによる撮影、その後のマスコミへの内部告発によって、ようやく不祥事が明らかにされたわけですが、いま会計不正事件の調査が進む東芝社の事件でも、やはり金融庁への告発がなければ一切オモテに出ることはなかったわけでして、内部通報の限界、内部告発保護の必要性が改めて浮き彫りになったものと思います。

このたびの平成26年改正会社法(会社法施行規則)およびコーポレートガバナンス・コードでは、企業の内部統制システム構築の一環として内部通報制度の充実促進が求められています。しかし最近の企業不祥事や先の下関市の施設事件などをみますと、企業主体の内部通報制度の充実だけでは企業不祥事の抑止や早期発見には限界があるわけで、国が主体となり、内部告発(外部第三者への通報)促進を含めた制度改革の流れを加速せざるをえないように思われます。具体的には、平成18年の施行以来改正がなされていない公益通報者保護法改正の課題解決です。

まず内部告発者と内部通報者の保護要件を同じくらい厚くすること、そして保護される告発者の範囲を自社の従業員だけでなく、親会社や子会社の社員、下請・取引先企業の社員、OB社員など事実上の不利益を受ける可能性のある者に広げること(それに伴い「不利益処分」の概念に「法人対法人の関係」も含めること)、通報の対象となる不正事実の範囲を広げるだけでなく、「不正のおそれ、不正の疑惑」についても含めること、告発者に対する会社の不利益処分禁止規定の強行法規性を確認したうえで、告発と不利益処分との因果関係の立証責任を転換させること等は、現行の公益通報者保護法の改正ポイントとして、ぜひ検討しなければならないと考えます。

そしてもうひとつ、今回の下関の障害者施設事件で痛感することは、告発目的で社内の資料を外部に持ち出すことの法的な正当性の確認です。証拠ビデオが存在しなければ、まちがいなく今回の内部告発もうやむやにされていたはずです。マスコミに隠しカメラの映像がDVDとして配布されたことで、マスコミ側も、そして下関市側もこれを取り上げることになったわけで、そう考えますと、有力な証拠となりうる社内資料を告発者が外部に持ち出すことは、窃盗罪にも該当せず、また就業規則や社内ルールでも阻止できないことの法的確認作業が必要になるはずです。

企業によるマタハラ(マタニティーハラスメント)による不利益処分禁止については、この5月末に、昨年10月の最高裁判決をもとにした厚労省指針の解釈通達が出されました。出産前休暇等の申請から1年以内に出された不利益処分については、企業側から不利益処分の合理的な説明がなされない限りは(出産等申請と因果関係のある処分として)原則違法であることが確認されています。男女雇用機会均等法に基づく社名公表のような制裁には法律上の根拠が必要となりますが、司法判断においても、また行政判断においても「不利益取扱い禁止」ルールへの事実上の制裁(立証責任の転換、法律上の推定等)が活用される時代にはなってきたわけでして、こういった最高裁や厚労省の判断は、消費者庁が所管する公益通報者保護法の課題解決にも応用できるのではないかと思います。

内部告発を法的に保護することが(制度間競争によって)企業の内部通報制度充実に向けたインセンティブとなり、さらに内部通報制度が充実することが企業内の通常の業務報告体制(部下と上司といった縦の関係や、部署間における横の関係)の充実を後押しします。会社法で構築が要請されている情報共有体制の整備というのは、このような流れによって整備されていくものと考えています。

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2015年6月 3日 (水)

東芝不適切会計事件-内部統制からみた社外取締役の役割

コーポレートガバナンス改革の中、大手法律事務所さんが「コード・監査等委員会・グループ内部統制-変わるコーポレートガバナンス」(日本経済新聞出版社 2015年5月)なる本を出版されました。タイトルのとおり、ガバナンス・コード、会社法改正に関連するタイムリーなテーマを網羅しておられ、私のような法律家にもたいへん勉強になり、また上場会社の経営者、法務担当者、IR担当者の方々にお勧めしたい一冊です。

ところで本書でたいへん興味深いのは「第3章グループ内部統制」における座談会収録記事において、先進的なグループガバナンス・内部統制を構築しておられるモデル企業として東芝さんが登場されているところです。東芝の監査委員である取締役さん(東芝さんは指名委員会等設置会社です)が自社の内部統制について図表を用いながら詳細に解説をされています。私はその解説記事を読み、(3・11の事故前の東京電力さんと同様)非常に素晴らしい内部統制システムを構築されているなぁ、これは人的・物的資源が豊富な東芝さんだからこそ構築できるのであり、なかなかここまで優秀な内部統制システムが他社で構築できるだろうか・・・と感じました。

ただ、このような名門企業でも今回のような会計不正事件が発生し、「内部統制が不十分だった」と記者会見で社長が悔しがるような事態に至っててしまうわけです。ちなみに東芝さんの場合、「不祥事は起こしてはいけない、起こさないためにはどうするか」といった視点、つまり未然防止の視点だけでなく、「不祥事は起きる、起きた時にどうすべきか」といった視点、つまり不正の早期発見のための内部統制にも配慮していたことがうかがわれます。たとえば、座談会記事によりますと、東芝グループにおいて重大な不正が発生した場合には、すみやかにクライシス情報が経営陣に届くような報告体制を整備している、とあり、その重大な不正には「虚偽報告リスク」も含まれているそうです(PDCAも重視されているようなので、おそらく報告体制の運用についてもチェックされていたものと思います)。

この「不正発生時の報告体制」の運用がどのようなものであったのかは、第三者委員会による調査結果でも出ないかぎり不明です。このたびの会計不正事件の発端は金融庁への内部告発だったそうですが、(これは私の経験からの推測ですが)社員がいきなり内部告発をする、という事態は考えられません。まず最初は上司に「おかしいのではないか」と相談し、上司に相手にされなければ内部通報制度に申告し(東芝さんはこの内部通報制度の運用にも注力されていることが上記座談会記事に記載されています)、それでも会社が動かなければ監査法人に通報し、それでも問題視されない場合に外部(マスコミや監督官庁等)に内部告発をするという過程をたどるのが通常のパターンです。したがって、本件でも不適切な会計に関する情報が全く経営陣に届いていなかったかどうかは疑わしいところですが、かりに届いていなかっとすれば、それはクライシスマネジメントとしての報告体制が機能していなかった、ということになります。

報告体制が機能しなかったと思われる要因は、まず「粉飾」の境界の曖昧さにあります。どこまでが「適切な会計基準の適用」で、どこからが「不適切な会計処理」なのか、その境界は不明瞭です。これを常に意識していれば問題を早期に解決できますが、「粉飾スレスレの会計処理を行うことがこの部署の腕の見せ所であり、経営陣から評価を受けるポイント」と上司から言われ続けていれば担当者の目も曇ります。後日、問題を第三者から指摘されて初めて「ああ、知らないうちに境界線を超えていたのか」と反省することになります。現場が不正だと認識できない状況において、そもそも不正など報告できるはずはありません。

また、社員の勝手な「今だけ理論」があります。なにかおかしい・・・と感じる行動があったとしても、「まあ、これは今だけだから。状況が変わればいつでも修正できるから。」といった理屈の立つ不正は「社内常識の範囲」になります。工事進行基準の不適切処理があったとされますが、これも後日の原価計算の修正等によって適正なものに回復できると考えますと、とりあえず業績を好調に見せる必要があれば「今だけ」ということで報告すべき対象から安易に除外してしまうことになります。

さらに危機対応としての報告体制が機能しなくなる要因として「伝達経路のバイアス」が大きな問題です。自分の責任が問われかねない情報が伝達される場合、話すほうは「たいしたことはありませんが・・・」と話し、聞くほうは「聞きたいことだけを聴く」ようになります。人間は今自分が有事に立ち至っていることを認めたくないので、「今、自分は平時である」ということに安心できる情報だけを伝えたいし、聴きたいのです(私もそうですし、皆さんもたぶんそうだと思います)。「そんな小さな子会社のことでどうして」とか「確実な証拠もないのにどうして騒ぐのか」「ああ、あいつは昔から変わった男だから・・・」といった理屈で安心しようとします。実際、私が危機対応の仕事をする中でも、金融庁に内部告発されてしまった場合に、「そんな問題を取り上げるほど当局(監視委員会)はヒマじゃないでしょ」「そんなこと監査法人にチクったって、監査法人だって自分たちのミスになるから取り上げないでしょ」といった役員さん方の(極めて楽観的な)意見を何度も耳にしました。そのような理屈が立ったところでほぼすべての役員さんが思考停止に陥ります。

有事には知識は役に立たず、知恵しか役に立ちません。その知恵とは「有事には人間の心にバイアスがかかる」ということです。バイアスのかかった人間の心に内省を促すのは事態を見つめなおす正当性の根拠しかありません。経営幹部であれば社長の命令であり、そして社長であれば(自分がお願いして来てもらった)社外取締役の指示です。人から言われて「ああ、そうですか」といったたやすいものではなく、自分の意思で有事であることを見つめ直すしか方法がないのであり、そこには「正当性の根拠」が必要となります。

私は「守りのガバナンス」ではなく「攻めのガバナンス」が求められる昨今、内部統制の視点から社外取締役に期待される行動は、一次不祥事の防止のための施策ではなく、二次不祥事の防止のための行動だと考えます。このたびの東芝さんの会計不祥事も例外ではなく、そもそも社外取締役が何人いたとしても、上場会社が競争社会の組織である以上、かならず不正は発生します。しかしその発生した不祥事をどのように発見し、早期に食い止めるか・・・、また社内で放置しようと考えている役員の「不作為による暴走」をいかに食い止めるか、という点にこそ、社外役員の重要な役割があると思います。先日、ホンダ社が全米リコールを決めたのが(元三菱UFJ銀行頭取だった)社外取締役の一言だった、と報じられましたが、あの一言こそ有事の組織に必要とされるところではないでしょうか。人の意見をすぐに聞くような社長さんはいないはずです。他人の意見をいったん自分の中で咀嚼して、内省の結果として社長自らの意思で決断するのです。その咀嚼、内省は外部のコンサルタントや弁護士の意見が誘因とはなりえず、唯一動かすことができる正当性の根拠となりうるのは、取締役会内部の社外役員の意見ではないか、と思うのです。

6月2日夕方のNHKニュースにて、藤沢市役所における情報管理体制を改善する試みが報じられていました。市の職員全員のパソコンに「抜き打ち」でウイルスメールを送りつけたところ、約4割の職員がついうっかりそのファイルを開けてしまったそうです。この結果から「職員はどうしてもファイルを開けてしまう。ならば開けてしまうことを前提にどうやって個人情報を守るかを考えなければならない」として、市は職員のパソコンと個人情報を取り扱うパソコンの接続を完全に分断し、さらにウイルスに感染したことが疑われる事態になると警告を発するシステムを導入したそうです。このようなシステムを導入することで、はじめて職員の方々が「ついうっかり」の事実をすみやかに上司に報告できる体制が整うはずです。企業のリスク管理にも、やはりこのようなシステムが必要です。このたびのガバナンス改革では「健全なリスクテイク」が求められていますが、何が健全なリスクテイクなのか、言葉の遊びのような抽象的なものではなく、各社において十分に検討する必要があると思います。

そして私は一例として、「不正はかならず当社でも起きる。起きた時に、どうすれば冷静に最善策を検討できるか」ということを(平時にこそ)社外役員とともに考えておくべきことをお勧めします。コーポレートガバナンス・コードの補充原則2-5①では社外取締役が内部通報の窓口になることが推奨されていますし、補充原則4-13②、③では社外取締役が積極的に情報入手ために専門家を活用したり、内部監査部門と連携することが推奨されています。このような指針を参考にしながら、「健全なリスクテイク」の具体的な中身を検討すべきです。

昨日、ある上場会社の社内役員の方と食事をしましたが、その際「うちの社外取締役はいったん意思決定した経営判断であったとしても、『もう少し中身について検討を加えてうえで再度決議すべきだ』として、臨時取締役会を求めるのです。もちろん社長以下、忙しくて集まれないのですが、なんとかテレビ会議と電話会議を使って臨時取締役会を開催しました。うちの会社でテレビ会議とが使ったのは初めてですよ」とおっしゃっていました。これが正しいのかどうかはわかりませんが、少なくとも外からは絶対に見えない取締役会の雰囲気が変わる瞬間だと思います。社長の意思決定に影響を与える「正当性の根拠」がひとつ増えたことを意味するものであり、こういったことが積み重なれば、健全なリスクテイクが可能となり、たとえ不祥事が発生したとしても「組織ぐるみ」「経営者関与」といったマスコミからの批判は受けずに済む組織になるものと思うところです。

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2015年6月 1日 (月)

大東建託、コーポレートガバナンス・コードへの対応を公表

あらかじめ申し添えますが、本日のエントリーにおきまして、意見にわたる部分は私個人の見解でありまして、私が所属する法人の見解ではございませんので、よろしくお願いいたします。

さて、私が社外取締役を務めております大東建託株式会社は、本日(6月1日)、東京証券取引所にコーポレートガバナンス報告書を提出し、コーポレートガバナンス・コードへの73項目対応について公表いたします(こちらの大東建託のHPをご覧ください)。ご承知のとおり、6月1日より、全上場会社にコーポレートガバナンス・コードの適用が開始されます(東証有価証券上場規程445条の3)。大東建託は、社会的課題を解決しつつ、持続的成長による企業価値の向上を目指して、よりよいコーポレートガバナンスの構築に努力しておりますが、その取り組みを社内・社外のステークホルダーに公表いたします。

ご覧いただければおわかりのとおり、東証ルールが求めるものは「コンプライ・オア・エクスプレイン」によるコードの尊重ですが、大東建託はガバナンス・コードへの制度対応だけでなく、「執行と監督の分離による取締役会の機能強化」というモニタリングモデルをより高いレベルで実現できるよう、73項目への対応すべてを開示(公表)する「コンプライ・アンド・エクスプレイン」として、社内的にも本コードを活用できるようにしています。私自身も全役員がコーポレートガバナンスの基本方針に関する認識を共有し、うわべだけのコンプライにならないよう、この方法が適切だと考えています。

また、「株主との対話」では、スモールミーティングであれラージミーティングであれ、中期経営計画の実行(達成)可能性を判断すべき諸要素が現実的なテーマになると思いますが、ガバナンスへの取り組みも、そのような(実行可能性を高める)諸要素のひとつになるものと考えています。そこで、株主の皆様へコード全項目への取り組み内容をあらかじめ「情報開示」させていただき、その内容を株主の皆様に認識してもらい、関心のある項目について対話のテーマに選択していたくことが大切だと思います。

73項目の中には「この原則にはコンプライしません」と公表し、その理由を説明している項目もかなりあります。エクスプレインの中身としては、当社の現に実施している方策のほうが企業価値向上に資するから、と説明しているものもあれば、コンプライする方針なので、今後できるだけ速やかに対応します、とコミットしているものもあります。いずれにしましても、どこかの部署に丸投げして策定したものではなく、コードの解釈やエクスプレインの内容も含め、社長を中心に(我々社外取締役の意見も取り入れたうえで)コード対応への検討を重ねた結果です。もちろんコードの理解不足による不備もあるかもしれませんが、今後は取締役会、監査役会、株主を含めたステークホルダーの皆様の意見をもとに、よりよいものに改善していければと思います。(私は業務執行まではできませんが、今後とも、改善に向けた意見を述べていきたいと思います)。

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