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2015年6月24日 (水)

東洋ゴム工業社事件-「隠ぺいの意図はなかった」は真実か?

本日(6月23日)、東洋ゴム工業さんは臨時取締役会を開催し、その後の記者会見にて社内取締役5名全員の退任が発表されました(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。昨日公表された免震ゴム性能偽装事件に関する外部調査委員会報告書の認定事実を受けての決定かと思います。それにしても2011年以来、業績は絶好調、株価も急上昇でここまできた東洋ゴム工業さんにとって、売上比率わずか0.2パーセントにすぎない免震ゴム事業における性能偽装問題の躓きは非常に厳しいものとなり、この最高業績の中で退任せざるをえない経営陣の方々にとっては、さぞや悔しい気持ちではないかと推察いたします。

ただ、本日の記者会見で「経営陣に(偽装について)隠ぺいの意図はなかった。計算数値がどこまで信用性を有するのか把握するのに時間を要した」と社長さんが説明をされていた点については、(外部の素人的発想からしても)やや疑問を抱くところです。なぜなら本件偽装問題について、社外取締役や監査役の方々が、最後まで蚊帳の外に置かれていたからです。昨日公表された調査報告書によりますと、同社の社外取締役、監査役が本事件を知ったのは今年2月初旬ということで、すでに経営陣が国交省への報告や世間への公表を決意した後です。もし安全基準の測定数値がどこまで信用性を有するのか判断がつきかねていたことが真実であり、さらにいったん製品の出荷停止の準備まで整えていて、これを解消したことが真実であるならば、本事件への対応については同社の取締役会で協議されていたはずです。しかし実際は監査役や社外取締役が在席しないところで協議が続いていたということですから、これは経営陣に隠ぺいの意図があったと考えるのが素直なところではないでしょうか。

もちろん「隠ぺいの意図があった」と断定するつもりではなく、「隠ぺいの意図がなかった」ということであれば、なぜ監査役や社外取締役に相談をしなかったのか、在席の場で議論をしなかったのか、という点に関する合理的な説明が必要だと思います。あの違法添加物入りの豚まんを販売してしまったダスキン事件では、ダスキンさんの取締役会で「不祥事を公表すべきか、公表すべきでないか」が議論されました。その際、当時のダスキン社の社外取締役の一人は「いまこそダスキンの信用を守るためにも不祥事を公表すべきである」との長文の手紙を当時のダスキン社長に提出しています(結果として公表はされませんでしたが・・・)。今回の東洋ゴム工業社の社長さんも、第三者の目を入れてしまうと、試験データ改ざんの事実を公表せざるをえない状況に追い込まれる・・・という判断があったのではないかと考えるのが素直のようにも思われます。

このたびの会社法改正では、企業集団内部統制や監査役への報告体制の整備がテーマとなっていますが、昨日の報告書では子会社監査役から親会社監査役へ「性能偽装疑惑」の事実が適時報告されなかったことが記載されています。親会社取締役からも、また子会社監査役からも「蚊帳の外」の置かれてしまうということになりますと、いくら「モノ言う監査役」が存在したとしても有事に機能不全となってしまいます。同報告書の「再発防止策」には監査役制度に対する提言はありませんが、やはり平時からの監査環境整備が不可欠だと改めて認識するところです。監査役への報告体制を構築するための平時からの監査環境整備の手法については腹案がありますが、それはまた別の機会に述べたいと思います。

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コメント

この手の話では、必ず「隠ぺい」か否か、が話題となりますが、個人的には無益、否、それ以上に有害な議論であると思います。

「隠ぺい」という言葉の持つ語感、意味から、経営陣などの当事者が、故意に隠そうとする意図を以て、悪意で行動したという印象を持つのが普通でしょう。
しかし、そこまでの認定をできるケースというものは、(数少ない個人的経験からも)意外に多くないのではないかと思います。むしろ、他の事情なりで公表が結果的に遅れるケースが多いようにも思います。

問題は、むしろ故意に隠したかどうか、ではなく、速やかに公表されなかった、ということであって、そこには過失であろうと問題になるケースも含むべきでしょう。前述の「他の事情なりで公表が結果的に遅れる」という場合であっても、それは問題であって、隠ぺいの意図の有無が問題なのではない、ということを明確にしなければ、無意味かつ有害な議論にパワーを注ぐことになると危惧しています。
ただ、残念ながら、マスコミ的には「隠ぺいかどうか」のほうがニュースバリューとして高いということもあり、この動きは全く変わらないとは思っているところです。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2015年6月24日 (水) 11時37分

 6月23日の記者会見で山本社長らは、不正に直接関与した社員の刑事告訴を検討することを、明らかにしたそうです。社外調査チームから、そのような提言があったのでしょうか。それとも監査役や社外取締役から、そのような助言があったのでしょうか。テンツバになりそうな気がするのは、法務に疎い私だけでしょうか。取締役を辞任した後も追いかけられそうな、リスクを低減するために為すのであれば、醜い限りです。
 今回公表された調査報告書のP.260-261に、甲Aが作成したメモの要旨が載っています。「今回の問題の影響は、建物への安全性や耐震性能については小さく、誤った対応で事が大きくなることは会社や株主の大きな損失(信用、金銭、株価)につながるため、実際の影響度に見合った慎重な対応が求められる」旨が記載されているそうです。つまり大したことでもないのに表ざたになれば、無用かつ甚大な損失を生じるので、QA委員会などを通じて監査役や社外取締役に知らせることはやめとこう、と言っているわけです。そして建物の安全性に与える影響がいかに小さいかを合理的に説明する根拠を求めて、いたずらに時間を空費したことになります。世間一般にこういう行為を「隠ぺい」、と称するのではないでしょうか。このメモは今回辞任を表明した5人の取締役の内、信木会長を除く4人で共有されたようです。23日の記者会見では「事実確認に時間がかかったというが、疑わしい製品の出荷を続けていたのか」との質問に、久世専務(甲A氏、中間報告のM氏か?)が「メーカーには一般的にそういう傾向があると言われる。東洋ゴム工業も事実確認や技術検証に固執して不適合な製品を出し続けてしまった。今後は疑わしい場合は出荷を止めるようにする」と答えています (日本経済新聞電子版2015/6/23 21:06より)。一般的にそういう傾向がある、と一緒くたにされたメーカー全般のみなさんは、「ふざけんな!!」と蹴飛ばしたくなることでしょう。

投稿: Jibanyan | 2015年6月24日 (水) 11時42分

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