FCPA疑惑は直ちに報告すべきである(オリンパス贈賄疑惑事件)
6月17日の朝日新聞(法と経済のジャーナル有償版)において、オリンパス社の中国における贈賄疑惑調査の件が報じられています。これまで同社は(中国国内の件について)公表していませんが、現地法人に対する監査役監査で疑惑が発見され、監査役の指示で社外弁護士による調査が開始されているとのこと。調査開始からすでに4カ月が経過しているそうです。現地における税務処理を任せていたエージェントに対する報酬管理に問題があったようですが、エージェントとの間における報酬契約の内容を明確にしておくことはFCPAリスク管理において重要なポイントと言われています(そうでないとエージェントが政府高官に賄賂提供することを容認していた、と受け取られかねません)。
オリンパス社会長さんの発言では、「おそらく米国司法省が動く可能性は乏しい」とのことですが、日本および米国司法省への事実の開示は重要なポイントです。丸紅事件では、米国司法省に事実を申告しなかったことが重罰根拠(罰金額の増額根拠)とされているので、贈賄疑惑が発覚した場合には直ちに社内調査に乗り出すことが取締役の善管注意義務の履行になるものと思われます。とりわけFCPAでは内部告発奨励制度の適用があり、社内外の者が告発することで高額の奨励金をもらえるとなれば、不正は必ず発覚すると認識しておくべきです。そのような意味において、オリンパス社の監査役さんが直ちに外部専門家による社内調査委員会設置を促し、たとえ軽微な事件の可能性があったとしても、同社が速やかに米国司法省へ事実を開示したことは取締役の善管注意義務の履行を促すものとして正しい選択であったと考えます。
ただ、日本企業はどうも未だFCPAリスクについては認識が甘いようで、現地法人を含めたコンプライアンスプログラムを実践している企業は少なく、また現実にFCPA疑惑が浮上した場合であっても、これを日本や海外当局に報告するための社内調査を徹底する気運があまりないように感じます。
左は今年3月に国広総合法律事務所の方々が書かれた本でして、いわゆるFCPAの「お勉強」の本ではなく、FCPAリスクのマネジメントを示した実践本です。
海外贈収賄防止 コンプライアンスプログラムの作り方(国広総合法律事務所 レクシスネクシス 2015年)
内容は一般企業の経営者や実務担当者向けに書かれたものなので、非常に読みやすいもので、FCPAによる摘発の脅威、FCPAの未然防止から危機対応までの実践のイロハ等が示されています。とりわけファシリテーションペイメントの理解として、便益ガイドライン、経費負担ガイドライン、寄付手続き等を社内ルール化するという発想は、海外事業を展開する企業にとって必要なものかと思います。時代によってリスクは変わりますが、こういった基本的な発想を理解しておく必要があります。
日本企業を取り巻く最近のFCPA事件のリスクだけでも本書で認識しておかれてはいかがでしょうか。「共謀概念」やジョイントベンチャー推進上のリスクなど、あまり日本法においてなじみがない不正リスクについても理解しておくことは、企業および役員自身の身を守ることにもつながるはずです。上記の朝日記事には、会長さん自らパソコンの中身をすべて提供し、オリンパス社はガバナンスや内部統制に至るまで徹底的な調査を行い、米国司法省には「何も隠していない」ということを示すための情報開示を行っていることが報じられています。「司法省の調査が開始されたら対応しよう」では遅すぎますし、罰金の減額が得られなければ明確に役員の法的責任に直結するため、日ごろからのプログラム実施が求められる時代になりつつあると言えます。まさに企業集団内部統制の典型例かと。
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