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2015年6月 3日 (水)

東芝不適切会計事件-内部統制からみた社外取締役の役割

コーポレートガバナンス改革の中、大手法律事務所さんが「コード・監査等委員会・グループ内部統制-変わるコーポレートガバナンス」(日本経済新聞出版社 2015年5月)なる本を出版されました。タイトルのとおり、ガバナンス・コード、会社法改正に関連するタイムリーなテーマを網羅しておられ、私のような法律家にもたいへん勉強になり、また上場会社の経営者、法務担当者、IR担当者の方々にお勧めしたい一冊です。

ところで本書でたいへん興味深いのは「第3章グループ内部統制」における座談会収録記事において、先進的なグループガバナンス・内部統制を構築しておられるモデル企業として東芝さんが登場されているところです。東芝の監査委員である取締役さん(東芝さんは指名委員会等設置会社です)が自社の内部統制について図表を用いながら詳細に解説をされています。私はその解説記事を読み、(3・11の事故前の東京電力さんと同様)非常に素晴らしい内部統制システムを構築されているなぁ、これは人的・物的資源が豊富な東芝さんだからこそ構築できるのであり、なかなかここまで優秀な内部統制システムが他社で構築できるだろうか・・・と感じました。

ただ、このような名門企業でも今回のような会計不正事件が発生し、「内部統制が不十分だった」と記者会見で社長が悔しがるような事態に至っててしまうわけです。ちなみに東芝さんの場合、「不祥事は起こしてはいけない、起こさないためにはどうするか」といった視点、つまり未然防止の視点だけでなく、「不祥事は起きる、起きた時にどうすべきか」といった視点、つまり不正の早期発見のための内部統制にも配慮していたことがうかがわれます。たとえば、座談会記事によりますと、東芝グループにおいて重大な不正が発生した場合には、すみやかにクライシス情報が経営陣に届くような報告体制を整備している、とあり、その重大な不正には「虚偽報告リスク」も含まれているそうです(PDCAも重視されているようなので、おそらく報告体制の運用についてもチェックされていたものと思います)。

この「不正発生時の報告体制」の運用がどのようなものであったのかは、第三者委員会による調査結果でも出ないかぎり不明です。このたびの会計不正事件の発端は金融庁への内部告発だったそうですが、(これは私の経験からの推測ですが)社員がいきなり内部告発をする、という事態は考えられません。まず最初は上司に「おかしいのではないか」と相談し、上司に相手にされなければ内部通報制度に申告し(東芝さんはこの内部通報制度の運用にも注力されていることが上記座談会記事に記載されています)、それでも会社が動かなければ監査法人に通報し、それでも問題視されない場合に外部(マスコミや監督官庁等)に内部告発をするという過程をたどるのが通常のパターンです。したがって、本件でも不適切な会計に関する情報が全く経営陣に届いていなかったかどうかは疑わしいところですが、かりに届いていなかっとすれば、それはクライシスマネジメントとしての報告体制が機能していなかった、ということになります。

報告体制が機能しなかったと思われる要因は、まず「粉飾」の境界の曖昧さにあります。どこまでが「適切な会計基準の適用」で、どこからが「不適切な会計処理」なのか、その境界は不明瞭です。これを常に意識していれば問題を早期に解決できますが、「粉飾スレスレの会計処理を行うことがこの部署の腕の見せ所であり、経営陣から評価を受けるポイント」と上司から言われ続けていれば担当者の目も曇ります。後日、問題を第三者から指摘されて初めて「ああ、知らないうちに境界線を超えていたのか」と反省することになります。現場が不正だと認識できない状況において、そもそも不正など報告できるはずはありません。

また、社員の勝手な「今だけ理論」があります。なにかおかしい・・・と感じる行動があったとしても、「まあ、これは今だけだから。状況が変わればいつでも修正できるから。」といった理屈の立つ不正は「社内常識の範囲」になります。工事進行基準の不適切処理があったとされますが、これも後日の原価計算の修正等によって適正なものに回復できると考えますと、とりあえず業績を好調に見せる必要があれば「今だけ」ということで報告すべき対象から安易に除外してしまうことになります。

さらに危機対応としての報告体制が機能しなくなる要因として「伝達経路のバイアス」が大きな問題です。自分の責任が問われかねない情報が伝達される場合、話すほうは「たいしたことはありませんが・・・」と話し、聞くほうは「聞きたいことだけを聴く」ようになります。人間は今自分が有事に立ち至っていることを認めたくないので、「今、自分は平時である」ということに安心できる情報だけを伝えたいし、聴きたいのです(私もそうですし、皆さんもたぶんそうだと思います)。「そんな小さな子会社のことでどうして」とか「確実な証拠もないのにどうして騒ぐのか」「ああ、あいつは昔から変わった男だから・・・」といった理屈で安心しようとします。実際、私が危機対応の仕事をする中でも、金融庁に内部告発されてしまった場合に、「そんな問題を取り上げるほど当局(監視委員会)はヒマじゃないでしょ」「そんなこと監査法人にチクったって、監査法人だって自分たちのミスになるから取り上げないでしょ」といった役員さん方の(極めて楽観的な)意見を何度も耳にしました。そのような理屈が立ったところでほぼすべての役員さんが思考停止に陥ります。

有事には知識は役に立たず、知恵しか役に立ちません。その知恵とは「有事には人間の心にバイアスがかかる」ということです。バイアスのかかった人間の心に内省を促すのは事態を見つめなおす正当性の根拠しかありません。経営幹部であれば社長の命令であり、そして社長であれば(自分がお願いして来てもらった)社外取締役の指示です。人から言われて「ああ、そうですか」といったたやすいものではなく、自分の意思で有事であることを見つめ直すしか方法がないのであり、そこには「正当性の根拠」が必要となります。

私は「守りのガバナンス」ではなく「攻めのガバナンス」が求められる昨今、内部統制の視点から社外取締役に期待される行動は、一次不祥事の防止のための施策ではなく、二次不祥事の防止のための行動だと考えます。このたびの東芝さんの会計不祥事も例外ではなく、そもそも社外取締役が何人いたとしても、上場会社が競争社会の組織である以上、かならず不正は発生します。しかしその発生した不祥事をどのように発見し、早期に食い止めるか・・・、また社内で放置しようと考えている役員の「不作為による暴走」をいかに食い止めるか、という点にこそ、社外役員の重要な役割があると思います。先日、ホンダ社が全米リコールを決めたのが(元三菱UFJ銀行頭取だった)社外取締役の一言だった、と報じられましたが、あの一言こそ有事の組織に必要とされるところではないでしょうか。人の意見をすぐに聞くような社長さんはいないはずです。他人の意見をいったん自分の中で咀嚼して、内省の結果として社長自らの意思で決断するのです。その咀嚼、内省は外部のコンサルタントや弁護士の意見が誘因とはなりえず、唯一動かすことができる正当性の根拠となりうるのは、取締役会内部の社外役員の意見ではないか、と思うのです。

6月2日夕方のNHKニュースにて、藤沢市役所における情報管理体制を改善する試みが報じられていました。市の職員全員のパソコンに「抜き打ち」でウイルスメールを送りつけたところ、約4割の職員がついうっかりそのファイルを開けてしまったそうです。この結果から「職員はどうしてもファイルを開けてしまう。ならば開けてしまうことを前提にどうやって個人情報を守るかを考えなければならない」として、市は職員のパソコンと個人情報を取り扱うパソコンの接続を完全に分断し、さらにウイルスに感染したことが疑われる事態になると警告を発するシステムを導入したそうです。このようなシステムを導入することで、はじめて職員の方々が「ついうっかり」の事実をすみやかに上司に報告できる体制が整うはずです。企業のリスク管理にも、やはりこのようなシステムが必要です。このたびのガバナンス改革では「健全なリスクテイク」が求められていますが、何が健全なリスクテイクなのか、言葉の遊びのような抽象的なものではなく、各社において十分に検討する必要があると思います。

そして私は一例として、「不正はかならず当社でも起きる。起きた時に、どうすれば冷静に最善策を検討できるか」ということを(平時にこそ)社外役員とともに考えておくべきことをお勧めします。コーポレートガバナンス・コードの補充原則2-5①では社外取締役が内部通報の窓口になることが推奨されていますし、補充原則4-13②、③では社外取締役が積極的に情報入手ために専門家を活用したり、内部監査部門と連携することが推奨されています。このような指針を参考にしながら、「健全なリスクテイク」の具体的な中身を検討すべきです。

昨日、ある上場会社の社内役員の方と食事をしましたが、その際「うちの社外取締役はいったん意思決定した経営判断であったとしても、『もう少し中身について検討を加えてうえで再度決議すべきだ』として、臨時取締役会を求めるのです。もちろん社長以下、忙しくて集まれないのですが、なんとかテレビ会議と電話会議を使って臨時取締役会を開催しました。うちの会社でテレビ会議とが使ったのは初めてですよ」とおっしゃっていました。これが正しいのかどうかはわかりませんが、少なくとも外からは絶対に見えない取締役会の雰囲気が変わる瞬間だと思います。社長の意思決定に影響を与える「正当性の根拠」がひとつ増えたことを意味するものであり、こういったことが積み重なれば、健全なリスクテイクが可能となり、たとえ不祥事が発生したとしても「組織ぐるみ」「経営者関与」といったマスコミからの批判は受けずに済む組織になるものと思うところです。

6月 3, 2015 コーポレート・ガバナンスと株主評価基準 |

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コメント

東芝さんの社員・元社員と思われる方数名より貴重なコメントをいただいたのですが、内容が内容だけに公表できないことをお詫びいたします。

なお、コメント欄なので少し書きますが、今度の東芝さんの6月総会はホントに「定時株主総会」になるのでしょうかね?計算書類の報告も承認もされない株主総会は会社法上の定時株主総会とは言えないような気もしますが。。。指名委員会等設置会社の取締役選任や定款の条文を重視して、というのもわかるのですが、これを定時株主総会と言いきってよいものなのでしょうか。そのあたり東芝さんはどう考えておられるのか、とても気になってます。

投稿: toshi | 2015年6月 3日 (水) 11時15分

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