取締役会評価制度と「コーポレート・ガバナンスの基本方針」との関連性
今朝(6月29日)の日経法務面ではコーポレートガバナンスに関連する話題がふたつほど取り上げられており、社外取締役が増員される取締役会において「執行と監督の分離」が推進されている現状が紹介されていました。最近のガバナンス改革の中で、よく「執行と監督の分離」という言葉が使われ始めましたが、では「執行と監督」とはどのような意味でしょうか?また「分離」とはどういった状態を表現しているのでしょうか?なんだか「バブル崩壊」や「リーマンショック」のように、自分に都合のよいようにイメージ化してしまって、議論を思考停止の状況に陥らせてしまう風潮が心配されます。「執行と監督の分離」と聞こえはいいかもしれませんが、何も起こらない平時においては、社外取締役はとくに何もしなくても「監督している」といえそうな気もいたします。つまり「監督」の内容次第では社外役員の不作為を正当化してしまう(ごまかしてしまう?)のではないでしょうか。
日本の会社法が取締役に職務として求めているのは、他の取締役の職務執行の監督と重要な意思決定への参加です。したがって「監督」といっても監視義務を尽くすことだけではなく、社長の業績を評価することや重要事項についての意思決定に参加することも含めて「監督」という意味だと思われます。しかしそうすると「分離」という意味がおかしくなりそうですね。私はこのあたりがガバナンス・コードがプリンシプル・ベースの指針である、としたことの妙だと思います。
上記日経新聞で取り上げられていた「取締役会評価制度」についてもガバナンス・コードに示されており、取締役らは取締役会の実効性を評価・分析すべしとされています。アメリカでは取引所ルールで制度化されていることもあり、9割以上の上場会社で取締役会評価制度がすでに実施されています。ラム・チャワン氏の好著「取締役会の仕事」(日本語版は日経BP社)でも紹介されているように、いま取締役(会)と経営陣との関係は急速に変化しており、以前は「監視義務を尽くす」ことが取締役会の仕事とされていたのですが、現在は意思決定のパートナーや会社をリードする役割を担うべき存在とされています。つまり取締役会には株主の代理人として経営陣を監視するだけでなく、経営陣と取締役が協力しながら決定する分野、取締役会が率先して判断しなければならない分野、逆に経営陣に任せるべきであり関与してはいけない分野があり、その構成員である取締役は、これを意識して仕事をしなければならないとされています。日本の会社法の条文とも整合性のある考え方かと思います。
そう考えますと、取締役会評価制度というものを採用する場合、まず自社がどのような取締役会の在り方を標榜するのか、これを掲げる必要があると考えます。これはおそらく「コーポレートガバナンスの基本的な考え方」として(ガバナンス報告書や自社HP等で)開示されるのではないでしょうか。ビジネスモデルは各社違うわけであり、単純なビジネスモデルの会社もあればグローバル展開や他業種を抱える等複雑化したビジネスモデルの会社もあります。儲けが出るまで時間を要する会社、業務執行を兼ねる社内取締役が大半を占める会社、またBtoBとBtoCの会社でも違うと思います。
そういった自社のビジネスモデルに合わせて、経営陣と取締役会との関係をどう構築することが理想なのか、どのような領域は取締役会がリードして、どのような領域は協力するのか、それを「基本的な考え方」で示して、その理想と現実とのギャップを測定することが「取締役会評価」ではないかと考えています。だからこそプリンシプル・ベースであり、自己評価でも足りるのではないでしょうか。(※1)また、このようなことを明確に決めておかないと社内取締役は今まで通り「監督」には無関心となり、また社外取締役は不作為を正当化して株主の負託に応えられない懸念が生じます。つまり「わが社における『監督』という意味は、個々の取締役がこのような役割を担い、このような分野は経営執行部に権限を委譲して、その業績の評価のみを行うことである」と株主に示す必要があり、その結果として取締役会の評価が意味を持つようになるはずです。このたびのガバナンス改革が、本当に「執行と監督の分離」を目指しているのであれば、また多くのガバナンス・コードに日本の上場会社がコンプライするのであれば、社内取締役も意識を変えなければなりませんし、またそのような「業務執行社内取締役」の意識改革を促すことも社外取締役の重要な使命だと考えています。
※1・・・取締役会評価について「第三者機関を活用した評価」がなされる例が英国を中心に行われています(ちなみに英国では2002年にコードが実施されています)。しかし誤解されているようですが、この「第三者機関を活用した取締役会評価」というのは、会社の自己評価をサポートする、もしくは自己評価の開示の正確性を担保するという意味で第三者が関与する制度であり、第三者機関が独自のモノサシを持っていて、「御社の取締役会は○○点です。ここが良い点でここが悪い点です」などと第三者が独自に評価する機関ではないそうです。これは私が理事を務めているコーポレートガバナンス・ネットワークの5月の研修において、英国の第三者評価機関のリーディングカンパニーの方をお招きしたのですが、その講演において明確に述べておられました。したがって上記のとおり、自社による取締役会評価の手法をきちんと確立することが大切だと思います。
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