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2015年6月11日 (木)

社外取締役・社外監査役に警鐘!セイクレスト事件大阪高裁判決

旬刊商事法務の最新号(2069号)のニュース欄に、この5月21日、セイクレスト事件の控訴審判決(役員責任査定決定に対する異議請求事件 大阪高裁第14民事部)が出たことが報じられており、高裁は、原審(大阪地裁)と同様、セイクレスト社の社外監査役さんの善管注意義務違反による賠償責任を認めたそうです(昨年4月に地裁判決を紹介したエントリーはこちらです)。社長が不当に会社資産を流出させる具体的危険性を社外監査役が感じ取った場合には、①他の取締役に対して社長の暴走を止めるための内部統制システムを構築するよう勧告しなければならないのに、これを勧告しなかったこと、②すぐにでも社長を辞任させるために臨時株主総会を開催するよう他の取締役に指示しなければならないのにこれをしなかったことが善管注意義務違反に該当する、という判断ですね。

ちなみに「重過失あり」として社外監査役の責任を査定したセイクレスト社の破産管財人の(反訴)控訴も棄却され、この社外監査役さんには重過失までは認められない(過失のみ認める)とのこと。つまり賠償責任は認められましたが、(重過失があると適用が除外されてしまう)契約に基づく限定責任の範囲内で損害額が算定されています。

監査役の皆様ならご承知かもしれませんが、このセイクレスト事件地裁判決は、かなり監査役に厳しい判断だったので「たぶん高裁ではひっくり返るだろう」といった楽観的な予想もありました(恥ずかしながら私もですが・・・)。しかし高裁も地裁判断をほぼ踏襲し、社外監査役の善管注意義務違反を認めたものです。ニュースで報じられている本件判決の争点は4つほどあるのですが、これをみると、後だしジャンケン的な判断ではなく、社外監査役の行為時にさかのぼって、当該社外役員が社長の暴走を止めることができたかどうか(予見可能性の有無)を慎重に判断しているようです。セイクレスト社の場合は債務超過による上場廃止の可能性が高まっていたという「有事」にあったわけですが、会社の有事にあたり、社長を監督する立場にある者はどこまでの対応が法的に求められるのか、本判決が示唆するところは大きいように思います。

セイクレスト社の破産管財人の控訴は棄却されるわけですが、高裁は棄却理由として「セイクレスト社の監査役会は社長に対して不適切行為の中止に関する要望を行っていたのであるから重過失あり、とまではいえない」としています。たしか地裁判断でも「社長に明確な報告を求め、監査役自身の辞任もほのめかしていた」ことを理由に重過失まではない、との判断でした。つまり、ここまで監査役がブレーキ役を務めても、本気で社長の暴走を止める行動に出なければ、また他の取締役と協働して社長の暴走を止めるための体制を構築しなければ善管注意義務違反とされてしまうわけです。

ガバナンス・コードの適用等「攻めのガバナンス」ばかりが話題とされる今日、セイクレスト事件控訴審判決は「守りのガバナンス」の実効性を確保するためには何をしなければ社外役員の法的責任が問われるのか、真剣に議論するための格好の材料になるのではないでしょうか。判決を読むと(ひょっとすると)社外取締役や社外監査役に就任することが怖くなるかもしれませんが、判例雑誌等で判決全文が紹介されることを願っています(また、できれば双方から最高裁に上告、上告受理申立をしていただきたいのですが、どうなったんでしょうかね)。

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コメント

読んでいながら、不謹慎ながら、コントでどんどん膨らんでいく風船を隣の芸人に渡していく、あるいは火のついた爆竹をたらい回しにしていくようなシーンを思い浮かべてしまいました。つまり、社長の善管注意義務違反があるのではないかと思った瞬間が、手に持っている爆竹の導火線に火がついていると気が付いた時点。そして、社長に「火を消してくれ」と恫喝する。しかし、それだけでは駄目で、他の取締役にも報告して、相応の対応を求めなければいけない。つまり、風船ないし爆竹を隣の芸人に渡さないといけないんですね。で、渡された取締役は、今度は自分が代取の解任動議を提出したり、臨時株主総会の招集をしないといけないと悩みだす。悩んでいる間に導火線の火が爆竹に到達したら顔が真っ黒になり、髪の毛がクルンクルンに縮れるというコントのワンシーンです。
 ここでの問題は、地裁判決の時に書かれていたように「当時の監査役の認識内容からみて、差止めが認められるだけの根拠事実にアクセスできていなかった」場合ですね。この爆竹は本当に爆発するのか? それとも実は社長の行為に問題はない、あるいは正当化の余地がある?みたいな疑念があるときに自信を持って隣の芸人,いや取締役に「ほい、あんたの番や」と爆竹を回せるのか?というところです。で、悩んでいるうちに爆発したら、監査役の負け。回したところで爆発したら、取締役の負け。でも、途中で導火線の火が消えちゃうかもしれず、心のどこかで「途中で消えてくれ!」と祈っているという雰囲気。
 でも、結局は、自分だけの話ではなく、選任してくれた株主の方々の付託の元に動いているのだから、性悪説で動けよという話なのでしょうね。

投稿: ひろ | 2015年6月11日 (木) 09時24分

ひろさん、ありがとうございます。たしかに「これは不正だ」と認識できる場合であれば対処もできるのかもしれませんが、現実には「不正かも」という認識の場合が多いのですよね。その段階で、監査役がどこまで対応できるかは微妙なところではないかと。
このあたりは判決全文を読んだうえで、また論考や講演等で持論を展開したいと思います。

投稿: toshi | 2015年6月11日 (木) 22時56分

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