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2015年6月16日 (火)

資生堂の招集通知(事業報告)にみる「成長戦略としての役員報酬のメッセージ性」

6月13日の日経新聞で「多様化する株主還元策」に関する記事が掲載されています。企業の株主配当施策の是否については、議決権行使によっても明らかになりにくいので(株主が否決票を投じることが「配当はいらない。そんな金があるなら投資案件に回せ」という意思表示なのか、「その配当は安すぎる、もっと配当率を高めろ」という意思表示なのかわからない)、企業が株主に対して「資本政策の基本的な考え方」を示すことはとても重要です。配当性向を引き上げるのか、一定期間の総還元性向を高めるのか、DOE(株主資本利益率)を採用するのか、といった資本政策は、成長戦略に合わせて変更するところもあるとのこと。いわば企業価値向上のためのストーリーを描くことが上場会社に求められているようです。

ところで資生堂さん(6月総会)の招集通知は毎年たいへん勉強になるので、総会前には同社HPで閲覧していますが、今年も興味深い事項が含まれています。事業報告の中で、新しい役員報酬制度について詳細に説明されています。近時、コーポレートガバナンス・コード原則4-2でも明らかになっていますが、役員報酬のインセンティブプランが注目され、どこの企業でも短期・中長期の業績連動報酬の設計に工夫を凝らしているところです。しかし資生堂さんは、役員報酬について従来と比べて業績変動報酬の割合を低くして、固定報酬(基本報酬)割合を高める制度に変えています。

招集通知53頁以下の「変更のねらいと新役員報酬制度の基本的な考え方」を読みますと、同社は2015年から始まる新たな3カ年計画を発表し、抜本的な変革による事業基盤の再構築に実力を発揮できる役員に報いる報酬制度を設計したそうです。事業基盤の再構築の成果が出るまでには時間を要しますが、これまでのような業績連動性の高い役員報酬体系では、このような再構築に力を発揮する役員の成果に報いることはできないので、この成果に報いることが可能となる体系に変えます、とのこと。

なるほど、一見すると時代に逆行するような報酬体系ではないか・・・と思えるのですが、そうではなく、まさに資生堂さんの中期経営計画の実現に向けて、中長期の企業価値向上のために力を発揮できる役員に報いる報酬体系を構築する、というものであり、そこには「役員が一丸となって新たな成長戦略を打ち出そうとするメッセージ」を感じさせます。もちろんこれが成功するかどうかは同社による今後の努力次第だと思いますが、株主還元策の変更と同様、報酬体系の構築が株主に対する成長ストーリーの呈示になることが理解できます。

資生堂さんは、これまで業績連動報酬を採用するにあたっても、強いメッセージを表明してきた企業だからこそ、今回もわかりやすい説明ができるのかもしれませんが、役員報酬の設計が、企業の成長戦略を合理的に説明するための大きな要素である、という点は参考にしたいところですね。

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コメント

 最近のコーポレート・ガバナンスや投資家と発行体との会話については、夫婦関係のような気がしています。以心伝心ではなく、放任せず(投資家の議決権行使が厳しくなる)、「愛している」と明確に言い、誤解を受けそうなときこそきちんと説明する(今回の資生堂の報酬)、というところはぴったりあてはまっているようです。

投稿: Kazu | 2015年6月18日 (木) 11時27分

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