下関市障害者施設暴行事件にみる公益通報制度改正の必要性
週末のニュース等でさかんに映像が流れておりましたので、すでにご承知の方も多いと思いますが、下関市の知的障害者施設において、通所している障害者の頭を殴ったり、障害者に向けてモノを投げたり暴言を吐く・・・といった男性職員の行動が隠しカメラの映像で明らかとなり、施設側はこの男性職員を懲戒解雇としたうえで弁護士を中心とする第三者委員会を設置する方針を決めたそうです(たとえば産経新聞ニュースはこちらです)。これは私の推測ですが、カメラの映像をみるかぎり、本事件の根本原因は男性職員の個人的な不祥事だけではなく、組織としての構造的な欠陥にあるように感じました。
ちなみにこの施設の事件について、昨年の5月に下関市に匿名の内部告発があったそうですが、その際の市の調査では不適切な行動は認められなかったとのこと。勇気ある職員の隠しカメラによる撮影、その後のマスコミへの内部告発によって、ようやく不祥事が明らかにされたわけですが、いま会計不正事件の調査が進む東芝社の事件でも、やはり金融庁への告発がなければ一切オモテに出ることはなかったわけでして、内部通報の限界、内部告発保護の必要性が改めて浮き彫りになったものと思います。
このたびの平成26年改正会社法(会社法施行規則)およびコーポレートガバナンス・コードでは、企業の内部統制システム構築の一環として内部通報制度の充実促進が求められています。しかし最近の企業不祥事や先の下関市の施設事件などをみますと、企業主体の内部通報制度の充実だけでは企業不祥事の抑止や早期発見には限界があるわけで、国が主体となり、内部告発(外部第三者への通報)促進を含めた制度改革の流れを加速せざるをえないように思われます。具体的には、平成18年の施行以来改正がなされていない公益通報者保護法改正の課題解決です。
まず内部告発者と内部通報者の保護要件を同じくらい厚くすること、そして保護される告発者の範囲を自社の従業員だけでなく、親会社や子会社の社員、下請・取引先企業の社員、OB社員など事実上の不利益を受ける可能性のある者に広げること(それに伴い「不利益処分」の概念に「法人対法人の関係」も含めること)、通報の対象となる不正事実の範囲を広げるだけでなく、「不正のおそれ、不正の疑惑」についても含めること、告発者に対する会社の不利益処分禁止規定の強行法規性を確認したうえで、告発と不利益処分との因果関係の立証責任を転換させること等は、現行の公益通報者保護法の改正ポイントとして、ぜひ検討しなければならないと考えます。
そしてもうひとつ、今回の下関の障害者施設事件で痛感することは、告発目的で社内の資料を外部に持ち出すことの法的な正当性の確認です。証拠ビデオが存在しなければ、まちがいなく今回の内部告発もうやむやにされていたはずです。マスコミに隠しカメラの映像がDVDとして配布されたことで、マスコミ側も、そして下関市側もこれを取り上げることになったわけで、そう考えますと、有力な証拠となりうる社内資料を告発者が外部に持ち出すことは、窃盗罪にも該当せず、また就業規則や社内ルールでも阻止できないことの法的確認作業が必要になるはずです。
企業によるマタハラ(マタニティーハラスメント)による不利益処分禁止については、この5月末に、昨年10月の最高裁判決をもとにした厚労省指針の解釈通達が出されました。出産前休暇等の申請から1年以内に出された不利益処分については、企業側から不利益処分の合理的な説明がなされない限りは(出産等申請と因果関係のある処分として)原則違法であることが確認されています。男女雇用機会均等法に基づく社名公表のような制裁には法律上の根拠が必要となりますが、司法判断においても、また行政判断においても「不利益取扱い禁止」ルールへの事実上の制裁(立証責任の転換、法律上の推定等)が活用される時代にはなってきたわけでして、こういった最高裁や厚労省の判断は、消費者庁が所管する公益通報者保護法の課題解決にも応用できるのではないかと思います。
内部告発を法的に保護することが(制度間競争によって)企業の内部通報制度充実に向けたインセンティブとなり、さらに内部通報制度が充実することが企業内の通常の業務報告体制(部下と上司といった縦の関係や、部署間における横の関係)の充実を後押しします。会社法で構築が要請されている情報共有体制の整備というのは、このような流れによって整備されていくものと考えています。
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