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2015年7月22日 (水)

東芝不適切会計処理事件-トップの関与はやはり「不作為」

昨日に引き続き東芝さんの不適切会計処理事件に関する話題ですが、本日(7月21日)第三者委員会報告書の全文が公開されました。ちょっと忙しかったので、斜め読みしかできませんでしたが、skydogさんがコメント欄で紹介されているように、正規版の事実経過を読みますと、「生々しい」出来事がちりばめられていることがわかりました。また、追ってご紹介したいと思います。

私も本日、全国紙の記者さんや通信社の方からコメントを求められましたが、「経営トップの関与としては不作為が最も問題である」「不作為こそ善管注意義務違反を問われる可能性がある」とコメントさせていただきました。「3日で100億の利益が出るようん工夫しろ」とか「損失計上を遅らせろ」といった目標必達(チャレンジ?)の厳命指示が話題にのぼりますが、「これってどこの社長さんも似たようなこと言ってるんじゃないの?」とも思えます。カンパニー長が「社長に何もいえなかった」としても、それが不適切な会計処理につながった、というストーリーはやや短絡的だと考えられます。「トップにモノが言えない風土だった」ことも原因とされていますが、そもそもモノが言える人がいたとしても、その人は「モノが言える」ということでとっくの昔に飛ばされてしまってることのほうが多いわけでして、トップにモノが言える風土などというものは客観的な土壌というよりも、すべて経営者の人格に依拠しているように思います。

むしろ実際にレッドフラッグを目の前にして、これに気付きながら何も言わなかったという「不作為」こそ、もっとも経営トップの不正関与を認定できる根拠事実ではないでしょうか。ということで、午後7時からの第三者委員会委員の方々の記者会見において、委員長が冒頭で、「利益かさ上げや損失先送りを知ったにもかかわらず、経営トップは中止を指示しなかった。組織的に不適切な会計処理をしてきた」と述べた点はとてもナットクがいくところです。もちろん、意図した不適切会計処理か否かの認定には時間軸が必要ですし(貸し借りの形をとっていたとしても、その貸し借りの清算がなされる気配がないこと)、以前JFKさんがコメント欄で述べておられたように、厳命が決算間際の時期になされたことなど、客観的な事実も参考になると思います。ただ、やはり損失計上や引当金積み増しに関する部下の提言を無視したり反対するとなると、これはやはり「会計などなんとでもなる」といった会計軽視の姿勢があったことを否定できないものと思います。

毎度申し上げることですが「粉飾」と「不適切会計」と「適正な会計処理」というのは連続している概念であり、その境界線は人によって異なるはずです。「有能な経理担当者というのは、粉飾スレスレなんだけど、なんとか会計監査人から適正意見をもらえるような処理ができる奴のことだ」といったことを平然と経営者が言ってのける組織では、いつしか会計軽視の企業風土が形成されていき、トップの意向を忖度した部下による会計処理は、いつしか境界線を超えていき、今回のような事件につながっていくのではないでしょうか。「これって粉飾じゃないの?」と疑問を抱いた社員が内部告発を行い、気が付いたら「たしかに世間からみたら粉飾だよね」と自覚する、というストーリーは、ひょっとしたらどこの上場会社でも起こりうるのかもしれません。

ところでこの共同通信のニュースはよくまとまっていると思います。本日の第三者委員会正規版では、本件に関する内部通報は存在しなかったと記載していますから、金融庁にはいきなり内部告発のメールが届いたようです。昨年メールが届いた、とありますので、金融庁が動き出すまでに数か月を要するのですね。

7月 22, 2015 企業会計 |

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東芝の巨額粉飾事件の原因は、本来機能すべき会社のガバナンスが機能していなかったと [続きを読む]

受信: 2015年7月31日 (金) 00時56分

コメント

会見見ましたが、田中元社長の内部の派閥争いという認識はないとのコメントも不正を知らなかったという話も、報告書の内容に照らし合わせてみるとウソすぎます。120億を短期間でどうやって利益をだすのかと問われても、コメントを差し控えるとか言ったり、報告書に書かれている通りと都合の悪いところはごまかしばかりのコメントです。これが経営者であるとは残念な限りでした。不作為が不正関与の積極的な証拠になればいいのですが、どうなんでしょうか。

粉飾かときかれても、報告書には粉飾と記載されていないと答えたり、保身の姿勢ばかり。

まさに糞食させてやりたい気分です。

投稿: 工場労働者 | 2015年7月22日 (水) 02時27分

今回の東芝事件で唯一の関心事は、監査委員会を構成していた社外取締役の責任がどのように問われるかです。第三者委員会の報告には、「財務・経理に関して十分な知見を有している者はいなかった。」とあり、「不適切な会計処理を認識することは困難な状況があった。」としています。長年にわたり経理のごまかしが続いたことを彼らが気付いていないはずはないと思います。( 気付いていなかったなら当然善管注意義務違反。)
一方世間は会社法の改正で、御丁寧にも「社外取締役を置くことが相当でない理由」を開示する義務を課すほど社外取締役を置くことを殆ど法的に義務化し、コーポレート・ガバナンス・コードの策定と企業経営の形式的締め付けは厳しくなるばかりです。今回の東芝のケースは、こうした一連の国をあげての政策を嘲笑うかのごときものですが、だからこそ、今後かれらの責任がどう問われるのか、又、日本のマスゴミもといマスコミがどう判断するのか見ものです。

投稿: タダノ監査役 | 2015年7月22日 (水) 13時18分

たいへんお久しぶりのDMORIです。
東芝事件を見ていますと、何年も前にあれだけJ-SOXが騒がれて内部統制の時代になったのに、何年も発覚しなかったとは、やはり日本の金融庁が米国流にせず、日本はほどほどの内部統制でいいことにしてしまったからだな、と思います。
内部統制部署が、経営者の管理下に置かれている組織では、機能しません。(実は私の会社でもそうですが)経営トップは不正をしないとの前提に立っているのでは、内部統制とは言えません。
今回は、証券取引等監視委に届いた、東芝社員のメールが発端ということですが、もっと傷口の浅いうちから内部通報が行われていたら、100億円程度で済んでいるのでしょう。したがって株主を裏切らず、企業を守る一番の内部統制は、日ごろから自社の社員に対して、「会社の不正を見つけたら、早いうちに外部へリークさせましょう」と教育することだと思います。
経営陣も、外部へ告げられることを思って、少しの不正もしないよう心がけます。これが、経営者自らを律する「けん制機能」になります。こうした方法をとれるなら、本当の「社会のための会社」を実践する良い企業になります。


投稿: DMORI | 2015年7月22日 (水) 13時55分

社外取締役の2名は基本的に外務省出身で、いわゆる天下りです。せっかくいい制度を作っても、官僚がそれを濫用するなら機能しません。社外取締役のみならず、この外務省の2名を選任した人(指名委員?)は責任を取るべきでしょう。

わが社も子会社の内部統制の責任者は子会社の経営者です。こちらが本社報告用に内部統制の問題点を記載しても、経営者はこれを書き換え、問題はありませんと報告を書き換えてしまいます。執行と監督が一緒になってしまっています。理想的には人事権も含め、子会社の内部統制部署は本社管轄で本社直属にしたほうが機能すると思います。ただ親会社のボスが不正に積極的にかかわっていれば、これも機能不全になってしまいますが。

また、経理部署の経験者は過去に不正に関与していると監査部門に回されたときに監査で不正を指摘しにくくなります。特に経理は過去の業績を現在にまで引き継ぐことになるので、過去経理部門で執行責任を負い、後ほど監査部門となった場合、CIAの基準である1年ぐらいの期間をおくのではなく、10年ぐらいの期間を空ける、あるいは監査部門に入れないぐらいのことが必要ではと思います。

投稿: 工場労働者 | 2015年7月23日 (木) 08時26分

ご無沙汰しています。
ブルームバーグから、「チャレンジ」期間中の資金調達に関する記事が掲載されています(粉飾して市場から1兆円資金調達したという内容)。
「東芝:1兆円を資本市場で調達、経営トップ関与の水増し会計で」
http://www.bloomberg.co.jp/bb/newsarchive/NRTRMI6JIJV101.html

そのような決算で実際に資金調達したことと、粉飾期間中はただ株が流通市場で売買されていたことでは、違いがあるのでしょうか?

私は銀行員時代、企業の決算が粉飾とわかったからと言って、当該企業に訴訟を求めたことはなかったです(そのようなことをやっても意味がなかった、というのもありましたが)。

投稿: katsu | 2015年7月23日 (木) 09時40分

今回は派閥争いというか、エラすぎる過去の経営者への対抗心/劣等感や役員相互の功名心が相まっての「不正の指示」だったように思いますが、やや一般論としてですが、投資家重視のROE経営を行わなければならないというプレッシャーが不正行為の遠因としてあるのではないでしょうか。いや、企業として収益をあげて株主に還元する、企業価値を増大することは極めて正しいわけですけど、不正の動機ということを考えるなかでこのバランスにも思いを及ばさないと、この手の事件は減らないでしょう。

投稿: 機野 | 2015年7月23日 (木) 17時42分

 皆様に比べ、小生は経験も浅く見識もないので、恥ずかしいのですが、
最初の感想としては、今回の事件は、企業で働く者にとっては、やりきれない話だというものです。
 第一線や末端で働く者にとっては、経営の上層部で不適切経理が起きているかどうか、まったく予想もつかない寝耳の水かもしれませんし、部門によっては薄々気が付いていて何となく不安を抱いていた話かもしれません。

 監査委員である取締役の責任云々が問われていますが、そのほかの取締役についてはどうなのでしょうか。取締役の相互監視義務は監査役会設置会社だけの話ではなく、委員会設置会社でも同様だと思いますが、小生の誤解でしょうか。かつて、東京に本社を構える会社で起きた代表訴訟で、大阪常駐の役員についても責任が問われた事件がありました。私見かもしれませんが、取締役の相互監視義務は、監査役会設置会社ではいささか無理があり、委員会設置会社の方がなじみ易いと思われます。
 また、監査委員である取締役は社外取締役であっても、責任限定の措置をあらかじめ取りうるなど、もってのほかかと思っております。制度的には、認められておりますが、監査法人の関与社員が無限責任であるのと比較してバランスを欠くと思っております(最近の監査法人には、有限責任監査法人という形態もありますが、関与社員については、無限責任です。誤解している方も多いですけれど)。監査委員が、責任限定であってもしっかり職務を果たすことが期待できるのであれば、監査法人社員も、無限責任を解いてあげなければ、とてもこんなバカな仕事、やっておれません。
 社外取締役を二名以上という動きですが、これは、官僚の天下り用の仕組みという面もあるかもしれないですね。天下り云々は、他の方が少しコメントの中で触れておられました。

投稿: 浜の子 | 2015年7月24日 (金) 00時28分

第三者委員会報告書について、久保利弁護士が厳しい評価をされてますね。

東芝の第三者委報告書は「落第点」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/072300045/?ST=print

投稿: 迷える会計士 | 2015年7月24日 (金) 09時18分

katsuさんのご質問ですが、債権者が虚偽記載によって民事責任を追及する裁判例は過去にもありますが、それはBSに関連するものですね。PLに関連した粉飾については損害を認定できない例が多いのではないかと思います。東芝さんのケースでは、まだBSは監査法人が精査中ですね。

投稿: toshi | 2015年7月24日 (金) 14時51分

不作為と言うのはちょっと東芝に甘いと思います。過失犯のような印象を与えますから。これはれっきとした故意犯です。
暴力団の組長が「ねんごろにかわいがってきなさい」と組員に指示を出し、組員が服に血を着けて帰ってきたようなもので、組員が何をやってきたかは当然認識しているわけです。
暴力団ついでにもう一つ例を出せば、組長自ら拳銃を所持しておらず、所持の指示も出していない場合であっても所持罪の共犯となった判例がありましたね。
例としてよろしくないかもしれませんが、東芝の事案は不作為犯ではなく、ダイレクトな言葉を使ってないだけで、形態としては普通に故意の作為犯だと思うわけです。

投稿: JFK | 2015年7月24日 (金) 21時47分

 東芝の第三者委員会報告書の評価ですが、海外でのこの種の報告書はどの程度のものなのでしょう、気になるところです。
 会計監査の議論でエクスペクテーションギャップという話があり、監査人の方と、さまざまなステークホルダーの方たちに間でギャップがあるとかいう話がありました。この話は今回は措くとして・・・
 第三者委員会報告書というものについても、さまざまなエクスペクテーションギャップがあるのだと思います。
インセンティブのねじれもあるかも・・・いや、それはないのでしょうね、ないと信じたいです。


>債権者が虚偽記載によって民事責任を追及する裁判例は
>過去にもありますが、それはBSに関連するものですね。
>PLに関連した粉飾については
>損害を認定できない例が多いのではないかと

 そうなのですね。私はあまり裁判例、判例は調べたこともなく・・・
 PERと株価の連動性を議論したりすれば、
 PLとの関係を認める方向もあるのでは、と思います。
 四季報でも、PERなど必ず指標として出ています。
 ただ、そんなことは、とっくに、過去の裁判例の際でも、
 主張を試みているんでしょうね。

 相続税で相続財産に含まれる株式の評価でも、一株当たり純利益が項目
 に入っております。
 BS一辺倒ということないかな、とも思うのですが、どうなのでしょう。

投稿: 浜の子 | 2015年7月24日 (金) 23時41分

経営者の人格の重要性、まさにその通りだと思います。
ウェスチングハウス買収、リーマンショック、東日本大震災による原発事業不透明感、という大きな負のインパクトが続くと、トップとして「成績」がとても気になり、少しでも数字を見せたくなるのは自然な感情だと思います。
そこで、何のために仕事をしているかという原点に立ち返り、正直になる強さを持てるかどうかは、その人がどのような人格を持っているかにかかっていると思います。もちろん、確固とした「原点」を持っていなければ、立ち返るも何もあったものではありませんが、その「原点」を持っているかどうかも「人格」なのだと思います。

投稿: でーびす | 2015年7月28日 (火) 08時30分

資本主義は所詮、欲のコントロール。
清諾入り混じって形成されていると思います。
欲の強い者はエネルギーも大きく成果をあげる可能性も高い。トップも例外なく。
しかし、これは不正の発生と裏腹な状況といえます。
経営者不正ともなれば、企業の構造上どうしょうもなく…

今回は幸い内部通報が機能しました。外部へ、ですけれども。

聖人君子的人材、心的ストレス、はたまた不満分子、遺恨…様々な人材がおり隠し通すことは不可能であることを認識していないことが無能ですが、これも欲がそうさせる現象かと。

きれいごと言っていても、
どの企業でも、誰にでも起こりうること。たまたま起こっていないだけ。

東芝さんのような目立つ事例が時々起こり、牽制、啓蒙となり抑止される。
外部への内部者通報はきわめて有効ですね。
無限責任とセットで最強の牽制になりそうですが。(取締役のなり手がいなくなる?)

投稿: 所詮サラリーマン | 2015年7月31日 (金) 01時01分

「チャレンジ」などと述べ続けて数字を作ることを期待する役員は、法人の収益を高めるために何一つ役立っているとは思えません。それが仕事なら誰でもできます。
数日前に「チャレンジ」と唱え、結果数字が急激に改善したのを見て不審を感じなかった、あるいはそのように唱えれば収益が上がるなどと信じている、そういう人物は「上場会社の」「役員」として通常必要な能力に欠ける人物だと思います(本当に不審を感じなかった、収益が上がると信じている、とは思えませんが・・・。)。「金屏風を買えば株を買い戻せる」といわれて、なるほどとそうかと納得して金屏風を買ったことになっている事案は過去にあったように思います。
そういう通常必要な能力に欠ける人物は本来役員の地位に立つことができなかったにもかかわらず、必要な能力を有するように誤信を受け、報酬を得たものであって、会社から得た報酬は不当利得であり、損害の賠償と別に、報酬の全額が不当利得返還の対象になると思います。
また不当利得返還請求の訴の結果、通常必要な能力に欠けた人物と認定されて返還が認容されたならば、その人物を役員にいただく会社やこれに賛成する株主は、世の中にあまたの人物がいる中、あえてそういう能力に欠けた人物を役員にいただくことが正しい理由を説明をする必要が生じ、かなり苦しいと思います。

投稿: 通行人 | 2015年7月31日 (金) 23時45分

第三者委員会報告書について久保利弁護士に続いて八田教授も厳しいご意見ですね。
http://diamond.jp/articles/-/75932
第三者委員会報告書格付け委員会で取り上げられるでしょうか?

投稿: 迷える会計士 | 2015年8月 3日 (月) 09時05分

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