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2015年8月11日 (火)

東芝のガバナンスにおける重要な不備-監査人の連携不全

お盆休みムードが漂う季節になりまして、私もようやく東芝不適切会計処理事件の第三者委員会報告書(全文)を読める時間がとれました。本日、同書を精読いたしまして「おや?これは・・・。」と思ったのが会計監査人と監査委員会との連携に関する事実認定がまったく記載されていないということでした。末尾の「再発防止策の提言」のところにも何ら記載されていないので、おそらく第三者委員の方々も、あまり関心が向いていなかったのかもしれません。もちろん、マスコミでもほとんど「連携」については報じられていないようです。

たとえば電力事業部門における海外子会社(ウェスティングハウス社)の原価見積額増加案件については、その損失計上における「引当金」の算定にあたり、会社と監査法人間で「未修正の虚偽表示」の重要性について議論がなされ、提携先であるE&Yの意見とも齟齬が生じていました。「引当金」の金額決定について、監査法人にとっては喫緊の課題となっていたにもかかわらず、なぜ会計監査上の重要課題を監査委員会と共有しなかったのでしょうか?(ちなみに監査役・監査委員会は、会計監査人の会計処理の方法及び結果について、その相当性を審査して監督する立場にあります)また、PC部品取引における押し込み販売案件では、ぎゃくに費用計上問題が監査委員会では問題視されていたにもかかわらず、なぜこれを監査法人と情報共有して是正を図ろうとしなかったのでしょうか?最近、私の本業(不正調査)で伺う上場会社では、不正リスク対応基準が浸透してきたためか、監査法人と監査役とで協議をして経営陣に過年度決算訂正を迫る事案も増えてきています。

日本監査役協会でも、また日本公認会計士協会でも、平成18年より「会計監査人と監査役(監査委員会)との連携に関する実務指針」が公表され、その指針内容はますます連携強化の方向に向かっています。不正の兆候を見つけた会計監査人は、これを監査役(会)に連絡をして、その兆候の真偽について対応を促します(もちろん、その結果として、計算書類や財務諸表の重要な虚偽記載の疑いが解消されればよいわけです)。また監査役が会計監査上の問題点を見つけたときは、専門職である会計監査人に連絡をして、その意見に基づいて会社法上の権限行使の可否を判断することになります。したがって監査役にとっても、また監査法人にとっても、適切な連携を怠ることはガバナンスにおける重要な不備であり、法的責任の有無に影響を及ぼすことになると思われます。

監査役といっても、所詮は経営トップの人選で決まることが多く、監査役会として厳しい意見を言えないことがあります。また会計監査人といっても、所詮は会社と報酬契約を締結しているわけであり、それこそ金融庁から課徴金検査等でも始らないかぎりは、会社側に厳しい意見をつきつけるには胆力が必要です。さらに東芝のケースでは、不適切な会計処理方針を自ら決めた経営執行部の方が監査委員会の委員長に就任していた、という事情もあったようです。

しかしいかに現実に「モノを言う」ことが厳しいものであったとしても、監査人に対して法が要求する行動をとらなければ善管注意義務違反と認定されてしまいます(この法理はすでに大原町農協監事損害賠償事件最高裁判決や、セイクレスト損害賠償事件大阪高裁判決が示すところです。また相談を持ちかけられたにもかかわらず、これを無視して会社役員の損害賠償責任が認められたのがライブドア一般株主損害賠償請求事件東京地裁判決であり、福岡魚市場事件株主代表訴訟の福岡高裁判決です)。会計監査人にとっても「この会社の監査役さんは頼りないからなあ。。。相談してもムダだよなぁ」は通用しないのです。「連携」というのは実務指針であり「法ルール」ではありませんが、監査基準や不正リスク対応基準でも取り上げられているところであり、もうそろそろ監査人の注意義務のレベルを判断するためのモノサシとして取り扱われる時代になってきているのではないでしょうか。

監査法人と監査役が一致団結して経営トップに自浄能力発揮のための決断を迫るのであれば、経営者もこれを無視するわけにはいきません。金商法193条の3に基づく監査法人の是正要求通知を発動するほどではないけれども、合理的に不正の兆候が疑われる場面においては、監査役(監査委員)も、会計監査人も、それぞれの疑問を相互に共有することを当たり前のものとして理解する必要があります。会計監査人や監査役個々では、なかなか経営トップにモノを言う勇気がなくても、団結することでなんとか監査人としての意見表明を明確に述べることが期待できるのではないでしょうか。株主との対話が求められる時代、機関投資家の方々には、ぜひとも監査役に対して「現在、会計監査人との間において、御社ではどのような点に重要な内部統制上のリスクがあると話し合っているのか?」と質問してみてはいかがでしょうか?資本コストを下げるためにはどうしても聴いておきたいリスク管理のポイントかと思料いたします。

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コメント

 先日やっと、日経新聞でしたっけ、「内部監査部門にも経理知識に詳しい人間を置かないと監査できない」と書いている記事が出てきました。しかし、まだ勘違いされているひとが多くて困るのですが、経理部門って決算をチェックするんじゃなくて決算を作る側なんですよね、あくまでも。各部門に不正会計処理があったとしたら、その「主体」(主犯といってもいいかも)って経理なんですよ。巨大企業の場合は各部門ごとに経理セクションがあって、それを本社の経理部門が統括する形を取っているのでしょうが、その双方は間違いなく密接に連携してます。専門化がどんどん止めどなく進む経理の世界は、経理が分かる人間同士結びつくしかないですから。

 東芝さんの場合、もうもう、基本のキみたいな、一番ありがちで、やりがちで、それゆえに経理部門も監査法人の担当会計士も、イの一番に「ここは誤ってはならない」と考えるような不正です。幾度となく、何昼夜もの議論がなされたことでしょう。計上の仕方で損益が大きく変わるところですから。逆にいうと、監査法人も含めた会社ぐるみで行われたという証拠になってしまうんですよね、この不正自体が。

 会計制度が鵺(ヌエ)みたいに複雑怪奇で難解なのは、トーシローには分からないようにわざとそうしている、というジョークのような本音をたびたび聞きますが、いい加減、専門家でなくてもある程度は理解できるようなレベルに落としていくようなことを考えないと、(現役バリバリの、つまり頭が働くそこそこ若い)公認会計士以外の人間が監査役、監査委員会のメンバーになっても、会計(監査)の是非善悪を判断することはまず不可能でしょう。

投稿: 機野 | 2015年8月11日 (火) 09時35分

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