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2015年8月 6日 (木)

監査等委員会設置会社は「パンドラの箱」?

ひさびさの監査等委員会設置会社ネタでございます。監査等委員会設置会社に移行した会社または移行を表明した会社は、すでに200社を超えたそうで、来年の総会で移行を検討している企業を含めますと、かなり多くの上場会社が監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行することが想定されます。当ブログをご覧の皆様はご承知のとおり、私は(ネガティブキャンペーンを張っているわけではありませんが)監査等委員である社外取締役さんの職務というのは、これまでの社外監査役さんの職務とは大きく異なるのではないか、次期社長の指名や現社長の評価、社内取締役の報酬に関する評価をきちんと審議・決定しなければ善管注意義務違反になるのではないか、と考えております。

ところで7月24日に経産省から公表されました「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」では、取締役会制度に関連する会社法の解釈指針がまとめられておりますので、この監査等委員会設置会社における社外取締役さんの役割と責任はどのような解釈指針が出されているのだろう・・・と興味を抱いておりました。しかし、同指針には「この指針は断りのない限り監査役会設置会社について記載をしています」とあり、監査等委員会設置会社における社外取締役の役割と責任には踏み込んだ解釈指針は公表されていません(これは残念)。ひょっとして監査等委員会設置会社の監査等委員である取締役の善管注意義務を語ることは時期尚早なのでしょうか?それともパンドラの箱なのでしょうか?

Houtojitumuちなみに取締役会まわりの会社法実務を学ぶにあたり、とても参考になる本が出版されており、法律雑誌の原稿を書く際にも参考にさせていただいております。

取締役会の法と実務(森本滋編 商事法務2015年3月 4,000円)

森本滋先生(京大名誉教授、同志社大教授)が在籍されている中央総合法律事務所のメンバーの方々と森本先生による共著です。かなり分厚い本ですが、内容は実務担当者向けでして、取締役会の運営に関連する法的な論点をほぼ網羅したものであり、このたびの経産省解釈指針を読む際にもたいへん有益です。会社法規則やガバナンス・コードへの言及もあります。

ところで本書では、森本先生の「監査等委員会設置会社における監査等委員の職責」に関するご解説、ご解釈が詳しく述べられていまして、これは私個人の感想ですが、江頭先生が「株式会社法第6版」で述べておられるものよりも、さらに厳しいご意見だと理解いたしました。

(条文上は「意見を述べることができる」とあるが)選定された監査等委員は、株主総会において、取締役の選任・辞任、報酬に関する意見を述べなければならない、とされ、そのうえで監査委員よりも監査等委員の地位は脆弱であるにもかかわらず、社内取締役の業務執行全般を調査し、その経営評価機能を適切に行使することなどできるのだろうか、と疑問を呈されています。また、かりに「とんでもなく能力に乏しい監査等委員」が就任した場合、指名委員会等設置会社の監査委員とは異なり、監査等委員は取締役会への報告義務がないので、取締役会が監査等委員の監督能力を発揮できず、そのうえ株主総会の特別決議でなければ解任できない、任期も社外取締役の倍、ということなると、(能力のない監査等委員の活動によって)取締役会の円滑な運営がを阻害されるおそれがあるのではないか、と危惧されています(まだまだ他にも厳しいご意見が続きます・・・)。

コーポレートガバナンス・コードへの制度対応を目的として監査等委員会設置会社に移行した上場会社さんの場合、監査等委員に就任された方にも、また機関形態を移行した会社側にも「こんなはずじゃなかった」といったリスクが待ち受けているようにも思えるのですが、いかがでしょうか。もちろん平成26年改正会社法の成立にあたり、衆参両議院の附帯決議があり、(社外取締役制度の運用状況や機能を把握するためには)監査等委員会設置会社と他の機関形態との制度間競争を実行させなければならないので、監査等委員会設置会社が増えることについては法務省を初め、国策ガバナンスを推奨する側はこの状況を好ましいものとされるはずです。しかし、日本を代表する商法学者の方々が監査等委員会設置会社の取締役の責務に関する解釈ついて厳しい見解を述べておられるところで、会社が不祥事を起こしたり、業績が悪化した場合に、社外取締役さんの法的リスクはかなり高いのではないかと、改めて感じるところです(もちろん、これは私個人の考え方です)。

なお「パンドラの箱」の神話は、箱の中には最後に「希望」だけが残されていた、という筋書きです。監査等委員会設置会社も、経営トップをはじめ、関係者がガバナンスの向上のために工夫をして運用した場合には、おそらく企業価値向上に資するガバナンス形態として機能するのかもしれません。どのような制度間競争が繰り広げられるのか、今後の数年間とても興味があります。

8月 6, 2015 監査等委員会設置会社 |

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コメント

かつて、監査役の監査権限が妥当性監査に及ぶかということが議論されていたころ、竹内教授は、権限が及ぶとすると、それを適切に行使することが義務[任務]となり、監査役に酷であると指摘されていました。このような思考回路は、会社法の研究者の間では少なくとも多数説(もしかすると、通説に近いのかもしれない)なので、条文上は「意見を述べることができる」とされていても、監査等委員会は意見を形成し、監査等委員会で選定された監査等委員は、株主総会において、監査等委員ではない取締役の選任・辞任、報酬に関する意見を述べなければならないということになるでしょう。これに対して、監査等委員である取締役の選任等や報酬についての意見陳述権は権限ではなく、独立性を確保するための権利にすぎないとすると、意見を述べることは任務でもなく、義務ではないということになるのでしょう。

投稿: 通りすがり | 2015年8月 7日 (金) 15時25分

貴重なご意見ありがとうございます。なるほど、そういった歴史(経緯)があるのですね。たしかに森本先生の(本文でとりあげた)論稿の中でも、おなじ条文に「意見を述べることができる」とする言葉がもう一回出てくるが、こちらは監査等委員の独立性確保のためのものであるから区別して解釈すべき、とされています。通りすがりさんのコメントでそのあたりもナットクいたしました。

投稿: toshi | 2015年8月 7日 (金) 15時38分

「監査等委員会設置会社も、経営トップをはじめ、関係者がガバナンスの向上のために工夫をして運用した場合には、おそらく企業価値向上に資するガバナンス形態として機能するのかもしれません。」が、本日開示された会社の移行理由が「経営の迅速な意思決定と業務執行の機動性を確保しつつコーポレートガバナンスの一層
の強化を図るために、定時株主総会の承認を前提に、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行することを決定しました。」とあり、これと類似した程度の開示をしている会社が多く(資料版商事法務374号)、関係者の工夫等が全然見えませんので、このままでは、企業価値向上に資するガバナンス形態として機能することは期待できないのでしょうか。

投稿: Kazu | 2015年8月12日 (水) 19時39分

Kazuさんの懸念されていることを私も危惧しております。
もはや監査等委員に就任される取締役さん方の自覚にかかっているのではないかと。ところで監査役や監査委員会とは異なる職務という点から、監査等委員の職務分担というのはどういったことになるのか、ぜひとも就任された取締役の方々にお聴きしてみたいところです。

投稿: toshi | 2015年8月12日 (水) 20時12分

ご無沙汰しております。
私も、あえて極言すれば、監査等委員会移行会社は、ガバナンスの強化の放棄をみずから宣言しているようにしか見えません。

投稿: コンプロ | 2015年8月15日 (土) 12時07分

9月総会までに監査等委員会設置会社に移行した会社のうち、ガバナンス情報を更新していない会社を除く190社について分析してみました。

①社外取締役2人 94社 
②社外取締役3人 64社
③社外取締役4人 23社
④社外取締役5人 9社
⑤平均社外取締役数 2.72人
⑥平均取締役数 9.55人
⑦平均社外取締役比率 28.5%
⑧社外取締役比率が三分の一以上の会社 60社
⑨社外取締役比率が二分の一以上の会社 9社
⑩監査委員である社外取締役以外に社外取締役を選任している会社 30社
⑪常勤監査委員3人 1社
⑫常勤監査委員2人 14社
⑬常勤監査委員1人 150社
⑭常勤監査委員0 25社
⑮監査委員会委員長が社内 121社
⑯監査委員会委員長が社外 65社
⑰監査委員会委員長なし 4社

投稿: 迷える会計士 | 2015年10月11日 (日) 11時47分

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