東芝事件・監査法人の責任と「職業的懐疑心」
8月25日の朝日新聞朝刊経済面に「東芝不正、監査責任は」という見出しで監査人の責任に関する特集記事が掲載されています(ネットニュースではご覧になれません)。新日本さんだけでなく、トーマツさんのトップの辞任問題にも言及がなされています。なかでもCPAAOB(公認会計士・監査審査会)の千代田邦夫会長のインタビュー記事は興味深いですね(関西版は千代田先生の顔写真入りです)。東芝さんの9月の臨時株主総会が終了しても「監査の問題は残る」そうです。
CPAAOBとしても(新日本さんへの)検査に入る準備をされているそうですが、当局としては(予想どおり)原発事業とPC事業部門への関心が高いようで、「監査法人が職業的な懐疑心をもって監査していたのかが検査の主たる目的になる」とのこと。このあたりは私もJFAEL(会計教育研修機構)のニュースレター(もうすぐ発刊)の原稿にも一番のポイントとして書かせていただいたので、また関係者の方々はお読みいただきたいのですが、要するにいずれの場面も(第三者委員会報告書によると)東芝サイドの証言内容と監査を担当した新日本サイドの証言内容とが食い違っているところです。「東芝の内部統制報告を信頼していた」とか「セル・バイ取引は、実務において慣行化されていれば経済的合理性のある取引として容認できる」といった理由は通らないような気がいたします。
司法による責任追及とは異なり、行政による検査は監査法人にペナルティを課すということよりも、再発防止を目的とした業務改善を促すというものですから、不正リスク対応基準が施行されている現在、監査法人がどのように会社側と対面すれば職業的懐疑心を発揮したことになるのか、具体的な事例に沿って明らかになるのではないでしょうか。非常に注目されるところです。
なお、これは蛇足ですが、CPAAOBの事務局長さんは7月に交代され、現在は監査法人に対して厳しい対応をされる(との噂のある、女性大蔵官僚のあの)方が就任されました。監査法人さんとしては戦々恐々とされているのではないでしょうか(^^;。平成20年の大和都市管財事件大阪高裁判決以来、投資家が情報開示の不正によって被害を受けた事件において金融庁は「不作為の違法」による損害賠償責任(国賠責任)を問われかねない立場なので、監査法人に対して厳しい対応をとるのは当然といえば当然だと思われますが。。。
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コメント
今朝の毎日新聞1面によると、東芝は、監査法人自体の5年交替制を導入するようですね。一見、監査法人との癒着が断ち切れて好ましい政策に見えます。しかし、現場のことを考えると、現在でも担当者のローテーション制度が動いているわけです。今なら、新しい担当者が「これって、どういう背景とか思想でこういう会計処理になっているんだろう?」と思った時に会社に聞くだけではなく、前担当者に聞くこともできます。しかし、他の監査法人から引き継いだら、引き継ぎ時の手続では聞けても、その後は聞けないように思います。そして、東芝クラスの会社になると、全体を俯瞰できるようになるまで3~4年かかるかもしれません。やっとわかってきたと思ったら、他の法人に移っちゃうとなると、現場のチームのメンバーもモティベーション上がらないと思いますね。
これも、みんなで平均点の70点を取るために、40点もなくなるけど100点もなくなっちゃう制度だと思います。その挙句、「形式的な部分しか見ないから、監査法人が騙された」とか、期待ギャップを拡げてしまう制度なんじゃないかと思いますが。100点取るためには監査法人内で「ミスター東芝」とか言われるようにならないとダメなんだと思うのです。
http://mainichi.jp/select/news/20150827k0000m020155000c.html
投稿: ひろ | 2015年8月27日 (木) 09時44分
茶化すつもりはありませんが、特定の会計士が「ミスター東芝」などと言われるような癒着があったからこそ、今回の事態が発生したのですよ(断言してしまいます)。
現に会計士の先生方は担当している企業のことを「うちの会社」と表現します。
企業としては非常に面倒なのですが、監査法人は定期的に入れ替える、特に今回のような問題があったのならすぐさま別の監査法人にチェンジする。但し、「証言者」(というか殆ど「容疑者」ですな)として現法人の担当者たちを足止めしてヒヤリングする。そして、海外の有力な監査法人に、新たな監査が正しく行われたかダブルチェックさせる。その海外の法人は日本の監査法人と組んでいないところに限る。東芝の場合は、ここまでやらないと膿は出し切れないし、企業文化も変わらないでしょう。
投稿: 機野 | 2015年8月28日 (金) 09時53分
ひろさん、機野さん、どうもです。しかし有価証券報告書はいつ出るのでしょうかね?月刊「世界」の細野先生、郷原先生の論文を読みましたが、なかなかおもしろかったので、また来週にでもご紹介したいと思います。
投稿: toshi | 2015年8月29日 (土) 20時12分