内部監査部門の強化は不正発見力向上につながるか?
東芝さんは8月18日、新体制を含む内部統制強化策を公表するそうです(読売新聞ニュースはこちら)。同社の不適切会計処理に関する第三者委員会報告書では、内部監査部門を担ってきた経営監査部がコンサルタント業務に偏り、不正発見に役立たなかったことから、不正調査業務にも従事できるような強力な部門に作り直すことが提言されています。また、東洋ゴム工業さんの免震ゴム偽装事件においても、第三者委員会は「既存の監査部門は形式的なチェックに終始し、技術開発部門の行動の実質を把握できなかったことが不正放置の原因だった、したがって強力な内部監査部門を新設すべきである」として、社内の徹底的な不正調査を可能とする組織の構築を要請しています。
最近、内部監査部門による不正発見への期待が高まっています。たしかに内部監査部門が不正の兆候にいち早く気づく例はありますね。4年ほど前のメルシャンさんの架空循環取引による不正会計事件は、内部監査部門が最初に「おかしな取引」に気付きましたし、私が監査役さんの訴訟代理人を務めたアイ・エックス・アイ事件においても、社内調査の発端は内部管理部長の示唆によるものでした。ただ実際のところ、内部監査部門は社長直轄部署なので社長の経営管理に役立つ報告が求められます。したがって内部統制の評価や助言・指導が内部監査部門の中心的な業務であり、不正調査業務を熱心に推奨している会社は少ないかもしれません。
3年前のACFEカンファレンスの様子を当ブログで報じたときにも書きましたが(こちらのエントリー)、伊藤忠商事さんなどは内部監査とは別の指揮命令系統を持つ不正調査部隊が30名ほどいらっしゃるとのことでした(日経法務インサイドでも紹介されましたね)。尼崎信用金庫さんも、内部監査とは別に各部門にCFE(公認不正検査士)資格を有する社員を配置している、とのことでした。社内の不正調査は一定のスキルが求められるので、もし不正調査や不正発見ということで内部監査部門を強化するためには、それなりの専門的なスキルを習得されるほうがよいと思います。
そのような不正調査に特化した内部監査部門を育成することは理想ですが、そうでない場合には、やはりガバナンスで補う必要があります。「なんかおかしい」と感じた内部監査部門の方々が、その違和感を伝えて有事意識を共有できる監査役や会計監査人の存在です。内部統制システムの構築は、本来は不正予防のためにありますが、残念ながらどんなに頑張ってみても不祥事は発生してしまうわけですから、これをいかに早期に経営者に伝えるかが勝負です。また経営者に届いた不祥事が会社に及ぼすリスクの重要性をいかに的確に経営者が判断するか(経営者に説得するか)も勝負ですね。誠実な経営者のもとでも「不祥事企業」のレッテルを貼られてしまうことがあるのは、経営者の有事感覚の欠乏によるところがもっとも大きいと感じます。
不正の発見といいますが、それは誰の目にも明らかなものであれば発見は容易です。しかし不正なのか正当な業務なのか境界線がわからないものが多いわけでして、(放置しているうちに)マスコミや国民の反応から「ああ、あれは大きな不祥事だったのだ」と後悔することが多いのも現実です。不正調査の現実の場面では、各企業は①多くの正当な業務に支障を来たしてでも、絶対に不正を見逃さないといった発想をとるべきか、②多少の不正に目をつぶるけど(しかしその代償は大きいことがあります)、確実に不正と判明するものだけを見逃さないといった発想をとるべきか、選択を迫られると思います。私が内部通報窓口の調査を担当していて感じるのは②の選択を優先する企業が多いということです。内部監査部門を強化する、ということは、この①の選択を優先するということなのでしょうか。これはかなり勇気のいる選択だと考えます。
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コメント
③として、想定される代償の多寡に応じて不正を監視するという、まさにリスクアセスメントに応じた監査、検査というものが挙げられるかと思います。それこそが、監査、検査によって多くの正当な業務についての業務効率を阻害される立場となる、現場にも説得力のある監査、検査対応ではないかと思います。
そのためには、現場を知る監査、検査部隊が必要であり、米国SECの初代委員長同様、現場の手口を知り尽くしている人間を配置しなければ成果は上がらず、現状のような縦割りで、結果的に内部監査基準に精通した人間のみを養成するような人材育成では、到底難しい話でしょう。
投稿: 場末のコンプライアンス | 2015年8月20日 (木) 12時22分