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2015年9月30日 (水)

ACFEカンファレンスの内容変更のお知らせ(と、おわび・・・)

ブログを書く時間があまりとれず、ブログネタばかりが手帳に山積みになっておりますが、この告知だけは本職を投げ打ってでも(?)書かねばなりません。

以前、当ブログでも告知しておりました2015年度ACFE(日本公認不正検査士協会)のカンファレンスですが、お知らせとおわびがございます。本日の東洋経済WEBの伊藤歩さんの(あまりうれしくない)記事のとおり、エンロン事件で刑期を終えた同社元CFOファストゥ氏の来日が困難な状況になりまして、ファストゥ氏はビデオによる出演に変更させていただきました。当ブログをご覧いただき、「生ファストゥが見れるとは・・・これはスゴイ」と思ってお申し込みをされた皆様、本当に申し訳ございません。<m(__)m>上記記事のとおり、日本国への入国が許可されませんでした。

直前の入国拒否について、その可能性への配慮を欠いておりました者(ACFE理事)としては、上記記事のように「アホ」「まぬけ」と指摘されてもしかたないところであります。とくに私のブログでのご紹介内容からしますと、法律家である私は「主犯格」と言われてもしかたないかも・・・です。(>_<)ホントニゴメンナサイ・・・

2015_6th_jconf_mainsitesponsors0925いままでのACFEでしたら、ここで下を向き、ひたすら謝罪していたかもしれません。しかし、最近のACFEは違います!ACFE組織はとても元気なので「ピンチをチャンスに変えるべく」火事場の馬鹿力でがんばって企画を立ち上げました!そうです、ファストゥ氏はビデオ出演となりますが、エンロン事件を内部告発したあの女性、エンロン元副社長シェロン・ワトキンス氏をお招きすることとなりました!ワトキンス氏はエンロン事件で崩壊したアーサーアンダーセン会計事務所からエンロン社に転職した方であり、同事件を告発し、2002年にはTIME誌においてパーソン・オブ・ザ・イヤーに選ばれました。おかしいと思いながらも黙っていた関係者が多い中、どのような心境で「エンロンはこのままでは崩壊する」と告白するに至ったのか、ぜひともお聴きしたいところです。13年前、ワトキンス氏がエンロンを退社することを報じた時事通信ニュースはこちらです。なお、このシルエットはご本人とはかなり・・・。

ACFE第6回カンファレンス「シェロン・ワトキンス氏緊急来日!」

ファストゥ氏の講演に続き、今度はエンロン社を内部告発したワトキンス氏の講演となります。その後は青学の八田進二教授にワトキンス氏と対談していただく、という流れに修正されました(その後のシンポの内容には変更ございません)。おかげさまで、HPでもお知らせしておりますように、企画変更後、懇親会参加者は満席となりました(ありがとうございます!<m(__)m> なお、会場参加はまだ募集しております)。「えっと、エンロン事件ってどんなストーリーだったかな?」という方も心配ご無用です。ファストゥ氏の講演の前に青学の町田祥弘教授によるエンロン事件のご解説がありますので、そこで概要をおさらいできるようになっております。

まだ若干、会場参加が可能とのことですので、この修正企画にご興味をお持ちの方は、ぜひともACFEカンファレンスにご参加ください。10月9日(金)御茶ノ水ソラシティホールにて午後1時開演です。また、午前中は協賛会社様によるプレカンファレンスも開催しております(詳しくはこちらです。ただし午後のカンファレンスに参加される方のみとなります)どうか多数の方のご参集をお待ちしております!!

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2015年9月28日 (月)

不正調査のむずかしさを痛感するVWの排ガス偽装事件

まだ全容は判明していないVW(フォルクスワーゲン)社の排ガス偽装事件ですが、最新の社内調査によると、①2007年ころから、偽装に用いられたソフトは「あくまでも社内テスト用であり、実車で活用すれば違法」とのボッシュ社の警告書がVW社に届いていたことや、②2011年には社内技術者が不正の存在を指摘していたことなどが判明した、と報じられています。また、2013年ころには、実はEU当局も不正の存在に気づいていた、といった報道もなされています。ではどうしてこれまで社内調査では不正は発見できなかったのか、どうしてEUはVW社の不正について声を上げなかったのか・・・と新たな疑問も出てきます。VW社が利益を出し続けているかぎり、自分たちも恩恵を受けるのだから、ということで「おかしい」とは知りつつも「不正だ」と手を挙げることはしなかった方々もいらっしゃるのではないでしょうか(世界最大の巨額詐欺事件バーナード・マドフ事件と同様の構図?)

こういった不正が明るみになると、「こんな人たちが、不正を指摘していた」といった報道が次から次へと出ることは、企業不祥事報道では毎度のことですね(アメリカの大学の検証結果が「おかしい」と指摘した、という報道もありますね)。問題は誰が手を挙げて「おかしい」と公表するかということであり、その勇気を持っていたのが、今回は米国環境局(EPA)だったということでしょうか。そのあたりについて、ロイターのこちらの記事によって、かなり不正発見の経緯が見えてきたように思われます。アメリカの大学による調査が不正発覚の発端となったことは事実ですが、それでもVW側は「偽装ではなく、制御装置のミスだ」と強く反論し、リコール対応で逃れようとしていたようです。しかし8月下旬にはVW社幹部が自ら不正を認めたそうです。

そして、最終的にVW側が自ら不正を認めざるをえなかった要因は、米国当局による執拗な調査だったようです。上記のロイター記事から、その部分を抜粋しますと、

・・・・・事態の打開につながったのは、車のコンピューターシステムに保存されていた診断データを調べたときだった。

ヤング氏は「いくつか非常に不思議な異常を発見した」と言う。「例えば、通常とは逆に、車は温まった状態よりも冷えた状態での方がクリーンに作動していた。普通は温まったときに汚染制御システムも最善に働く。だが、この車は違った。明らかに何か違うことが起きていた。われわれは時間をかけて、彼らが合理的な説明ができないほどに十分な証拠と疑問を集めた」と同氏は説明する。

とのこと。この報道内容は不正調査の典型例を示したものです。つまり「普通ならAという事実が生じるとBという結果が生じるはずである。しかし目の前に生じた結果はCである。これはおかしいのではないか?」という推論を積み重ねて、相手の反証を封じ込める、というものです。企業不正では、目の前にいきなり「不正事実」が明らかになることはありません(不正事実など、内部通報や内部告発がなければ容易には判明しません)。強制調査権を持たない者が、企業の不正を調査するにあたっては、この推論を繰り返して最終的には対象者が不正を認めざるを得ない状況を作ることに腐心します。だからこそ、不正調査はビジネスモデルを理解しておかなければ実効性は高まることはありませんし、たとえば会計不正事件などは、経理や会計監査に携わった経験がなければ「普通ならA→B」がわからないので不正発見は困難なのです。

2011年にはVW社内において内部者による情報提供があったようなので、今後は経営トップがいつから不正に関与していたのか、組織ぐるみの不正と判断できるのかどうかに焦点があたるように思われます。しかし、これだけ大きな不祥事が、「企業不祥事」と世間で認知されるに至ったポイントはどこにあったのか、「バカなことを言うな!おまえ、自分が何を言っているのかわかっているのか?」と反論されることを承知のうえで、「これは不祥事だ」と世間に公言する勇気は一体誰が持っていたのか、そのとき、どんな証拠を持って公言したのか、というところを知ることはとても重要だと考えます。自動車工学には疎いので、私が事件の全容を理解することは困難かもしれませんが、本件を他山の石として不正リスクを理解するためには、本件が「企業不祥事」と認知されるに至った経緯だけは丁寧に辿っておきたいと思う次第です。

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2015年9月24日 (木)

変わるか?-最高裁の金融商品リスクへの評価アプローチ

VW(フォルクスワーゲン)社の排ガス偽装事件の影響はものすごいですね。この先、同社はどうなっていくのでしょうか?しかし4年前に日本でも起きた いすず自動車さんの件と、このVW社の件はどれほどの違いがあるのでしょうかね?また時間があるときにでも調べてみたいと思います。

さて、連休でしたのでニュースとしては若干前のものになりますが、9月19日の産経新聞ニュースにおいて、最高裁の司法研修所が、複雑化するデリバティブ(金融派生商品)の仕組みやリスクに関する研究に乗り出した、と報じられています。最高裁は、早ければ来年中にも研究報告をまとめる見通しとのこと(産経新聞ニュースはこちらです)。

つい先日、ある金融機関の企画課の方と、某研究会終了後に金融商品のリスク評価に関する話をしておりました。金融機関内においてデリバティブ商品を企画する方々は、金融工学に基づいてリスクを数値化し、商品を企画するわけですが、コンプライアンス担当部署の方々のリスクというのは、全く別物とのこと。つまり訴訟対応が重要であるため「こんなリスクがあります」「元本割れはこんな場合に生じます」といった、金融機関側がきちんと説明責任を尽くしたと裁判所で認定されるためのリスク概念が尊重されるそうです。商品購入者が、損を承知で購入し、自己の相場観をもって損をしたのであれば、それは自己責任として甘んじなければならない、ということになります。同じ金融機関の中でも部署が異なるとリスク概念も異なるというわけです。

裁判に登場する「金融商品のリスク」の考え方は、「当事者が被る不利益」と捉えられ、説明責任というのも、「損失を被る可能性があることの説明責任」とみられる傾向があります。ただ、これはおかしいのではないか、ということで最新の現代消費者法28号84頁以下では、金融法務に詳しい鈴木英司弁護士が「金融商品の説明義務に関する新たな視点-金融商品のリスクとは何か-」と題する論稿を出しておられます。元銀行マンでいらっしゃる鈴木弁護士は裁判所が採用するリスク観を(一般的な用語に近い)「主観的リスク論」、そして金融市場取引で用いられる(期待収益率と対比して用いられるバラツキ-分散としての)リスク観を「客観的リスク論」として「現在の最高裁の考え方(主観的リスク論)は間違っている」と主張されています。この論稿は、むずかしい金融商品のリスクを一般の方にもわかりやすい形で説明がなされており、とても勉強になります。

仕組債を勧誘した証券会社の従業員の説明責任が争われた東京地裁平成24年11月12日判決(判例時報2188号75頁以下)などは、この客観的リスク論を採用して原告勝訴の判断となりました。ちなみに同判決では、金融機関側の説明義務の内容として、オプション取引における金融工学上のリスク評価の基礎となる確率統計の方法や債券購入代金として預託する元本額が損失負担のリスクの大きさを実質的に担保する目的で定められていること等を明確にしています(そもそも、そのような説明がわからない方に販売すること自体、適合性原則違反ということになろうかと-ちなみに、本訴訟の原告は東証一部上場会社の社長だった方で、過失相殺がされています)。その後も同様の判決が相次ぎましたが、同種裁判の最高裁判決(平成25年3月)が、やはり主観的リスク論に立脚した判断を行ったために、その後は再び主観的リスク論に立った下級審判決が増えているそうです。

金融商品のリスクというものが、抽象的で投資家にとって主観的なもの(いわば相場観によるもの)ではなく、リスクは客観的で事前説明可能なものといった認識が共有されなければ、おそらく裁判における原告・被告間の議論はかみ合わないものと考えられますし、そもそも金融商品の健全な市場が形成されないのでは、と危惧します。販売対象となる金融商品に適合する相手方に対して、その自己責任を真に問いうるための情報の非対称性解消のための説明を行うことが消費者法として求められるのであれば、司法も鈴木弁護士がおっしゃるように、金融商品のリスク観についてきちんと理解を深める必要があるのではないかと思います。消費者契約法改正論議が進む中、最高裁が金融商品のリスクについて研究を開始したということは、(本件で取り上げた問題だけではないと思いますが)消費者契約への配慮によるものとして、今後も注目しておきたいと思います。

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2015年9月16日 (水)

東証改正ルールによる特設注意市場銘柄指定の「アメとムチ」

本日(9月15日)、東芝さんは有価証券報告書等に虚偽記載を行ない、内部管理体制改善の必要性が高いとのことで、特設注意市場銘柄の指定を受けました(ちなみに上場契約違約金については東芝さんの場合、市場一部上場で時価総額5000億以上なので一律9,120万円となります)。これから1年の間に内部管理体制等の改善がなされないかぎり、(半年間の延長措置はあるとしても)上場廃止になる可能性があります。

ところで平成19年から施行されている「特設注意市場銘柄制度」ですが、注目されるようになったのは、やはり平成23年のオリンパス事件あたりからだと思います。当時、東証さんからお招きいただいたにもかかわらず、私は「日興コーディアルの上場維持、ライブドアの上場廃止の判断理由からみて、オリンパスへの東証さんの判断はおかしいのではないか」と東証ホールの講演で述べました。結局のところ同制度は、オリンパスほどの会社を上場廃止にすることができないので、特設注意市場銘柄と指定して、ほとぼりがさめた頃に解除しましょう、といった「国策的なややグレーゾーン的制度」といった印象を(私だけでなく、世間からも)持たれることとなりました。今回も、東芝さんが特設注意市場銘柄に指定されたことで、「ほれみろ、やっぱり上場廃止なんてできっこないでしょ。(組織ぐるみかつ本業の架空売上ということで)オリンパスよりも情状が悪いにもかかわらず、結局日本証券取引所っていうところは腰が引けてるってことなんだよ」といった冷めた意見も聞こえてきそうです。

しかし現在の特設注意市場銘柄制度は、平成25年8月の東証のルール改正によってガラリと内容が変わっています。つまりオリンパス事件のころとは制度の中身がかなり違うのです。そのあたりがあまりマスコミ等では報じられていないように思われます。今回の東芝事件との関係でいえば、東証さんによる特設注意市場銘柄指定は、いわば「東芝に対するアメとムチ」だと理解してもよさそうです。

「アメ」というのは、上場規則の改正によって上場廃止基準が明確化されたこと、いや「明確化」というのは教科書的な表現ですが、要するに東芝さんのような老舗上場会社にとっては「虚偽記載」による廃止基準に該当する要件が厳しくなったために粉飾決算等によって上場廃止にはなりにくくなった、ということです。たとえば東証さんが平成25年6月に公表した「改正ルールの制度要綱」では、虚偽記載による上場廃止の対象となるのは、上場前から債務超過であったことを隠ぺいするために虚偽記載を行った場合とか、売上高の大半が虚偽であった場合が例示されており、かなり特殊な事例でなければ「虚偽記載」による一発上場廃止の基準には該当しないと思われます。この制度改正によって、東芝さんは「なんでオリンパスよりも情状が悪いのに」といった批判を受けずに済むようになりました。これは明らかに東芝さんにとっては「アメ」です。

いっぽう、一昨年の上場規則の改正には「ムチ」もあります。いや、企業の内部統制に関心を持つ私にとりましては、今回、この特設注意市場銘柄制度の「ムチ」の部分にこそ注目しています。ルール改正前は、上場会社の虚偽記載が認められた場合、その虚偽記載が投資家に与える影響の大きさによって上場廃止とするかどうかが決められていました。その影響が重大でないと東証が判断した場合には、とりあえず特設注意市場銘柄指定をして、内部管理体制の改善の様子をみながら、改善が認められる場合には指定を解除するという仕組みでした。この仕組みですと、東証が「重大ではない」と判断したことが間違っていなかったことを追認するために最大3年の猶予を与える制度のように世間的には受け取られていました(現に、後日東証さんが指定銘柄を上場廃止にした会社はありませんでした)。

しかし現行制度では、市場の秩序維持に問題を生じさせる行為(たとえば虚偽記載)が認められる上場会社については、虚偽記載の大きさが上場廃止にあたるかどうかとは関係なく、とりあえず内部管理体制等に高い改善の必要性が認められる場合には(ペナルティとして)特設注意市場銘柄に指定する、という仕組みになりました。したがって、上場廃止とは関係のない「適時開示違反」や「企業行動規範違反」に及んだ上場会社に対しても特設注意市場銘柄指定が(ペナルティとして)行われることもあります。つまり、今回の東芝さんが特設注意市場銘柄に指定されたのは、「虚偽記載」をしたからではなく、そのような虚偽記載に及ぶほどの市場秩序侵害行為(内部管理体制の欠如)が認められたから(そのペナルティである)、ということになります(東証さんのリリースの根拠条文をご覧いただければわかると思います)。

したがって、いったん特設注意市場銘柄に指定された上場会社には、「虚偽記載」とは別の独立した上場廃止基準が待ち構えている、ということになります(ということで、現行ルールのもとでは「特設注意市場銘柄指定か、上場廃止か」といったオリンパス事件のころの「虚偽記載」を基準とした問題提起は理屈上ではおかしい、ということになります)。また東証さんとしても、「自分たちの上場廃止に関する判断が正しかった」ということを追認するための審査ではなく、内部管理体制等の改善が明らかに認められた、ということを金融庁監視のもとで明確に判断しなければならないわけで、これはたいへん厳しい審査になると予想されます(現に、新たな審査基準のもとで、京王ズHDさんは上場廃止となりました)。

近時においても、特設注意市場銘柄指定中のリソー教育さんについて、「銘柄指定継続」の判断が出ましたが、その判断理由を読めばおわかりのとおり、「内部管理体制等の改善」といいつつも、その実はリソー教育さんのコーポレートガバナンス改善(具体的には取締役会メンバーの見直し?社長の交代?)にまで審査が及んでおり、東証さんの審査の真剣度が伝わってきます。東芝さんのケースでは、わずか1年の間に内部監査や監査委員会制度、会計監査人との連携状況などを見直し、おそらくもう一度、第三者委員会を設置して、監査の実効性についての検証を受ける必要があると思います。そのような状況のなかで、ある程度の業績の建て直しも進める必要があるので、東芝さんの今後1年間はたいへん厳しい試練が待ち構えているのではないでしょうか。

オリンパスさんの内部管理体制確認書提出の際、いくつかのマスコミで取り上げられたように「確認書改ざん疑惑」が生じました。そのような疑惑もあったとなりますと、東芝さんのケースにおいても、「結論ありき」の甘い銘柄指定ではないものと考えています。

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2015年9月15日 (火)

投資家フォーラム報告書とコーポレートガバナンス・コードへの対応

お二人の法務ご担当者の方から教えていただいたのですが、9月11日にリリースされました投資家フォーラムさんの第1回、第2回会合報告書におきまして、私が社外取締役を務めている大東建託のコーポレートガバナンス・コードへの対応が高い評価をいただいたようです。取り上げていただいた箇所は4つありますが、73項目すべてについて報告書でコンプライとエクスプレインの内容を開示している点(コンプライ&エクスプレインの姿勢)、議決権行使基準や政策保有基準について、他社ではあいまいにコンプライしているように書かれている点について、「当社はコードに従わない」と明言したうえでエクスプレインしている点、例外なしに役員の60歳定年制を貫いて経営の透明性を図っている点(どのような肩書でも会社には残らない)が評価の対象とのこと(どうもありがとうございます)。

ガバナンス・コード対応のための報告書策定については、社長をはじめ多くの社内役員、社外役員が関与しましたので、このように機関投資家の方々のフォーラムにて高い評価をいただくことは、正直とてもうれしいですし、今後の励みになります。とりわけ5月14日の拙ブログエントリー「東証規則に組み込まれたガバナンス・コードに関する素朴な疑問」でも述べましたように、コードがプリンシプル・ベースで示されていることから、どうしてもコードの解釈には幅が生じます。したがって(客観的にはコードに従っていないと思われる場合でも)自社に都合のよいように解釈して「コンプライしている」と判断すれば、東証規則違反であっても開示されていない状況が生じます。私は「コードはコンプライすることが原則ではなく、従わなくてもエクスプレインすればよい、逃げずに開示すればよい」と考えていました。大東建託でも、その趣旨が貫かれていますが、これを評価いただいていることは「株主との対話」に積極的な姿勢が受け容れてもらえたものと理解しております。

なお、他社の事例でぜひとも見習いたいのは花王さんの「取締役会全体の実効性に関する分析・評価とその結果の公表」です。ガバナンス・コードの原則(補充原則)を基に、分析・評価のための4つの視点を掲示し、社外取締役の具体的な行動も含め、その評価結果を詳細に開示されています。さらに特筆すべき点として、花王さんはすでにガバナンス報告書を6月1日以降、更新してブラッシュアップしており、ガバナンスへの取組における「運用面」をすでにアピールされているところです。やっつけ仕事ではなく、整備+運用が大切というコーポレートガバナンス向上への姿勢はぜひとも見習いたいものです。また亀田製菓さんのように(ツッコミどころはありそうですが)、自分の頭で素直に考えたエクスプレインも機関投資家の方々には好評なのですね(なるほど・・・)。

もちろんこの報告書にも記載されているとおり、コーポレートガバナンス・コードへの対応は形として整備して開示するだけでは「株主との対話」には有益であったとしても自社の企業価値向上には役立ちません。役立たせるためには、これを社内で具体的な行動に落とし込む工夫が必要です。花王さん同様、コード対応のガバナンス報告書は常に運用状況を対外的に示し、中長期の企業価値向上に向けた取り組みを図るためのインセンティブとして活用しなければならないと考えています。上場会社の社内・社外の取締役、監査役が、外向けに取り組むのではなく、内向きに(前向きに?)取り組むことが必要だと思います。

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2015年9月10日 (木)

東芝事件-株主代表訴訟と役員の責任調査委員会設置の必要性

東芝の不正会計事件について、大阪の「株主の権利弁護団」の方々が早々と動かれたようです(原告は奈良県在住の60歳の男性株主・・・とありますので、よく提訴されている方でしょうか)。毎日新聞ニュースによりますと、10億円の損害賠償請求を歴代役員28名に対して求めるよう、東芝さんの監査委員宛てに「提訴請求書」を送付された、とのこと。なお、この28名の中に監査委員である取締役さんや会計監査人さんが含まれているかどうかは不明です。

ちなみに、東芝さんは9月30日に臨時株主総会を開くそうなので、そこで監査委員会を構成する取締役は全員社外取締役になります。提訴請求に対する回答期限は提訴請求を受領してから60日ということなので、会社として歴代28名の役員に対して損害賠償請求訴訟を提起するかどうかは、この新しく構成された監査委員会によって実質的な審議がなされるものと思われます(就任早々、社外取締役の皆様は試練ですね)。

ところで気になる点がひとつあります。東芝さんのような指名委員会等設置会社の場合、訴訟を提起するかどうかは(監査役会設置会社とは異なり)監査委員会における組織的な判断によって決定されます。そこでもし提訴妥当と判断した場合には、監査委員会で選定した監査委員が会社を代表して歴代役員に対して訴訟を提起することになります。しかし株主代表訴訟の被告となる社長さんがそのままボードに残っている状況では、取締役会の構成員である監査委員の方々が、提訴の可否を中立公正に判断できるとは思えません(そもそも、そのような緊張関係を抱えたままでは「攻めのガバナンス」など到底期待できないでしょう)。原告株主さんへの不提訴理由通知の内容にも、あまり期待がもてないような気がします。しかし、だからといってこのまま原告株主からの提訴請求を放置して株主代表訴訟の提起を待つ、という姿勢で本当に大丈夫なのでしょうか。

たとえばオリンパス事件の際には、第三者委員会報告書では歴代の取締役の法的責任が判断され、また監査役等責任調査委員会報告書では監査役及び会計監査人の法的責任が判断されましたので、同社の監査役さんは、これに依拠して会社を代表して元取締役、元監査役の方々に訴訟を提起しました(平成24年のオリンパス社のリリースはこちら)。しかし今回の東芝さんの事件では、そもそも第三者委員会報告書は当事者の法的責任の判断には及んでおらず、ましてや株主代表訴訟の対象となる監査委員会の取締役や会計監査人の責任問題などはまったく触れられていません。不祥事によって経営トップが一掃されたオリンパス事件ですら、上記のような報告書がそろっていたのですから、経営トップが残っている東芝事件においてはなおさら中立な第三者による責任調査が求められると思います。

このような状況において、新しく監査委員に就任される方を中心に、ご自身で提訴請求に対応することは至難の業であり、また先に述べたように構造的に提訴することが期待できない状況にあるので、東芝さんとしては可及的速やかに第三者による「取締役等の責任調査委員会」を立ち上げたほうが無難ではないでしょうか。いやむしろ監査委員会の職務として60日間で訴訟提起の必要性に関する判断を下すためには、現在の監査委員の方々が、せめてそのような委員会を立ち上げなければ善管注意義務違反(取締役の不作為による違法状態を是正する義務の不履行)に問われる可能性も出てくるのではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。

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2015年9月 9日 (水)

まるで司法試験のような?「司法試験情報漏えい事件」

本日はビジネス法務系のエントリーございませんので、マニアックなネタにご興味のない方はスキップしてください。<m(__)m>行政法は専門分野でもございませんし、以前「田中真紀子大臣の大学設立認可問題」へのコメントで大炎上になった経験もありますので(笑)、「ホンマかいな?」程度にお読みいただけれ幸いです。

司法試験に合格された皆様、おめでとうございます<m(__)m>。我々の時代と違い、「合格したらこの世の春!」などと浮かれてよい時代ではなくなりましたが、ぜひともご自身が高く志した法曹の道へ向かって、これからも精進されることを祈念しております。

さて、本日(9月7日)は司法試験合格発表の日でしたが、その直前といいますか当日に前代未聞の不祥事が発覚したようです。憲法の司法試験委員主査を務める法科大学院教授が、教え子のロースクール生に試験問題を漏えいしていた疑いがある(国家公務員法違反)として、法務省が当該教授を刑事告発、東京地検特捜部も同教授自宅の捜索・押収に踏み切ったそうです。報道されているところでは同教授も教え子も不正受験の事実を認めているとのこと。

「こんな突出した素晴らしい答案など書けるのは不自然」といった委員の指摘によって発覚したようですが、私が驚いたのは法務省の刑事告発と合格発表とのタイミングです。まさに合格発表寸前の刑事告発劇ですね。司法試験法10条★によると、不正受験が発覚した場合には、司法試験委員会は(当該受験者に対して)受験することを禁止するか、または合格を取消すことができる、とあります。この教え子だった受験生の採点を回避した、と報じられているので、法務省はクロスプレーで「受験の禁止処分」として扱い、「合格を取消す」ということを回避したのではないでしょうか。

★(司法試験法第10条)司法試験委員会は、不正の手段によつて司法試験若しくは予備試験を受け、若しくは受けようとした者又はこの法律若しくはこの法律に基づく法務省令に違反した者に対しては、その試験を受けることを禁止し、合格の決定を取り消し、又は情状により五年以内の期間を定めて司法試験若しくは予備試験を受けることができないものとすることができる。 

もちろん、この「教え子」とされる受験生が不合格であれば急ぐ必要もないかもしれませんが(※1)、ひょっとするとそんなに「素晴らしい答案」だったので合格ラインに達していたのかもしれません。公表されている論文試験の平均点が50点未満、最高点の方の平均も70点前後なので、100点に近い点数を憲法で取っていたとすると、それだけで合格ラインに近いはずです。そして合格取消は、いったん行った行政行為(合格通知※2)を取消すことになりますから、行政法上の「利益を付与する行政行為の撤回」に該当します(※3)。ちなみに行政法の先生方の通説的見解に従えば、裁判で争われる場合に提起される取消訴訟については「撤回に関する制限法理」によって、かなり受験生側に有利な実体法、手続法上の取扱いがなされる可能性があります。

※1・・・司法試験法10条によると、当該受験生が不合格だった場合でも、司法試験委員会は(情状によって)将来5年間にわたって司法試験の受験資格を喪失させることができます。ただ、この「教え子」の受験生がもし全体として合格ラインに達していなかったとすると、ここまで大きな問題になっていたかどうか、やや疑問も感じるところですが・・・

※2・・・本日4時の合格発表は、法務省のHPで公表されましたので、通説判例によれば行政行為は成立しており、また効力発生要件も満たしています。司法試験法施行規則6条に基づく官報公告よりも前に行政処分は成立し効力は発生したものと解されます。

※3・・・そもそも不正によって合格通知が発せられた場合、瑕疵ある行政行為ならば職権取消であり、不当であっても瑕疵とまではいえないなら撤回にあたります。ここも問題ですが、とりあえず「撤回」と考えました。ちなみに職権取消と判断しても、取消権制限法理があり、受験生側に有利に働きます。

いっぽう受験をさせない(受験禁止)という処分については、(司法試験法が委任する法務省令に基づき)たとえば疑惑解明のための司法試験委員会の指示に従わなかったというだけで受験禁止処分もありうるわけですから(※4)、行政側に広い裁量権が付与されます(※5)。この場合には、もし受験禁止処分に不服がある受験生側で、法務省の不作為の違法を立証しなければ敗訴してしまう可能性が高いと思われます。利益付与型の行政行為の撤回によって、裁判所の公開の場において、なぜ不正だと判断したのか、そのプロセスを示さなければならない事態に陥ることを食い止めるには、司法試験の発表前に、なんとか刑事告発までは済ませなければならない、というのが法務省の考えだったのではないでしょうか。

※4・・・司法試験法施行規則第5条1項

※5・・・職業選択の自由を(法のプロとしてふさわしい者を選抜するといった)高度の公益目的によって制限(一般的禁止)しているので、受験機会の付与(禁止の解除)についても相当広い裁量権が認められるのではないでしょうか。

司法試験委員会の委員の皆様は、おそらく司法試験の公法系考査委員の方々と一緒に知恵をしぼって、この司法試験公法系のような問題に取り組んでおられたのではないかと推察いたします。なんせ公法系試験委員の主査の方を敵に回して(?)これに対抗する手法を検討するのはたいへんかと。往々にして、このような受験生は情報漏えいをしていなくても合格ラインに達していたりするんですよね(^^;しかし「教え子」受験生のお名前が公表されないので、M法科大学院の20代女性受験生の方々が、たいへん気の毒な状況にいらっしゃるのではないかと。。。

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2015年9月 8日 (火)

東芝事件-「不適切会計事件」から「東芝粉飾決算事件」へ

東芝さんの不適切会計処理事件も、15年3月期有価証券報告書が提出されたことにより、いよいよ第2ステージですね。ちなみに昨年よりも6倍ものスタッフ(300名)を投入して新日本監査法人さんは東芝さんの監査を終えたそうです。今日(9月7日)は新日本監査法人さんの創立記念日だそうで、記念日に終えられてよかったですね(=^・^=)。

なお、東芝さんは第三者委員会こそ「意図的な利益かさ上げがあった」と認定していましたが、本社としては意図的な不正を認めてこなかったと思われます。しかしながら、本日(9月7日)リリースされた訂正内部統制報告書提出のお知らせの中では、

「本件については、当社経営トップによる目標必達のプレッシャー、上司の意向に逆らうことができない企業風土、経営者における適切な会計処理に向けての意識の欠如などの複合的な要因があいまって、意図的な利益の嵩上げのためにカンパニーにおける内部統制、及び単体決算や連結決算に関する内部統制が無効化され、当社の会計処理基準が適切に運用されていなかったことにより発生したものであります

と、自ら述べておられます。東芝さんも新社長となり、旧経営陣が関与した意図的な利益かさ上げ、つまり粉飾決算をしていたことを明言されたようです。つまり、これを認めたことによって「内部統制に重要な開示すべき不備があったけど、この訂正報告書はそんな不備を認識し、これを補いながら作成したので信用してください」との意図があるのでしょうか。いずれにしましても今後は「東芝不適切会計事件」ではなく「東芝粉飾決算事件」と呼ばれることになりそうです。

しかし、訂正内部統制報告書が出た、ということで、監査法人さんの立場がどうなるのか、今後の関心事です。監査法人さんの言い分としては「こんな意図的な利益かさ上げなど知らなかった」ということになると思われます。しかし(第三者委員会報告書によると)「未修正の虚偽表示」を認識していたということのようなので、単に東芝側の見積り関する合理性テストを行っていたのではなく、かなり重要な虚偽表示が疑われる場面において「会計上の見積りに対する監査」を実施していたはずです。だとするとJ-SOXにおける経営者意見(内部統制は有効です、との意見)を信用していただけでは足りず、試査の範囲を合理的に決めるための内部統制評価をどのように行っていたのかが問題となるのではないでしょうか。

会計上の見積りの妥当性を検証する場合、監査法人さんはその企業がどのような組織であり、経理能力はどうであり、また社内監査体制はどうなのか、その社内検証システムに関するダイレクトレポーティングが必要になるはずです。とりわけ第三者委員会報告書で指摘されている案件では、重要な虚偽表示リスクが高まっている場面ですから、職業的懐疑心がどのように発揮されていたのか、その内部統制評価の手法によって判明するのではないでしょうか。これはPLでもBSでも、経営者による見積りが必要となる項目においてはすべて問題になるのではないかと思われます。

もちろん東芝さんの会計処理の適切性について、先に金融庁が審査をすると思いますので、監査法人さんの監査の妥当性に関する議論はその後になるはずです。しかし、J-SOX上でも内部統制は有効ではなかったことが明らかになった今、戦後の財務諸表監査が始まったころから効率的監査のために活用されてきた「内部統制」の評価に焦点があたるということになれば、また内部統制に関する議論が深まるのではないかと期待しています。

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2015年9月 7日 (月)

日本ガイシ米国子会社・反トラスト法違反事件にみるカーブアウトの脅威

環境規制強化の中、業績好調の日本ガイシさんは、同社米国子会社によるシャーマン法1条違反事件について、米国司法省(DOJ)との間で司法取引を成立させたことを発表しました(会社のリリースはこちらです)。本件については、DOJも先週HPで公表しています。同社は、すでに4月28日の時点で15年3月期に「競争法関連特損93億円」を計上することを明らかにしていましたので、詳しい方は「まもなく海外不正事件で司法取引合意か?」と予想されていたかもしれません(しかし日本の公取委が立入調査をした場合にはその時点でリリースされるのに、DOJの立入調査段階ではなんらのリリースもされないのですね。別途おそろしいインサイダー取引リスクが生じますね)。

ところで本事件では、日本ガイシさんの前社長を含む3名の方が企業本体の司法取引では免責されなかった(カーブアウト)と、日経が報じています(「関係者の証言によると」だそうです)。昨年1月、東証2部の自動車部品会社の経営トップが米国で禁固刑に処せられた例はありましたが、東証1部上場会社の経営トップがカーブアウトされ、刑事起訴されることはあまり例がないと思います。会社リリースによると、米国子会社にDOJから文書提出命令が届いたのは2011年10月とのことですが、日経が報じるところでは2010年から12年にかけて国内外において司法妨害行為(メールの削除、文書の廃棄等)が行われていたとのことで、時期がややずれています。つまり米国子会社にFBIやDOJの関係者がやってきた当初から、海外不正事件において「一番やってはいけないこと」をやってしまった可能性があります。

自動車部品メーカーは、常に自動車メーカーからの値引き要請、受注割合調整通告にさらされていますので、「こっちだってメーカーへの対抗手段をもっていてしかるべきだ」といった、いわゆるカルテル正当化理由があります(もちろん法的に正当というわけではありません)。したがって頭では「ヤバいこと」とわかっていても、またどんなにコンプライアンス研修を受けたとしても、上から「工夫しろ!」「チャレンジ!」と指示が飛んでくる中で、私は「どこの会社でもカルテルはやってしまう」と考えています。これから長年にわたって雨嵐のようにやってくる海外の民事訴訟や当局による制裁金訴訟を考えますと、どうしても「起こさないためにどうするか」に関心が向きがちですが、むしろグレーゾーン行為の疑惑が生じた時に、どうやって国内本部がこれを察知してアムネスティ・プラスにつなげるか(一番に不正を申告すると刑事処分を免れる制度)、ということが最重要課題であり、そのための内部統制システムを企業グループにおいて構築する必要があると思います。

「起こさないためにどうするか」よりも「起きた時にどうするか」を優先すべきと考える理由は、日本ガイシさんのように司法取引における「カーブアウト」がDOJの捜査主流となりつつあるからです。これまた米国子会社にFBIやDOJの担当官がやってくると、どうしても日本の本社では証拠を隠したり、廃棄したくなるものです。これは自分が刑事処分を受けたくないとか、自社の関与を隠したいといったことだけでなく、「他社に迷惑をかけたくない、御世話になっている会社を巻き込みたくない」といった日本企業的な理由もあるのでやっかいです。司法妨害行為は米国では極めて重く処罰されるようなので、今回のように経営トップの関与が疑われると、たとえ企業は司法取引が成立したとしても、経営トップは別だとして、免責合意の対象からはずされてしまいます。日本ガイシさんの司法取引の合意内容は明らかではありませんが、最近は「おたくの前社長が全面的に不正を認めて、おれたちの捜査に協力するように説得しろ、それなら罰金を減らしてやる、もし前社長を説得できないようなら、もうひとり幹部役員級のカーブアウトを増やしてもいいぞ」といった戦術がとられる傾向にあります。日本人には罰金を高くすることよりも、人質をとることのほうが捜査上で有効だと理解しているのでしょうね。

もちろん米国の捜査権は日本には及ばないので、起訴されても米国の裁判所に行かないという手もあります。今でも10名以上の日本人が頑張って無罪を争っているようですが、禁固刑が確定した場合に、「日本にいれば安心」というわけにもいかない時代になってきました。身柄引き渡し条約について、日米間で合意がなされており、いつ東京高裁が米国の引き渡し要求に応じるか予断を許さないからです(まぁ、これからは一切海外には出ない、身柄引き渡しは時期尚早という希望的観測に賭ける・・・というのもアリかもしれませんが)。

大きな組織のマネジメントを任されている方が、このような刑事訴追の対象となること自体、企業にとっては重大な問題です。また日本ガイシさんのように、国際カルテル事件は何年間も公表を控えざるをえず、(その結果として)インサイダーリスクを抱えるために、社長以下ごく少数の精鋭部隊による対応が要求されます。つまり、有能な社員を後ろ向きの作業に長く関わらせてしまうことも、企業にとっての重大な損失です。したがって「起きた時にどうするか」、つまり反トラスト法違反行為の後の「二次不祥事防止」といったことを優先すべきなのです。ちなみにカーブアウトの現状については私と龍義人氏とベーカー&マッケンジーの井上朗弁護士共著による「国際カルテルが会社を滅ぼす」でも説明をしています。なお、龍義人氏は、このたびさらに「国際カルテルが・・・」をブラッシュアップした国際カルテルへの実務対応本を、西村あさひ事務所の著名な弁護士の方と共著にて出版されます。こちらでもDOJ対応の実務が詳しく紹介されているようですので、ご期待いただければと。

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2015年9月 4日 (金)

第三者委員会報告書表彰委員会が「優れた報告書2014」を選定いたしました。

このたび第三者委員会報告書表彰委員会は、2014年度(2014年1月から12月まで)に公表された「不祥事発生時における第三者委員会報告書」のうちから優れていると認められるものを表彰することになりまして、その結果を公表いたしました。ちなみに落合誠一先生(東大名誉教授)が委員長、私が事務局長を務めさせていただき、9月2日の結果公表に合わせて経団連会館の記者ルームにて会見を開きました。全国紙と時事通信さんにお越しいただいたので「1社くらい記事にしてくれないかな・・・」と期待しておりましたところ、産経新聞さんが取り上げてくれました(=^・^=)ありがとうございます。記者会見の途中から、質問が東芝の第三者委員会報告書の件に集中しましたが、このあたりは想定内ということで、落合先生が適当に適切に回答されていました(ちなみに格付け委員会の次回格付け対象は東芝第三者委員会報告書だそうです)。

以前から活動している第三者委員会報告書格付け委員会の活動組織の一つとして位置付けられていますが、選定についてはそちらの委員の方々の関与は一切ございません。2014年に企業不祥事に関する第三者委員会報告書として公表された約30本のうちから、まず私が10本を選定し、その候補となった10本を委員の皆様が1カ月かけて熟読して、1位3点、2位2点、3位1点という採点形式で(理由を付して)評価していただき、その採点合計の高いものから2本を最終的に選考いたしました。もちろん委員会審議も尽くしました。和気あいあいと審議ができるものと楽観しておりましたが、ふたを開けてみると、結構ご意見の対立もあったりしまして、落合委員長にうまくまとめていただいた、というのが正直なところでございます。

事務局長として何が一番たいへんだったかと言いますと、30本の中から10本絞り込む作業がもっとも厳しいものでした。10本に絞られた後の選定作業となりますと、市場関係者や経営者、法律家、学者、マスコミ出身者等、いわば「報告書を読む人」の立場からの採点なので、格付け委員会の委員の方とはまったく視点が異なり、いろいろなご意見が出て私自身も勉強になりました(主な意見もHPにて公開しております)。優れた第三者委員会報告書として選定された2本は、当ブログでも取り上げさせていただいたものですが、「わかりやすさ」や「経営者との葛藤がにじみ出ている点」「事実認定や原因分析の説得力」という点において秀逸だったというのが委員の大方の意見でした。なかでも日本交通技術社の不正競争防止法違反(外国公務員贈賄事件)に関する報告書は、この報告書がリリースされた後、ベトナム政府が政府高官を逮捕したり、また東京地検特捜部が捜査が本格化する等、その社会的影響力の大きさも評価されました。

もちろん「(第三者委員会というのは)会社から報酬をもらっているとはいえ、ステークホルダーへの説明責任を尽くすための委員会なのだから、公正中立な立場で報告書を作成しなければならない」という理屈は頭ではわかっております。しかし、どうしてこれだけ会社(経営陣)に厳しい報告書を書けるのか、どの段階で「社長、あなたに厳しい結果になりますよ」ということを知らせるのか、そんな折にどうして社長から第三者委員会解散を通告されないのか、とても知りたいところですし、できればその過程を学んでみたいものです(でも、第三者委員会設置の段階で腹をくくっている経営者の方も多いので、ホントにむずかしいのはこの第三者委員会設置の前段階の「プレ第三者委員会」だったりもするんですよね・・・・・(^^  )。表彰委員会委員の皆様、熱い夏を報告書精読にいそしんでいただきまして、どうもありがとうございました。

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2015年9月 1日 (火)

東芝をギリギリまで追い詰める「グループに残された自浄能力」

Img_0452昨日(8月31日)のエントリーで「今日は東芝さんが有価証券報告書を提出する日」と申しましたが、皆様ご承知のとおり、新たな不適切会計処理事案が国内外のグループ会社で10件ほど発覚したことで、報告書提出日が再延期(承認)されたそうです。一昨日(8月30日)に監査法人に報告書を提出して「なんとか明日までに監査を終了してもらえないだろうか?」と尋ねたところ、監査法人さんから「1日でなんてとんでもない!7日はかかる」と拒絶されたそうですが、そんなことってホントにあるのでしょうか?

しかも(そのような理由なら午前中に延期申請の開示があってしかるべきなのに)再延長申請の開示が31日の夕方ですよね?さらに夕方に再延長申請の開示をしたにもかかわらず、その1時間後には(再延期が)承認されたとする開示がなされています。ということは関東財務局の驚くべき「速攻承認」(超法規的措置?)が想定されますが、これは国策会社さんが申請者だからでしょうか、それとも他の新興上場企業でも同様の速攻は認めてもらえるのでしょうか?うーーん、これは謎です。いずれにせよ9月17日までは上場は廃止されることはないわけですが、とりあえずこれで名門企業の監理ポスト入りだけは回避されることになりました。

「守るべきは会社か正義か」

さて、今週の日経ビジネス(2015年8月31日号)は「東芝-腐食の原点」と題する特集が組まれております。私のコメントも42~43頁あたりに掲載されておりますが、そこには数々の東芝グループ社員から日経BP社に宛てた内部告発が紹介されています。中には録音によってパワハラの様子が克明に紹介されているものも含まれています。「まぁ、この程度はどこの会社でもあるんじゃないの?競争している組織なんだから」といった感想を持たれた方も多いかもしれません。しかしゼンショーさんの「職場環境改善促進委員会」の報告書を思い出していただけますでしょうか。みなさん、ご自身の成功体験や「自分もこうやって叱られて成長した」という思いがあるので、平時であれば(叱られる側も)「この程度なら」といった思いからグッとこらえておられるわけですが、いざ組織が有事となりますとパワハラ申告をためらわせる意識がなくなりますので、まさに不正発覚の起爆剤となります。

ここまではあまり驚くほどのことでもないのですが、本特集で驚くのは日経BP社の対応です。特集の最後に東芝グループの社員の方々に向けたメッセージとして、「守るべきは会社か正義か」と題して、さらなる内部告発を呼び掛けています。いまこそ、すべての膿を出し切るとき、新生東芝の出発のときとして、勇気を持って告発せよと慫慂しています。日経新聞が、このように内部告発を奨励する記事を掲載するのは本当に異例ではないでしょうか。紹介されている内部告発の中には、内部通報をしたが上司に筒抜けになってしまったという本社50代の研究開発部の社員の供述も掲載されていますので、公益通報者保護法上の「第三者通報の保護要件」を満たす可能性は高いはずです。

「日経がここまでやるか!?」と思っておりましたが、本日の東芝さんの対応(新たな不適切処理案件の発覚による報告書提出の再延期)と社長さんの謝罪会見の内容を聴き、たしかにまだまだ火種は残っているということがよくわかりました。わずか12日ほど前には「当然、31日には提出できます」と説明されていたにもかかわらず、このようなドタキャンに至るというのは名門企業としては考えられないところでして、グループ内では内部通報や内部告発に基づく不適切会計処理の発覚がいまだ相次いでいるものと推測されます(現に、社長さんの昨夜の記者会見では「今回新たに発覚した原因は監査法人の監査によるものと内部通報によるものがある」と明言されていましたね)。そして、そうであれば、日経BP社の上記のような呼びかけによってまだまだ東芝グループにおける不祥事が発覚する可能性は十分に残っています。9月7日の有報提出が無理となりますと、もはや上場を維持することも困難になるかもしれず、本当に東芝さんはギリギリまで追い詰められたことになりました。

ただ「ギリギリまで追い詰められた」といった表現は、野次馬的な片面的な物言いなのかもしれません。上記日経ビジネスの特集を読み、日経の対応だけでなく、もうひとつ驚くべきことは、日経BP社に集まった内部告発が問題としている不祥事の時期です。なんと告発は、不祥事が世間に発覚した後の社内問題にも寄せられているのです。つまり「守るべきは会社か正義か」というテーマは、今も続いていると思われる悪しき社内常識を、自浄能力をもって変えていかなければならない、といったメッセージが込められているとみるべきです。東芝という日本を代表する企業が上場廃止になるかどうか、といった問題はもちろん重要です。しかしそれよりも重要なことは、日本企業が真にグローバルに競争していく前提として、それにふさわしい労働環境を整備することであり、優秀な社員の方々がそのパフォーマンスを上げるための企業風土を自ら取り戻す契機が求められている、ということです。東芝さんにとって、上場を維持することと同じくらいに、企業風土の改革も大切なのでしょう。

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